最終更新時刻:2008年7月25日(金) 14時16分

12

ファンドとマネーと頼りない奴ら(2)

公開日時:
2008/04/17 00:59
著者:
クロサカタツヤ

前回からの続き。

健全なM&Aって何?

経済同友会が発表した「健全なM&Aを促す法改正を」という提言書が、奇しくもTCIに対する買い増し拒否の決定と同じタイミングで発表された。しかしこれを眺めて、どうにもガックリする気分になってしまった。どうガックリしたかは切込隊長のエントリでほぼ説明され尽くされているが、私なりに表すなら「最大公約数的な意見集約って、何も言わないよりダメダメなのかもしれませんね」という感じである。

もちろん経済同友会としても(あるいは少なくとも委員長の岩沙さんとしても)それなりに考え抜いた末の結論なのだとは思う。たまたま昨日ランチしていた、とある日本株のファンドマネージャーの方もそんな指摘をされていた。確かに

言うまでもなくM&Aには、「規模の経済」や「範囲の経済」のメリットによって、迅速な業容拡大、企業の進化・発展を可能にする効用があり、実際に、新規分野への参入、国際競争力の強化、選択と集中、企業再生などを目的としたM&Aが増加し、グローバル化への対応にも不可欠なツールとなっている。

このようなメリットを生かし、企業価値の向上、株主共同の利益に適う買収については、たとえそれが現経営陣にとって「敵対的」であろうとも、「健全な買収」と言うべきである。

といった文言を挿入しているあたり、なんとか企業買収を前向きに考えようという気遣いは感じられるし、一方的に否定するのではなく妥協点を探ろうとしているのだというのも分からなくはない。

しかし、そもそも企業買収と一言で括るのに無理があるくらい、企業買収事案は極めてケース依存が高い。それこそ妥協点はおろか「何を白といい何を黒とするか」という定義さえも一様ではないし、企業は多様な要素によって構成されている以上、白黒グレーが入り交じって決着することも少なくないはずだ。

それを無理矢理法整備しろということになれば、ほぼ間違いなく行為規制の方向に進む。そして本提案書のような、結果的にはかなり乱暴かつ企業買収にネガティブなトーンの意見集約になってしまうのだろう。そしてそういう意見が出るたびに(あるいは「企業防衛」という言葉がまことしやかに論じられるたびに)経営者が過剰反応しているように感じる。

ただ実際は、以前のエントリでも触れたとおり、「買われる(買われようとする)だけマシ」なのかもしれない。たとえば一見キャッシュリッチな企業であっても、対象市場がドメスティックであれば、競争環境や日本そのものの相対的な地盤沈下に引きずられて「買う価値を見出せない」という評価が下されることは十分にあり得る。

問われるのは経営の質

外資であろうとなかろうと、あるいはファンドであろうとなかろうと、投資リスクを負っている株主であることには変わりがない。そして少なくとも彼らは投資先の企業に対して何らかの魅力を感じて投資に至っている。そういう存在を「自分たちの思い通りにならないから」と無碍に排斥するのは道理に反する。むしろそこでは、経営者としての手腕やガバナンスが試されている、と考えるべきだろう。

具体的なケースで考えてみよう。たとえばファンドは対象企業の企業価値向上を狙って、息のかかったコンサルティング・ファームを送り込もうとするかもしれない。しかしコンサルタントが入れば企業価値の向上が約束されるわけはない。だとしたら、そのコンサルタントが自社にとって何をしてくれるのか、どんな課題なら解決できるのかを、プリンシパルとして判断し指示しなければならない。これは自社判断でコンサルティングを受ける場合「以上」に留意すべきことである。

というのもこうした場合、投入されたコンサルタントが、クライアントそのものではなくファンドの顔色をうかがっていることが、実は少なくないのである。株主による間接的な介入であり「それなんて茶坊主?」というような話だが、当然そんなコンサルタントが企業側の意に即したパフォーマンスを発揮するわけはないし、むしろ不要な部外者を社内に招き入れているという意味でリスクが高まる危険性すらある。そうした動きは経営者として断固排除すべきだし、そのための交渉材料を用意しなければならない。

あるいは、ファンドの要請する事業計画を鵜呑みにするのも正しいとはいえない。というのはそもそも短期〜中期の利ザヤを狙うファンドと、ある程度の継続的な安定成長を目指す企業活動とは、たとえばバランスシートの組み方やキャッシュフローの考え方一つを取っても、価値観が異なりうるからだ。もちろん両者の調整は試みるべきだが、最終的にファンドの要請が中期的な事業基盤を毀損するようなものであれば、そのファンド以外の株主や債権者、あるいは取引先と交渉して、要請を却下するような絡め手も必要だろう。

これらはいずれも経営者の機転と判断によって対応できることだし、経営者が自社の利益を守る代理人として資本市場とのコミュニケーションを果たす役割を担っている以上、こうしたことは当然常に考えられていて然るべきである。もしそれができていないのであれば、やはり経営の質が低いとの誹りは免れないだろうし、少なくとも私はその会社の株を買わない。

当たり前の議論を当たり前に行う必要性

もちろん買収を目論む人間のには、グリーンメーラーのような輩も混ざっているし、場合によってはご本尊がアンダーグラウンドな世界に結びついているようなケースもなくはない。こうした連中に狙われてしまうのは不幸だし、それを救済するための措置や対抗策は講じられていいはずだ。

しかし、グリーンメーラー的な振る舞いをするファンドでさえも、教訓や示唆が含まれていることは、なくはない。それこそ成熟市場でキャッシュを貯め込んでいるのであれば配当として株主にきちんと吐き出す、というような当然の経営判断はなされるべきだし、それがなされていないということは怠慢な経営が行われていた、ということを証明することにもなる。そうした場合、経営者はその事実を受け止め、潔く責任を取るべきだろう。

その意味で最も懸念すべきは、真っ当な経営の不在や買収されることの危機ではなく、このような当たり前の議論がすべて吹っ飛ばされた中で、一方的な行政判断や法整備の議論が行われていることのようにも思う。そしてその流れは緩むことなく、むしろ加速しているような気さえしている。

もしそんな私の感覚がある程度正しいのだとしたら、それは本当に拙い事態である。なんとか正常な議論ができる環境になってほしいし、そう思って同じようなことを何度も書いたり話したり、あるいはできることに取り組んだりしているのだが、正直なかなか届かない、という歯がゆさがある。ただ嘆いていても仕方ないので、せめていま自分がお手伝いしている案件では、経営の質を高めるようなお手伝いをしたいと願うところである。

ちなみに今回のエントリが、情報通信の何に関係するか。一見ほとんど関係ないように見えるが、いま一番資本レベルで揺さぶられている領域の一つが、この「情報通信分野」なのである。そしてそれこそが、私があちこち案件をお手伝いし、またこういうエントリを書いている所以でもある。というわけで同分野の経営に近い立場の方は、一連の動きを以て他山の石とすることを強くおすすめする次第である。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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