経営アドバイザーを務める企業が、某大手企業との資本提携交渉を進めている。概ね目指す方向性や位置づけが見えつつあるところで、契約書の文面を確認する段階に入り、弁護士等と共にチェックしているのだが、先方から出てくるものがどうにもひどいものばかり。たとえば、
・基本的に収奪姿勢
・電話一本で先方が仕様を自由に変えられる
・仕様書に書いてないことも先方が勝手に仕様化できる
といった、遊郭に売られる遊女でもあるまいし…というような一方的な内容で、まるで二昔前の下請けの姿である。かつてはこうした横暴がおそらくまかりとおっていたのだろう。しかし仮に先方が下請けの意識を持っていたとしても、下請法の改正以降、こうした一方的な契約は改正下請法の精神に反する違法契約となるはずであり、時代錯誤も甚だしい。
しかもそもそも今回の話は、下請け受注ではなく、資本提携を含めた業務提携である。そこに二昔前の下請けの契約書を持ってくるというのは、何か基本的な認識が狂っているのではないか、とさえ思ってしまう。当然アドバイザーとしては、先方に全面的な書き直しを迫るか、それが無理なら契約自体を結ばないようお伝えせざるを得ない。
こうしたやりとりを横で見ながら思うのは、資本を入れるということの意味が、まだまだ理解されていないのだろうな、ということである。そしてそれは少なからず日本全体でそうなのかもしれないとも思う。なにしろ、有名女優を使ったスポットCMもジャンジャン流し、名前を聞けば日本で知らない人はいないような大企業でさえ、この有様なのである。
さらに言えば、そもそも「資本って何?」という問いもある。実際、広告代理店に勤める友人とたまに話していると、ここ数年のM&Aやバイアウト等によってクライアントの実態や内実が変化していく様をエージェントとして眺めながら、ふと資本って一体なんだろう、と自問してしまうようだ。そしておそらくこうした自問は今日の日本においてそう特殊なものではないだろう。
実際、視点によって様々に解釈が異なる。企業活動に絞っても、事業、会計、法務、人事等、立ち位置によってまた考え方が変わる。従って「資本とは何か?」を考える際には、同時に「それをどの立場から考えるのか?」を規定することが重要なのだが、それでもあえて共通項を挙げるとしたら、私自身は「タネとなるカネ」、すなわち何らかのアクションを起こす際に必要となる「最初の一歩」を裏付けるのに必要な資金と考える。
そして、タネはタネのままでは枝にも実にもならないように、そのままではただのカネに過ぎない。従ってそのタネからどう芽吹かせ、枝葉を繁らせ、最終的に果実を得るか、はすべて「その次の問題」である。すなわち資本は、資本のままである限り、それ以上でもそれ以下でもないのである。
このように資本を規定すると、冒頭の資本提携に伴う契約の無理筋さが分かるはずだ。たとえば、まとまった量の株式を購入すること自体が一つのメッセージとなる公開企業ならいざ知らず、未上場企業へのマイナー出資で相手を制するような一方的な契約を求めるのは、基本的に失礼というもの。
まして商流確保に目的が置かれる出資であれば、それこそ出資する側に「資本参加させていただいている」というくらいの姿勢があってしかるべきだ。あるいはVCのようなキャピタルゲイン狙いであったとしても、自らの振る舞いが横暴なら吹いたばかりの芽なんぞすぐ潰れてしまい、自分の首を絞めるばかりだという認識が必要である。
またメジャーであったとしても、そもそも自分と出資先は別法人であるということの意味を十分理解する必要がある。法人が異なるということは、ステイクホルダーが異なるということであり、ゆえに資本政策もガバナンスも異なる、ということだ。いくらメジャーとして経営権を取ったとしても、わがままを通そうとするのは、単にお下品というもの。
もし本当に自分のやりたいように100%従属させたいのであれば、少なくとも文字通り100%買収し、かつ合併して同一法人として組み入れる必要がある。さらにいえばその場合においても先方(特に人材)へ敬意を払うことは重要で、いくらキーパーソン条項があったとしても、失礼な態度ではすぐに離反されることは火を見るより明らかだ。
もちろん出資を受ける側も、出資者に対して失礼な態度を取ることが許されないのは当然である。今でも時折「オレが経営していなかったら出資者の資本なんてまだタネのままだったんだから偉そうなことを言うな」といった調子の経営者を見かけるが、裏返せば「出資者の資本がなければただの人に過ぎない」わけで、単なるルサンチマンである。
