先週、数日だが入院していた。左腕周辺の不具合に関する処置でキーボードが叩きづらかったこともあり、数日くらいはネットから離れようと思ってPCを持ち込まず、読書とテレビで過ごしていた。その時にふと気づいたことを少々。
そもそも普段テレビをあまり観ないし、必要な番組はハードディスクレコーダに録り貯めてスキップしながら観る習慣が身に付いているので、ベッドの上でぼんやりテレビを観るということ自体が久しぶりのことだったのだが、そうしてテレビを眺めてみると、このところのテレビ朝日は「相棒祭り」の真っ最中であることに気がついた。
編成の都合上、関東の方でないと分かりにくいかもしれないが、いまテレビ朝日の番組でこの映画に触れないのは、「ドラえもん」と「暴れん坊将軍」の再放送くらいではないか、というくらいである。特に封切りが明日らしいので、今日あたりはピークを迎えているのではないだろうか。同ドラマも水谷豊は嫌いではないが、さすがにいささか食傷気味の感がある。
そういえば少し前のTBSでも「赤坂サカス祭り」だったような気がする。何せライブではテレビをあまり観ないので詳細は分からないが、それでもふと画面に映った朝の天気予報や情報番組などでやたらと「サカス、サカス」と騒いでいたような記憶が残っている。おそらくTBSでも「渡る世間は鬼ばかり」の再放送以外はすべてサカス漬けだったのではないか。
よくテレビを観ている人にとっては鬱陶しいことこの上ないのではないかと思う。ただ私のように「ライブではせいぜい天気予報」という人間にも認知してもらうためには、とにかく全方位で24時間出突っ張りの状況を作らないとリーチできないのかもしれない。そう考えるとテレビ局の手法というのはあながち間違ってはいないのだろう。
ただそうなると次に想起されるのが、そもそも「ある映画、ある商業施設」のためにここまでテレビを宣伝媒体化していいのか、という疑問である。テレビは公共性を有するというのが、マスメディアとして認知される理由や、電波という公共の資産を利用する正当性の根拠となるはずだ。いくらそれが建前だとしても、ここまで堂々と自社都合で使っていいのだろうか。
そんなことを考えながら、そういえば赤坂サカスのデベって誰だっけ?と思い、Wikipediaで調べてみたら、
これで、お台場のフジテレビ、汐留の日テレ、六本木のテレビ朝日(六本木ヒルズ)に続き、赤坂サカスが完成することで、在京民放キー局はテレビ東京を除きいずれも社屋移転時に放送局を中心とした「街」を作り、またそのいずれもが東京の新名所となっている。
といううってつけの記述があった。そう、「相棒」にせよ「赤坂サカス」にせよ、これがいまの民放キー局のビジネスモデルなのである。
近年の民放キー局は、局ごとに比率の差はあれど、放送事業以外の売上が大きくなってきている。たとえばフジテレビの平成18年3月期の決算短信(連結)をひくと、売上ベースで放送事業が70%弱、非放送事業(放送関連、通信販売、映像音楽、その他)が30%強という状況だ。売上30%といえば、社内である程度の発言力があるボリュームといえるだろう。そしてそのフジテレビこそが、こうした流れを作った先駆者である。
たとえば「映画」について、もともとテレビ局はサイドビジネス的に映画製作を行っており、彼らも以前から「南極物語」や「ビルマの竪琴」などの大作に従来型の出資ベースのスキームで関与していた。しかし「私をスキーに連れてって」でフジテレビ・アソシエイツという形で積極的に関与するあたりから製作そのものに関与するようになり、「踊る大捜査線シリーズ」をもって全面的にコミットしたというところだろう。
また「地域開発」については、よく知られている通り「お台場」をアイコンにしてフジテレビ本社およびその周辺に娯楽施設を配置し、それ自体をエンターテインメントスペースやイベントスペースとして運用する、という手法で、いまやフジテレビ周辺を目的地に遊びに来る人も少なくない。自宅が比較的近所なのでたまにクルマなどで通りがかるが、もはや東京の観光名所の風格さえ漂っている。
これらフジテレビの非放送事業に概ね共通しているのは、
・両事業が視聴者の時間を奪い合うことを否定しない
・放送以外のビジネスモデル(=カネの取り方)を持つ
・一方で放送事業とは密接なシナジーを持つ
ということで、要は非放送事業のために放送事業を活用する、という位置づけを是認したということになる。ある意味でルビコン川を渡るような決断だったと思うが、フジテレビは20年近くを費やして両者が毀損しないよう丹念にこのビジネスモデルを開発してきた。そしてひとまずそれに成功し、いまは収穫期に入っているのだと思う。一方、他の民放キー局はフォロワーに過ぎない状況で、前述の「相棒」も「赤坂サカス」も、ようやくフジテレビの仕事のレベルにたどりついた、という言い方もできる。
