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ブラックストーン上陸と日本の夜明け

2007/11/03 14:40
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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少し前におとなりの渡辺さん勝屋さんのところへお邪魔してきた(勝屋さん、ありがとうございました)。ベンチャー、大企業、国プロ、松本人志と話題はあちこちに飛んだが、ちょうどブラックストーン(以下BS)の日本進出が公になったタイミングでもあり、「さてどうしましょう」という話になった。

BS上陸のインパクトは渡辺さんのエントリにもまとめられているので、詳細については割愛するが、一般論も含めていくつか補助線を引いておきたい。というのは、これだけの大事件なのにマスコミもBlog界隈もあまりに静かなのが、いささか気になっているからだ。

GS, MS, BS
まず本件は、渡辺さんも触れているように、BS発表の少し前に報じられたモルガン・スタンレー(以下MS)の「本格」上陸発表と同じ文脈で考えるべきだろう。これだけ読むと「ゴールドマン・サックス(以下GS)もMSも日本にすでに来ているのでは?」と思われるかもしれないが、リンク先の記事をよく見ていただければ分かるように、今回は本体直結のガバナンス(持ち株会社、本社社長がトップを兼任)という陣容である。

米系の大手投資銀行で、ここまで本格的に日本上陸を果たしているケースは、実はまだ少ない。あえて矮小的に言ってしまえば、これまでの彼らは「日本営業所」に過ぎず、ローカルで裁量できる範囲の案件を中心に手がけていた(とはいえそれすらすでに日系金融機関の投資銀行業務を凌ぐ規模なのだが)。しかし本体と一営業所の事業規模は当然まったく異なる。その本体が直接やってくるというのは、端的に言って「本気」だということだ。

安く買って高く売る
では本気になった彼らは一体何を買いに来るのか。平たく言えば、安いもの、もしくは近いうちに急激に安くなる(調整が入る)ものとなる。安く買って高く売るのは商売の王道なのだから、ある意味で当然の話だ。MSの得意分野という意味では、一つは不動産関連だろう。日本の、というより東京の商業一等地は世界的に見て割安なのはよく知られた話だし、スタグフレーションと資産(土地)デフレの足音が大きくなってきた日本経済の現状を考えれば、間もなく「ガツンと下がったところを買う」好機が訪れる。

たとえば少し前にGSがティファニー銀座本店ビルを買収したというニュースが流れたが、割引率設定を含めた勘定の仕方、賃貸契約と店子のキャッシュフロー予想、店子の資本構成と将来的な支配、などを考えれば、リスクもある程度ヘッジされた「おいしいディール」である。あるいはBSのご本尊に中国政府系ファンドがいることは周知の事実だが、東京の高級マンションをそのご本尊の中の人が買い漁っている(あるいは買い「支えて」いる)というのはよく耳にする話である。おそらくこういう案件を加速させるのだろう。

もう一つ気になっているのは、これも渡辺さんが触れているとおりだが、新興系企業群である。たとえばいわゆるネットベンチャーなどもその領域に入るが、前述の不動産と同じく、これらは概ね「少し安すぎる」状況にある。また一部で「株価のロングテール現象」と嘲笑されるように、IPO後に株価が低迷しつづけているケースも多い。資本管理以外はまじめに成果を上げている、という会社ほど、危ない状況となる。

この場合、ヘタをすると「IPOによって調達した現金や流動性資産」が「時価総額」を上回り、大げさにいえば「100億の現金を50億の投資で手に入れられる」ということも起こりうる(かつてクレイフィッシュが陥った事態と同じである)。ましてそこに技術やサービスや顧客がセットになっていれば、正しく濡れ手に粟である。資本面の弱点だけに注目してグリーンメーラー的に振る舞うのはほめられたことではないが、それもまた現実の一つであり、資本政策や資本管理が甘い企業は真っ先にターゲットとなろう。

悲観と楽観、そして新しい動き方
このように書くと、なんだかお先真っ暗のような気分にもなる。確かに、先端技術の流出などは法規制をかけるなど、資本の動きを制する手を打たなければなるまい。保護主義的だと言われそうだが、彼らの本拠地である米国自体、たとえばユノカルやニューヨーク港湾管理会社の買収には「愛国」という言葉だけで平然と横やりを入れるように、「国」というプレゼンスや枠組みを政府が守るのは、ある分野では当然の義務とされる。もちろん見境がなくなると困りものだが、たとえば「経済の根幹をなす通貨は誰が承認・保護するもの?」という問いを考えてみれば理解しやすい。

