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お隣の佐々木さんのエントリが話題を呼んでいるので、このところ多忙にかまけて更新をサボっていた罪滅ぼしに、私も便乗してみようと思う。
「光の道」の構想と論争について
「光の道」構想をざっくり約すと、原口総務大臣が設置した「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」において検討が進められている、日本の全世帯へのブロードバンド環境の配備を目指すビジョンのこと。具体的には2015年までに光ファイバーを全戸へ、ということになっているらしい。ステイタスはまだ検討中。
これに対し、普段は規制当局に反発することをアイデンティティとしているソフトバンクの孫さんが、国費を投入してドーンと作れ、と諸手を挙げて賛成し、話題になっているという。この原口さんと孫さんの一見すると蜜月ムードなところに、佐々木さんが正論で水を差し、twitterを中心に議論を呼んでいる、という構図である。
佐々木さんの論旨はこちら(上・下)を読んでいただければ分かるが、こちらもざっくりまとめると、
- もう90%近く整備されてるのに最後の10%をやりきる意味があるのか
- インフラ整備じゃなくて整備されたインフラの利活用が問題だろう
- ネットが国民生活の社会基盤になるような政策を推進すべきだ
という論旨。インフラ整備ラブな既存の総務省的視点からは痛い指摘かもしれないが、実際のところいずれも尤もな話である。
あまりにも尤も過ぎるので、今度の孫さんとのust対談ももはや「猪木vs.アリ」の様相であり、ヘタしたら「NTTはドミナントだからアレだよね」的な世界平和構想みたいな感じで終わりそうな悪寒さえする。関係者各位におかれましては早急にオモシロアングルを設定していただきたい。このままだと猪木はマットの上に寝たままになるよ。
web利用者はマイノリティ
というわけで論争そのものについては、他に論じるべき点がない。たとえばそらのさんところのustに持ち株の鵜浦さんあたりが緊急参戦となれば猛烈にwktkするのだが、そういった気配も一向にない以上、このままでは本エントリも以上終了ということになろう。それでは先日CNETを退職したながいたんも草葉の陰で泣いてしまうので、もう少し本質的な話に少々触れることにする。
その本質とは、佐々木さんも触れていた「ネット全然使われてないじゃん」ということ。実はこれ自体は非常に大きなアジェンダで、私自身ももうちょっとちゃんと問題提起しなければならないと思っている。
OECDの会議に時折に顔を出している関係で、世界のネット利用ということを俯瞰的に見る機会があるのだが、残念ながら日本のネット利用は先進国では極めて遅れている。いや大事なことだからもっとはっきり直言しよう、日本のネット利用は先進国ではビリっけつもいいところで、もはや中国にも抜かれそうな状況である。そしてこれは私自身が描いた自画像ではなく、海外政府関係者とメシを喰っている時の雑談での指摘。
実はこれは日本のネット業界の深いところを触っている人なら、薄々感づいていることでもある。たとえばネットでのマーケティングを本当に厳しく見つめている人たちは、いわゆるネットをネットらしく(大甘の基準だが、週に2-3回程度PCでYahoo!を眺めるくらい)使っている人は3000-4000万人程度(つまり人口の1/4程度)しかいない、という前提で市場設計をしている。
あるいはこれはtwitterやiPhoneとて同じで、twitterで評判だったから企画を進めてみたら大コケした、あるいはiPhoneユーザが増えているように見えたのでiPhoneアプリを作ってみたが激しく滑った、という残念な話は枚挙に暇がない。単純なことで、twitterは現時点でせいぜい500-600万人程度、iPhoneは200-300万人程度のユーザしかおらず、しかもキャズムはまだ超えていない状況だということを再確認しているだけのこと。
没入感たっぷりのネット世界では、ユーザはwebを使いこなせばこなすほど、世界の中心はwebにあるような感覚にとらわれる。そしてwebを使いこなしていない人の存在を忘れ、視界にそういう人が入ってこようものなら、熱烈な啓蒙に走るか、もしくはwebを使えないヤツはバカと言わんばかりの熱烈な上から目線を送る。しかし結局のところ、webを使いこなせている方がマイノリティ、というのがいまの日本の現状ということだ。
