おとなりの渡辺さんが主宰するET研が久々に開催された。テーマは「android」と予め設定されていたのだが、Googleが700MHz帯オークションへの単独入札を正式表明した直後という絶好のタイミングとなった。ちょうどあちこちから「androidってどうなの?」というお問い合わせもいただいていたので、当日お話ししたことを中心に、改めてエントリとしてまとめることにする。
手始めに、700MHz帯オークションの復習から。7月にこのテーマで一本エントリを物しているので詳細はそちらもご覧いただければと思うが、
ことの発端は今年の4月末にFCCが発表した700MHz帯の電波オークション規制案である。この規制案自体は、テレビのデジタル放送移行で生じた空き周波数をオークション方式で再分配するというものだが、FCCのマーチン委員長は米国内のブロードバンド普及に向け「第3のパイプ」として有効利用されることを期待する旨のコメントを同時に発表している。
「第3」とは通信キャリアやCATVに続く新たな事業主体を暗示しており、具体的にはGoogleやYahoo!のようなサービスベンダにフォーカスがあてられている。中でもGoogleは以前からこの分野への関心が高く、この規制案発表直後から応札の方針を示したり、広告ビジネスでのオークション機能を活用した「電波の卸事業」など、その活用方法についても具体的かつ積極的に言及してきた。
要は空き周波数を無線通信用にオークション方式で再分配する、ということだ。Googleは以前からこの計画への参加に積極的で、すでに今夏の時点で参加条件と予想入札金額をFCC委員長宛の公開書簡の形で明らかにしたり、落札後の活用方法について言及するなど、この1年近くかなり「前のめり」に取り組んでいる。
そのためあれこれ憶測を広げているが、現実として彼らにはアクセス網を含む通信インフラの運用実績がほとんどない(マウンテンビュー周辺のWiFiサービス等ははっきりいってオモチャのようなものである)。また現在の彼らの動き方を鑑みる限り、その領域へ直接参入するメリットも見出しにくい。
おそらくGoogleは、仮に同周波数帯を取得できた場合、さらに別のインフラ事業者やサービスオペレータへ(それこそ再オークションとMVNO等により)貸出し(つまり又貸し)するのだろう。重いインフラを持たずに情報流通や事業をコントロールするポジションを取れるならその方がいいのは自明だし、実際、通信に明るいGoogleの中の人を日米ともに何人か知っているが、いずれもインフラを伴った通信事業への参入は驚くほど慎重だ。
従ってGoogleはまず、再貸出先のどんな事業者がサービスを運用・提供した場合にも、Googleのサービスやインターフェースに紐付けられるよう、androidをこれら事業者向けに提供するのではないか、と私は考えている。すなわち700MHz帯オークションを落札した後、Googleが同周波数帯を使ったサービスを実効支配するための技術的手段である。
一方Googleには長期的な狙いもいくつかあると思う。その一つはOpen Handset Allianceのメンバー構成からも推察できる。
特に日本ではキャリアは入ったのにベンダーが参加いないことが話題になったが、よくよく見るとNokiaもSymbian陣営も入っていない。Symbianはベンダーから多くの出資を得ていることで知られるが、同社への出資者でアライアンスに入っているのはSamsungだけである。またEricssonのようなインフラベンダーは参加していないが、一方でセミコン事業者は多く参加している。
このことからGoogleは、長期的には新しいモバイルサービスのエコノミーを作ろうとしているように見える。おそらくキャリアやセミコン陣営が多く参加しているのは、そのレベルからの構築を意識してのことだろう。特に、NGNや携帯電話網のような「大規模閉域キャリアネットワーク」の設計で世界的に中心的な役割を果たしているEricssonが入っていないというあたり、Googleが考えるNGNへの回答のようにも受け取れる(実際、携帯電話網は一種のNGNである)。
