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    知の鎖国

    2010-04-15 18:09:53

    知の鎖国

    プリンストン大学の小林先生が、ご自身のブログで、日本の知識人に対してもっと国際化しなければならないという趣旨のメッセージを発していらっしゃいます。その中で紹介されているのが、Ivan Hallの「知の鎖国」という本です。1998年の本ですが、原題は「Cartel of Mind」で、日本には「心のカルテル」があり、日本の知識社会、特に、法曹界、ジャーナリズム、高等教育(大学)が、外国人に対していかに閉鎖的か、ということが、歯に衣着せずにこれでもか、と思うほど批判的に書かれています。

    日本人からみると、非常にショッキングな内容です。私はグローバル化の最先端を走る米国企業に長いこと勤めていましたし、今では日本を代表するグローバル企業の一つに勤めています。しかし、会社の中でも日本の閉鎖性を感じることがしばしばありましたし、今でもあります。 世界は確実にグローバル化に向かっているようですが、残念ながら、もしかすると最近の日本はグローバル化の努力を怠っているのかもしれません。

    なぜそうなってしまったのか

    その原因ですが、まず英語力の問題をあげなければなりません。好むと好まざるとに関わらず、世界における共通の言語は英語です。ですから、私たちがグローバルに活躍するためにはどうしても英語によるコミュニケーション力が不可欠です。小林先生がブログの中で指摘していますが、日本のTOEFLのスコアは、アジア27カ国中最下位だそうです。2008年のTOEIC Newsletterによれば、2008年度の日本企業におけるTOEICスコアの平均は、456点(参加企業909社、参加者55,375人)だそうです。これに対して、韓国の大企業、例えばヒュンダイやLG電子などは、採用の際の足切りのTOEICスコアが800点だということですから、いかに私たちの英語力が足りないかを認識しなければならないでしょう。

    多くの日本人にとって、英語を話すことは簡単なことではないでしょう。私自身もそうです。私は平均的な日本人よりは英語をしゃべるほうだと思いますが、それでも、英語を話すときには、日本語の時に比べて何倍ものエネルギーを使います。多くの日本人と同様に、私の英語も子供の時から身に着いたものではありません。例えば、LとRの発音の違いは私にはまったくわかりません。試しに、音声機能付きの電子辞書で"right"と"light"、あるいは"ray"と"lay"などを聞き分けようとしてみてください。私にはまったく同じに聞こえます。子供のときから英語の音を聞いている人には、これらは全く違う音に聞こえるそうです。英語力の問題は大きなハンディですが、乗り越えなければなりません。

    しかし、語学力以上の大きな問題もありそうです。それは、意思決定プロセスの問題です。Ivan Hallは、「知の鎖国」の中で、日本語を流暢に話す外国人が、意思決定の場から意識的に阻害されている問題を繰り返し指摘しています。外国人はお客様として日本に来ている分には非常に歓待される、しかし、一歩意思決定の場に足を踏み入れると、とたんに冷たくなるというのです。なぜこのようなことになってしまっているのでしょうか。

    最近、ある若い方が、「偉い人はなぜ議論の最初から多くの利害関係者を入れるのを嫌がるのだろう」という疑問を投げかけていました。何かの合意形成をする場合に、「議論が発散するといけないから」という理由で、まず少数の狭いグループの中で合意を作り、後から「これが合意だから」と言って他の利害関係者に説明する、ということをしていないか、という疑問です。皆さんの周りで、思い当たることが無いでしょうか?

    本来、意思決定の場に多様な利害関係者が参加することは良いことであり、必要なことであるはずです。多くの異なる意見の中からより良いアイディアを導き出すことができますし、また、利害関係者が議論の最初から参加していることによって、結果に対する納得度も高くなるでしょう。議論で本来あるべき姿、すなわち「時には対立する異なる意見を取り入れながら、新しいアイディアを創り出していく」というプロセスに、私たちは残念ながら慣れていないようです。学校教育の場で、また家庭で、そのような訓練が不足していたのではないでしょうか。

