詳細は改めて書く(次かその次)が、現在経済産業省の某大型プロジェクトに参画しており、その一環で個人情報保護と著作権について考えることが増えている。今回はそのうち後者について。
デジタル・コンテンツに関する流通の議論をあちこちで拝聴したり、私自身も議論に参加することがあるが、いつも思うのは「著作権行政や制度運用の座りの悪さ」である。もちろん参加する人の背景や背負う利益によって主張や志向が変わるのは当然だが、それ以前に「この議論は誰にために行っているのか、誰に働きかけるのが有効なのか」というところが定まりきらないように思う。
これはMiAUについても同じで、誰の利益のために誰を説得しようとしているのか、という前提条件が揺れてしまい、結果としてアピールのためのアピールに終始しているように見える、というのが正直な印象である。横から見ていて、彼らの動きに戦略・戦術の両方が感じられないように見えるのも、土地が揺れていては上物は建てられず、ただ立つだけで精一杯、ということなのだと思う。
もちろん「消費者のために文化庁を説得する」という言い方はできるし、MiAUをはじめ現行の著作権制度に物申したい人の多くはそう主張しがちだ。また文化庁も一応その受け皿を目指しており、そういうスタンスに意味がないとは言わない。しかし消費者は本当にそれを望んでいるのか、その時に権利者・クリエイターは置き去りになっていないか、あるいは本当に相手は文化庁なのか。よくよく考えると、それが必ずしも正解とは思えなくなる。
脚本家組合のストライキが起きたり、CESに出かけた知人たちといろいろやりとりをしていたおかげで、年明け後しばらく米国のコンテンツ流通市場のことを考えていた。その中で「米国は日本に比べてCDやDVDのパッケージが安くてユーザーフレンドリーだ」という言葉をいくつか耳にしたのだが、果たしてそうなのだろうか、とは前から考えている。
たとえば私はアフリカ・バンバータが活躍していた頃からヒップホップを聴いていたのだが、ある時期(おそらくDCMA=デジタル・ミレニアム著作権法施行の2000年頃だろう)を境に、ヒップホップの世界である変化が起きたように感じていた。平たく言えば、過去のネタを再利用して作られる曲が減ったように感じたのである。
それに気づいた時は、アーティストや米国市場の嗜好が変わったのかな、という程度でしか考えていなかった。ただその後、カニエ・ウェストのような「過去のネタをやたらと使いまくる人」が出てきて、要は「使えるアーティスト」と「使えないアーティスト」が分かれはじめていたことにはじめて気がついた。
その後、知人の音楽業界関係者から指摘されたのだが、要はDMCAの施行以降、著作権管理・運用が厳格になったこと、また利用料が高くなったことが影響し、制作段階である程度の売上が見込めるアーティストしか過去のネタを容易には使えなくなったのだそうだ。前述のカニエ・ウェストはプロデューサーとしての手腕(予算獲得や管理)も高く、ゆえに彼が手がけた作品はそうした曲の作り方ができる、ということなのだそうだ。
誰が誰の影響を受けて、どういう系譜に位置づけられるのか。クラシックにせよヒップホップにせよ、それを聴き手が考えて自分の好みに合ったものを探していくのが、音楽(あるいは芸術全般)を楽しむ一つの方法だと私は思う。しかし上記の通りだとすると、その音楽を楽しむ上での大前提である「模倣による創作」が法制度によって否定されていることになる。
そんな市場は、いくらパッケージが安くても、それはユーザーフレンドリーとは言えないと私は思う。単価が安くても選択肢が少なければ、新しい音楽を聴こうという意欲は薄れてしまう。それならばむしろ、多少単価が高くても、アーティストがより自由に創作でき、様々な作品が次々と生み出される市場の方が、ユーザーとしてはうれしい。
