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ブロードバンドの奇蹟はジレンマを引き起こす

2003/12/08 19:47
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mori

マイクロソフトやマッキンゼーで情報通信分野の戦略立案に携わってきた森祐治さんが、通信・放送業界やエレクトロニクス産業に関連した時事的トピックスについて、アカデミックな視点から分析していきます(このブログの更新は2004年4月9日で終了しました。続きは<a href="http://japan.cnet.com/column/mori/">コラムによる連載</a>をご覧下さい)。
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ブロードバンド「日本の奇蹟」は、そのまま日本のブロードバンドにおける成功といっていいのか。現在の状況は「成功」的といえるかもしれないが、それは結論としての「成功」ではない。確かに、e-Japan戦略の1次目標として設定された「高速ブロードバンド回線の普及」は達成されたものの、同時に加入電話事業の電話とは異なる形での利用形態での事業継続を強いるというパラドクスを残してしまったからだ

日本は成功しているといっていいのか

拝啓 

先週木曜日(12月4日)の経済産業研究所のシンポジウム、「ブロードバンド時代の制度設計II」にご出席された、池田信夫先生、林紘一郎先生、中村伊知哉先生。非常に興味深い会への参加ができたということで、先生方へ感謝の意を表させていただきたいと思います(ほかの先生方は直接、ご面識がありませんので省かせていただきました)

しかしながら、前半のレッシグ先生の興味深いプレゼンテーションとディスカッションのみで、後半の電波開放の議論について興味を失ったこともあり、会場で久々にお会いした某シンクタンクの研究員の方と一緒に会場を離れさせていただきました。というのも、前半の議論の前提や、ディスカッションの幅について違和感を感じたためです。その後、近くのカフェで某研究員の方とも、その違和感とは何だったかについて確認をしておりました

僕らの違和感について端的に言いますと、日本のブロードバンドの状況を「成功」とみなした議論を行うのは建設的か否か、ということになります

そして、僕らが合致した結論は、「No」なのです

状況的な成功は、次なる挑戦の始まり

たしかに、「高速ブロードバンドの普及」という言葉をそのままに取れば、目標達成に「成功」したといってよく、池田先生がエキスパートの視点でおっしゃられるとおり、短期間でのその目標達成ぶりはなるほど「奇蹟」と呼んで問題ない快挙であったと思います。しかしながら、その目標達成をして日本が「ブロードバンド国家として成功した」とさらなる結論をつけるということについては、意見を異にせざるを得ません

すなわち、高速ブロードバンドを実現するテクノロジーとしてのADSLは、すでに敷設され100年以上の歴史をもつ電話回線(ローカルループ)上の搬送波が存在しないと成立しない限り成立しないものです。すなわち、現状のADSLの成功は、電話事業の継続を前提としたものであり、同時に、急速収益が困難になりつつある電話事業の動向をより複雑にしたという評価があってもよろしいかと思います

この事実を含めても、成功と結論つけることは可能なのでしょうか。せいぜい状況として「成功」的であり、今後も継続したインフラ環境の変化が進行形である現在、市場にいるプレーヤー、新たに参画を狙うプレーヤー、そして投資家や(既存・将来の両)利用者に正しい認識を与え、更なる動機付けを行うためにも、結論つけるのは早急ではないでしょうか

例えば、様々な調査において明らかなように、現状のADSL利用者の多くが依然としてより高速な光環境への移行意思を示していることからも、成功と結論つけるのは、政策者側の独り善がりな結論付けとも聞こえます。もちろん、総務省から参加しておられた鈴木課長がおっしゃっていたとおり、日本がとった規制強化と緩和の絶妙なバランスが、現在の状況的成功の実現に貢献したことを否定するものではありませんが

# 日本では、「光ファイバーは究極の通信インフラ」と早期から叫ばれ、そういう理解が広く一般に定着しているという前提があります。一刻も早く常時接続+ブロードバンドいう人にとってADSLは魅力的だったものの、「いつかは光」という発想は根強く残っており、それを覆すことは極めて困難ではないだろうか

それよりも、現在、東西NTTが提供している電話事業を、ADSL利用者が存在し続ける限り、電話サービスそのものの需要がなくなっても、旧来の電話サービス事業の終了・撤退が困難になったという事実をどのように捉えるか、が争点として重要になってきたのではないでしょうか。池田先生の論考では、結果として同時期に発生した個別の議論として捉えておられますが・・・

