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梅田さんのインタビュー記事に対して何かコメントをすることが流行のようなので、たまにはそういう流行にも乗ってみようかな、と徒然なるままに書いてみる。タイトルは、シェイクスピアの傑作喜劇から、そのまま拝借。最近だとケネス・ブラナーが映画化している。
日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く(前編)
Web、はてな、将棋への思い 梅田望夫さんに聞く(後編)
梅田さんについて
梅田さんの著作は、失礼ながら「ウェブ進化論」を書店で立ち読みしたくらいなのだが、基本的にはベイエリアにポジションを持った一流のアジテーターというのが私の理解だ。一方ビジネスパーソンとしての腕前は、彼のファンドのトラックレコードや経営参画した「はてな」の現状から判断する限り、現時点ではアジテーターほどではないように思っている。
また彼自身の日本での認知は、ネットをよく知らなかったおじさんたちに啓蒙書や解説書を書いている海外在住のライター、というのが実際のところだと思う。このあたり、ご本人の本意ではないのかもしれないが、本人の意志とは関係ないところで認知が形成されるのがマス・コミュニケーションであり、書籍もその例に漏れなかったということ。
では彼の現時点での最大顧客であるそんなおじさんたちが、今回のインタビューに何か反応したかというと、率直に言って反応どころかインタビューさえ読んでいない(というかITmediaさえ知らない)というところがほとんどではないだろうか。実際「ウェブ進化論」を買い求めたおじさんたちが、今回のインタビューを受けて酒場で議論するなんて光景は、まったく想像できない。
おそらくそのあたりを総合的に勘案して、アジテーターとしての彼は戦略と戦術を変えてきたのだろう。すなわち、まず戦略論として梅田さんのお客さんをざっくり「おじさん」と「ネットユーザ」に明確に分け、その上でこれまでの最大顧客であるおじさんたちには、「将棋」という新たな手段で、またネットユーザたちには「残念」という柔らかいモヒカン的な表現で、それぞれアジる方法を変えるという戦術変更である。
梅田さんのインタビュー記事について
いずれの手段にせよ、梅田さんの主張は一貫して彼の理想であろうところの「エリート論」であることに、大きな変更はないと思う。だからインタビューの論旨そのものについては、ああそうですか、という印象しか残らない。私の知りうる限り、別にこれまでの彼の主張とは何も変わっていないのだから。
ただ、同じことを言っていても、言い方を変えれば違うメッセージになるのは当然のこと。その上で前者の「将棋」の話については、著書を読んでいないしいまのところ読むつもりもないのでよく分からないが、後者については結果は釣り堀どころかハトヤの海底温泉状態状態。ひとまずは空振りせずにミートしたというところだろう。
ではミートした球はクリーンヒットになるのかといえば、これがボテボテのゴロになりそうな気配。となるとあとは彼にイチロー並みの走力があるか、というところだが、率直に言ってクロスプレーになるかならないか、というところだと思う。というのは、彼が考えている以上に、後者たるネットユーザたちは成長したからだ。
これは単に時間が経ち経験を積んで深みが増した、ということだけではない。世代論を持ち出すのはあまり好きではないのだが、現実問題として、「「ウェブ進化論」の流行」(論旨そのものよりも、あの本が売れたという事実)に胸踊らせた若者たちも、気がつけば三十路を越え、家庭を持ち、社会の中枢に食いこみはじめているということである。アジテーションに揺さぶられるほど、もはやナイーブではいられないのだ。
おそらく梅田さんは、ネットユーザたちが百瀬博教のように"forever young at heart"と書かれた帽子を、いまでも被ったままだと考えていたのではないか。しかしそれは温暖なベイエリアで楽しく過ごす彼のような人にしかできないことである。日本で暮らす多くのネットユーザは彼らなりに、現実の荒波の中で、難局を生き延びようと、必死なのだ。
もちろん、そんな彼らにこそ、アジテーションが必要と梅田さんは思っているのだろう。しかし1点を争うゲームでホームランを狙うのは得策ではなく、おそらくそこは彼の読みが外れたところだ。なので、ゴロのコースや球のスピードが死にきっておらず、率直にいってピッチャーゴロになりそうな気がしている。でも別に9回裏ツーアウトというわけではないので、次に期待すればいいのではないだろうか。
魚群はどちらに向かうのか
一方、梅田さんという一つの中核の周りを漂う「魚群」の動きの方が、なにやら騒がしい。これはベイエリア在住の在外邦人な方々と、日本で梅田さんの発言に影響され、また利用してきた方々と、の2つがあると思う。
前者については、以前のエントリでもちょっと触れたが、基本的に私は彼らを脱北者だと考えている。脱北者というのは、体制になじめず、自らの生きる道を、自らのリスクを背負って体制の外に求めた、という比喩であり、ある意味で勇気ある人たちだと私は思っている。