となると今度はCulture Firstのような動きを是認するのか、という議論になる。しかし彼らは「看板に偽りあり」で、文化を守るのではなく、いま文化をメシのタネにしている人々を守るという、単なる既得権強化の主張にしか見えない。しかもそれは著作権法の趣旨を逸脱したり、場合によっては彼らが大事と主張する文化の営みそのものも否定する動きですらある。たとえば歌舞伎は京劇のスタイルを一部取り込んでいるのではないか。あるいは落語の徒弟制は模倣を前提としているのではないか…こういう論理矛盾には枚挙が暇はない。
こうした問いに対する明確な解は、おそらくどこにもない。なぜなら、市場の規模や特性、技術変化、また作品の歴史的な意義や位置づけ等、様々な変数を総合的に勘案しなければならないからだ。それこそ同時代であっても、米国と日本では市場の規模も海外市場への波及も法律も異なるのだから、横並びで比較できる代物ではない。
となると結論として著作権行政は、市場性と創造性をバランスしつつ、各ステイクホルダーの立ち位置を踏まえながら産業構造の変革を適切に促していかなければならない。すなわち、相当高度な力量を備えたコントローラーを必要とする裁量行政にならざるを得ない、ということである。
ところが現在の文化庁は、この裁量行政には最も適さない官庁のように思える。理由は簡単で、文化庁は歴史的文化財という「変化しないことを前提とした非営利のモノ」の取扱いを業務の柱としているからだ。それこそWebサイトのトップページは世界遺産や古墳の話で占められており、コンテンツ産業をどうにかしよう、というような意識や気配は感じられない(なにしろこの20年近くフェアユースの議論を一貫して「日本には馴染まない」の一言で片付けてきた人たちでもある)。
実際この分野に明るい弁護士の方から伺った話では、「もう民間の方々の好きなように案を書いてください、私たちはそれを法律にしますから」という有様のようだ。確かに彼らとしても困っているのだろうし、分からないことはやらないというのはある意味誠実でもあるが、前述のような変数の多い環境に対する監督官庁としてはいかにも不十分だ。
裁量行政に不向きな官庁が歴史的経緯から著作権行政を担わされていること。また「文化財」的なスコープで検討するという彼らの遺伝子のため、新しい技術の台頭にまったく対応できていないこと。さらに市場を歪める(というより市場の機能を失わせる)くらいに既得権者が政治的な力を有しており、彼らにも御することができないこと…結局このあたりに日本の著作権を巡る議論の不幸の源があるのだと思う。
そう考えると、文化庁を攻撃しても何も得られないという意味で、戦うべき相手は本来は文化庁ではないのだろう。しかしユーザが直接働きかけられる相手として文化庁がやり玉に挙がり、パブコメでも何でも矢面に立たされる。そして文化庁やそこで議論する人たちは賛否いずれも硬直化し、結果として既得権を利する動きしか出てこなくなる。
ではこの悪循環からどう抜け出すか。たとえばよくある方法としては、ユーザの利益を代弁する省庁を見つけ、省庁間で利害が対立する構図を作り、法解釈や既得権者の監督に関する「揺れ」を起こさせた後に、それを収集する形で新たな秩序構造を構築する、というものだ。デジタル・コンテンツ流通云々という話は、その新たな秩序の前提となる技術的な道具立てとして織り込めばいい。
どうにも泥臭い話に聞こえるかもしれない。確かにその通りで、たとえばMacWorld Expoでジョブズが語ったような華々しさとは対極にある、極めてややこしい泥仕合となることは間違いない。しかしそこで議論を始めなければならないのが今の日本の現実であり、おそらくこうした動き方で着実に歩みを進めないと、日本のデジタル・コンテンツ流通は今後ますます周回遅れとなり、場合によっては強制的にリタイヤや退場を宣告されるだろう。
そしてそんな動きをしなければならない分野が実はあちこちにある。というよりあらゆる産業において、競争政策や国際競争力を再点検しなければならないタイミングであり、私はむしろそちらの方に危機感を抱いている。そして冒頭で触れた某大型プロジェクトは、あちこちで誤解されてはいるが、実はそこをちゃんと見据えるというのが問題意識の根本にあり…という話はまた次回。
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