最終更新時刻:2008年7月25日(金) 14時16分

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チベットの雨傘

公開日時:
2008/04/20 11:11
著者:
クロサカタツヤ

まず最初に「なんで情報通信インサイトでチベットなの?」という問いに予め答えておくと、これはインターネット・ガバナンスと関係する話だと思っている。実はこのあたり、週末に多摩大学の公文先生・会津先生、それから某キャリアの方々の合宿に参加する機会を得て、あれこれお話ししてきたのだが、まだうまく消化できていない部分もあるので、この話はまた近々に改めて。

暴力温泉芸者としてのチベット

チベット問題については私も気になっているのだが、日本の報道を見ると、どうも「チベットは非暴力でがんばっている人たち」という認識が形成されがちだと思う。しかし今回の「蜂起」では、引き金をどちらが最初に引いたかはさておき、間違いなくチベット民衆側も積極的に暴力に訴え出ているし、それを亡命政府の中の人も間接的に黙認・支援しているはずだ。死者数の速報値が亡命政府から迅速に発表されるあたりからも察することができる。

これに限らず、チベット亡命政府の戦略や組織力、つまり「戦闘力」は、総じて高いと私は考えている。実際、ダライ・ラマを日本に呼ぼうとした人から聞いたことがあるのだが、相当なカネを払わないと「呼べない、会えない、話せない」という状況である。少なくとも金額だけで考えれば、電通が仕切ってもおかしくないくらいのイベント規模となる(ゆえに彼の来訪は必ず政治的な思惑を伴う)。

でもそれはある意味で当たり前だ。なにしろ彼らは戦っていて、これからも戦い続けなければいけないのであり、世界中で戦う人たちに軍資金を渡さなければいけない。まして戦っている相手の大きさを考えれば、いつまで戦いが続くかも分からないが、火を絶やしてしまえば彼らのアイデンティティは崩壊しかねない。また亡命政府である以上、「大家さん」に家賃を納めなければいけない、という立場でもある。というわけで、お金はいくらあっても足りないはずだ。

中国の「近代化」

一方の中国政府の対応を見ていると、どうも彼らが「ダライ・ラマ一派とアル・カイーダやチェチェンって同じでしょ?なんでブッシュやプーチンはOKなのにうちの胡錦涛だけ叩かれるの?」と本気で思っているのではないかと思う。実際、プーチンがチェチェン周辺で行った数々の荒技は、見方によっては今回の紛争の比ではないほど乱暴な背景を持っているし、彼らのそういう認識は論理的にはある程度正しい。

ただ、いまの中国には、いくら論理的に正しいことでも聞き入れてもらえない、という土壌がある。その一因は中国政府および中国人民のお行儀の悪さにあって、その結果が「近代化(civilization)が足りない」という表現となる。ちょうど先月、欧州の政府関係者と密に討議する機会が相次いだのだが、彼らは異口同音に「米国が崩壊しつつある中、世界秩序の再構築にあたってEUとパートナーを組めるのは、civilizationの観点から言っても日本だと思っている」と表明していた。

ちょっと聞くと日本人としては嬉しくなる話だが、その言葉の額面だけでは、結局のところサイードのいう「オリエンタリズム」に過ぎないだろう。ここは切込隊長のエントリにもあるように(最近フォローしがちだが別にストーカーというわけではない)、中国が欧州の近代化とは異なる発展プロセスを経ている以上、単純に同列に比較すべきでない。冒頭に触れた合宿で公文先生は中国を「国家形成、産業化、情報化が同時多発的に進展している」と表現されていたが、おそらくそういうことなのだと私も思う。

余談だが、ダライ・ラマが素晴らしい戦術家だと私が思うのは、そういう欧米の「オリエンタリズム思想」をものの見事に利用していることにある。一昔前の日本にはよく「日本はスシやゲイシャだけではない!」といきり立つ人がいたが、寿司や芸者でも認知してもらえれば御の字で、それを利用して認知拡大すればいいじゃないか、という合理主義である。こういう考え方には見習うところがとても多い。

さらに脱線すると、今回のチベット問題に関してそうしたオリエンタリズム批判がなかなか聞こえてこないのはなぜだろう…と思っていたのだが、考えてみればすでにサイードもソンタグも鬼籍に入っていたのだった。今こそ彼らの声が必要だと思うのだが、さびしい限りだ。ネグリあたりがそれを継ぐのかもしれないが、「市場」を触っている立場としては、彼は彼ですでにちょっと古いと思う。彼の言う<帝国>の考え方自体は正しいと思うが、もはや世界は資源・食糧という「絶対的な制約」の中で新しい中心を模索しはじめている段階だと私は認識している。