そんな彼らゆえ、新天地が好調ならば、声も大きく発言もオーバーになりがち。ましてベイエリアは、米国の中では格別に異邦人に優しい土地だ。そのあたりは割り引いて受け取るべきだと思っている。
しかし残念ながらそのベイエリアで彼らの従事する産業が、どうにも悲惨な状態である。となると本来、いくら異邦人に優しい土地とはいえ、アウトサイダーでありポジションの弱い「ベイエリアの日本人」である彼らが、ことさら弱気になったり、日本の悪口をつい口にしてカタルシスを得ようとしてしまうのもむべなるかな、というところ。
ただ非常に生意気な言い方だが、そういう大波の中で生き延びることも、彼らが彼の地で生き抜くための試練だと私は思っている。というのも、そもそも「米国自体この先どうよ」という問いは、それこそスペインのバールでサッカーのハーフタイムに飲んだくれているおじさんたちの与太話になるくらい、世界中がじっと見つめている状況だ。
ベイエリアという温室で平穏に暮らしていた彼らが、厳しい現実に直面し、アイデンティティの揺らぎを感じている。そこに来て、彼らのアイコンとして活躍した梅田さんが、戦略と戦術を変更した。こうした彼らの変化や揺らぎが、今度どのように収束していくのか。私自身はあまり興味はないのだが、結果的にその言動がネットユーザの世論形成にそこそこの影響力を有している現時点では、少し気にしておいていいのかもしれない。
諸行無常とネット言論の成熟
一方後者、つまり日本で梅田さんの発言に影響され、またそれを利用してきた方々については、ある意味で前者以上に難しい局面にあるのではないかと思う。誰とは言わないが、梅田さんに対して「勝手かけあい漫才」を自任して楽しんできた人たちは、結構あちこちいるはずだ。
おそらく彼らにとってのご本尊であった梅田さんの戦略・戦術変更によって、まずは彼らもポジションの明確化を迫られるだろう。もちろんここで「あえてスルー」という戦術を採る人もいるだろうが、もしその人がこれまで勝手漫才を散々演じてきたのだとしたら、ここでスルーするのはむしろ奇異というものであり、減点対象だろう。
場合によっては軌道修正や、宿主そのものの変更を迫られる人もいるかもしれない。おそらくそういう揺れの中でふるいにかけられ消えていく人も出るだろうし、もしかするとそうした中から新たに自立する人々が生まれるのかもしれない。それはそれで諸行無常というものであり、いわゆる「ネット言論」なるものがそれによって成熟するのであれば、別にそれは悲しむべきことではないだろう。
別に日本が勝ったわけじゃないから
そんなわけで、梅田さんのアイデンティティ自体は大きく変わらず、ただ彼の戦略と戦術が変わって、周囲が勝手に振り回され、「わてほんまによういわんわ」という状態なのだろうとぼんやり眺めている。
ただ、実はこの騒ぎにほとんど関心のない私が、唯一気になるのは、「残念」という議論の流れの中で、日本はすごいとかベイエリアってダメじゃん、という思いこみ(やそれを含んだコメント)が、ちらほら散見されるということ。
確かにここ最近の論争を見る限り、「日本vs.ベイエリア在外邦人」といった構図を立てることもできなくはない。そしてその構図において「日本の勝ち」と言いたくなる気持ちも分からなくはない。しかしそれこそがカタルシスというものだ。
別に日本は在外邦人の方々と戦っているわけではない。相手にしているのはあくまで他の国(の政府や産業)であり、そこでは残念ながら日本は決して勝っているわけではない。おそらく私は分布上は日本の中枢に近いところで仕事をしている人間の一人なのだろうが、正直に言って局地的ではボロボロというところもあり、あれこれ崩れはじめているのも事実。
さらにいえば、あと20-30年もすれば人口が急激に減少し、かつ高齢化が急激に進む日本は、放っておけば「戦わずして負ける」状態に入る。あと20-30年といえば、前述のネットユーザたちは、まだまだ現役だし、かつ下の世代は人口そのものが細っている。そんな苦境を続けていく以上、極端に言えば、私を含めていまの30代くらいの人たちの平均寿命は、現在より少し下がるのではないだろうか。
実際、すでにそういう「撤退戦」を意識した動きは、資本市場や企業経営の手伝いをしている私の周辺でも、あちこち目につくようになってきている。そのテーゼが正しいかはさておき、成長のない市場では、基本的にどう手じまいするか、という話が台頭するのが世の常というものだ。
このあたりの話は、はじめると長く重くなっていくし、そもそもblogに馴染まない気もするので、いずれどこかで何らかの形でまとめたいと思っている。とにかく、単純な構図で問題を片付けたところで、シェークスピアの喜劇のようなハッピーエンドが訪れる状況に、日本はもはやない、ということだけは、忘れないようにしたい。
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