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お仕事をご一緒している方からお誘いいただいて、東京大学・情報学環の制作展"iii Exhibition 9"にお邪魔してきた。幸い初日の夕方に開催されたツアーに合流させていただき、作家の解説付きで全作品を拝見することができた。そのお礼も兼ねて、感じたことなどを少々。
クロスボーダーの実現
まず強く感じたのは、作品の構成要素の確かさだった。たとえばコンクリートを用いた作品(「日々の手ざわり」深尾宙彦)には、良質なコンクリートが持つスベスベ感やソリッド感が漲っていた。また指輪型のデバイスを用いてデジタル表現された物語を紡ぎ出す作品(「seeds」my-idy)では、アクセスするごとに画面上の花が成長しており、状況の変化が適切に表現されていた。
こうしたディテールのきめ細やかさの一因は、今回の企画展の作家が、単にメディア・アートだけに取り組んでいる人というわけでなく、もともと他の専門分野を有しているということにあるようだ。たとえば前述の深尾氏はもともと建築でコンクリートについて研究していたとのことだし、my-idyの皆さんもUIの研究に取り組んでいるようである。
こうした異分野とのクロスボーダーは、本来アートに強く求められる要素だと思う。というのもアートは一般に作家がその時代をどう見ているかが強く反映された「時代を映す鏡」であるべきものだと私は信じており、であるならばアートのことだけを考えていてもタコツボ化するだけだと思うからだ。
その意味で、情報学環はまさにそうしたクロスボーダーを無理なく実現するフィールドであり、また作家たちもそのフィールドの特性を自然に活かして作品に取り組んでいるように見えた。これは作家たちの成果であるのと同時に、こうしたフィールドを提供してきた先生やキュレーターの方々の努力の賜物でもあると思う。その意味も含め、この環境をとても羨ましく思った。
「なんだこれは?」の不足
一方で作品を拝見しながら、「とても重要な何かが足りない」という不足感を覚えたのも正直なところである。作品を見た直後はそれが何なのか分からなかったのだが、少し時間を置いたところで、ひょっとするとそれは、作品によって自分のものの見方・考え方を揺さぶられるという感覚、あるいは(僭越な言い方をすれば)それを感じさせる作品のパワーの不足なのではないか、と思うようになってきた。
それが具体的にどんな不足なのかは分からない。というよりはそれぞれの作品によって異なるのだろう。たとえばそれは完成度であったり、またその逆に荒々しさだったり、あるいはメッセージ(視点)だったり、コミュニケーション(説明)だったり…。ただいずれにせよ、強烈な作品を見た時に味わうヒリヒリ感がなかったのである。
断っておくが、もちろん「だからダメだ」というような類の話をしたいのでは、まったくない。むしろ不足があるほど作家たちの可能性を感じるし、またビジネス・コンサルタントという立場からすれば、「あの作品の考え方は○○プロジェクトの△△という課題解決に活きるかも」とか「□□の市場に持って行けばこの作品は評価されるかも」というアイディアを湧かせるのに十分な作品たちである。
ただ、岡本太郎の「今日の芸術」を読んで育った身の上としては、そんなビジネス・コンサルタントのありふれた発想を大きく超える「なんだこれは?」という違和感を与えることこそが、アートの役割であり真価だと、どうしても思ってしまう。すなわち、私を立ちすくませ、考え込ませ、また言葉を詰まらせてしまうような作品を、つい期待してしまうのである。
アートの受難とメディアアートの困難
とはいえ、アート受難の時代ではある。なにしろアートの外側(に見える領域)の方がエキサイティングなのだから。たとえば安斎利洋さんの日記(たぶんこのあたりに近々登場すると予想する)でも触れられているのだが、資本市場の動きの方がアーティスティックだという指摘は、実際に資本政策に関する業務に日々触れている身としては、至極腑に落ちるものである。
またプロダクトの世界のハードルも上がる一方であり、ちょっとした思いつきや提案のパッケージングではいまやインパクトは小さい。これはかつて10年ほど前にSFCという大学に在籍してメディアアートを近くで眺めていた身として痛切に感じるのだが、インターフェース、システム、ネットワークのいずれも製品レベルで高度化したことで、メディアアートの活動は近年とても難しいものになったと思う。
余談だが、仮に作家たちがそうした状況を見越して、今回あえて「違和感を覚えさせないという違和感」を表現したのだとしたら、それはそれで高度なコンセプチュアル・アートだとは思う。ただそれは作品の完成度をよほど上げないと単なる概念レベルの遊びにとどまってしまうし、また仮にそうだとしたら「違和感を覚えさせないという違和感」という倒錯が批評に耐えうるものかは吟味が必要だろう。
さておき。そう考えると、今回私が感じた不足というのは、作品に起因する不足というより、メディアアートそのものの不足だったのかもしれない。すなわちメディアアートが置かれている現実の方が、メディアアートそのものよりも同時代的、また強烈な疑問符を常に突きつける存在であり、そしてそうした状況にメディアアートという技法や概念が追いついていない、ということである。
クロスボーダーとグレーゾーン
とはいえ、いきなり論を結んでしまうが、それでも私は彼らを支持したい。というのは繰り返しになるが、彼らはすでにそうした(メディア)アートの困難に対して「クロスボーダー」という一つのアプローチを模索しはじめているからだ。無論私が言うまでもない(からこそ情報学環が組織として存在する)のだが、境界を越えていくという動き方は、自らに貼られたラベルを剥がすためには有効な手段だ。
その上でもう一つ武器になるものがあるとしたら、それは「グレーゾーン」ではないかと思う。これは単にカテゴリーキラーというマイルドな意味だけでなく、それこそ赤瀬川原平が千円札を印刷して裁判で争ったように、いわゆる合法・不法・違法の境目を漂うような表現であってもいいのかもしれない。実際、コンプライアンスという名の責任転嫁に走る日本の社会に違和感を与えるには、グレーゾーンに踏み込まなければならない面もあると思う。
となると最後に問われるのは、作家たちがそこまで自らリスクを引き受けながらこの先の創作活動を続けられるか、ということになろうかと思う。その解はもちろん作家たちの中に秘められているものだが、ただその片鱗は作品に分泌されているのではないか、とツアーに参加した私は思った。もはや最終日を迎えているが、興味とお時間のある方は、ぜひ足を運ばれて、自らの目で確かめてはいかがだろうか。
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