世界と中国

閑話休題。ここでまず注目すべきは、欧州各国が「そんなことは百も承知」な上で、あえていま中国を叩いていることにあると思う。

私はその理由の一つとして、中国と関係のある自国産業へのアラートだと考えている。おそらくこれは「オリンピックが終わったところでバブルが崩壊するから必要に応じ避難せよ」というファイナル・コールなのだろう。実際、政府のメッセージであれば、中国市場に対してどう評価・行動しようとも、株主に対する説得材料にはなる。

もう一つは、資源争奪という視点からこの問題を考える必要もあろう。特に今回、欧州が先導して中国政府を叩いているように見えるもう一つの理由として、ダルフール紛争に中国がスーダンの石油権益確保という形で介入していることが背景にあると思う。すなわち、国際的な資源争奪が激化する中で、ダルフール(というよりアフリカ)というヨーロッパの富を支える植民地(ショバ)に手を突っ込んだことへの嫌悪感の発露である。

一方、米国からのメッセージは、いま一つ強くないように思う。もともと米国民レベルでは国際問題にあまり関心がないという背景もあるが、そもそも市場や景気動向が「それどころではない」事態に追い込まれていること、また中東がチベットどころではない戦争目前まで混迷していること、そこに現政権のレーム・ダック化と大統領選の盛り上がりが大きいことなども影響していると思う。

それでも民主党にはペロシ下院議長がダライ・ラマと会ったり、ヒラリーが開会式ボイコットを宣言したり、と動きはある。対する共和党はブッシュ大統領が「政治とオリンピックを結びつけるべきでない」と話すなど、ボチボチというところだろうか。

ちなみにこれは、米国政治経済に触れてきた人には、なかなかおもしろい展開に見えていると思う。というのは従来、民主党が中国寄り(クリントン元大統領は日本上空を通過して中国へ行った)、共和党は軍部と連携して中国警戒論者、という構図だったのが、これが入れ替わっているのである。このあたり、市場に参加している人でないと通じないところもあるので皆までは申さないが、おそらくは「覇権の禅譲」と結びつけて考えるべきところだろう。

日本と中国

さて我らが日本。ひとまず福田首相がゴニョゴニョと言い始めているが、彼が本件に関して聞き取りづらく話しているのはわざとだろう、という気がする。というのは彼自身が小泉政権の「アメリカだいすき!」に匹敵するぐらい「中国だいすき!」を表面しているからである。実際このままでは、餃子問題もウヤムヤにされて終わる可能性が高い。明らかに食品テロなのに、主権国家として何も出来ないというのは、さすがに困ったものだ。

また、mixiあたりに生息するウヨな人たちの遠吠えに関わらず、悲しいかな今日の日本経済はもはや中国経済とは一蓮托生であり、諦めているのかもしれない。本来ならば今回の事態をリスクとしてきちんと認識し、長期的に中国に依存することが正しいのか、正しいとしてリスクをヘッジしていくためにはどのような対策を講じていけばいいのか、ということを議論すべきなのだが、どうにも思考停止しているような印象である。

その意味で、中国とも(そしてロシアとも)、批判一辺倒ではなく何らかバランスを取ろうとしているサルコジ政権下のフランスの動き方は気になっている。実際、日産がチベット紛争後にリチャード・ギアの起用を直前でキャンセルしたという話が出ているが、日産の親会社がルノーであり、ルノーはかつて「ルノー公団」だったことを考えると、フランス政府としての一つのメッセージだと考えるべきであろう。

インターネットの行方

というわけで私はこの問題を注意深く眺めているのだが、それは資本市場の動向という観点からだけではない。冒頭に述べたように、これはインターネット・ガバナンスの話と関係していると思っている。さらに言ってしまえば、この問題の解き方をうまく参照できなければ、「インターネットの終わりのはじまり」の引き金を引いてしまうことにもなりかねない、と思っている。

