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「ADSLの成長」と「電話の衰退」は依然としてジレンマを引き起こす

2003/12/13 11:55
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mori

マイクロソフトやマッキンゼーで情報通信分野の戦略立案に携わってきた森祐治さんが、通信・放送業界やエレクトロニクス産業に関連した時事的トピックスについて、アカデミックな視点から分析していきます(このブログの更新は2004年4月9日で終了しました。続きは<a href="http://japan.cnet.com/column/mori/">コラムによる連載</a>をご覧下さい)。
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ADSLはドライカッパーさえ存在すれば、利用することは可能だ。しかし、回線を提供する電話網維持のための最小固定費用ですら巨額であり、コストを完全にアンバンドルして決定されたわけではない回線提供事業収入だけでは赤字になることは明らかだ。結果、電話サービス利用料や回線利用料は増加し、ADSL自体の優位性は失われる可能性が高い。これをして、ブロードバンド国家の成功と結論つけるのは、依然として疑問だ

前回エントリー内容の訂正と依然として残る疑問

前回のエントリーにはたくさんの方からコメントを頂いた。特に池田先生のコメントにあるように「ADSLはドライカッパー(交換機に接続されていない縒り対銅線)でも提供可能」というご指摘を複数頂いた。そのとおりである。この部分について、訂正をすると同時に、読者の方々に不正確な情報をお伝えしてしまったことにお詫びを申し上げたい

さて、問題は、上記の訂正によって、前回のエントリーのロジックが崩れるかどうかだ

前回のエントリーのメッセージは、以下の内容だった

ブロードバンド「日本の奇跡」は状況的な成功であり、結論としての成功とはいえない。むしろ、将来的なインフラ環境についての不安を生じさせているのではないか

その根拠のひとつとして、ADSLが電話網に深く依存しているということを挙げた。例えば、「搬送波」についてだ

しかし、上述したとおり、通話サービスで用いられる搬送波がADSLサービスには不必要であれば、「DSLは、ドライカッパー(銅線)にDSLAMを直結して、電話で使わない高い周波数を使うものですから、銅線と局舎さえ残せば、電話交換機を撤去して電話サービスを終了しても通信」が可能で、「NTT東西が消滅しても、IP電話を使えば、現在の電話と同等のサービスを行うことができます」(カッコ内は共に池田先生のコメント)ということだ

だが、ADSLが依存しているのはNTTの電話網そのものであり、それには物理的な実体とその維持管理のためのオペレーションから成立しており、物理的実体とそれに関連する技術(搬送波を含む)の議論がクリアされても、オペレーションのコストが固定費として甚大であれば、十二分に問題は残る。前回のエントリーで呈したジレンマとは、「ADSLによる状況的成功」=「NTT問題の困難化」が分離ができないこと、そして次なるインフラへの乗り換えが困難になる可能性であり、これらは依然として存在するのだ

技術的な妥当性と現実的な不安

指摘があった「IP電話ではほぼすべての既存電話サービスの内容は提供可能」であることは十分に承知している(この点は、前回のエントリーでも否定していない)

# しかしながら、交換機から通話に必要な電力供給を受けている加入電話は、災害時などの停電状態であっても局舎内の発電装置(かなり強力なものが設置されいる)が稼動する限りサービス提供が可能など、原始的であるが故に堅牢という優位性が依然として存在することも事実だ。もちろん、物理的に回線網が破損したりしたらダメなのだが。また、集合住宅内のMDFが電力依存している場合や、電話機自体がコンセントからの電力供給がないと作動しないもの(ワイヤレス受話器のみの電話機などがそうだ)であれば、停電時の利用は不可能だ。では、光収容の場合もダメなのだろうか。ご存知の方がおられれば、教えてください

