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前回のエントリに思いがけずあちこちからご意見をいただいた。そうしたメールやブックマークなどに寄せられたコメントのうち、改めていくつかの論点をピックアップしてみたい。
著作権法は改正されるのか?
まず「著作権法は果たしてこのまま改正されるのか?」という大前提への確認が予想外に多かった。パブコメの一件などで注目が集まる一方、立法化の進捗具合が見えにくく、状況が共有されていないということなのだろう。あるいは反対する立場の人からはその不透明感が「このまま改正されてしまうのでは?」という危機感につながっているのかもしれない。
結論としては「このまま改正に至るかは分からない」と私は認識している。というのは、改正の方向に進んではいるが、法改正というゴールに至るまでの変数が結構多いのだ。特に現在霞ヶ関界隈でターゲットとされている「2008年5月」というタイミングでの国会通過は、文化庁としては粛々と手続きを進めているつもりでも、正直微妙だと思う。
理由の一つは、文化庁内の手続きの問題である。たとえば私的録音録画に関して議論を行っている委員会の正式名称が「文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会」ということからも分かるように、検討の成果を「小委員会→分科会→審議会」と順次親会に上げなければならない。従ってその都度委員会を開催するのだが、そこで議論が紛糾したら次のステップに進めなくなる。
また行政の世界における著作権行政の位置づけも厄介だ。著作権は官邸の下に設置された知的財産戦略本部が最終的に取扱うマターであり、国会に進む前にここでの検討を済まさなければならない。ここでは他の知財政策との整合を取る必要があり、場合によってはここで再度検討や、パブコメ募集を実施する必要に迫られるかもしれない。
そうした困難がほとんどなく、無事国会に法案が出てきても、そこは与野党対立による空転の場である。選挙がいつになるか、という状況で、敢えて言えば「たかだか著作権法改正程度」での強行採決は、さすがの自民党も困難だろう。審議すらされずに国会が終了すれば当然廃案となり、少なくとも1年程度は先送りされるだろう。そして廃案となれば遠からず霞ヶ関の人事異動の季節が到来、という話となる。
流れに抗いたいのであれば
このように状況を整理すると、行政手続き的には現在進行形ではあるものの、法改正が既定路線と考えるのはまだ早計だろう。もちろん進行しているのだから、このまま進めば法改正に至る可能性もあるし、改正に反対するのであれば次の一手を早急に打たなければならない。この場合、オーソドックスに考えれば、知財本部と民主党方面へのアプローチが必要である。
とはいえ、ただ民主党の議員のところへ手ぶらで行って「ぼくらは反対なんで反対してください」というだけでは、彼らが動く可能性はそう高くない。福田首相の所信表明演説で「消費者主権」が謳われており風向きが変わっているのは確かだが、とはいえ消費者だけで世の中が動いているわけでもないのは、著作権の領域であればなおさらのことである。
このあたり、Blogに書くには馴染まないほど生臭い話なのでその手続き的な話はあえて割愛するが、この時にこそ、前のエントリで書いた
省庁間で利害が対立する構図を作り、法解釈や既得権者の監督に関する「揺れ」を起こさせた後に、それを収集する形で新たな秩序構造を構築する
という戦術が必要である。もちろんその際は100%ユーザの主張が認められるとは限らないが、大同小異の原則に従って、譲れるところ/譲れないところの峻別の末に、実利を取る動き方をしなければならないだろう(個人的には、この大同小異が日本人は極めて下手で、ゆえに行政につけ込まれがちだとも思っている)。
また特に立法サイドへの説得の際にも、現状の技術動向や産業構造を踏まえつつ「ではどんな産業の姿、どんな消費者のポジションが望ましいのか」という話を踏まえた上で、説得対象となる議員や政党がそれに対してどんな立ち位置を取れるのか、という整理が必須となる。人間誰しもタダでは動かないし、動いてもらうからにはきっちり仕様策定やポジション定義をしなければむしろ失礼というものである。
「法改正反対」は本当に正解なのか?