このあたり、書き始めると壮大な話になってしまうが、少なくとも私の中では

・IPv4アドレス枯渇
・中国のIPv4アドレス割り当て個数の急激な増加
・IPアドレスとルーティングを巡る国際紛争の可能性
・IPv6移行の困難

というあたりがそれぞれリンクしている。このあたりは日本の総務省もIPv6移行に関連して積極姿勢を見せ始めているところだが、私はそれに対しても技術と事業の両面から懸念するところがあり、そのあたりから近々に改めてエントリを物したい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

9

「実際、ダライ・ラマを日本に呼ぼうとした人から聞いたことがあるのだが、相当なカネを払わないと「呼べない、会えない、話せない」という状況である。」とおっしゃっています。

 私はダライ・ラマ法王を招聘する事業をやったことがあるものとして言いますが、これは事実に反しています。まず日本に呼ぶためには、飛行機代とホテル代くらいしか要りません。ギャラはもちろん一切受け取られませんので、呼ぶための費用は外国のタレントよりはるかに安いです。

 それからダライ・ラマに会うのは誰でも「ちゃんとした理由があれば」会えますし、話もできます。私も何回も会いましたし何時間も話をしたことがあります。

 ただ亡命しているとはいえ一国の元首ですので、周りのセキュリティが厳しいのと用事がないのに会うのが難しいだけです。それから会いたい人が山のように押し寄せるので、大した用事でない人は秘書が選別して断られる場合が多いのも確かです。この辺りのガードはたとえば日本の総理大臣よりもはるかに低いです。

 それから電通という話がありますが、電通や博報堂は中国との取引があるので、基本的にはダライ・ラマに関係していることは全部断ります。私も宣伝をこの二つの会社に頼もうとしましたが断られました。

 あなたの知り合いが何故断られたのか知りませんが、まず正式にダライ・ラマ法王日本代表部事務所に書面で会いたい理由をきちんと述べてお願いしましたか?呼ぶためには数年前から、そして会うためには数ヶ月前からお願いしないとスケジュールもすべて埋まっていますので、そういう段取りが必要です。あなたのおっしゃるような御金は全く要りません。インドのダラムサラに行けば誰でもダライ・ラマに会える日というのが毎月何日かありますし、その時に行けば握手もできますし、話もできます。御金も何も要りません。

 我々が招聘した時にも来日した後になって100万円寄付したいので是非個人的に会わせて欲しいという人がいました。ですが理由はそれだけでしたので、スケジュールもすべて詰まっていて、特にその人も寄付したいというだけの用事しかなかったようでしたのでダライ・ラマ法王の秘書の方と一緒にお断りすることにしました。その時は「寄付したいから会いたい」というのはあまりにも失礼ではないでしょうか、秘書の方が言っていました。

 それから米国政治経済とチベット問題について書かれていますが、クリントン政権にしてもブッシュ政権にしてもアメリカは基本的にチベット支援の姿勢を取っています。これはいまにはじまった話ではなく、1959年のダライ・ラマのインド亡命以前からずっと継続的な政策です。そもそも1959年にダライ・ラマがインドに亡命できたのは、その前にダライ・ラマの兄がアメリカに亡命して、アメリカは彼を通じてダライ・ラマを亡命するように説得させたからです。ですので冷戦時代よりアメリカがチベット支援側にたっているのは変わっていませんし、今回の大統領選挙とは無関係です。

 そもそもいま亡命政府が使っている最も主要なメディアはどこか知っていますか?それはVoice of America, Radio Free Asiaというアメリカの政府がやっている放送局です。これは第二次大戦中に日本に「玉砕はしなさんな。みなさん国民は騙されています」と放送していた放送局です。米国政治経済に私は詳しくはありませんが、米国のチベット問題に対する姿勢は歴史的にみれば一環しており、特に変わった点はありません。このことは米国議会の議事録を参照してくだされば、容易に分かるはずです。昨年の議会ゴールデン・メダルの授与の過程、それからチベット問題に対する公聴会などの記録がありますので、それを参照すれば、特に今回米国に変わった動きがあるとも思えません。ブッシュは親子でダライ・ラマのファンですし、クリントンも特にヒラリー氏はダライ・ラマのファンです。彼女の自伝本を読めば明かでしょう。

 いずれにしてもダライ・ラマの招聘に関して、それからチベット問題に対する米国の政策について貴殿の記事は根拠がありませんし、憶測に過ぎないように思います。もうすこしきちんと情報収集した上で書いて欲しかったです。

