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禁じられたイノベーション

2007/07/05 22:06
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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YouTubeケータイという衝撃
日本のハードウェアメーカーはいつから牙を抜かれてしまったのか…知人の日記でこのニュースを知った時、こんな書き出しをふと思いついてしまった。

韓国のLG、YouTube携帯の開発へ

韓国の巨大電子機器メーカーLGは、YouTubeの利用に焦点を絞った新しい携帯電話の開発で Googleと契約を交わした。

LGによると、このモデルでユーザーはコンピュータを使わず、直接動画をYouTubeにアップロード、再生、共有することができる。この3G携帯は今年下半期にまずヨーロッパ市場に投入されるとのこと。

特に高度な技術は使っていないと思う。3Gベースで、動画が撮影できる携帯電話端末。唯一最大のポイントは見出しの通り、その動画がYouTubeと高い親和性を持つというくらい。技術的にはすぐできる。ちょっとしたプログラマなら、PDAとイーモバイルのカードあたりを使って、せいぜい1日あれば実装できるような代物だろう。

しかしそれが、日本のメーカーではなくLGから登場する。iPhoneのインパクトは確かに大きいが、2007年夏の東京に暮らす私にとっては、YouTubeケータイの方が簡単であればあるほど、より身近でかつ大きな問題のようにも思えてきている。

ハードウェアメーカーとは何者か
ここでちょっとそもそも論の回り道をしてみたい。ハードウェアメーカーの立ち位置の整理である。

まず、ハードウェアメーカーは、実は粗野で乱暴な一面を持った存在である。たとえば、彼らがやってきたことをややうがった見方で並べると、

・ビデオデッキによる映像の複製の既成事実化と一般化
・ハードディスクレコーダによるテレビのCMスキップの促進
・ウォークマンによるダビングやエアチェックの助長

といったようで、ユーザに様々な利益をもたらす一方、時として自らが依って立つエコノミーでさえもグチャグチャにかき回している。実際、かつてユニバーサルとディズニーがソニーを訴えた(ベータマックス訴訟)ことからも分かるように、特にコンテンツのサプライサイドから見れば、彼らは潜在的には最大の脅威となる。

また、結果的に混乱を助長しているふしもある。というのは、合法・違法の如何に関わらず、コンテンツの流通する機会が増えれば、彼らの作る製品が売れるからだ。彼らに何かしらを幇助する自覚はないだろうが、少なくとも「メーカーという立場」では、何にせよコンテンツの流通機会を奪う理由もまたない(このあたりは、名和小太郎氏の「ディジタル著作権」「情報セキュリティ―理念と歴史」が詳しいはずだが、いずれも手元になく未確認である)。

そしてハードウェアがある程度普及しなければコンテンツはそもそも流通できない。コンテンツの蓄積や産業全体の規模拡大により多少その力関係も変わってきてはいるが、それでもハードウェアが何もないところでコンテンツは流通しない。極端に言えば、彼らは脅威というだけでなく支配者でもある、影響力の大きい存在なのである。

イノベーションを起こす義務
とはいえ、メーカーが暴君だというわけではない。むしろ彼らは、常に各方面に気を遣い、調整や協調を試み、様々な改善や努力を重ねながら、地道に製品開発を進めている。ただ、技術が成熟期から衰退期を迎える時、あるいは市場拡大のブレイクスルーが必要とされる時、彼らの提案する新しい技術が、結果として既存の秩序を壊すことになる。

これは技術を生業とする事業者の宿命でもある。実際そうした行動が、利用スタイルや産業構造を変え、さらには世の中を動かしてきた。逆に言えば、彼らはそうしたイノベーションを起こす責務を負っているとも言える。ベータマックス訴訟の判決の論拠にもなった「技術の中立性」が彼らに認められているのも、その責務を負えばこそだと思う。

そんな彼らが、得意分野だったはずの携帯電話端末で、AppleはおろかLGにも先行を許している。もちろん彼らにも、海外市場での惨敗、国内市場の対応に手一杯、4Gに向けた研究開発等、動けない理由はあるのだろう。しかし一言で言えば、YouTube携帯のようなものを「作れなくなっている」ような気配を感じる。

イノベーションを阻むエコノミー
メーカーの責務が新しい技術へのチャレンジだとしたら、メーカーにはとにかく様々なモノを作ることが求められる。これだけ技術や社会制度が変わる中で、それをキャッチアップし、あるいはリードする商品を、ユーザは欲しているはずだ。そしてメーカーは、そのチャレンジがもし既存の産業や法制度の枠組みを超えるものだとしても、その枠組みに挑んでいける立場にある。ちょうどベータマックスがそうだったように。

しかし現実として、iPhoneはAppleから、YouTubeケータイはLGから発売されている。翻って日本のメーカーは、キャリアのキャンペーンに合わせて新機種を投入するが、目新しさはあまりなく、そろそろやるべきことが尽きてきたようにさえ思う。あとは画質や通信速度といった基本機能の向上か、ICカードによる認証機能等のアドオン程度などの機能拡張くらいしか思いつかない。

もちろん日本の携帯電話サービス全般の洗練には目を見張るものがある。そして端末も日々進歩しているのはよく分かる。ただ、その進歩がコンテンツやコミュニケーション利用のスタイル、ひいては私たちのライフスタイルを変化させ、改善するものなのか。こう自問してみたとき、日本の携帯電話産業は、隘路に陥りつつあるように思える。

理由は複合的なのだろうが、一つは垂直統合の弊害があるのだろう。すなわち、携帯電話キャリアを司令塔とした産業・経済システムが、その整合性や洗練性を重んじるあまり、新たなイノベーションへの制約となりはじめているのではないか、ということである。率直に言って、今のキャリア中心の枠組みで、YouTubeケータイが誕生する余地があるようには思えないのだ(さらにいえばiPhoneの「導入」すら厳しいというのは森さんのご指摘どおりだと思う)。

チャレンジできるエコノミーを取り戻す
正直、iPhoneの時は今回ほど驚かなかった。実物を見ていないというのもあるが、Appleという「特別な会社」の製品だし、そう爆発的に(たとえばiPodのように)世界中で売れるというものでもない。PCとのつながりの強さを知るにつれ、やはりスマートフォンの遠戚のようにも見えてくる。新しいユーザビリティやユーザ体験をもたらしてはくれるだろうが、世の中の携帯電話すべてがiPhoneに追随するとは思えない。

しかしYouTubeケータイの報道に触れた時、日本のメーカーはこのままでは何も生み出せなくなるのではないか、という思いが強くなった。これほど簡単なチャレンジですら、すでに難しくなっているのだとしたら、事態は相当深刻である。できるだけ早く、日本のメーカーが彼ららしい姿でチャレンジできる、そんなエコノミーを取り戻す必要がある。

なにしろ一方では、世界中で激しいイノベーション競争が起きている。こういう「チャレンジからの逃避」を続けることはできないし、日本のメーカーは単なる下請けとなるだろう。さらに言えば、日本の(高い)賃金水準や(低い)生産性では、下請けとしての競争力はそもそもないはずだ。すなわち日本のメーカーは、チャレンジし続けることを宿命づけられており、それをしないということはすでに自己矛盾なのである。

実はこれと同じような構図の案件が身近なところでチラホラ見え始めている。ゆえに私自身も「どこから手をつければいいのか」ということをあれこれ考え始めているのだが、おそらくこれを解くには、一度現場にどっぷりと入り込み、財務状況を含めて現状を探らなければならないだろう。それくらい問題は根深いのだが、なんとか一つでも解きほぐしていきたいと思っている。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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