お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

開始されたデジタル地上波放送だが

2003/12/01 14:11
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

mori

マイクロソフトやマッキンゼーで情報通信分野の戦略立案に携わってきた森祐治さんが、通信・放送業界やエレクトロニクス産業に関連した時事的トピックスについて、アカデミックな視点から分析していきます(このブログの更新は2004年4月9日で終了しました。続きは<a href="http://japan.cnet.com/column/mori/">コラムによる連載</a>をご覧下さい)。
ブログ管理

最近のエントリー

2003年12月1日午前11時。東名阪でデジタル地上波テレビ放送が開始された。朝刊のテレビ欄を見ても、新たに「デジタル放送」の枠が増えたわけではなく、今までの番組欄に小さく「D」という印が掲げられた番組が若干加わった程度で、言われなければ分からない程度のスタートとなった。

関係者のお祭り騒ぎの陰で

赤坂プリンスホテルで行われている11時の放送開始を祝う式典では、放送前には麻生総務大臣、放送開始直後には小泉首相の挨拶があり、デジタル地上波放送の開始が国家的なイベントであることを強調していた。NHK、民放ともに、その式典の中継を織り込んだ特別番組を組んでその門出を祝うと同時に、2011年のアナログ放送終了までの順調な展開を真摯に祈ったに違いない。というのも、デジタル地上波放送の普及がどの程度スムースに行くかどうか、まったく見えていないのだから

いくら小泉首相が「できるだけ早く全国に普及させ、その良さを実感してもらえるようにしてほしい」といったところで、具体的な策が講じられない限りは難しい

1953年に開始されたテレビ放送も、スタートは決して楽ではなかった。60年に追って開始されたカラーテレビ放送の受像機普及率が全世帯の過半数に達するには12年かかり、白黒テレビ受像機をすでに購入していた世帯分を推定し取り込んだとしても、放送開始から17年を経た70年前後にやっと過半数の世帯にテレビが行き渡ったのではないかといわれている。もちろん、平均所得も当時と比べて圧倒的に高くなり、「買いたくても買えない」という事情がある家庭の数はずいぶんと少なくなってはいるだろう

# 1970年の万博、1972年の札幌オリンピックなど大きなイベントがあった70年代前半に、テレビの普及率は急激に高まり、75年にはほぼ全戸に普及(カラーテレビで95%程度)するようになった。ある程度の規模まで普及すると、あとはどっと、というパターンだ。これも、一種のネットワーク外部性が働いたという解釈もある。テレビのようにコミュニケーションそのものが双方向ではなくとも、前回も紹介した「マスコミュニケーションの2段階の流れ」やその後主流モデルとなっている「多段階の流れ」モデルに見られるように、受け手間の複雑なコミュニケーションによって、「所有することによる便益の享受」=「バーチャルなネットワークへの参加」が成立すると考えられる

とはいえ、実質的に7年で全国4700万世帯の100%普及を目指すというのは、ずいぶんと強気な計画であることには間違いない

無料なのに見るのに金がかかるデジタル地上波

3年前の今日開始されたBSデジタル放送も、「1000日で1000万台普及」という目標を掲げてスタートしたものの、その普及は250万世帯程度(最大。03年8月のJEITAの受信機器出荷台数発表やNHKによるCATV経由の契約数を合計)で、世帯普及率で5%程度でしかない

土壇場でデジタル地上波の同時再送信同意を条件付で交わしたCATVは、当面、電波が出ていてもエリア的に見れないという数百万世帯の「始まっても見れない」人たちに対してデジタル地上波の視聴機会を大幅に増やす手段の一つだが、それはそれで問題がある

東名阪のCATV各局は「デジタル地上波を今のテレビで見れます」と宣伝を盛んにし始めているが、今までのSTBから、デジタル対応STBに変更する(あるいは新たに設置する)必要があり、工事費が必要になる。また、僕の住むJ-COM東京エリアでは現行アナログの基本料金3,980円がTVデジタル・サービスでは5,480円となり、月1.5千円の増加となる

