iPhoneはiPodの機能を含んだ情報端末である。僕も含め、洗練された「音楽を聴く、動画を視聴すると言う要素」がフィーチャーされていて、通信端末としての側面は半分くらいの採り上げられ方だ。しかも日本ではケータイの電波は入らないので、半分くらいの採り上げられ方でちょうど良いのかも知れない。 そんなイメージを持ったまま、New York行きの飛行機を待つDetroitの空港ロビーでベンチに座った。当然ここはアメリカだ。AT&Tとキャリア名が書かれて、電波強度を示すロゴはフルになっている。やっと、iPhoneをiPhoneとして利用する機会に巡り会うことが出来たのだ。 金曜日の夕方の便である。出張を終えて帰宅するビジネスパーソンであふれているのも頷けるシチュエーションだ。 空港のロビーは、特にビジネスユーザーを中心に、ノートPCやBlackBerryなどの画面を眺める人たちが多い。そんな中で、同じ飛行機を待つゲートの回りには5人のiPhoneユーザーを発見することが出来た。 今までのiPhoneのイメージからすると、他のケータイやノートPCユーザーとは違って、iPhoneユーザーは音楽を聴きながらウェブでも見てるんじゃないか、例の指でつまむでネットのニュースサイトでも見ているんじゃないか、なんて思っていたが、とんでもなかった。 5人とも、イヤホンなど一切つけずに、一生懸命タイピングをしているのである。他のBlackBerryユーザーと同じように。そのうちの1人はiPhoneでタイピングしながらもう1台のケータイで電話をしているヒトまで見つけてしまった(その人は女性だった)。なんだかちょっと、混乱してくる。 iPhoneは彼らにとっては、メール端末、と言う受け入れられ方をしているのだろうか。しかも、他の端末を使っている人たちより身軽で、幾分使いやすいくらいだ、と感想を聞くことも出来た。 確かにiPhoneに搭載されているメールソフト、Mailは使いやすい。 Mac OS XでMailを使っているユーザーである僕からしても、iPhoneのMailは同等か、携帯性を加味してMac OS Xのそれより勝っているかも知れない、と思うほどだ。当然ケータイの電波が入れば、デフォルトで30分おきに勝手にダウンロードしてくれて、耳慣れたメール着信の音とバイブで知らせてくれる。 Multi-touchとOS Xベースのアニメーションを多用したインターフェイスのおかげで、画面の小ささを感じさせない、というよりはそれを味方につけるようにして、メールを処理していくことが出来る。 そしてつたないながら英文で簡単なメールを書いたり、リプライをしたり、と言うことを試してみたが、縦長にグリップして親指で半タッチタイプを実現できるiPhoneは、W-ZERO3[es]やX01HT、BlackBeeryなど、日本で使ってきたスマートフォンの小さなキーボードよりも断然ストレスのない入力が可能だった。 確かにこれは、メールがはかどるわけである。しかしながら、せっかく新しいユーザーインターフェイスを備えていて、やはりキーボードのシミュレーションがiPhoneには必要だったのだろうか。そこは確かに疑問である。これに応えてくれたのが、プロダクトデザイナーとリサーチを行っているゲーリー・ナツメさんだ。 後にNew YorkのSOHOにあるデザインオフィスを訪ね、ゲーリー・ナツメさんとiPhoneのインターフェイスについてディスカッションをしたのだが、ここでナツメさんは、「活字の国として、キーボードはなくてはならないインターフェイスだ」というコメントを下さった。 欧米での文字表記、入力はタイプライターが早期に導入され、現在標準となっているQWERTY配列が既に19世紀の終わりには定着する状況になっていた。一方日本では、パーソナル向けでは筆や万年筆の肉筆の時代が、少なくとも日本語ワープロが登場、普及する1980年代までは続いてきた。圧倒的にキーボード慣れしているのが、彼らなのである。 話は脱線するが、アートワークデザインの違いも、このカルチャーから出てきている。僕は好きなのだが、欧米の広告やロゴなどのデザインは、基本的にタイポグラフィー重視だ。写真とタイプで構成される作品が多い。一方で日本ではイラストレーションが絶妙に絡んでくる。 「昔は筆で詩を書いて、そのヨコに蛙なんかをそのまま書いていたでしょう? 漢字が表意文字であることも含めて、イラストレーションと文字(タイプ)の境目が非常に薄いのが日本のデザインじゃないか」(夏目さん) そこで日本ならではの絵文字やデコメールというカルチャーがコミュニケーションの中で親しまれているが、あまり欧米受けしてない、なんて言う背景が透けて見える。もしかしたら、タイポグラフィーがケータイメールで交換できたら、デコメールも欧米で流行りそうだ、なんて思った。 話を元に戻すと、こうやってキーボード慣れしているカルチャーの中で、使いやすいキーボードはヴァーチャルにも必須だった。キータイプだけでなく、それを快適に受け止めるメールソフトも必要だった。その答えがあのキーボードであるし、またあのメールソフトであったのだ。確かに、他の端末以上にタイピングに集中できているユーザーを見ることになったわけで。 おそらく日本の携帯端末の中でも、iPhoneのフルキーボードとメールソフトは抜群のユーザビリティを発揮するだろうし、iPod touchで利用可能になったMulti-touchの日本語キーボードも、予測変換候補を表示させるまでの反応速度のかったるさを除けば使い勝手は上々だ。かったるさを加味しても、今までのスマートフォンの文字入力より早い。 しかしこれが、日本人が慣れているテンキー+予測変換の漢字入力に勝てるか?と言われると微妙だろう。
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