かつて人間は「正義」の名のもとに戦争を起こし殺戮をくり返した。どうやら「正義」は国家の数だけ、人間の数だけあるらしい(手塚治虫「ガラスの地球を救え」光文社)。しかし、人間らしく正しく生きていくには、何が正しく何が間違っているかを判断する「正義の見方」が必要である。今回は日米の「正義の味方」を通して、背後に潜む「正義の見方」を考えてみた。
数多くのコミックヒーローの中から、アメリカからは「スーパーマン」、日本からは「鉄腕アトム」に登場願おう。二人とも人間ではないところに共通点がある。人間が人間を裁くのでは、どちらかに片寄りがちだからである。
さて「スーパーマン」だが、その名の通り人間の能力を超越している。アメリカには強いものには神が味方するという思想があり(木村尚三郎「ヨーロッパの窓から」講談社)「神」によって「超能力」を与えられた「神の代理人」と考えることもできる。
さらに、「スーパーマン」は正義と真実のほかに「アメリカンウェイ」を守る「超人」であるという(小野耕世「スーパーマンが飛ぶ」晶文社)。「アメリカンウェイ」とは、アメリカ式の生き方のことで、これを簡単にいえば「とりあえずやってみることであり、行動と実践がすべて」ということだ(加藤秀俊「アメリカ人」講談社現代新書)。アメリカ人は、この生き方が一番すぐれていると思っている。「スーパーマン」が「強いアメリカ」の象徴として捉えられるのはその行動力のためである。
「スーパーマン」以来、さまざまなヒーローが出て来たアメリカだが、なぜかロボットヒーローが生まれていない。フランケンシュタインのような怪物や悪の手先として現れるのが大部分で、せいぜい良くても人間の召使いである。「ピノキオ」ですら、最後には人間に生まれ変わってしまうのだ。これはなぜなのか。
その根底に、ロボットに対する不信感や違和感が存在しているのではないだろうか(矢沢永一「『正義の味方』の嘘八百」講談社)。例えば会社にロボットが入った場合、アメリカ人は自分の仕事が奪われるのではないかと考え、日本人は新入社員が増えたと考える。個人的な損得より集団的な損得を考えるのである。
アメリカ人は「人間」と「神」との関係が絶対的なように、「ロボット」はあくまで「人間」の下僕であって決してヒーローになることはないのだ。
日本では絶対的な「神」が存在しないために、このロボットに対する違和感がない。したがってさまざまな電化製品やコンピューターに愛称をつけたりしているのは、生きとし生けるもの(この場合は生命すらないが)はすべて人間の兄弟であり自然の一部であるという思想が根底にあるからだ。「鉄腕アトム」(手塚治虫「漫画全集221?238」講談社)は、「人間」に奉仕するために生まれた「ロボット」の話である。「アトム」は自分のもつ「正義感」によって「神」である「人間」を裁かなければならないのだ。この一見矛盾する設定が、実は「正義」とは誰のための「正義」かという問いかけを読者にしているのだ。そして「アトム」は「人間」と「ロボット」の間にたって絶えず悩むのである。「人間とはなぜこんなにも愚かなのか」と。
アニメ化された時、この苦悩の部分はスッポリ抜け落ち、単純な勧善懲悪物だと思っている人も多い。またそれゆえヒットしたのである(長谷川つとむ「手塚治虫氏に関する八つの誤解」柏書房)。
みずからを単一民族だと思っている日本人には、少数民族や差別される民族の苦しみはわからない。「鉄腕アトム」は言わばロボットという被差別民族から出された人間告発の漫画なのだ。「正義」は弱者の立場にたってこそ本当の意味があるとこの漫画は語っているのである。
追記
この(異文化文献録)のシリーズは、20年近く前にあるタブロイド紙で連載したコラムである。これは、僕の文章スタイルの原点でもある。引用文と地の文が明確でないし、ネット・メディアとはあまり関係ないと思われるかもしれない。だが、メディアは現代文化のひとつの様相であり、文献をつないで現代日本人を探る姿勢は変わらない。自分のデータベースとしては、このシリーズを載せないでは中途半端だと思っている。
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