もし、今までSTB契約をしていない(通常の地上波再送信のみを利用してきた)のであれば、月々5,480円を本来なら無償のテレビを見るために支払う必要が生じる。加えて、今までアナログを含めてBSを視聴していない場合であれば、STB契約では自動的にBSが加わってしまうため、NHKの衛星契約受信料が23,100円(CATV団体割引の12ヶ月前払い)が必要となり、通常カラー契約受信料と比べて1万円程度のコストがかかってくるわけだから、年間88,860円(実質増加分のみでは75,760円/年)がデジタル地上波視聴のために必要となってくる(もちろん、地上波以外のたくさんの興味深いチャネルや番組が見れるようになるわけだが)

# デジタル地上波の普及でもっとも恩恵を被るのは、このBSデジタルではないか、と思うのだが

他にも、J-COMでは、D3端子以上の入力端子を持ったテレビを準備することや、複数のテレビで見るのであれば追加料金が必要などの説明があり、どうせならテレビ自体も買い換えた方がいい、複数のテレビではもっと金がかかる、ということがわかる

魅力に乏しい? じゃあ、双方向性でしょ、やっぱり

BSデジタルでは、地上波とは異なることになっている放送局が番組を作っていることになっているので、地上波とは異なる番組編成が行われてきた。しかし、デジタル地上波は、冒頭指摘したように、ほとんど従来のアナログ地上波と同じ番組を高品位で送出する編成を取るわけだ。だから、「高画質」、「高音質」、「双方向」、「EPG」などを売り物にしたところで、双方向についてはイメージがわかないし、EPGも最新のDVD/HDDレコーダでは当然の機能だし、コンテンツという点ではあまり差別化はできないのではないか

もちろん、デジタル・ハイビジョンの画質の高さを否定する気はもうとうないし、5.1chなどの音響空間も大いに価値があると思う。僕だったら、すぐにでもほしいし、見たい。しかし、僕は例外的かもしれないし、広くたくさんの人に対しては、なかなか火がつかないのではないか、を心配するのだ

今日、麻生総務大臣は「デジタル地上波テレビは、「見る」テレビから、「使う」テレビへの転換を促す」と指摘している。であれば、差別化点としてイケそうなのは、今はイメージすらはっきりしないものの、「双方向性」ということではないだろうか

# 僕は、現在の「テレビ」というものの影響力は、家庭の居間に大きなディスプレイがあって、人々が時間があればその前に座って画面を眺めるという習慣がついているゆえに生じている、と思っている。これは、携帯でテレビが見れても、車の中でテレビが見れても、基本的には「家庭の居間に・・・」の延長上にあるからでしかない。vodafoneのテレビ付携帯電話「V601N」のCMでも、基本的に「親子のコミュニケーション」が前提にある。基本的には、一緒に居間でテレビが見れれば・・・という話なのだ

もし、今のデジタル地上波テレビの規格が「双方向」性について貧弱であり、また、電波を使う限り、その機能が制限されるのであれば、放送だけに拘泥する必要はなくなってこよう。配信・伝送手段として、すでに一部のデジタル地上波対応テレビが装備しているようにインターネット対応すれば、問題は解決するだろう

「距離3mのメディア」として、居間でゆっくりという発想でテレビを考えている人たち(特にテレビをテレビとして開発してきた人たち)からの反発も大きいに違いない。しかし、テレビを見ながら電話ができたり、追加情報が見れたりしたら、それなりの価値があるという声は実は大きい

今後、デジタル地上波の積極的な普及を考えれば、CATVによる利用者の加速も大切ではあるが、本質的な部分での差別化や訴求価値の付与を考えた方がいいだろう。それは、多分に放送そのものではなく、ハードウェアやサービスの設計であり、放送局だけの問題では確実にないことは明らかだろう

# 自宅にてPertshop Boysの「Pop Art Mix」をBGMにして

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー

個人情報保護方針
利用規約
訂正
広告について
運営会社