    元日本CA社長の根塚さんは懇意にしていだいている私の知人ですが、根塚さんは、語学力に加えて「議論する力」がグローバル化のためには必要だと述べています。この「議論する力」とは、異なる視点の新しい意見を歓迎し、それらを取り入れてより高いレベルの合意を創り出す、ということに他ならないのではないかと、私には思えるのです。

    どうすればよいのか

    私たちが「知の鎖国」状態から脱出して、国際社会からも対等と認められる責任ある社会になるにはどうしたらよいのでしょうか。

    もちろん、第一に英語によるコミュニケーション力をつけなければなりません。英語のPodCastなど、今では多くの英語教材がありますから、学習する手段に困ることはないでしょう。でも、もっとも力がつくのは、実際にビジネスで英語を使うチャンスを増やすことです。この際、単に相手の話を聞くだけでなく、双方向のコミュニケーションになっていることが重要です。

    ビジネスにおけるコミュニケーションの場合、相手はこちらから何かを引き出したいから会話しているはずです。何かの情報を得たいのかもしれませんし、あるいは何かを説明しているときでも、こちらが理解しているか、納得しているかという感触を引き出したいはずです。相手がどうしても引き出したい価値ある何かをこちらが持っている、そのことはコミュニケーションにおいて自分の存在感を出す第一歩だと思います。

    前出の根塚さんは、「ビジネス力の無い人が、英語力があるというだけで、時としてグローバル化人材だと勘違いされることがある」ということに警鐘を鳴らしています。英語によるコミュニケーション能力とは、少なくともビジネスの現場では、英語力+ビジネス力と言えるでしょう。

    第二の問題としてあげた、意思決定プロセスの閉鎖性を改善するためには、私は多様性(ダイバーシティ)の考え方が大切だと思います。多様性とは、私の考えでは、違いを受け入れ、尊重するということです。違う考えを喜んで受け入れるようになれば、「議論が発散するから」といって重要な外部利害関係者を意思決定プロセスから排除することもなくなるでしょう。

    意思決定プロセスに多様性を受け入れるためにはしかし、努力が必要です。自分とは違う視点、考え方は、ただちには理解できないし、そのリスクを自信を持って評価できないからです。あなたが主催する会議において二つの提案、XとYが出たとしましょう。Xは自分に近しい人から出たアイディアで、あなたもその内容と価値をよくわかっています。一方、提案Yのほうは、異なるコミュニティに属するよく知らない人(たとえば外国人)から出たもので、一見よさそうなアイディアにも聞こえますが、あなたにはよく理解できないし、その価値を正しく判断できません。あなたは会議の結論として、提案Xをまず検討すべきでしょうか。それとも提案Yを検討すべきでしょうか。

    多様性に対する取り組みとして私が必要だと思うのは、「自分のわからないものはひとまず、わかっているものよりも素晴らしいのだと仮定を置いて考えること」です。これはある意味でアファーマティブ・アクションを一般化した考え方と言えると思います。アファーマティブ・アクションという言葉は、弱者集団を積極的に優遇すること、例えば同じ成績ならば女性の昇進を優先する、などの意味で使われます。しかし私はここでは、「自分の属する集団以外の人々には、自分の理解できない、あるいはまだ理解していない点があるので、それらを価値の高いものと仮定して積極的に評価すること」と定義したいと思います。自分が理解できないがために価値あるものを見過ごしてしまう、というリスクを最小限にしようという考え方です、

    私たちが日々の議論の中で、異なる視点のアイディアを喜んで受け入れるようになり、さらにその習慣が意思決定の場にも活かされるようになれば、「知の鎖国」状態は改善されていくのではないでしょうか。そして、そのためには、私たち一人一人が「アファーマティブ・アクション」を心がけていくべきなのではないでしょうか。

    おわりに

    私たちが若者であった70年代、80年代には、日本企業が世界に進出し、急速にグローバル化が進んでいました。私たちは、さらにグローバル化がすすみ、日本が世界の中で重要な責任ある地位を占めていくのだろうと期待していました。私たちは、そのための努力をいつしかしなくなってしまったように思えてなりません。Ivan Hallのような心ある人の指摘を待つのではなく、私たち一人一人が、グローバル化の努力をしていかなければならないと思います。

    ※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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