最終更新時刻:2008年7月7日(月) 8時00分

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グレーゾーンの巣の上で

公開日時:
2008/05/17 23:38
著者:
クロサカタツヤ

昨今の鯨肉を巡る一連の騒動を眺めていて、ひょっとするとこれは日本のイノベーション不足を解決するためのヒントの一つになるかもしれない、と気づいたことがある。まだ私自身も考え中なところがあるが、ひとまずメモしておく。

グリーンピース・ジャパンの愚行

私がひっかかったのは、グリーンピース・ジャパンが違法に鯨肉を盗んで告発した、というところだ。日本の大手新聞社のリンクはすぐ切れてしまうので、事実関係はこちらから(なんでこんなに回りくどいことが必要なのだろう…という話はまた改めて)。

Greenpeace faces complaint over alleged whale meat theft (The Japan Times)
Major trucking firm Seino Transportation Co. filed a theft complaint with police Friday against Greenpeace Japan, a day after the conservation group lodged a criminal complaint against 12 crew members of a Japanese whaling ship, alleging they stole whale meat from their contentious catch for the black market.

確認程度にざっくり訳すと、調査捕鯨の船員が「お土産」で持ち帰った鯨肉がウラ市場に流通しているとして告発したグリーンピース・ジャパンが、その証拠集めに西濃運輸の荷降ろし所に入り込んで鯨肉の入った荷物を窃盗していたので、今度は告発される側になった、ということである。

念のため明確にしておくが、私はグリーンピース・ジャパンを擁護するつもりは毛頭ない。鯨を食べたいと思う人間ではないので、捕鯨の是非は態度を保留するが、ひとまずそれ以前の問題として、彼らは単にバカなことをしたバカな連中であり、バカと糾弾されるのが社会の掟だと思う。そして刑事訴訟法を引くまでもなく、おそらく彼らの告発は成立しない。

しかし一方で、彼らのバカな行為がなければ、鯨肉がウラ市場で流通しているという問題は発覚しなかったろう。そして私は、それこそが彼らの狙いだろうとも思っている。すなわち法律に則って問題を提起するという正統的アプローチではなく、事実の暴露によって問題を強制的に停止させるゲリラ的アプローチである。そしてもし今回の一件によって、ウラ市場の流通が減少すれば、彼らとしては「目的達成」となるはずだ。

政府も時として同じ穴のムジナとなる?

それが法を犯す行為だとしても、目的のためには手段を選ばない。こうした考え方は自己中心的なものだし、普通に考えれば排除されうるものである。しかし現実はそれほど美しくもないし、だからこそ我々も常にカマトトぶっているわけにはいかない。というのも、遵法精神が最も求められる政府でさえも、実はこうしたゲリラ的アプローチをしばしば用いることがあるからだ。

たとえば少し前に中国の胡錦涛国家主席が来日した日のこと。ちょうど一行が宿舎のホテル・ニューオータニに到着する頃、私はその近くをクルマで移動していたのだが、すぐそばを通りかかった時、前を走っていた右翼団体の街宣車が警察に制止され、方向転換を強いられた。特に違法改造を施しているわけでも、また音を出していたわけでもなかったのに、である。

もちろん道路交通法には警察官の指示に従うべしという規定がある。しかし私を含むその他大勢は普通に通行できたのに、その街宣車だけが明確な理由もなく排除されるというのは明らかにおかしく、憲法が定める移動の自由や思想・良心の自由を侵害している疑いがある。もし右翼団体が裁判で争えば、場合によっては警察が負けるかもしれない。しかし右翼団体はおそらく裁判を起こさないだろうし、起こしたところで方向転換したという事実が覆るわけでもない。なぜならその瞬間はもう過ぎ去ってしまったからだ。

これこそがゲリラ的アプローチだと私は思う。すなわちその手段に違法性があろうとも、とにかくその瞬間において目的を達すればよいということだ。事実、右翼団体は排除され、周囲の平穏は保たれた。おそらくこれに類する動きは、あちこちで(それこそ長野の聖火リレーでも)展開されただろう。であるならば、法的な正当性を欠く手段の行使という一点において、日本政府はグリーンピース・ジャパンと大差ないことになる。