また、出資を受けるということは、人様のカネを預かり、育てる義務が生じるということでもある。VCという中間者の存在によりその意識がしばしば希薄となりがちだが、その背後には実際にカネを出した人がおり、その人が何らかのリターンを確実に求めていることを忘れてはならない。要はすべての意識においてバランスが必要なのである。
このように考えていくと、資本政策は(少なくともその考え方自体は)実はそう難しいことではない。要は、
・企業として何をすべきか
・出資者は何を求めているか
・それを実現するために必要な条件は何か
ということを考え抜き、ステイクホルダー全体に対する敬意を重んじれば、自ずとすべきことは見つかる。そしてこれは、人間としての常識(それも義務教育で習得する領域に近い)に照らしてちゃんと仕事していれば、別に特殊な技能は必要としないことばかりでもある(テクニック的に必要なことは専門家に任せればいいのである)。
しかし現実として、状況が複雑化し、身動きが取れなくなっている案件をあちこちで見かける。それこそ資本政策だけでなく現場オペレーションでも同様で、しばしば「そんなんばっか」という言葉が口をついて出てくる始末である。
その理由を考えるには考えているが、個別事情もあるので皆までは申さない。ただ結論としては、ちゃんと仕事することを「面倒くさい…」と思う方には、やはり退場いただいた方がいい。そんなことを、業務を通じて明に暗に取り組んでいくことが、このところの大きなテーマの一つとなっている。
それに向けて今年すべきこととして自らに課しているのは、
・出るべきところには出ていく(導く)
・より現実的、合理的、効率的に動く(動かす)
・成果を出し続け、成功する(させる)
ということである。またカッコで書いたのは、仕事を共にする相手をそうさせる(パートナー、クライアント、あるいはその他のステイクホルダーの如何を問わず)、ということだ。これまで資本の動きに関するエントリをいくつか書いてきたが、結局はこうしたことを進め、積み上げていくことが、ちゃんと仕事する仲間を増やすことになるし、それこそが私自身や仲間はもちろん、ひいては日本や世界の将来を明るくするものと信じている。
その意味でこれは、このエントリを読んで共感いただけるすべての方に、少しずつでも取り組んでいただきたいとも思っている。それこそ会議の進め方や成果の出し方、さらにはワークライフバランスなど、「普段は見過ごしたり、本当はおかしいと思っている、ちょっとしたこと」を少しでも変えていただきたい。そうしたことが大事となる一年だと思っている。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
尊仁 on 2008/01/15
Makiさん:
記事の紹介ありがとうございます。いずれにせよあちこち変えなきゃいけないところなのですが、一つ日本ですぐにでも変えなければいけない大きな領域があり、最近はそこにも手を突っ込みつつあります。ぼかした表現で恐縮ですが、近々にまたエントリしたためますので、何卒ご容赦ください。
クロサカタツヤ on 2008/01/15
尊仁さん:
もちろんそれも重要な選択肢と思います。ただそこまで竹を割ったような判断がしづらいケースも多々ありますし、せっかく関わったなら何らか相手を変えていけるような動き方をしたいと思うところでもあります。
クロサカタツヤ on 2008/01/15
米Economistによると、バブル崩壊後15年を経て、日本企業は従来の経営モデルを踏襲しながら、西洋の経営モデルを適用しながら、次なるステージへ歩み出していると述べています。かつて、終身雇用制が米国企業にとって当たり前だったように、いま、われわれ日本が直面している課題とは、大きな転換点に位置しているのかもしれませんね、きっと。興味深いお話ありがとうございました。
*Prewire (日本の経営、和洋折衷(ハイブリッド)は大きな岐路に直面している・・・・?!): http://prewire.blogspot.com/2007/12/blog-post_18.html
Maki on 2008/01/14
尊仁 on 2008/01/14
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資本投下と下請けとしての活用を混合している時点でアウト!ってしがちな自分(および自分の思考)なのですが、それを乗り越えて新しい協業が生まれる可能性を摘んでしまうのは早計と言うものですね。続編(があるかどうか分かりませんが)楽しみにしております。