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ブロードバンド配信がメディアになれない理由

2004/03/17 17:36
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mori

マイクロソフトやマッキンゼーで情報通信分野の戦略立案に携わってきた森祐治さんが、通信・放送業界やエレクトロニクス産業に関連した時事的トピックスについて、アカデミックな視点から分析していきます(このブログの更新は2004年4月9日で終了しました。続きは<a href="http://japan.cnet.com/column/mori/">コラムによる連載</a>をご覧下さい)。
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ブロードバンドを使った映像配信サービスが昨年から多くスタートしている。PC向けにIPを使ったものは数多くあるが、最近、専用STBをつかったサービスも一部見受けられるようになった。コンテンツ提供者の不安から、IPではなく放送規格の配信プロトコルを使ったものの方がコンテンツを集めやすいなど興味深い現象が現れているが、本質的な問題はどうやらそこにはないようだ。

いくつかの締め切りが重なって、しばらくエントリできなかった。ま、締め切りが重なったといっても、桜が咲き始める今日まで散々待ってもらった締め切りでも、仏の顔も3度までという状態に行き着いてしまったからに他ならないのだが。ここ半年、生産性がひどく下がったような気がするのは思い込みだけだろうか。

さて、本題。

閉ざされた配信が普及条件なのか

我が家のリビングには、100BaseTハブが設置してあって、TVの下のケースの中で複数の機器とつながっている。PS2やCoCoon、近く参加予定のJ-COMケーブルSTB(Tナビ搭載のPanasonic製TZ-DCH500のようだ)のように、軽めのウェブ接続機能を持ったものばかりだが、ひとつだけちょっとは速めの仕様にしておいたほうがいい機器があった。Digital Network Appliance社デジタルガレージNTT東日本モニター実験を行っている「スーパービデオ」サービス向けのi-DVP端末だ。

スーパービデオというとなんだかビデオの安売りチェーンのようにも聞こえるが、VoD(ビデオ・オン・ディマンド)サービスで、広帯域IP接続がなされている家庭であれば、簡単に利用できるサービスだ。コンテンツはi-DVP端末にダウンロードされるため、回線が不安定であっても画質には影響しない。また、現在は通常のアナログ地上波放送と同じNTSCクラスの映像だが、近くHDへの対応も予定しているという。

未だモニター実験という段階だが、配信コンテンツもハリウッド作品を含めてかなりの量が集まってきていると創業者の棚橋さん、CEOの齋藤さんもその好調なスタートに頬を緩める。半導体そのものにミソがあるスーパービデオであっても、今回の実験が単なる技術実験ではなく、はっきりした方向性を持ったマーケティング戦略のためのデモンストレーションとしての性格をしっかりと見せているところが頼もしい。

別にスーパービデオの宣伝を頼まれたわけでもない。が、同様のブロードバンド映像配信サービスで先行したYahoo!BBケーブルやKDDIの光プラスTVがIPを利用しているという理由でコンテンツ集めに苦労しているといわれているのに対して、好調なのはなぜなのか、ふと疑問を持った。IP利用と専用STBという点では、スーパービデオもYahoo!BB、KDDIともに同じ仕様だからだ。

オンライン配信サービスの定義で歩調が合わない行政サイド

もし、配信方法に違いがあるとすると、スーパービデオがダウンロード型で、Yahoo!BBとKDDIはストリーミング型で独自のCODECを使っている程度だ。配信方法の違いと言うと、IPかQAMかということとほぼ同時に出てくる話題は、文化庁がいうところの放送か否かということもあるだろう。回線を複数のビットストリームが同時に流れてきて、端末でそれを選択するのを放送であると著作権を所轄する文化庁は定めており、放送全般を規制監督する総務省とは異なる見解となっている。

文化庁的にいえば、スーパービデオもYahoo!BB、KDDIともに「放送」ではなくなるし、当事者たちも自分たちのサービスを放送だとはいっていない。スーパービデオはダウンロード型のVoDということもあって、ケーブルやCSで提供されているPPV(番組単位での支払いをする有料放送)放送とも違うと言う。

# どうして、スーパービデオはコンテンツをうまく集められたか? 答えをここでいっておくと、スーパービデオはCODECを独自開発の半導体によるプロプライエタリな手段よってコンテンツ配信を閉鎖的に実現しており、同じIP配信であってもソフトで標準化された仕様を利用しているととられがちな他社よりも安心感があるということのようだ。

