いわゆるファンドによる企業買収について、いくつか動きがあった。私自身も、外資ファンドがメジャーな株主となる事業会社のお手伝いをしていることもあり、他人事ではない。というわけで、自分自身の考えを整理する意味も含め、クリップしておく。
一つめは、TCI(The Children's Investment Fund)による電源開発(Jパワー)の株式買い増しについて。すでに本件が経済産業省や財務省で問題視され、検討されていることは既報の通りだが、TCIは本件に関し、15日付の「原子力発電所等に関する政府の懸念の解消に向けた新提案」というプレスリリースで
かかる懸念を受けて、追加取得した株式を信託銀行等の第三者に信託した上で、信託契約において原子力発電所や送電線設備に関する株主総会決議が行われる場合には追加取得株式に係る議決権を凍結するというスキームを提案しました。これにより法的担保についての政府の懸念は解消されると考えております。
また、同時に、TCI は、政府がさらにJパワーの株主の大間原子力発電所に対する影響を排除する必要を感じるのであれば、大間原子力発電所を政府が支配しJパワーが少数株主となる別会社に譲渡し、同発電所の運営は契約に基づいてJパワーが引き続き行うというスキームを検討されてはどうかと政府に提案しました。
と表明した。ざっくり訳すれば、株主としての経営参加を自ら制限することの表明であり、これにより政府の懸念を解消できると考えたのだろう。GoogleのクラスA,B株式(創業者が保有するクラスBの議決権は同Aの10倍)の考え方にも少し似て、よく考えられたスキームではある。
一方同日、財務省の関税・外国為替等審議会の外資特別部会は、TCIによる買い増しを事実上拒否したようだ。同日付の日経記事によると、
関税・外国為替等審議会(外為審)の外資特別部会は英投資ファンドのJパワー(電源開発)株の買い増しを事実上拒否した。電力事業を営む公益企業に対し、短期投資による収益向上や経営関与をにおわす姿勢に懸念を示した。
と報じられている。議論の経緯はまだ公表されていないので定かでないが、私の記憶が確かならば、これまで外為法を根拠にした投資の変更命令を出されたことはなく、政府は政府で今回それなりに思い切った判断をしたことになる。
なぜ政府は今回そこまで踏み込んだのか。よく指摘されるのは、電力という社会インフラが外資に買収されることによる安全保障上の問題だが、これは必ずしも現実と整合した議論ではない。実際、たとえばソニーやキヤノンは外国人投資家の保有割合が高いが、両者とも相変わらず日本の国防に直接関わる案件をいくつも手がけている。もちろんTCIには、まとまった規模の大口投資家というインパクトはあるが、それでも相変わらずマイナーである。
では「ファンドだから悪い」ということなのだろうか。確かにファンドは、それがどんなに良心的に運用されるものであっても、基本的には利ザヤを狙う商売であり、どこかで売り抜けるというExitを考えているのは間違いない。その際、ファンドと経営陣の間で投資回収に対する考え方(期間、手法、レバレッジの効かせ方、キャッシュフローの考え方、等)が一致しなければ、両者の関係はギクシャクするだろう。
しかし本来ならば、相容れないマイナーの意見は堂々と排除していけばいいだけのこと。実際、ガバナンスがしっかりしており、また「経営者とは資本市場とのコミュニケーションが一義の役割」だと認識できている企業であれば、マイナー株主側を一方的に利するような提案は、きっぱり切って捨てている(というよりそもそもそんな提案をさせる余地を与えない)。
となると、TCIがよほど政府に都合の悪い存在か、あるいはJパワー(やその周辺のステイクホルダー)によほどガバナンスが不足しているか、ということになる。そしてそれは、おそらく両方なのだろうな、という印象である。
前者については、たとえば前述のプレスリリースの末尾を見ると、連絡先はTCIの日本法人ではなくプラップジャパンという「政治筋では有名な」PR会社である。些細なことに見えるが、コミュニケーション窓口の定義は「玄関」と一緒でかなり重要なものである。こうしたあたりからも何らか背景を勘繰られてもしかたないし、そう勘繰られる時点でTCI側にスキがあったのは否めない。このあたりからも、本件に対するTCIの「本気度」に疑問符が付くのが正直なところではある。
ただそれ以上に、後者のガバナンス不足がどうしても気になる。単純に考えて「資本市場とのコミュニケーションによって問題を解決できずに政府に泣きつく上場企業って何?」ということである。これでは経営者としての資質を問われても仕方ないし、さらに厳しく言ってしまうと、ガバナンス整備も自分自身の役割認識もできないような経営陣が、社会インフラに責任を持っているということ自体が、安全保障上のリスクだ、と揶揄されても仕方のない状況だと思う。
というあたりの懸念をもう一つ裏打ちした資料が経済同友会から出ていた、というのがもう一つの動きなのだが、長くなったので一度中断。今度こそ近日中に続きを書く、つもり。
【追記】というわけで書きました。
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