バカがバカでなくなる時

現政権の中国に対する意識やその善し悪しについては、それだけで深遠な議論を招くので、ここでは割愛する。ただ一般に、ある国の政府が外国政府に対する態度を変えるというのはそれ自体が相当に大きな決断だし、まして今の日本国民は中国に対して必ずしも好感ばかりを抱ける状況にはない。こうした中で現政権は、場合によっては法を超えた強制力を行使するような、なりふり構わないやり方が必要だ、と考えているように思う。

しかし私は、これこそが現実なのだと思う。すなわち、何かを大きく変えていくときは、法律に挑戦するような乱暴さが、時には必要なのかもしれない、ということである。繰り返すが、もちろんそれは「バカなこと」であり、糾弾されて然るべきことである(まして国家権力を握る側はなおさら慎重であるべきだ)。ただもしその乱暴な手段によって得られた結果が社会全体で享受できる価値のあるものとなれば、バカは時としてバカではなくなる。

このあたりでそろそろお気づきかもしれないが、いわゆるイノベーションにはこうした考え方が必要なのではないだろうか。逆に言えば、現状の法制度や業界の従前の秩序に黙々と従っているようでは、イノベーションという名に相応しい革新的な動きなんぞ、いつまで経っても登場しないのではないか、ということである。少なくともそれくらいの蛮勇を気取る覚悟は必須だと思う。

グレーゾーンを作るということ

もちろん違法行為を是認しているわけではない。そうだとすると、エンロンもミートホープも、あるいはドラッグに手を染めるアーティストも、すべてOKということになってしまうが、そんなわけはない。ただ物事には常に「グレーゾーン」が存在しており、それが新しい何かを生み出すインキュベーターの役割を果たしているのだとしたら、「真っ白」であることがいついかなる時も絶対的に正しい道だとは、やはり言い切れない。

特に産業に係る法制度は大抵の場合、世の中の動きのまとめとして一番最後に作られるものである。逆に、産業の動きを先取りするような法制度は、大抵は「規制」として産業振興を阻害していることが少なくない(もちろん公害防止のように規制を目的としたものもあってしかるべきだが)。また権利処理についても同様の面があろう。いずれにせよ、既存の法制度が想定する世界観や技術は、少なからず時代遅れである可能性がある。

だとしたら、まずもって産業振興として行うべきことは、このグレーゾーンを明確に作ること、そしてそこに出入りする際のルールを定めることではないだろうか。またそれは独自に作るのではなく、政府のような社会の番人たる存在が定めることに意味があるように思う。それこそ「○○特区」というのは本来そういう存在であるべきだろう。

そんな「自由な実験室」を、今年度も参加することになった情報大航海プロジェクトで作っていければいいのかな…と考えている。が、それをどう作ればいいのかは、まだ手探りというのが正直なところだ。これもいずれ目途がついたところでまとめていきたいが、「こんなのどう?」「こんなことに気をつけないと危ないよ」というご意見があればぜひ教えていただきたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

4

ありがとうございます。全体への反論というよりは、鯨肉の箇所に関することだと思います。

この部分についてはリンク先にある通り、私自身は詳しい知識は持ち合わせていないので、ご指摘が妥当かどうかも分からないのですが、私自身は「問題があること自体の認知が今回の騒動で上がった」という論旨で書いたつもりで、その認識自体は妥当だと思っています。

いずれにせよ、こうしたご指摘があることで問題の理解が深まると思いますので、今後ともよろしくお願いします。

  クロサカタツヤ on 2008/05/19

3

巡回サイトにて反論が掲載されてました。
以下ご参照くださいませ。
http://www.mypress.jp/v2_writers/beep/story/?story_id=1736519

  Tcan on 2008/05/19

2

確かにそこは悩みどころです…>ゾーンを明確に作っちゃったらグレーじゃないじゃん。

ムラムラ路線を少し考えてみようと思います。ありがとうございます。

  クロサカタツヤ on 2008/05/19

1

ゾーンを明確に作っちゃったらグレーじゃないじゃん。

グレーゾーンへ踏み込むには蛮勇か欲かのどちらかが必要なので「スーパーリスキーな投資だけど事前に申告してあったらそこからの収益は税金タダ」とか、ムラムラしちゃうフレームがいいんじゃないかと思います。

  つよし on 2008/05/19

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