こうした動きについて、いくつかの理由から総合的には前向きなものと私は認識している。
一つは、放送事業以外のビジネスモデルを持つことで、既存の広告産業の枠組みから脱却することができるということ。「おれの仕事は代理店が手配したコースで広告主とゴルフすることだけだ」と豪語する営業スタッフが存在することからも分かるように、善し悪しは別にしてテレビ局の営業機能は大手広告代理店に強く依存している。これは企業としてあまりに不健全なものである。
また、テレビコンテンツの権利処理の混乱(とそれによる二次利用の困難)についてはすでによく知られた話だが、映画の手法(現在の映画はその多くが「製作委員会方式」で製作され、受け皿となるコンソーシアムによる権利の一括処理が可能となっている)のノウハウを導入することで、権利処理の円滑化やそれに向けた企業体質の改善が期待される。コンテンツの資産計上が会計上求められつつある昨今、これは経営の観点からも重要である。
さらに、非放送事業の声が大きくなるということは、結果としてネットの活用が高まるということにつながる可能性がある。いわゆる「通信・放送融合」への期待とは反対に、テレビ局自身は相変わらず警戒感を崩さず、両者を対立構造で問題を捉えているふしがある。しかし非放送事業という相対化の手段を持つことで、「いやだってトータルで儲かればいいでしょ」という認識が広がれば、両者の壁は自ずと溶解するように思う。
とはいえ前途洋々というわけでもなく、むしろ課題は山積している。とにかくまだまだ放送事業の軛から脱していないのが現状で、そのわりに非放送事業が放送領域に「侵食」してきているので、よほど注意深くバランスを取らないと、今回の「相棒祭り」や「サカス祭り」のように視聴者から「テレビって鬱陶しい」と思われかねない。実際、番組の質は低下しているように思うし、コスト削減も露わになってきているように思う。また「あるある大辞典」の記憶も新しいように、事故もあちこち起こっている。
またそれは中長期的にテレビの価値や信頼を低下させるボディ・ブローのように効いてくると思う。実際私がライブで観たいのは天気予報くらいで、あとは必要な番組のみ録画している。ニュースにしても、そのほとんどがエンタメ化しているし、記事をピックアップする中立性等も考えると、もはや日本のローカルニュースでさえもBBCのサイトをtwitter経由で観た方がいいとさえ思っている。
さらに前述のような非放送事業の開発が、現状そして今後の構造変化を織り込んでいるのか、という点もやや疑わしい。考えるべき変数が多くて将来像が見えにくいのだが、たとえば地デジについてもこの夏から秋にかけて多くの問題が表面化しそうな気配だし、IP再送信についてもNTT-NGN陣営の腰が引けているのが気になっている。特に前者は各社の資本構造(そして放送ネットワークという流通構造、さらにはその背後にある政治構造)に直結する問題であり、かなり大きな爆弾である。あるいはこの爆弾の炸裂を待っているのかもしれない、というのはうがった見方に過ぎるだろうか。
とはいえ、じゃあテレビがなくなるのかといえば、そんなことはないと思う。Blogosphere界隈では「ネットの普及でテレビなんてもうすぐなくなる」という論調が活発だが、実際のところ日本はインターネット利用がまだ普及しきっていないし、またいくらネットが広く浸透しようとも、それがテレビの存在意義をすべて否定することにはならないだろう。私にしても、視聴時間はかなり減っているが、ゼロにはなっていない。
結論としてはこれもまた「過渡期的問題」なのかもしれない。特に2011年というタイミングを控えて、今年はかなりあれこれ動きが水面下ではじまっているので、もう少しここは丁寧に追いかけてもいいところではある。ただ過渡期なら進展を待てばいいかというと、私が把握している限り、決着がついたと思っていたことが実はついていなかったり、当事者同士が「にらみ合っている」状況で、実は混迷を深めているような気配を感じている。
というわけで、何かお手伝いした方がいいのかもしれない、と思い始めているが、産業構造そのものにタッチするのは行政などのレバレッジが必要なところ(とはいえ情報大航海プロジェクトに関わっている手前、無関係ではいられないのだが)。どちらかというと、産業構造が変わらざるを得なくなるような周辺の動きをドライブしていく方向で、いくつか考えていることはある…というあたりで気がつけば全然「気づいたことを少々」ではなくなったので、やや強引に結んでおく。
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