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上位層と下位層の間で(2)

2007/07/19 09:31
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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その1からの続きです)

オールIP化は始まったばかり
あらゆるデジタル通信のインフラにIPを使うという「オールIP化」の多様さや複雑さは前回述べた。ゆえに、すでに見えている問題全般を射程に含めなければ「帯に短し、たすきに長し」な議論になってしまうが、すべてを含めると今度は「二兎を追う者は一兎をも得ず」になる。一見すると、とても解けきれる問題のようには思えない。

これに対し冒頭で触れた総務省「ネットワークの中立性に関する懇談会」と関連WGは、インターネット(を含むIPネットワーク)の発展のために

・ネットワーク中立性という問題の設定・定義
・インターネットの富の再分配に関する議論
・そこでの行政や制度の役割

に関する議論が必要だとしている(と少なくとも私は理解している)。それ自体はとても意義深いし、その必要性は火を見るより明らかだ。特に今回の一連の活動では、トラフィック状況に関する分析や事業者の本音や、P2Pの技術的可能性をバックボーン構造を含めて評価するなど、技術とビジネスのバランスが取れた、現実的な議論が進められている。これは素晴らしい成果だと思う。

だからこそあえて私は、現状のインターネットの産業構造や市場規模だけを前提として、特に制度設計のところまで議論を進めていいのか、とも思っている。というのは、インターネットの普及を含めた「オールIP化」はまだまだ発展途上で、今後急速に実態が変貌していくと考えられるからだ。

たとえば、今後のトラフィックの中心となるであろう動画配信やIPTVの分野では、様々な技術的方法(ストリーミング、マルチキャスト、P2P、QAM変調の送信、等々)やそれに伴うビジネス手段が試みられており、現状ではまったく定まっていない。YouTubeがデファクトを押さえたという指摘もあるが、それは「既存のWebを前提にした小さな世界の話」に過ぎない。バックボーンを含めてプラットフォーム全体が揺れている状況では、現状のスナップショットは必ずブレている、と認識した方がより正確だろう。

もちろんこれは、同懇談会自体も十分認識されているだろう。実際プライスキャップ制の見直し等の細かい調整や公平性確保などの原則論は行っているものの、具体的な制度化の詳細までは踏み込んでいない。同懇談会の成果がそのあたりに留まっているのも、おそらく問題の複雑さの背景にある「今後のオールIP化の成長可能性」を意識しているからではないだろうか。

もっと単純な政策があってもいい
だとすると、私が行政に求めることはもう一つ存在する。それは、もっとインターネットを成長させるための政策を打って欲しい、ということだ。あるいはそれはインターネットだけでなくすべてのIPネットワーク、あるいはIP関連技術でもいい。とにかく、インターネットとその周辺のさらなる成長を後押ししてほしい、ということである。

実は谷脇氏自身も著書の中でそのことに触れている(書評を個人Blogに書いておいた)のだが、

総務省の調査によると、日本の映像、音楽、テキストなどのメディア・コンテンツ市場の規模は11兆円を超えています。ところが、このうちネットワーク経由で配信されているものは、7000億円程度しかありません。全体の一割にも満たない水準です。

という指摘通り、私たちの生活はまだまだ「非インターネット」の状態である。もちろん世の中のすべてがIP化されるべきとまでは思わないにせよ、たとえば比較的親和性の高いメディア・コンテンツ分野に限っても所詮10%未満という状況である。そしてこれは何も日本に限ったことではなく、世界的にも同様である(もちろんそれが20-30%になっている国もあり、すでに部分的には競争力の差として現れつつもあるが)。

だとしたら、もっと単純な産業政策や競争政策があってもいいと思う。たとえば日本のテレビ番組がjoostのようなサービスで視聴できるようにする環境整備。あるいはインターネットをビジネスのインフラとしてもっと使えるようにする技術推進。こうした「インターネットを拡張する何か」の推進がまだまだあっていいし、それが何らかの産業の枠組みや秩序を壊す可能性があるとしても、それはその時に考える、という極論で進めてもいいのではないか。

IP技術のデューデリジェンス
「オールIP化」という言葉が聞こえるようになってきているが、実態としては「みんながIPの話をするようになった」というだけで、まだ「みんながIPを使うようになった」わけではない(さらに言えば本当に「みんな」なのかもまだ怪しい)。それでも「多くの人が話すようになった」というのは大きな進歩である。そもそも人類がこれまで技術基盤を共通化したことは、陶器や青銅器等、数えるほどしかなかったのではないか。

オールIP化の推進には、それくらいの可能性や意義がある。だとしたら現状は、流れを止めずにパイを広げるための施策を、議論の中心に据えるべきだと思う。それこそ、ネットワーク中立性で問題となるレイヤ間の不公平という「七難」も、収益機会の拡大がある程度「隠して」くれるだろう。もしその過程で全体の成長を阻害するほどの圧倒的な不公平や不均衡が生じるなら、行政はその時こそ積極的・機動的に介入すべきだ。

IP技術を小さな枠に押し込めるのは、たとえばシルク・ド・ソレイユの公演を100人収容規模の小劇場で行うようなものだろう。それはあまりにも「デューデリジェンス不足」だし、結果として公演の質も劣化させる。幸い、同懇談会周辺の議論は、こうした意識を持ちながら進められているようである。今後もこうした方向性が維持されることを願いつつ、私自身もインターネットやIP技術の進展について、そろそろその可能性や課題をきちんと考えてみたいと思っている。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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