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MYUTAにおける闘争

2007/05/29 01:42
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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MYUTAの判決
先週末、東京地裁でMYUTAに関する著作権侵害の判断が下された。直後からネット上で大きく報道され、Blog界隈でも「日本中のストレージサービス全般が停止に追い込まれるのでは」といった懸念があちこちで見受けられた。

私も気になって少し追いかけていたのだが、裁判を傍聴したわけでもないし、まして週末の時点では判決文すら読めなかったので、判決が下された直後には判断がつかなかった。ただ、裁判長への個人攻撃なども見受けられるほど過熱した議論には、本当にそうなのだろうか、と少しばかり違和感を覚えてもいた。

今日になって、東京地方裁判所のwebサイトに判決文システム概要図が掲載された。それらを見て、この裁判がそれなりに適切な技術理解の下に行われていたことが分かった。そして知財の取扱いに関する昨今の流れを素人なりに追ってみた限り、「こういう判決になるのだろうな」とも感じた。

私的使用の厳格化という傾向
これは私の理解なので「全然違う」ということであればご指摘いただきたいのだが、前述の知財の取扱いの流れとは、「著作物の私的使用の厳格化」(著作権法第30条の解釈の厳格化)にあると思う。

私的使用を大雑把にまとめると「個人的もしくは家庭内で著作物を使う時は、いくつかの例外を除き、ある条件下で基本的には著作権が制限される(=複製しても構わない)」というものだ。要は「自分で使うなら買ったレコードを自分の機材でテープにダビングしてもいいよ」ということだ。

私的使用は著作物を私的に使用する者に認められた権利のはずだ。しかし同じ著作権法でも第104条では、著作者に「私的録音録画補償金」を受ける権利が認められている。つまり「ダビングされる可能性があるからその分のお金を払ってね」ということだ。両者を単純な比較はできないが、一方で私的使用を認めながら、一方で著作者の利益を(私的使用の如何に関わらず)認めるというのは、前者の権利が小さくなっているように見える。

こうした傾向が背景として存在するなら、やはり私的使用を厳格に判断されてしまうように思う。すなわち、補償金の回収が認められているのだからその有無を厳しくチェックするのは当然だし、少しでも疑義が生じる使用方法であれば私的使用としては認めない、という判断基準の成立である。

私的使用を確実に証明することが求められる
これはあくまで想像だが、その基準で今回の判決をながめてみると、おそらく今回のMYUTAのシステムは、まず「ユーザ自前の機器ではない」というところに弱みがある。その上で、ネット上のストレージの特定領域をユーザが独占的(あるいは排他的)に使用できるか、という判断が必要なのだが、

・ストレージを共用するサーバの時点で怪しい
・オープンネット(インターネット)を利用している時点で怪しい
・ID管理なんて大して意味をなさないので怪しい
・その怪しさを克服していないシステムは「複製・公衆送信」が「不可能ではない」

と見なされてしまうのだろう。そして「疑わしきは罰する」側に傾いてしまう今の流れであれば、不可能でない以上は複製・公衆送信の主体はMYUTAの事業者にある、とされてしまうのではないだろうか。こう解釈していくと、今回の判決も一応理解はできる(同意できるというわけではない)。

こうした判断基準の是非は、正直私にはまだ判断できない。もちろんユーザとしての立場からすれば、できるだけ著作物を自由に利用できることが望ましいが、一方で音楽が産業として成立し、それで生計を立てるアーティストが存在するという現実もある。少なくとも私は、たとえ音楽著作権を管理する某社団法人や某レコード会社が首を傾げさせるような言動を時折とっていたとしても、「とにかくユーザ中心の自由を求める」とばかりは言えない。

いずれにせよ今回の判決をそのまま解釈すれば、現状の法体系は「著作者の権利をできるだけ尊重する」方向で運用されている、と見える。だとしたらユーザ(とサービス事業者)は、疑われないための対策を取る必要があろう。たとえば今回のMYUTAに関して言えば、少なくとも

・ユーザ本人にしかアクセス権がないことを裏付ける「生体認証技術」
・サーバのデータにユーザしかアクセスできないことを裏付ける「通信の暗号化技術」
・データがユーザによって登録・使用されることを裏付ける「ユーザによるDRM技術」

といった技術の実装が必要なのだろう。ただ、これとて判例があるわけではないので実際の法的な有効性があるのか、またこれで本当に確実な私的使用と言えるのか、正直なところ定かではない。

ストレージサービス全般への影響はあまりない?
今回の判決がSaaSやストレージサービス全般にどのような影響を及ぼすか。Blog界隈の論点も一つはそこにあった。これもあくまで素人考えだが、結論としては直接的には影響を及ぼさないのではないか、と思う。むしろそうした影響が出ないように慎重に論点と技術判断を行った判決のようにさえ読める(これはさすがに好意的な見方に過ぎるかもしれない)。

一つは、判決がMYUTAのサービスに一応フォーカスされているように読めたからである。ある程度の流し読みでも理解できると思うが、判決はMYUTAの細かいサービスインターフェースや操作方法、システムフローに多く言及している。いわば重箱の隅をつついているような判決だが、逆に言えばあまり汎用性はないようにも見える。おそらくこの判決からストレージサービス全体に議論を演繹させるのは、そのサービスの多様性から考えてやや飛躍が大きすぎるのではないか。

また判決は、音源データの管理をサービス事業者が率先して行った点から、ユーザによる私的使用を認めなかったように見える。この点は、カラオケ法理と呼ばれる「サービス提供者の責任」に関する解釈が求められる領域であり、今回の判決の影響は慎重な判断が必要だが、たとえば住基ネットでは「データは住民のものであり、行政はそれを預かり管理する立場」という考え方が存在したはずだ。その意味でもこの判決だけでは「サーバにあるデータはそれを管理する事業者のものだ」とはならないだろう。

一方、間接的な影響があるとしたら、近似したサービスの自粛や、必要以上に技術水準を高めてしまい事業の成立を困難とするような、今回の判決のアナウンス効果が考えられる。実際、Blog界隈やブックマークでこれだけ騒がれているということは、すでに何らかのネガティブな心理的影響が及んでいると考えるべきだろう。その意味でも今回の件について、専門家の幅広い意見の開陳を期待するところである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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