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半導体による復活という幻想と懲りない面々

2004/02/09 17:52
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mori

マイクロソフトやマッキンゼーで情報通信分野の戦略立案に携わってきた森祐治さんが、通信・放送業界やエレクトロニクス産業に関連した時事的トピックスについて、アカデミックな視点から分析していきます(このブログの更新は2004年4月9日で終了しました。続きは<a href="http://japan.cnet.com/column/mori/">コラムによる連載</a>をご覧下さい)。
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明らかに変なのに、どうして誰も言い出さないのだろうか。「デジタル三種の神器」というウソも、「ADSLで日本がブロードバンド先端国になった」という認識の危険性もそうだが、なぜか誰も「おかしい」とはいわない。まあ、敢えて積極的に肯定する人も少ないが、メディアは常識になってしまったがごとく取り上げ、世の一般の人たちはそれを真実として受け取る。そんな欺瞞を意図的にやっているうちは、まだいい。無意識的に、集合的に作り上げられてしまっている「当然」として、例えば「日本の産業は半導体で復活する」など、ウソも甚だしい。何度痛い目にあっても、懲りない面々が日本には多いようだ

信じないと辛いから・・・と、いっても

以前も何度か、ヘンだなぁ。どうして、誰もおかしいと思わないの?と、内心感じていても、「裸の王様」ではないけれど、なかなかメディアや専門家といった社会的勢力や権威の類に向かってはモノをいえないものだ

しかし、どう見てもおかしく、このまま進んでいくことは誰の目にも悲劇の始まりだというにもかかわらず、むしろメディアは煽る側に立つことが多いのは、なぜなのだろうか

以前のエントリーで、「デジタル三種の神器」というフレーズは発売元のメーカー側の願望であって、消費者自身にとって必ずしも適切な表現ではないと明確に述べた。それは、ごもっともという方もたくさんおられたにもかかわらず、販売店やメディアは揃ってそのコピーを全面に取り上げ続け、あたかも定着した事実のように語られ続けた。そして、一次情報にあたることのない一般の人たちは、それを信じざるを得ず、予定調和的に「デジタル三種の神器」という販売実績が作り上げられる・・・

(社)電子情報技術産業協会の発表する国内出荷統計などをみれば、昨年のテレビの出荷数の8割以上が依然としてブラウン管であり、前年比では液晶こそ大幅成長していても、PDPについては微増というレベルでしかないことは明らかだ。もちろん、金額ベースでは、その単価の違いのために、圧倒的な成長と見えるのだろうが

# とはいえ、PDPや大型液晶が売れていない、とはいわない。確かに「所詮テレビ」であっても、50インチほどの大きさのディスプレイが日本の家庭内に入り込むことのインパクトの大きさや、フラットであるが故に使われ方や置き場所の前提が変わっていくことには、疑問を挟む気はない。かく言う僕も、リビングのスペースをリデザインして、PDP50インチの導入をケーブルのデジタル放送対応と同時に真面目に考え始めたのだから

とはいえ、それが発売早々、あるいは、主流商品と位置づけられた瞬間に、どちらかというと消費者の選択によって「神器」という位置付けになったのであればともかく、意図的にそうさせようとすることはいかがなものかと思うのだ

確かに、経済的な回復は望みたいし、生活の質の向上を否定する人はない。だからといって、無批判にそれを作り上げてしまうのでは、健全な民主主義や資本主義のメカニズムが機能していないことを、自ら公表しているようなものではないか。本質的な部分の欠陥を、表面的な繕いのために放置するのは、本末転倒ではないか

「半導体で復活」というウソも実はみんな分かっている

三種の神器話は、まだ国内の消費市場に対する一種のプロモーションという程度でしかない(とはいえ、問題としては深刻だというのは、上述したとおり)が、最近の「半導体で日本は復活」といったコピーはデマゴーグ以外の何モノでもないだろう

確かに、半導体の出荷は好調に伸びており、ボリュームベースでは「復活」といって間違いないだろう。しかし、そんな「復活」であっては、今世紀はじめのITバブルの再来以外の何ものでもない。悪いことに、前回は半導体製造投資期と製品需要の時系列的なズレから生じるシリコン・サイクルがバブルの起因だったが、今回はデジタル家電という製品の需要の波とは別に、中国という巨大な工場という別の危機要因も存在する

# 実は、半導体のITバブルは、80年代から90年代にかけてのDRAMバブルの経験を活かせなかったために被害が大きくなったということもいえるだろう。DRAMバブル台湾や韓国などが廉価な製品を急速に出荷できるようになって日本のDRAMでの優位は一掃されたが、今回のデジタル家電バブルは家電全般という日本の中核産業に直接的全面的なインパクトを与える可能性がある分、深刻に考えるべきではないだろうか

現在の需要の伸びの中心は、インテルのように高付加価値を持つCPUなどシステムLSIというよりは、汎用性の高い製品だ。これらのデジタル家電による需要拡大では、競争優位は製品の早期投入効果や量産効果など、後発プレーヤーにじりじりと距離を詰められるというゲームのルールから逃れられないものだ。そんなこと、十も承知でやっているのであればいいが、どうしても好調な事業には慣性がついて、いいタイミングで逃げ切りができないことは過去の経験から誰もが知っているはずだ。それを防ぐための経営機能や構造、運営システムの改善が十分にできているとはいえないままに、再び「波が来たから乗らないと」というだけの理由で再び過ちを繰り返すだけでは、あまりにも能がない

半導体といっても、インテルやクァルコムのように、競合他社との差別化が可能で、他社にライセンスが可能なほどのパワーを持った知的財産を組み込んだものや、MRAMやFeRAM、PRAMのようにそもそも既存のシステム・アーキテクチャを一変させてしまうような基礎的な変革を基にしたもの、あるいは半導体というハードの機能をネットワークなどに分散化させ協調することでこれまでにはない圧倒的な製品レベルでの革命を実現させるものなど、イノベーションとしてのインパクトを持ったものが出てこない限りは、消耗戦でしかない

こんなことは、誰もがわかっているはずだ。もちろん、水面下では、企業のR&Dセクションでは、イノベーティブな半導体製品の開発が常に続けられていることも知っている。しかし、この好調に水を注すのは望ましくない、と感じてもいるのだ

このまま、誰も何もいわないと、王様は風邪を引くだけではすまないだろう。何度も繰り返された半導体バブルの後遺症は本質的には癒されておらず、かといってそれに対抗できる免疫構造も、体質改善も体力強化もなされていない。ちょっとした発熱程度であればまだしも、肺炎や、もっと深刻な疾病を患わないためには、どうすればいいか。実は、これまたみんな知っているはずだ

# 六本木ヒルズ49階から羽田の離着陸する航空機の灯りを眺めながら

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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