すなわち、日本はブロードバンドで奇蹟を呼び込んだがばかりに、更なる挑戦を強いられた可能性はなかったのか、と

電話サービス事業とADSLの継続は一体

一部のADSL論者は、現在のユーザーにとって必要十分なサービスはADSLで提供可能であり、仮に現時点では速度がもう少し必要というサービスであっても、たった3年でほぼ20倍の速度増を実現できたテクノロジーであるため、今後もより高速化が可能で対応できるだろうため、心配は必要ないという意見をもっています

しかし、ADSLのパフォーマンスは電話局からの局の距離に依存しており、利用者すべてに対して上記のような楽観的な進化を保証することは不可能なのは明らかです。また、現在、急速に収支が悪化する電話網に構造的な依存をしているADSLサービスは安定したサービスとして考えていいのでしょうか。加えて、すべての人に、ということと同時に、サービスの継続性にという側面も、もし仮にネット接続をユニバーサル・サービスとして捉えるならば、ユニバーサルサービスの義務としてADSLにも課されるものではありませんか

もちろん、ADSLを提供するのに必要な設備を維持し、同時に電話サービスそのものという衰退が確実な事業を継続することが、収支的に可能であれば何の問題もありません。しかし、インターネットだけではなく、携帯電話の普及や機能の高速化、無線LANなどのワイヤレスネットワークの勃興などを考えると、競争面で従量制や現状の基本料金水準を維持するのは困難であり、かつ、設備産業である電話網を維持するコストは当然のことながら数少ない利用者に対してより多く課せられるようになることは避けられないでしょう

同時に、ユニバーサルサービス(この概念については、その成立史から考えても、誤解が多くあるのでは、という林先生の指摘は重要だったと思います)の提供義務が課せられたNTT東西は、そのジレンマに大いに苦しむに違いなく、池田先生・林先生が以前提案なされていたとおり「電話清算事業団」的な組織への移行がなされる可能性もあり、その際、ADSLをどのように取り扱うかが大きな論点になりえるかと思います

設備保有を前提とした競争環境政策をとらなかった日本のジレンマ

この議論に関連しては、林先生から、新規参入を図る事業者はすべて通信設備を自ら整えるべきという垂直統合政策=「設備保有を前提とした競争政策(Facility Based Competition)」をとった米国と、NTTへの設備開放義務への徹底という政策によりADSLの急速な成長に成功した日本の比較についての議論設定もされましたが、いかんせん不発となり、非常に残念でした

# FCCのペッパー氏は、自宅の通信環境について通信会社、CATV、電力会社の3社がそれぞれにケーブルを消費者宅に引き込み、そのうちのどれかを選ぶことができるが、どれも廉価とはいえないというお話をされておられましたね。また、同氏が「世界で最も高い携帯電話で通話し、世界で最も廉価なブロードバンド環境が使える不思議な国」として日本を表現されていたのが、印象的でした

現在の日本では、ADSLがブロードバンド環境の75%を占め、それらを実現しているのがNTTの電話回線です。「日本の奇蹟」は「競合脱線」によると池田先生はおっしゃられています。が、電話回線の開放というADSLの「奇蹟」以外の実現のためには、きわめて短い期間でFTTH(各住宅までの光ファイバー引き込み)を実現するために国費で「日本光ファイバー公社」をつくり、回線を民間に開放するなど、新たな設備の整備という方法しかなかったのではありませんか。その選択のほかにはチョイスがなかったために、ADSLによるブロードバンドの状況的成功は一種の必然であり、必須でしかなかったのではないか、ともとれます。ただし、それはVoIPも含めた将来的な技術の進展を鑑みると、長期的な政策として極めて苦しい状況に陥ることも必然ではなかったのではないでしょうか

もちろん、池田先生は「加入電話網の崩壊」を「最大の問題」として指摘されておられますが、ADSLによるIP電話の普及ということを考えれば、やはりADSLによる状況的成功と加入電話問題=NTT問題の深刻化は必然的に加速されるという因果関係にあり、独立して発生したという個別評価をすることは難しいのではないかと思います

今後、歴史的にも、「状況的成功」ではなく、NTT問題や長期的価値創造に日本の政策選択がいかに貢献したかという点で、また、更なる通信産業・ネットワーク環境の発展の動機付けとして、この議論の深化がなされることを望んでおります

以上、若輩者の感想として、ご笑読いただければ幸いです

敬具

# 病院帰りにStarbucksにて

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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