先週末に開催された知的財産権研究会100回記念シンポジウムにお邪魔してきた。その前の週に開催された著作権法学会周辺から「中山先生がフェアユースに前向きらしい」という話が伝え聞こえていたので、直接お話をうかがえる好機と思っていたのだが、結論としてはこちらの予想を大きく超える急進的な内容だった。
「著作権法に未来はあるのか」と題されたシンポジウムの議論の詳細は、有料イベントでもあったし、また主催者からいずれログが出ると思うので、割愛する。ただ冒頭の挨拶の時点で「著作権法は曲がり角にあり、舵取りを間違えると未来はない」と明確に宣言されたところからも、中山先生の本気度がうかがえる。もちろんその勢いはシンポジウム全体を通じて衰えることはなく、
と続けられた。またそもそもの著作権法の成立の背景にも触れながら、
と言わば「現行法をタコ殴り」の状態であった。さらに返す刀で海外の動向もざっくり斬りつけ、たとえばベルヌ条約については
とその不条理・不合理を指摘し、また著作権の保護期間延長についても、
と一刀両断だった。結果として聴衆の多くは、痛快感というよりむしろ鬼気迫るものを感じ取ったはずだし、と同時に制度設計を手伝う端くれとして私は、中山先生にここまで語らせなければならない不甲斐なさを恥じる思いでもあった。
うっかり全文を書きそうな勢いなので、当初私が聞こうと思っていたフェアユースの話題に絞る。まず当日は、登壇された石原弁護士(MPA/MPAAの日本支社の顧問等を歴任)から、日本の著作権法とフェアユースの関係について、まず日本の著作権法にはフェアユース規定がないという前提から、
という指摘があった。これを受けて同じく登壇された小倉弁護士(ファイルローグ事件やまねきTV事件の弁護を担当)からは、主に憲法解釈の観点から、
と、フェアユースの導入が現実としては必ずしも難しいものではないとの見方が示された。これに対し、中山先生からは
という産業振興の観点からの推進論が展開され、あわせて2009年度中に著作権分科会周辺での議論が行われるであろうとの見通しが示された。また同時に、著作者人格権の行き過ぎた認可や行使についても警鐘を鳴らし、フェアユースの実現に際しては著作者人格権もある程度制限される(=柔軟に運用される)ものであるべきで、そうでなければパロディ等の表現が死滅してしまうことの危惧も表明された(ちなみに先に話題となった「おふくろさん」問題については、森進一を擁護する意見を述べられていた)。
昨年刊行された中山先生の「著作権法」には、フェアユースよりも制限列挙のメンテナンスによる立法的解決の方が我が国においては妥当、という導入に消極的な意見が記されており、正直私も「中山先生をしてもやはり無理なのか」と思っていた。それが今回のシンポジウムできわめて明快にフェアユースの必要性と推進の決意を表明され、正直私も驚いたというのが率直な感想である。
ただ、中山先生が著書の中で慎重姿勢だった理由もある程度は理解できる。というのも前述で指摘されるように、フェアユース規定の導入は容易ではないからだ。ひとつは、フェアユースの導入が進んでいる米英とは法律の考え方が根底から異なること、またそれに半ば呼応する形で、特にコンテンツ産業の形態(や体力)が英米と日本では異なる面があり、単にフェアユースの概念を導入するだけでは現実的な浸透につながらない可能性があること、がその理由である。
また以前のエントリでも述べたが、これまでの文化庁の姿勢(フェアユースを「なじまない」の一言で排除)やその背景となる日本の著作権法の考え方(特に制限列挙や物件的構成という前提)からすると、いくら中山先生とはいえ、単身でフェアユースを主張するだけでは、ひょっとすると届かないかもしれない…と僭越なことも考えてしまう。ことほどさように壁は厚く、ゆえに相応の戦術を以て対応する必要がある。
その意味で一点気になったのは、中山先生が「ベンチャー育成」を強調されていること。確かにその言葉を表面でなぞれば概ね同意、という話なのだが、「ベンチャーだからリスクが取りやすい」と言い切れるほど、リスクを取ろうとするベンチャーを受け止める準備が、日本の産業や資本市場はできていない(だから既存産業への取り込みか排除、また安易なEXIT=IPOに走らせるとも言える)。
また仮にそうした明確な意志や体制があったとして、本当にベンチャーはコンテンツ流通に挑んでいけるのか。たとえば日本の代表的なコンテンツホルダーの一つであるテレビ局について、その権利処理のいい加減さはすでによく知られており、実はこれはベンチャー云々ではなくテレビ局側の(さらにいえば全国ネットという産業構造の)問題でもある。これをベンチャーとフェアユースの組み合わせだけで突き崩そうとするのは、さすがに酷な話だと思う。
もちろん中山先生は、そのあたりは概ね承知の上で、あえて問題提起するための方便として「ベンチャー」という言葉を引っ張り出しているのかもしれない。ならばなおのこと、その意を汲んだ上で、より実効性のある戦術を考えなければならない。それは中山先生から内角直球高めの剛速球を投げつけられてしまった私たちの仕事でもある。
最後にちょっとだけうれしかったこと。今回の中山先生の発言の中で、情報大航海プロジェクトに関する言及が二度三度とあった。というのは、以前のエントリでも若干触れたが、私自身が同プロジェクトに制度設計の分野から関わる立場として、検索エンジンの国内合法化に向けた取り組みをお手伝いしてきたからだ。
この点、実はあまり知られていないことかもしれないので、改めて簡単にまとめると、
といった課題があり、現在の国内法を遵守する限り、日本国内に検索エンジンのサーバを置いて事業を行うことは不可能となる。しかし現実問題として日本語の検索エンジンサービスは展開されており、つまり建前上は産業の空洞化と外国資本による乗っ取りが生じていることになる。
こうした動きに対し、中国はもとより国産エンジンの開発に熱心だが、韓国も著作権法を改正して国産の検索サービスを推進してきた。その結果、日本以外の漢字圏ではそれぞれ自国籍の検索エンジンがデファクトの地位を占めるに至っている。私自身は「何が何でも国産主義」というわけではないが、オルタネイティブすらないのはやはり問題であり、この点において日本は立ち後れていると言わざるを得ない。
ちょっと複雑な物言いになるが、とはいえ情報大航海プロジェクト自体は、一部で揶揄されるような「和製Google、日の丸検索エンジン」の構築を目指しているのではない。あくまで検索は要素技術の一つとして位置づけ、むしろその周辺に存在する(あるいはこれから登場する)レコメンデーションや画像解析等のサービス実現に向けた技術開発の支援、制度改正、また知財戦略を推進するものである。
この中の制度改正に向けた検討を昨年度はお手伝いし、著作権法をはじめ、個人情報保護法や不正競争防止法を検討の俎上にのせた。そうした取り組みが一助となったのであろう、今月16日に開催される予定の知的財産戦略本部の本部会合で、検索エンジンの合法化に向けた制度改正が正式に決定するようだ。
取り組みについて、中山先生から評価いただけたというのは、末席でお茶を濁していただけの立場としても、率直にうれしかった。というわけで、勝手にボールを受け取ったつもりになって、今年度も引き続き検討を続けたいと思う。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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