だが、技術的にはサービス提供が可能であっても、現状と同等のADSLサービスの優位性は維持できるかという疑問は残る

まず、利用者サイドから見ると価格という問題がある。現在はNTTのフレッツADSLを例にとると、ADSL専用型はADSL料金では2200円高く、加入電話の基本料金を含めた場合よりも450円程度(地域によって基本料金が異なるため)高い

つまり、電話のように従量収入がないサービスの場合は、450円程度上乗せしないとNTT自社のサービスであっても苦しいということになる。が、IP電話による通話料減少分が450円以上の人で、完全にIP電話サービスの品質や内容が加入電話と同等になれば、加入電話契約を廃止して、移行する理由がでてくる

しかし、提供者側の視点から見ると、現在、加入回線管理維持や局舎内工事はNTTが行っており、これには相当数の人員を要することが前提となっている。これらはすべて固定費であり、利用者数が減ったからといっても、削減できない可能性が高い。雇用を護るという以上に、効率は悪いものの迅速なサービスや修理の実現のためには人材を維持する必要が(コストを削減するためにアウトソーシングなどを利用するにしても)あることは事実だ

すでに始まった通話料収入の急速な低下に加えて、ADSL専用型契約や加入回線を利用しないサービス(FTTHや広帯域無線ローカルループ)への乗換えが増加し電話加入者数が減少すると、基本料金収入の減少が引き起こされ、これらの固定費を現状の基本料金レベルで維持することはできなくなるのは明らかだ

すると、加入電話基本料金やADSL回線利用料、さらには工事費は値上げされる可能性は高く、「廉価で簡単に引ける」というADSLのメリットは失われる可能性が高い

# 加えて、ADSLでは十分な速度を享受できる人は限定されているという事実、そしてすでに光収容のために十分なほどの投資を行ってきたNTTの二重投資による事業効率のロス・・・などを考慮すると、ADSLによるブロードバンド加入者数の増加は、到達点ではなく、通過点であるという主張は、上記のような議論を待たずともできるのではないかとも思うのだが

消費者心理は今でもADSL専用型の差分を許容できない

そもそも、ADSL利用者は、他に選択肢がないという理由のほかに、すでに必需である電話サービスに幾ばくかの費用を付加するだけでブロードバンドが利用できるという「追加」のメリットを感じてADSLサービスに加入しているという心理的なメカニズムがベースになっている傾向が非常に強く、ADSL専用型で加入電話を利用しなくとも課される現状費用差分の2200円の支払いを許容しない。すなわち、消費者の心理としては、料金の単純加算合計では選択していない

つまり、電話を契約し続けるだろう。しかし、料金がかかる発信はしないで、IP電話や携帯電話を使うだろう

すると、電話網からの収益はどんどん低下するものの、電話網そのものは維持されなければいけないというジレンマが生じることには違いがない。電話網の物理的、オペレーションの維持は通話料で補填されてきたからだ。これを回避するためには、電話網利用料の増加しかないが、そうすると「世界で最も廉価なブロードバンド」というメリットはなくなる

# NTTはなぜ今もADSLを販売するのかは、依然として疑問だ。我が家のように、Bフレッツを入れても加入電話を利用し続けるケースは多いだろう。で、あれば、限定的な期間であっても、Bフレッツを積極販売することはADSLよりも収入が安定する可能性が高く、他社への乗り換えの可能性も減り、新たなサービスを開発する余裕も出るのではないか

すなわち、現状は、結論的な成功ではない上に、ADSLブロードバンドの状況的成功は電話事業を提供するNTT問題く深く関連するため、状況的成功という評価も論理的な展開を考慮すると適切かどうかも疑わしい。「現状のADSLの成功は、電話事業の継続を前提としたものであり、同時に、急速収益が困難になりつつある電話事業の動向をより複雑にした」という評価が依然としてあってもよろしいのではないか

# 冬の陽の下、坂本龍一さんのピアノソロを久しぶりに聴きながら

PS: 個人的な事情で訂正を含むエントリが遅れたことに、池田先生をはじめ読者の方々にお詫びしたい

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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