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    難局物語

    2009-05-23 23:13:28

    プロフィール

    クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

    インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、同分野のさまざまなレイヤーでコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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    いくらなんでもちょっとひどいな、と思うことがあったので、書き留めておく。タイトルは南極に残された白い犬たちの過酷な運命を描いた感動巨編から拝借。いや、あの犬たちがどんな色だったかは、よく覚えていないのだが。
     
    そもそも関心のない人までを驚かすつもりはないので匿名にするが、某企業(以下A社としよう)が個人向けの社債で500億円程度の調達を予定している。近々に売り出され、払い込みは6月半ば。表面的な利回りだけを見れば5%強と、この低金利時代に悪くないお買い物のようにも見える。(※文末に追記アリ)
     
    しかしA社の長期債券格付けは、スタンダード&プアーズがBB(投資不適格)、JCRがBBB(投資適格)と、プロでもギリギリかそれを割り込む評価で、いわゆるジャンクボンドだ。債券投資の世界ではプロが厳格な高リスク商品として、査定のもとに手を出すか否かを判断するような世界である。表面の業績だけを見て一喜一憂するレベルの人では、はっきりいって「買ってはいけない」代物だといえる。
     
    そもそもプロはそうした商品に手を出す時は、債務不履行になる可能性も想定した上で、CDS(いわば貸し倒れ保険のようなもの)をセットで組み合わせてリスクヘッジする。このCDSは市場でポイントが変動しており、日本での指標であるJ-CDSによれば、A社は本稿執筆時点で700bp(=7%)半ばを超えている。

    取引条件で異なるので一概には言えないが、オープンな債券市場でのやりとりなら、8%近い保険料をかけないと、貸し倒れた時に回収できないということだ。A社のCDSは一時期1500bpを超えていた。その頃に比べれば落ち着いたものの、CDSが600bpを超えたら危険水域というのが一般的な判断である。まして今回の社債の予定利回りが最大で5.70%である。あとは単純な損得勘定の話だ。
     
    要はそんな代物が丸裸でシロウトに売られるということ。いかにもアコギな商売だが、これまでファイナンスの面倒を見てきた銀行が急に冷たくなったので、個人に頼み込もうとしているということだろう。なにしろメガバンクの経営状況は単純に考えても厳しい上に、BISの自己資本比率基準引き上げ等の外部要因もにらんで、これ以上無茶をすることができない状況にある。
     
    実際A社は1月にも、虎の子と思われた優良子会社の貸株も質に入れて、その銀行とは異なる金融機関からワンショットで資金調達を行っている。また3月にはその子会社に別の子会社を引き取らせて現金を調達している。それぞれ調達規模は今回と同様で、キャッシュフローから計算する限り、大体彼らの1ヶ月分の運転資金に相当するはずだ。
     
    それくらいの調達をかけなければ資金ショートするとしたら、普通に考えればもはや断末魔が近い。しかもスケジュール上は、7月に大規模な社債償還を迎えることになっている。それをにらんでの個人向け債券による調達なのだろうが、危機的状況で資本市場から四面楚歌の時に、個人投資家を欺くかのごとき商品で生き延びようとする姿に、あたかも株式100分割で世間を賑わしたライブドアを連想するのは、私だけだろうか。
     
    またこの債券の条件は、A社が一つの企業体として維持されることを前提としている。しかし償還を迎えるまでの間に、たとえばインフラとサービスの会社分割が行われたり、主要子会社の売却が行われるなど、債券価値の毀損が生じる方向で資産内容に変動が生じるとしたら、どうするのだろうか。そんなこともすでに視野に入れるべき段階にある。
     
    さらにそもそも論をいえば、想定される業績に対して、そもそも逆ザヤになっている可能性がある。そして貧弱な事業インフラを前に本来は設備投資を強めなければならないにもかかわらず、「借金を返すまでは投資しない」と創業者自ら堂々と宣言し、その舌の根の乾かぬうちに債券を発行てしまうようなA社である。彼らの属する産業が一大変革期を迎える中、彼らが果たして5%もの利回りを確保できるのだろうか。
     
    もしかするとこの債券、生身の個人投資家ではなく、A社の特定ステイクホルダー向けなのかもしれない。それこそ創業者やその周辺が、商法に抵触しないようバイバスしながら、買い支えるのかもしれないし、何らかの事情で買わなければならない人がいるのかもしれない。そういえば最近彼らは増配したが、その配当を受ける同社の株主は果たしてどんな構成だったかを考えれば、邪推が浮かばない方がおかしい。
     
    もちろん金融商品の売買は、最後はすべて自己責任。もしこの債券に興味があり、A社の行く末に自信を持てるなら、私はその購入を止めることはできない。ただ、こういった潜在リスクは、なかなかシロウトには判断が難しい。そういうものを無理に買うと、南極に残された犬たちのような苦境が待っているかもしれないので、十分なご用心を。また取引先の皆様も、シートベルトのご確認くらいはしておいて損はないだろう。
     
    ※追記(5/27):その後調達金額を600億円に引き上げたようである。しかも設定利回りが5.1%と大きくダウンしたのと引き替えに、保有する球団の来年の開幕戦チケットを抽選でつけるなんて素敵すぎる。抽選かよ!というツッコミを入れようか、はたまた同球団の存続に思いをはせようか、と思ったが、考えてみれば「かんぽな球団」の方がもっと危ないかもしれないので、そのあたりの話はいずれまた。

    ※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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