ただ、もう少し大きな視野に立つと、少なくともこのタイミングで法改正に抗うのが正解なのかも、本来ならばもっと議論されるべきところだろう。
理由の一つは、前のエントリの趣旨と同じなのだが、ことコンテンツ流通の分野に関してはすでに日本の著作権行政は破綻しつつあり、小手先の法改正云々で流れが変わるとは思えない、ということにある。また、すでに一部の大手レコード会社の経営が傾きつつあることからも分かるように、コンテンツ産業の衰退化もすでに生じつつある。そして、創造と収益の両面から見て最重要ステイクホルダーである消費者に背を向けている以上、今回の法改正はこのような「産業崩壊」をむしろ加速するようにも思える。
だとしたら法改正に反対して産業構造を延命させるより、このまま産業の自然崩壊を待つ方がいいのではないか。そして崩壊時にきちんとユーザの利益に資するような秩序を作る準備を進めた方が得策なのではないか。ややアナーキーかもしれないが、これだけ混迷を深めているのであれば、このような「土俵にのらない」という選択肢は十分考慮されていいはずだ(ちなみにAppleは比較的この戦術に近いと思われる)。
もう一つ、コンテンツ流通とは直接関係ないが、今回の著作権法改正ではコンテンツ流通関連の他にいくつか重要なポイントが含まれている。たとえば同じ著作権分科会の下にある法制問題小委員会で検討されている「検索エンジンの法制上の課題」や「ライセンシーの保護」、あるいはその中でも議論されているフェアユース等は、日本のネットビジネス全般、あるいは産業全般に関わる重要課題である。
乱暴な物言いなのを承知で敢えて言うと、長期的視点に立てばこれらは私的録音録画よりも深刻かつ喫緊な対応が必要な問題だと私は思っている。このあたりの法整備をきちんと進めないと、私的録音録画という「アプリケーション」を云々する以前に、それを支える「インフラ」が崩壊し、有事になれば社会的な混乱すら招きかねないと思われる(そして少なくとも資本市場のレイヤーではすでに「有事」であると私は認識している)。
著作権は裁量行政の対象か?
寄せられたコメントのうちもう一つ目立ったのは「著作権は裁量行政なのか(であるべきか)?」というものである。ここは現状認識や考え方の問題でもあるので、絶対的な解はないと思うが、私自身の考え方を改めて述べてみる。
まず前提である著作権法の考え方について。実は私はロージナ茶会の末席を時折汚しており、この周辺については白田先生とも議論したことがあるのだが、私は基本的に白田先生の仰る「産業振興保護政策」だと考えている。前のエントリでも触れたとおり、日本における著作権法とはすなわち、歴史的遺産を保護し、かつそれでどうやって稼ぐかを考えることを主眼に置いた法制度だ、という認識である。
一方世の中の著作物は、文化財だけではない。従って上記の対極として、どうやって著作物の利用を促進し、またそれによる創作活動を確保するか、という観点も必要となるが、日本の著作権行政は(プロバイダ責任制限法などの運用面も含め)こうした観点が足りない。前のエントリでカニエ・ウェストとDMCAの例を示したが、米国の場合は「ちゃんとビジネス設計できれば使える」という条件を整えたわけで、日本に比べれば相対的には「創作しやすい」法制度だと言えるだろう。ただし米国の場合は「使うための制約条件」が市場原理に委ねられすぎており、結果的にハードルが高いことが課題だとは思う。
ともあれ、こうした「使わせること・その条件を整えること」は、その国々でどのような資産(=著作物)があるのか、それが文化・慣習も含めてどう活用されるのか、という観点での調整が必要となる。かつ、ここ10年のネットの普及により、創作活動や成果物形成のプロセスが大きく変化している。となると著作権法についてもある程度弾力的な運用が必要となる。ゆえに、著作権が「法によって規定される抽象概念」である以上、私は著作権法は裁量行政によって運用せざるを得ない、と考えている。
ここで問題なのは、紛争が発生した時の最終的な裁定が司法に委ねられがちであること、また日本の三権分立は必ずしも有効に機能していないことだろう。前者については、たとえばプロバイダ責任制限法で権利主張をする権利者の特定に司法判断が必要なことからも分かるとおり、法の精神に照らせば非常に面倒な運用が必要となる。また後者については、そもそも日本の司法は本当に信用に足る存在なのか、という根本的な疑問もつきまとう。
とはいえそれでも、権利者に一定の権利が認められるべきだという考え方自体を棄却しない以上、現実として創作をどこまで許容するかは、やはり行政上の裁量が必要だろう。もちろんADRのようなアプローチで当事者同士で決着をつける方法もあろうが、著作権が財産権でもある以上、権利者は法律という一定の基準に沿った強制力のある裁定を望むだろう。その時、ユーザの利益を尊重させるには、判例を積み重ねるよりも法律を弾力的に運用した方が、効率や実効性が高いのではないか。