そして、上記で「モバイルサービス」という言葉を使ったが、それはすでに携帯電話という言葉で表現するカテゴリーではなさそうな気配でもある。狭義にはアーキテクチャ図に示されているようなスマートフォンとしての実装を指すが、より広義に考えると、Googleはここでも「情報のA/D変換」を意識しているように見える。アライアンスの一員にeBayや音声認識のNuanceが入っていることからもその気配はうかがえる。
すなわちandroidも、世の中に数多ある(アナログを含む)情報のデジタル化・ネット化という、Googleが自任するミッションを実現するための一手段なのだろう。そう考えると「一連の流れの一つ」に過ぎないとも言えるのだが、今回はその主戦場がモバイルである。そのインパクトはやはり大きい。
たとえばこれまでのGoogleの動きの中で今回のandroidのポジションを相対化すると、下図のようになると考えている。縦軸は情報の中身や質(上は私、下は公)、横軸は情報処理の手段(左はコンピュータ、右は人間中心)という4象限となる。たとえば左下ならインターネットが、左上ならPCの世界が従来の主軸で、現在はそれぞれ別の象限への侵食を進めている、というところだろう。
Googleはこれまでインターネット(公開情報をネットワーク化しコンピュータで処理する)のポジションでのデファクトの地位を得た。しかし世の中の数多の情報のうちインターネット上にあるものは数パーセントしかない。従ってGoogle自身がインターネットの外側へ触手を伸ばす必要がある。その一つがPCの領域への進出(上への矢印)で、GmailやDocsが先鋒の役割を果たしている。またもう一つはリアルなビジネスやコミュニティへの進出(右への矢印)で、Finance、Apps、Group等で切り込んでいる。
それら二つの動きに対し、Googleはこれまでモバイルへのアプローチが手薄だった。そしてそれは、モバイルの先にある「人間同士のリアルなコミュニケーション」へのリーチも弱かったことを意味する。そしてこの領域は、まだ誰も完全には制していない。おそらくGoogleは、今回のandroidによるモバイル対応を橋頭堡に、いよいよこのフロンティアへ乗り出そうとしているのではないか…このように整理できると思う。
ただ、フロンティアであるということは、まだ誰も成功していない領域である。そしてそれはGoogleでも同様で、おそらくそのチャレンジは彼らとて容易ではないはずだ。
課題の一つはGoogle自身がこれまでパーソナルな領域(図の上半分)へのアプローチに必ずしも成功していないというところにある。実は先日「Gmailのバナー広告」を見てちょっと驚いたのだが、現実に彼らは必ずしもGmailやDocs、またデスクトップサーチの展開に成功していない。ユーザの抵抗感も含め、おそらく何か彼らにまだ足りないものがあるのだろう。
もう一つもそれに関連するが、この領域は個人情報やプライバシーといった問題に直結しており、世界的にも風当たりが強いということだ。実際、個人情報保護に関しては、先進国の中で米国だけが「例外的に緩い」状況にあり、ヨーロッパや日本は基本的に厳格な取扱いを求めている。また米国でも、現状の緩さはさすがに拙い、という意見はあちこちで散見されはじめている。
それこそ当のGoogle自身も、APECのプライバシー・フレームワークに沿った国際標準の策定を提案しているが、総じてヨーロッパ陣営からは冷ややかに見られているのが現状だ。これまで彼らが著作権領域でこなしてきた「自ら相手を議論に引きずり込み、戦いを挑み、勝ち進んでいく」という華麗な振る舞いは、この領域では困難そうである(このあたりは近々に改めて別エントリで)。
以上をまとめると、これまでの彼らの苦闘や世界的な動向を踏まえる限り、今回彼らがandroidで狙う領域は、これまでのGoogleの展開とは若干異なる動き方を余儀なくされるのだろう。逆に言えば他のプレイヤーが付け入る隙もまだまだ大きい。おそらく彼ら自身もそれを理解した上で、キャリア陣営のような「ある面では利害が対立しているプレイヤー」を巻き込んでいるのだと思う。
だとしたら、それでも彼らがあえてこの領域に踏み出さなければならないと考える理由が、何らかあるはずだ。そしてそれは私自身も少し考えをまとめつつあるところである。もう少し検討が必要なところでもあるので、年明けあたりに別エントリで改めて触れたい。
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