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    ストレンジャー・ザン・iPhone

    2008-06-12 19:08:18

    プロフィール

    クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

    インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、同分野のさまざまなレイヤーでコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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    とある事情で、iPhone3Gの登場を確認する必要があり、徹夜してWWDCの中継を眺めていた。ジョブズ氏の講演を聞きながら(今回彼が話す機会はいつにもまして少なかったが)少し感じたことなど。

     

    とにかく安い

    仕事柄(あるいは投資家という側面もあり)、発熱や3Gユニットの小型化がどこまで進んだか、というセミコンに関する興味も多少あったのだが、$199/$299という価格設定にはとにかく驚かされた。こちらにも書いたが、

    ・世界中で同時に売り出せるスケールメリット
    ・世界中で同様のサービスを提供できるビジネスモデルの構築
    ・世界中で同質のモノや感動を提供できるブランド管理

    がガッチリかみ合った結果だろう。もちろん「金額の見え方」は工夫されているであろうとはいえ、これらの点において、日本(のみならず世界中の)キャリアと端末ベンダは、改めて考えるべきことが多いと思う。特にNTTドコモについては、

    タッチパネルで操作できる端末としては、PRADA Phone by LGなど同様の端末を当社でも提供している

    というコメントを出しているようだが、いくらなんでもこれはちょっと恥ずかしい。もちろん彼らが他の事情で「兄弟喧嘩」に没頭していたり、あるいはさらに別の事情で日本でのiPhoneの提供機会をまだ伺っていることは十分承知しているし、巷の「ドコモ叩き」に与するつもりはない(たとえば新潟県中越沖地震の際に、1日で復旧できたドコモと1週間近くを要した某社を比較すれば、彼らがいかに優秀かが分かる)。しかし本件に関し、こうした視点でしかコメントを発表できないなら、ノーコメントを貫いた方がまだマシだと思う。

    こうしたキャリアやベンダの課題をあぶりだすのに、iPhoneは格好の触媒となっている。その意味でiPhoneの存在意義はとても大きいと思う。

     

    ゲームばかりだった

    ただ、これを言うとまたあちこちで「分かってないなー、こいつは」といわれそうだが、目先の売上という意味では、少なくとも日本において爆発的なセールスを記録することはないと思う(ただ、この安さをして、そこそこ売れる可能性はある)。CNETのBlogを読んでいるような方なら並々ならぬ関心を示すだろうが、市場の構成員という意味ではその層は少数派と考えるのが自然だろう。

    良し悪しは別にして、ケータイにメールと通話以上の機能を求めるユーザはまだ少数だろうし、であるならば多数のユーザはそうした「それ以上の機能」のためにまったく新しい端末に買い換えたり、キャリアをスイッチしようというモチベーションはそれほど起きないはずだ。iPhoneがそうした新たなケータイ体験(というより情報体験)を掘り起こす可能性は否定しないが、それにしては世界各国を見渡してもそれほど売上が爆発的には伸びていない以上、日本だけ例外的にケタ違いの売上が立つとは考えにくい。

    また実際、iPhoneの真価はまだ誰も分からないというのが正直なところだろう。というのはWWDCの講演を見ていて、「やたらゲームの紹介が多いな」と思ったからだ。ゲームというのはイノベーションの肥沃な土壌であり、ここから何かが生み出される可能性は少なくないとは私も思う。しかしAppleのみならずiPhoneに何らか可能性を見出す人は誰しも、iPhoneを単なるゲーム端末だと認識はしていないだろう。つまりここはまだ空白なのである。

    しかし私はAppleの経営者でも株主でもないので、それでいいと思う。つまり、別にiPhoneは売れなくてもいいし、その位置づけも空白でもいいのだ。それこそアーリー・アダプターが身銭を切って新たな体験や価値を切り拓き、それを原資にさらなる一般化を図って次に控えるマジョリティに広めていけばいい。キャズムを超えるというのはつまりそういうことだし、逆に爆発的に売れるのだとしたら、それはiPhoneが従前の価値観に即したものに過ぎなかったということであって、むしろ新しい何かではないことの証左となる。

     

    MobileMeはApple税?

    WWDCのもう一つの目玉である"MobileMe"についても、あれこれ考えさせられた。ある程度Webサービスを日常の中に取り込んだ人ならば、自分のデータの大半はネットの上に存在していてほしい(そして統合されていて欲しい)と思うはずだ。"MobileMe"はそうしたユーザの気持ちを汲み取ったサービスだと思うし、そういうものは私も欲しいと思う。

    ただ、"MobileMe"の発表と同時に、ustreamのチャット画面に英語圏の方から「Apple税だね」というメッセージが書かれたのを見て、二つの面でこうしたサービスの難しさを感じた。一つは「Googleがそのうちタダで出すんじゃね?」という考え方がすぐに想起されるということ(これもチャットで日本の方が書かれていたはず)。この良し悪し自体は、ネット中立性の議論も含めて深遠なものだが、2008年夏時点ではこれが現実だろう。

    もう一つは「ここまで自分の情報を渡すとなると、これってキャリアの仕事では?」という意見がチラホラ周囲で聞こえてくること。この見方はキャリアを「悪の権化」と信じる人には逆に受け入れがたいものだろうが、一方でキャリアを「民間企業の中でも最も信頼できる存在」として見なす人も少なくない、というかおそらくは多数というのもまた現実(もちろんあくまで「見なされる」であって「善な存在」とは言っていない)。そしてこれは、日本のみならず米国でも実はそうだったりする。

