参議院選挙で大敗した自民党の敗因は何か。それについては、メディアで様々に論議されているが、メディアの特性を利用した『小泉劇場』の選挙と比較したものはあまり無かった。
@期待された安倍首相と期待されなかった小泉元首相
「政界のプリンス」と言われた安倍首相は、自民党の悲願『自主憲法制定』を達成できるはずの切り札だった。一方、小泉元首相は田中真紀子氏に『変人』とあだ名されるくらい、政治家らしくなかった。そのため、安倍首相が派閥を活用し、小泉元首相が外から小泉チルドレンを集めたのもその政界内の立場の違いだった。
Aサプライズを求める有権者
日本の政治はテレビというメディアを通して伝えられる。このメディアが政治をどれだけゆがませるかを知った上で政治家は行動しなければならない。小泉元首相は、この特性をよく知っていた。
「政治家の失言とマスコミの報道」で僕はこう書いた。
マスコミには、言葉尻を捉えるという能力がある。なぜなら、彼らには脳がないのでデータを3分しか貯めて置けない。そうなると、いきおい、見出し一行にはまる言葉とか、3分間に編集できる言葉しか興味がない。こうして、政治家の失言ばかり増えていくのである。
小泉首相とて失言は多かった。だが、あくまでもワンフレーズにこだわり、紙面に載せる言葉を量産した。しかも、彼の行動は先を予測できない。有権者(=視聴者)は、ドラマのようにワクワク観を持って見ていたに違いない。つまり、次のサプライズをだ。サプライズは、必ず前のサプライズを凌駕しなければならない。「刺客だ」「自民党をぶっ壊す」などと、おそらく今までの自民党では聴いたことの無い行動の連続である。
そのあとを継いだ安倍首相もサプライズを要求される。だが、出てくるのは官庁の不祥事や閣僚の失言ばかりだ。おかげで、安倍首相の失言は閣僚の失言にかき消されてしまったが。しかし、これは首相の取り巻きが悪いわけではない。安倍首相が小泉流をまねして一本釣りを狙ったのだが、結局その程度のものしか集まらなかったという人望のなさのゆえんである。
B高邁な理想を聞く有権者はいない
すっかり小泉流で政界をかき乱された跡に出た安倍首相は「美しい国へ」というワンフレーズを持って登場した。だが、すっかり小泉選挙に馴れた有権者にとって安倍首相の「美しい国へ」は、イメージがわかなかったらしい。特に、社会保険庁の年金問題が、有権者の人生設計を狂わせてしまい、「美しい国へ」どころではなかった。しかも、政治と金をめぐる不祥事の続発に安倍首相の庶民感覚の無さが暴露されてしまった。「衣食足って礼節を知る」というが、将来の衣食が不安なのに何が「美しい国へ」かというわけだ。
かつて昭和30年代、人々が貧しかったころテレビで放映されたアメリカのホームドラマに見た大きな冷蔵庫やスポーツカーに魅了され、政治はアメリカという理想郷を目標に追いつけ追い越せとばかりにがんばってきた。だが、よく見れば、アメリカとて理想郷とは程遠かった。しょせん、テレビの中の世界だった。しかし、昭和30年代の人々は政治家に高邁な理想を語ってもらいたいと思っていた。あの「3丁目の夕日」の茶川龍之介のように、今は貧しくても夢だけはいくらでもあった時代には。
別にイデオロギーだとか、右がいいとか、悪いとか言うのではない。論争することすら馬鹿らしくなった時代になってしまったのである。いわば、安倍首相はメディアを活用できなかった時代遅れの政治家という結果がこの選挙だったのだ。
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