1960年代のマクドナルド首脳は「日本人は魚ばかりで肉を食べない」(当時のアメリカ人の常識!)から、まず日本人に「肉食」の習慣をつけなければと思い悩んでいた(ジョン・F・ラブ「マクドナルド」ダイヤモンド社)。現代のハンバーガーショップの盛況さからは信じられない話である。日本の「照り焼き」と欧米の「ハンバーガー」がミックスした「テリヤキバーガー」を例にとりその歴史と思想を探ってみよう。
日本と欧米の食文化の差は、気候風土に大きく関係がある。日本のように温暖で狭い島国では、農耕が栄え漁業も盛んである。日本人は自然とともに生きてきたので、中国から仏教が伝えられた時もその「輪廻思想」(悪業を積めば動物に生まれ変わるという教え)を納得しやすく、「動物(多くは4つ足の獣肉)を殺生してはならない」と禁じられても、魚で補いそれほど困らなかった(筑波常治「米食・肉食の文明」NHKブックス)
一方、ヨーロッパは自然が厳しく農耕地としては不適だ。狩猟で栄養をとろうにも、人口が増えれば追いつかない。そこで家畜を育てて食料にする牧畜が発達する。牧畜は愛情込めて育てても、結局は殺して食わなければならない。ここに人間と動物は違うという思想「キリスト教」が生まれた。「動物は人間のために神が与えたものだ」という思想は日本人には傲慢に見えるが、日本人が自然の中に埋没してしまうのに比べ、ヨーロッパ人は「人間は常に厳しい自然と対決しなければならない」という決意が表れている(鯖田豊之「肉食の思想」中公新書)。
文明が進歩すると、肉や魚で飢えをしのぐだけでは物足らなくなり、おいしく食べようとする文化が起こった。欧米では、ケチャップやソースが生まれ、日本では味噌・醤油が生まれたのである。ケチャップというとすぐトマト・ケチャップを思い浮かべるが、大本をたどれば実は中国の「茄醤(コエチップまたはケツィアプと発音)」のことで、魚を塩漬けにして発酵させたものである。また醤油は大豆から作られるが、これも中国から伝来したときは、「魚醤(ししびしお)」というやはり魚を発酵させたものだ。従ってケチャップも醤油もルーツは同じで、発達過程が違っているだけなのである(大塚滋「しょうゆ世界への旅」東洋経済新聞社)。
中世になると、貧富の差が出てくる。貴族階級は柔らかくておいしい肉を食べられるが、貧民階級は固くまずい肉にしかありつけない。そんなドイツへモンゴルのタタール人よりタルタルステーキが伝えられた。このステーキは安い肉を細かく切ったもので、口当たりがよく消化しやすいので貧民層に広がった。これがアメリカに輸出されるとき、港町ハンブルグの名をとってハンバーグステーキとなったのだ(チャールズ・パナディ「いわゆる“起源”について」」フォーユー)。
戦後、醤油は世界へ輸出された。魚料理用だった「照り焼き」が肉料理に合うのが発見されためだ。「テリヤキバーガーの思想」、それは一国の食文化が一国にとどまらず、やがて世界中の食文化と複合し混ざり合い、新しい食文化として進化する未来を示しているのである。
追記
この(異文化文献録)のシリーズは、20年近く前にあるタブロイド紙で連載したコラムである。これは、僕の文章スタイルの原点でもある。引用文と地の文が明確でないし、ネット・メディアとはあまり関係ないと思われるかもしれない。だが、メディアは現代文化のひとつの様相であり、文献をつないで現代日本人を探る姿勢は変わらない。自分のデータベースとしては、このシリーズを載せないでは中途半端だと思っている。
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