    その意味で(いわゆるWeb3.0と言われる領域も含め)この分野はまだはじまったばかりでもあり、今後はまったく未知である。もしかするとAppleのような「オレ様商売」の事業者に自分の大切な情報は預けられないと思うかもしれない(実際Google Docsでさえもまだ全世界で100万人程度のユーザしか集められていない)し、反対にやっぱりキャリアは悪だったという評価になるかもしれない。唯一はっきりしているのは、GoogleもAppleもドコモも踏み出しつつあるこの分野が今後の大きな潮流だということ、そしてそれは技術水準のみならず社会における信頼性が評価の軸の一つを担うであろう、ということだ。

     

    iPhoneは世界を変えるのか

    ぐるっと回って、iPhoneは世界を変えるのか、という問いが残る。これはYesでもありNoでもある、というのが今のところの私の正直な気持ちだ。

    まず通信環境については、賛否両論いろいろあるが、LTEの実用化と普及にはもう少し時間がかかるはずだし、WiMAXは少なくともエンドの部分の通信メディアとしては最終的に失敗すると私は見ている(これはまた改めてエントリを物する)ので、3Gの寿命はまだそこそこあるだろう。日本以外の各国では大してインフラ投資されていない3Gだが、とはいえAppleとiPhoneエコノミーを潤う程度には整備されているし、それくらいがちょうどいいところかもしれない。

    次に技術水準という面では、計算機として考えると正直それほど「極めて高度」ということはないと思う。3Gのユニットはちょっと興味津々だが、ハードウェアの構成は基本的にアリモノの組み合わせだし、むしろハード単体のスペックだけを比べれば日本企業の製品の方が優れている場合もあるだろう。

    ただ、パッケージング(とその演出)はものすごくうまい。あちこちで言われるようなことだが、「人間は触って感動する」ということを知りぬいた人が作っていると思う。そしてこれは想像だが、おそらくこれは中国やベトナム等の低賃金の人たちを大胆に長時間扱き使うことで成立していると思う。これはケン奥山氏も指摘しているのだが、日本や先進国は労働賃金の高い短時間の作業しかできず、単純作業の組み合わせ・繰り返しで作られる中級くらいの工業製品の品質については、すでに低賃金の国々に負けつつある。こうした状況を、彼らはレバレッジとしてうまく利用しているように感じる。

    もう一つiPhoneが画期的なのは、携帯情報端末の力点をソフトウェアにシフトさせたことだと思う。これによりハードウェアの制約からイノベーションが開放され、新たな利用形態の可能性は広がったはずだ。もちろん「オレ様商法」ゆえ規格はオープンではないし、ハックせずに正当なプロセスを経る場合は「Apple税」を払わなければならない。しかしそれを割り引いても得られる可能性の方が大きいだろうとは思う(そしてその可能性の大きさを感じれば感じるほど狂信的なiPhone支持者になるように思う)。

     

    iPhoneが変える世界、変えない世界

    そんなわけで基本的には「高度な情報利用が作り出す世界」をさらに進化させる要素はいろいろ含んでいると思う。ただ一方で私は資本市場を眺めてあれこれ頭を悩ませる仕事もしており、その観点をどうしても排除できない。そしてその観点で言えば、「世界のすべてがiPhoneで変わる」といえるほど、甘いものではないとも思ってしまう。

    たとえば「グローバル・ソブリン」のような投資信託にちょっと関心を持ってみればすぐ分かることなのだが、すでにネットやケータイが行き渡った米国や日本の人たちにiPhoneを渡すより、電気すらもままならないバングラデシュの人たちにグラミンフォンを広めた方が成長余地は大きい。ということは経済成長という観点では後者の方がよほどイノベーティブであるし、それゆえに資本市場での評価も高いということになる。

    すなわち、iPhoneで生産性や娯楽消費が微増する米国や日本より、NOKIAのローエンド端末(のコピー製品)をばら撒くことで産業や市場全体の生産性が激増する発展途上国の方が、魅力ある投資先なのだ。そして因果なことに、iPhoneの登場に歓喜する米国や日本は、成長余地の小ささゆえ、iPhoneよりもNOKIAの普及を喜ぶ国々に投資しなければ生きていけない宿命を、すでに背負っているのである。

    もちろん、そんなことを考え始めたらキリがないので、どこかで割り切って楽しんだ方がいいとは思う。なのでiPhoneの日本参入は歓迎するし、その動向も興味深く見守りたい。iPhoneに合わせてキャリアを変更するつもりはないからしばらく先になるかもしれないが、いずれ私も手に入れるかもしれない。

    結局、こうした悩ましい状況を捨象してiPhone3Gの登場にひたすら狂喜できるほど、私はナイーブにはなれない、ということなのだろう。ただ、そんなことを気づかせてくれるiPhoneというのは、やはり改めておもしろいものだと思う。そしてひょっとすると、そういう「ユーザに何かを考えさせるもの」を作り出せない・送り出せないのが、日本のものづくりやサービス産業が抱える悩みの本質なのかもしれない。

    ※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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