現実的には、「どのサービスが放送で、それ以外は違うのか」を決めることよりも、著作権を取り扱うのにおいて、放送同様のフレームワークを使えるかどうかという点でガイドラインがあれば望ましいというだけだ。以前のエントリーでも示したように、現在、このガイドラインがあやふやで、その上、これまでも著作権の事業者間取引が私的契約で、それも明文化されていない状態で成り立っているために、コンテンツ提供者がオンライン配信事業者にコンテンツを提供するかどうかという点で何を基準にしていいのか怖くて仕方がないということのようだ。

じゃあ、オンライン配信用の著作権運用ガイドラインについて、お上が決めてくれれば放送局を始めとするコンテンツ利権者はOKなのか、となるとそれだけでも動かないというから、問題はややこしい。

儲からないものには出したくないのがホンネ

現在も、一部タレント事務所は、所属するタレントのスチールですらインターネットやDVDなどのデジタル媒体に掲載してはならないというルールを厳密に守っている。(ま、守っているのは、それらタレント事務所に背いてドル箱タレントの出演がままならなくなることを恐れているメディアサイドなのだが。)故に、日本で最もたくさんのコンテンツを制作している放送局がブロードバンド配信に積極的に出れないというのが真相なのだ。

それもそのはず、完成したコンテンツそのものの知的財産権運用よりもややこしいのは、それらコンテンツに参画しているタレントや俳優女優の所属事務所が、彼ら彼女らの露出をすべてコントロールすることで初めて商品価値が生じさせることができると認識しているからなのである。分散したコントロール(というか、コントロール不可能)が前提のインターネットや、そこへの流出を防止できないデジタル・パッケージ・メディアはできるだけ避けたいのは、その認識の下であれば当然だ。

既存マスメディアへの露出の対価が、適正かどうかはわからないが、十二分な分量のカネが動くことは事実。それに対して、まだまだ個別の流通ボリュームも少なければ、一斉に世に流れて、社会的なコンテクストを形成するよりも、むしろマスメディアの後追いを面白おかしくすることが多いオンラインメディアでの流通は、賞味期限の激しいタレントらの価値の希釈化を招くというのがホンネだろう。

# 以前のエントリーで、「放送事業者は、無意識的にであっても、コンテンツの流通機会を希少化することで価値を創造している」と書いたところ、放送現場で著作権ビジネスをされている方から「そんなことはない。むしろ、どうやって再販するに精魂傾けている」というコメントを個人的にいただいた。では、一部実験であったように、がちがちのDRMでユーザビリティを落とすリスクを課さないでも、番組のオンライン再配信をしたらいかがか、と問うたところ、それは困るとの回答だった。やはり、放送局自身が再販するという意向と、その制作に関与した人たちの過剰なほどの希少性追求とが、整理されていないことが、すでに問題のようだ

ブロードバンド配信は直接収益の貴重な回収手段

それらタレント事務所らの認識が正しいかどうかは、今は問うまい。しかし、貴重な「素材」であるタレントや俳優、クリエータらの存在をどこまで限定したらいいのかは、なかなか判断しにくい課題であり、一概に答えが出るものではないのはよくわかる。心理的な障壁もあるし、昨今裁判沙汰にもなっているアイコラなどのケースの延長上に何者かが出現する可能性も否定できない。

しかし、放送局などメディア事業者にとっては、自らの影響力を行使して社会的なコンテクストを形成し、その果実を自ら刈り取るためには、有料ブロードバンド配信の理論的な事業価値は大きいはずだ。すでに、人気番組のVHSやDVD販売、劇場版収益は、広告収入が減少する傾向が止まらない放送局にとって一発大逆転的な利益獲得窓口となっている。その延長にあるにもかかわらず、ブロードバンド配信に慎重になりすぎるのはどうなのか。

一般論としてすぐに結論の出る議論ではない。が、放送局など主要コンテンツ産業プレーヤー主導ではない形で、専用STBによるクローズな配信などで一部の人気タレントが活躍する機会がそろそろ出始めることは間違いないだろう。

# 陽気のいい日に、表参道のオープンテラスのカフェにて

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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