そうした注意や配慮をした上で、期待すべき効能も結構ある。たとえば前述のような資本管理の甘い企業は、そもそも市場から退場すべきだし、少なくとも非上場化といった選択肢を採るべきで、彼らはこうした動きを加速させるだろう。また既得権者が握る権益や商流への参加は、新興系企業にとって高いハードルだ。ここはやり方によっては資本レベルでの揺さぶりが有効なところで、要は「真っ当な資本管理とガバナンスを有し、技術とサービスを開発し、きちんと顧客を確保・開拓している」企業であれば、(直接金融と間接金融のサービス競争も含め)資本市場の活性化はむしろ好機となる。

反対側に回って、日本の事業会社が投資銀行と組んで商流開拓のための投資を広げる、という動き方も十分ありうる。そもそも資本と業務(現場)の動きは必ずしも一体化していないものだが、特に日本の場合はその傾向が顕著で、いくら凄腕の投資銀行家とはいえ、そう容易に案件開拓や投資、あるいは事業遂行できるものではない。一方事業会社の側も、知財や顧客へのアクセスを得るために積極的に投資しようとしているが、技術の詳細までを捉えたデューデリジェンスや投資後の経営・資本管理までは手が回らず、何のために投資したのかが分からなくなるケースも少なくない。

ならば、案件開拓と業務遂行は事業会社が担当し、その事業会社の投資分を含めた資本管理を投資銀行が担当する、という役割分担は、十分ありうるだろう。実際、他ならぬ渡辺さんや私が、時には投資銀行家として、また時には事業会社のアドバイザーとして動いており、事業開発や資本管理をきれいに整理する役割を担っていることが、何よりニーズの証明である。

脆弱な日本の私
こう考えを進めていくと、「他人事とは思えない」という渡辺さんの結語は、少なくとも私たちにとってはヒリヒリするくらい五臓六腑に染み渡る。また、おそらくこのBlogを読まれている読者の方にも「そう遠くないところでの話」となろう。日本の企業の多くがミドル・マネジメントに課題を抱えていることはよく知られたことで、たとえば新たなオーナーがガバナンスに手を突っ込む時、「自分の島の端の席にいる上長」のあたりを触ってくることは容易に想像できる。

また、ここまではあえて新興系企業と書いてきたが、昨日時点での時価総額ランキングを眺めてみると、日本を代表する証券系SIerや、新卒就職人気ランキングで上位常連の広告代理店、あるいは壮大な設備や鉱物の権益を有するはずの企業が、軒並み1兆円を割り込んでいる。もちろんだからといって1兆円で丸ごと買えるわけでもない(しその価値があるのかはまた別の話だ)が、逆に50%を超えれば概ね支配できることを考えれば、1兆円かからないかもしれない。

さらに、たとえばその広告代理店が実質的に民放テレビ局の営業機能を一手に担っており、彼らが手をひいたらテレビ局の実務が成り立たなくなるという現状を考えると、規制産業でさえも間接的には買収の対象となっている。先の新潟沖地震でリケンの工場が被害を受け、結果として各地にある自動車メーカーのラインが止まってしまったことからも分かるように、日本の既存産業は、商流や物流の面でこうした相互依存の構造を有しているところが少なくない(資本すら「持ち合い」である)。ある面で極めて脆弱なのである。

生き残るために必要なこと
おそらくここから先の評価は、では自分が今どんなポジションを取っているのか(取れるのか)ということと直結するため、皆までは書かないし書けない。たとえば広告代理店の例にしても、一度買収されてアンバンドルしてもらった方がいいと考える人は、実は当の代理店の中にさえいるかもしれない。それぞれ立場や状況、考え方によって、見方はまったく異なるのだ。

とはいえいずれにせよ事実として起きることは一つしかない。ならばそれに対して、悲観にせよ楽観にせよ、オプションとシナリオはそれぞれ早急にかつ継続的に整理して、常に先読みをしながらリスクをヘッジするのが得策となろう。それができないのであれば、求道者のようにコツコツと成果を積み上げて外部からの評価を待つしかないが、残念ながら私には、それに耐えるだけの根性も技量も政治力も資本蓄積も、今のところない。

資源も権益もなく、インフラ整備も不十分で、生産性は低く、少子化と人口減少が高速に進み、にもかかわらず内部での諍いに明け暮れてきた日本において、そうした冷静な状況判断とそれに基づく動き方ができなければ、おそらく生き残ることは難しい。BSやMSが上陸するという話が、そんな「サバイバル」の時代にいよいよ突入したことの警鐘のように、少なくとも私には聞こえたのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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