ケータイの国の人だもの
この事実についてはさらに二つの論点に分けられる。一つは、日本ではPCをケータイの世界がはるかに上回っている、ということ。こういった比較をするときにサービスとして枯れているmixiを見るのが分かりやすいが、ケータイからのトラフィックはPCからのそれの2倍くらいの規模である。あるいは音楽配信の世界で、日本はiPod+iTMSよりケータイ配信の方が商売になっている、という事実もある。
この状況を残念な日本のwebと評したのは、最近リコーの社外取締役に就任された梅田さん。そしてケータイの異常進化をガラパゴスと評するのは、そのご近所の海部さん。どちらも言い得て妙ではあるが、いかに残念なガラパゴスだと言われようとも、事実は事実。政策論争は事実の上に立脚しなければ意味がないし、どこぞの誰かのデイドリームのために血税を投入されるのはまっぴら御免。
となるとここで一つ大きなアジェンダとして出てくるのは、そもそもケータイの国であるジャパンにおいて今から光の道を整備する必要があるのか、という「力をかけることの意義」に関する論点である。そしてそれは、整備の必要性が仮にあったとして(私自身はケータイですべて賄えるとは到底思えないので必要性はあると思っているのだが)、90%を100%にするような努力は正しいのか、という「力のかけ方」の議論でもある。
実はこれが「二つめの論点」とも関連する。というのは、いま日本でPCネットを利用している人は、実は少なからず可処分所得が高いと目されているのだ。すなわち、国民的インフラとしての普及には成功していないネットだが、結果として「上質な情報インフラ」として機能しているのだ。これも、前述のネットでのマーケティングを本当に厳しく見つめている人たちにとっては半ばコンセンサスなのだが、おそらくプロファイルとしては平均収入や可処分所得、あるいは情報リテラシーや知識水準も、平均よりは高い側に触れているだろう。
これはある程度当然といえば当然で、PCネットの普及が都市部を中心に進んでいるということの裏返しでもある。もとより収入が高く情報流通の活発な地域でネット利用がそれをさらに加速した、という好循環の構造(とそれによる地域間格差の拡大)がもたらされた、ということである。
孫さんなりの「変わらなきゃ」
だとすると、原口大臣の「光の道」というのも、古くからあるデジタル・デバイド解消の話というよりは、「これからは地方にネット振興のカネを落としましょう」という議論と解釈すべきなのかもしれない。すなわちこれ「ネットにおける大きな政府」指向である。
それはそれで、一つの政策の方向性として、アリだとは思う。というかアリだと思わなければなるまい。個人的な主義主張はさておき、とにかく国民の選択によって政権が交代し、基本的に大きな政府を(自民党政権に比べれば相対的に)指向する民主党政権が権力の座にある。だとしたらその時流に抗って云々するより、ネットにおける大きな政府によりどのような便益がもたらされ、またどのようにすれば国益に資するのかを考えた方が得策である。
その上で、NTTとの対峙において自由主義的なポジションを取っているように見えたソフトバンクが、この「大きな政府」的な指向に共鳴したというのは、もしかするといろいろ興味深い話なのかもしれない、と思っている。何しろ孫さんといえば「機を見るに敏」な御仁であり、その素早さにおいてはみずほコーポレート銀行あたりでは太刀打ちできまい。
というわけで佐々木さんと孫さんの対談では、
- なぜ孫さんは光の道に賛成したのか
- ソフトバンクは光の道構想でどんなビジネスを展開しようとしているのか
という愚直なやりとりを「本当は」期待しているのだが、より本当のところを最後に吐露してしまうと、結局のところ「光の道構想」は親分の辞職による内閣の総入替をにらんだ原口大臣の打ち上げ花火に過ぎない気がしているので、今もってあまり期待できない日本の私。やはり久しぶりのエントリはまとまらない。
タイトルは昨年のベルリン映画祭で金熊賞に輝いた「悲しみの乳」からの借用。いや、「光の道」と言われると、ついうっかりペルーの反政府組織「センデロ・ルミノソ」を思い出してしまう年頃なもので。
(5/4 21:30 訂正:ながいたんは今月半ばまで退職してなかった!)
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