 チベット問題がインターネット・ガバナンスとの関係の恐れがあるという指摘は大変興味深い指摘であるとは思いますが、チベット問題がそこまで影響するほどの波及力はもっていないと思います。むしろ今回のチベット問題の世界的な波及はweb2.0系のサービスの普及により公式メディアの情報だけではなく、地下メディアへも含めた情報戦が繰り広げられていることに特徴があります。情報戦は亡命政府側+インド+シリコンバレー vs 中国のネット戦略という構造になっています。ただ残念なことは、チベット本土のチベット人はまだネットが使えるほど生活レベルが向上していないので、本土からでてくる情報は携帯のカメラ程度やメッセージのリレー程度で、パソコンが買える共産党員ほど大量な情報発信ができていないということも言えると思います。

  shojiro-list on 2008/04/25

8

boさん:
情報ありがとうございます。確かに、日本語の言論空間はとても貧しくなってきていますね。浅田さんも相対的に発進力が弱まっているし…。

  クロサカタツヤ on 2008/04/23

7

NIRVANAさん:
戦闘行為を武力行使と狭義に定義するなら別ですが、ここでは「戦略や組織力、つまり「戦闘力」」と定義していますので、そういう意味とお考えください。「つまり」という言葉は通常そう使うものと考えて使い分けています(特に「すなわち」と使い分けているのは過去のエントリを眺めていただければお分かりいただけるかと)。

あと論理というのは、客観性・絶対性を必ずしも伴いません。むしろ論理の原点は主観的判断に依ります。従って、プーチンがチェチェンを叩くのと、中国がチベットを叩くのは、基本的に近似した論理構造を有しているであろう、ということです。あくまで中国がどう考えているかを説明している文章であり、私が「チベット=テロリスト」と認識しているわけではありません。

  クロサカタツヤ on 2008/04/23

6

なるほど。と思って拝見させていただきました。

そこで、2・3質問があります。あまり頭のよくない私にも理解できるようにご説明いただけると幸いです。

まず、チベット亡命政府の「戦闘力が高い」とはどういう意味でしょうか?
仮に、チベット亡命政府が多額の資金を所持していたとしても、間違っても中国の軍隊と戦えるだけの武力は持っていませんよね?いったい何をもって『戦闘力がある』とおっしゃられているのでしょうか?

それと『ダライ・ラマ一派とアル・カイーダやチェチェンと同じ...』という部分です。『ある程度論理的に正しい』という認識をされていらっしゃるようですが、そもそもダライ・ラマ一派は自ら武装してテロ(ないしはテロに近い行為)を行っている組織ではありませんよね?それを同一視している段階で論理的にもう間違っていると思うのですが、なぜ『論理的にある程度正しい』のでしょうか?

話の本筋とは違う部分ですが、ちょっと理解できなかったのでご質問させていただきました。

  NIRVANA on 2008/04/23

5

こんにちは。下記URLにあった記事(なぜか今はない。。)を読んだところ、NYにあるダライラマのオフィスの年間収入は$US22 millionと下記の記事にはあります。日本語の記事が少ないだけで、英語ではぼちぼち「オリエンタリズム批判」はあるようです。
http://www.globalresearch.ca
http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=6530

  bo on 2008/04/22

4

afokkusuさん:
ご指摘の通り、中国は外貨準備高も米国債保有割合も増えていますね。ただ、中国政府系ファンド(SWF)に米国のファンドへの出資をさせたあとに価値を毀損させるなど、両国で化かし合いをやっているので、あれこれ複雑に絡んで一筋縄ではないのだと思います。

  クロサカタツヤ on 2008/04/22

3

お疲れさまです。
確か最近は、中国の米国債保有割合が増えているはずです。アメリカが若干弱腰なのはその影響もあるのではないでしょうか。

  afokkusu on 2008/04/21

2

大変悲しいです。チベットのことをもっとよく知ってください。現状は私たちが思っているよりも遥かに想像を絶するような凄まじい苦しみを味わっているのです。
 http://blog.goo.ne.jp/kanataylfc/e/485e7f89d4594e462fbaa904109fce86
この中にマンガで書かれている部分を読んでみてください。
 そしてダライラマ法王の背負っている責任と苦しみをもっと深く知って下さい。

  obata on 2008/04/21

1

まるで根拠のないチベットについての説明。全然わかっていないあまりにも下らない記事ですね。

  shojiro-list on 2008/04/21

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