MiAUへの期待と限界
こうした観点に対して、「それでも法改正は止めなければならない」とか「ならば黒船を連れてきて著作権の概念や運用を変えるべきではないか」といった議論を、本来ならばもっと進めなければならないと思っている。そしてそれをただ議論するのではなく、最終的に合意するための意志であったり、それを形作る戦略であったり、といった「そもそも論」も明らかにしなければならないはずだ。
こうした議論が行われ、かつ議論だけでなくもっと泥臭い動きを進めることを、私はMiAUに期待していた(今もしている)し、、ゆえに茶会の隅っこの方でボソボソとお伝えしていた。しかし現状ではMiAUの中の人の多忙もあり、期待したところまでは至っていないように思う。MiAUには引き続き期待しているが、ここまでの中間評価としては正直なところ、切込隊長の手厳しいエントリに概ね同感である。
もちろん、問題があることを啓蒙したという成果は素晴らしいと思う。ただこれも、私自身「世の中のすべての問題をすべての人が知る必要はない」という立場でもあり、そもそも啓蒙すべき問題なのか、啓蒙するなら問題の存在・所在だけでなく、それに対してユーザはどういう意識を持つべきか、ということをあわせて伝えなければならないのでは、とも思うところはある。
またMiAU設立前後に「日本版EFFになれれば」といった話があったかと思うが、私が前職でワシントンDCやシアトル絡みの案件をいくつか手がけた経験から言えば、EFFは相当タフな組織である。米国の文化的背景の分は割り引かなければならないが、彼の国では市民団体であったとしても「集金できない団体は存在理由なし」となるし、また目的のためにはロビイングだろうと何だろうとすべきで、事実彼らはそう動いている。
そして米国では「何かするにはカネがかかる=タダじゃ誰も動かない」という意識が徹底しており、ゆえに「タダで動いているってことは逆に何かアンフェアな背景があるんじゃない?」という誤解さえ招く。それこそEFFやレッシグが政党と付き合ったり地味にTシャツ販売を続けているのもそうした背景がある。もちろん日本ではここまで過剰な意識は逆に馴染まないだろうが、
- 背景を含めた透明性確保(存在理由の証明)
- 目的意識(戦略)の明確化
- 実現手段(戦術)の洗練化
の重要性という意味では十分参考になる話であり、それこそEFFに比べてMiAUはこうした要件をまだまだ満たしきれていないと思う。
コンテンツ漂流の先にあるもの
こうして全体を見渡すと、日本のコンテンツ流通は、行政も、産業も、そしてユーザの側も、当事者全員が問題にちゃんとコミットしきれていない状況に入りつつあるように思える。それこそ、コンテンツ流通ではなく「コンテンツ漂流」と言っても差し支えないような状況が、目前に迫っているように思える。しかしそれでも私たちは生きていかなければならない。ならばどうすべきか。
一つ救いなのは、別にこれは日本だけの状況ではない、ということである。東大・中山先生の最終講義でも
インターネットとデジタル技術による社会の変化に著作権がどう対応するかが今後の課題となる。著作物が増え、プレーヤーが増えたのだから、ルールの変更の要求が出るのは当然。この流れに法制度は十分対応できていない。これは日本だけでなく、世界の著作権制度が抱えている課題だ。技術が今後どう変化するかも分からず、学会も解決策を提示できていない
と触れられているように、みんな悩んで困っているのだ。ならば日本からも概念や技術を提言・発信していく余地は十分にある。というより、もし日本がこれからも「ものづくりの国・高品質なサービスの国」を標榜したいのであれば、その上で展開されるコンテンツの取扱いについて提言するのは、むしろ義務なのではないだろうか。
またしても次回(かその次)の予告
そして改めておもしろい(と敢えて言ってしまう)のは、コンテンツ流通の分野だけでなく、資本にせよ多くのビジネス活動にせよ、あちこちでいろいろなものが「漂流」しつつあること、それに対して徐々に危機感を持った同世代を中心とする人たちが、少しずつ危機感を共有し、動き始めているということである。
もちろんそれは平坦ではないし、漂流の最中に転覆して海に放り出されてしまうリスクは十分にある。場面によっては、はっきり言って「国外に逃げる」コストの方が安い場合もあるだろう。しかしそれでも、目の前にあるあまりにひどい状況に対し「仕方ない、何かしなきゃね」という機運が高まっている。
…という話をしはじめると長くなるが、一つだけ前振りすると、前のエントリで触れた「某大型プロジェクト」に前職に続いて参画したのは、そうした思いが私の中で高まっており、またそれを具体化するためのレバレッジとしてそのプロジェクトが有効だと改めて認識したからである。相変わらず「次かその次」という次回予告だが、この話にも近々に触れたい。
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