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技術的ベンチャー論

2007/10/07 22:06
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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吉田鎌ヶ迫への訪問
先日、吉田鎌ヶ迫という企業を訪問した。どことなく京都あたりの老舗を連想させるような企業名だが、実際は成長著しい東京のP2P技術ベンチャーである。名前の由来や、具体的に何をしている会社なのかは、同社Webサイトが詳しいのでそちらをご参照されたい。

お邪魔してあれこれ雑談させていただいたのだが、とにかく私が感銘を受けたのはデモの完成度の高さである。実はすでに一部が商品化されており、完成度の高さもその意味では当然なのだが、それにしてもモバイル環境(しかも携帯電話キャリアネットワークというやや特殊なIP網の中)でここまでスムーズに動くものを見たのは初めてだった。

前職時代も含めこれまで10年近く、いろいろなP2Pプラットフォームを見てきた。今回の訪問を機に改めて振り返ってみたが、商品化されたもの、まだ研究開発段階のもの、そしていくつかは頓挫もしている。こうした差はどこから生まれてくるのだろうか。

技術だけでは実現できない
P2Pはいわば「それ自身で新たなネットワークを論理的に構成する」というもので、開発にはそれなりに高い技術水準が求められる。ゆえに究極的にはその差が雌雄を決める面もあるのだが、一方で参入に必要な技術水準がそもそも高いことから、P2Pに挑戦する時点である程度の水準は確保できているとも言える。そう考えると、一概に技術力だけでその成否が分かれるとは考えにくい。

一方、P2Pのビジネス開発要件を考えてみると、実はこちらのハードルが結構高いことに気がつく。というのはP2Pを実現するには一般的に、

・「論理的なネットワーク」として実装されることが多い
・従って、物理的なネットワークとの調整が必要となる
・また同時にアプリケーションもP2Pに最適化する必要がある

といった要件が必要となるからである。このすべてを同時に進めていくマネジメント自体、一筋縄ではいかなそうだ。

またこうした要件を満たしつつサービスを実現するには、アプリケーションとネットワークの両方とのビジネス交渉が必要となる。特にネットワーク側については、場合によってはネットワーク運用の仕様変更を求めることになるが、整然と運用されることが求められるネットワーク層において、この仕事は相当にタフなものだ。

技術ベンチャーの困難
こうした「立ちはだかるものの多さ、大きさ」を考えていくと、特にP2Pの分野では、技術力だけでなくビジネス開発や全体のマネジメント能力を含めた「企業としての総合力」が求められることが分かる。そしてこれをベンチャーという事業体で実現させるためには、その総合力を時々の成長に応じて過不足なく調達・実現していくことも必要となる。

ただ、実はこうした力量はP2Pだけでなく、技術で勝負するベンチャー全般に求められるもののようにも思う。特に、成熟したユーザ環境・市場環境を有する日本では、そこに新たな技術を持ち込んでサービス化するまでに、ビジネスをはじめとする「技術以外の開発」が必要だからだ。少なくとも、その技術がどれだけ優れていても、技術だけではどうにもならない。

逆にいえばそんな敷居の高さが、日本で技術ベンチャーの成立を困難にしている一因なのかもしれない。実際、いわゆるネット系ベンチャーの中には、技術力ではなく営業や資本調達の能力で事業運営している企業が少なくないことは、それなりに知られたことである。また関連して、優秀な技術者が海外に活路を求めるのも、こうした面が影響しているのだろう。

敷居の高さをバネにできるか
こうなると、この敷居の高さはあたかも障壁・障害のように見える。確かに新規参入が容易でないということは、市場の活性化を阻害する要因だ。また、そんな市場周辺から新たなイノベーションがどんどん起きてくるとは、ちょっと想像しづらい。そう考えると、たとえば大企業がもっと新規技術の調達機会を増やすなど、もう少し敷居が低くなってもいいかな、とは思う。

ただ一方で、敷居が高いことのメリットもある。まず、そうした環境で磨かれることで、成功した暁に足腰の強い事業体となりうる。また手間暇はかかるが、自分で技術開発とビジネス開発の両方をハンドルしたり、アプリやインフラとの交渉で場面を打開するという経験は、サービスが本格化する時に既存資産の調整や普及を容易にする。そして実際、今回伺った吉田鎌ヶ迫をはじめ、厳しい環境の中で実力をつけたベンチャーが、ここにきてチラホラ現れているように思う。

もちろん、そもそも敷居はもっと低くなるべきだ。ただ、それが実現するには時間を要するのも事実である。ならば環境変化を待つよりは、今できることは何かを考え、実行した方がより生産的だろう。厳しい環境の中でもできることはあるし、それをバネにすることも不可能ではない。そしてそういう葛藤や試行錯誤こそがベンチャーの価値でもある。そんなことを改めて気づかされる訪問だった。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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