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レッドモンドはWebサービスの夢を見るか?

2007/05/11 03:10
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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MSFT/YHOO
先週末、マイクロソフトがYahooを買収する、という報道が世界中を駆けめぐった。

両企業の中の人(特に後者)は気を揉まれたと思うが、この報道に接した時、私は「これは65%くらいの確率で投資銀行筋が打ち上げた観測気球(もしくは何らかの火消し)では?」と思った。週末(現地時間の金曜午前中)に情報が出たこと、ニュースソースがニューヨークポストとウォールストリートジャーナルという組み合わせだったこと、というあたりで何らかの違和感があったからだ。

結局その後打ち消しの発表があったが、それまでの間、様々な論考が見られた。よく目についたのは、doubleclickの買収失敗(それもGoogleに買われてしまった)で焦ったマイクロソフトが買い急いでいるのでは、というものだ。また他にはポータル事業やメディアサービスの強化といった意見もあった。いずれも「メディア事業者として躓きつつあるYahoo」と「その分野を強化したいマイクロソフト」という構図を前提にした考え方だ。

この認識自体は半分正しいと思う。確かに昨今のYahooはメディア事業者のように見える面もあるし、メディア産業ならではの成長の限界を迎えているように思えることもある。そしてそれを打破するには(他のメディア事業者がそうしているように)資本レベルでの新たなブレイクスルーが必要だろう。ただ、この認識をさらに進めると「ではマイクロソフトはメディア事業者としてのYahooが欲しかったのか?」という新たな問いが生じる。

あくまで私見だが、私はマイクロソフトはメディア事業者としてのYahooが欲しかったのではない、と思っている。というのは、マイクロソフトはすでにメディア事業をいくつか手がけているし、やろうと思えば自力で立ち上げられるはずだからだ。もちろんYahooの顧客基盤はそれなりに魅力的だろうが、それでさえMSNやLiveですでにそれなりのものを手にしているし、逆に両者の統合は容易ではなかろう。

Webサービスは結構難しい?
ではマイクロソフトがYahooに見出した魅力は何か。私はもう少しシンプルに、彼らは単純にWebサービス・ベンダとしてのYahooが欲しかったのではないか、と考えている。日本ではあまりそのようには認識されていないが、米国のYahooはWebサービスの主要プレイヤーでもある。

少し前のエントリでも書いたように、マイクロソフトはOSをはじめとするローカル環境を中心に、そこから派生する形で様々な取組みを進めている。その一つにMSNやLive等のWebサービスがあるのだが、平たく言うとこれがあまりうまくいっていないように見える。それこそ、同社の副社長(Vice President)を勤められた古川さんがご自身のBlogでも書かれているように、インターフェースも機能も不十分な状態である。

マイクロソフトほどのソフトウェアの巨人がなぜWebサービスにこれほど苦しむのか。私自身も最初はよく分からなかったのだが、よくよく考えてみれば単純に、マイクロソフトといえども苦手分野はあるし、Webサービスは世の中で考えられているほど簡単なものではない、ということに気づくようになった。

前述のように同社は基本的にWindowsやOfficeを事業戦略の中核に据えている。いわばそれらが彼らにとっての生命線であり、この品質を高めることに多くのリソースが投入されているはずだ。しかし、ではWindowsやOfficeと同じような作り方でWebサービスができるか、と言えばそうではないだろう。大きさの大小に関わらず、両者は別のアーキテクチャを持ったソフトウェアであり、従って作り方も別なはずだ。同じ日本語でも、ミュージカルの舞台と漫才では、発声法も呼吸も異なるのと似たような話である。

ならば、その作り方に合ったプロジェクト遂行やリソース投入を行わなければならないが、マイクロソフトはそれが十分できていないのだろう。すなわち、漫才をはじめてみたら相方がミュージカル俳優だった、という状況である。しばらく続けてみたが、やはりミュージカルならではの腹式呼吸で声を張るクセが抜けず、どうにもツッコミにくい。だったらミュージカル俳優をそのまま育てるよりも、漫才経験のある新たな相方を見つけてこよう…その有力候補がYahooだったのではないか、と思うのである。

Googleだって悩んでいる
Webが情報流通のプラットフォームとして広く浸透したことで、アプリケーションのWebサービス化がどんどん進んでいる。これに伴って、何から取り組んでいけばいいのか、という相談を受けることがあるのだが、お話をうかがっていると、Webサービスは作りやすくユーザを集めやすい、また場合によってはユーザ自身がバージョンアップやデータの収集に参画してくれるので事業効率がよい(いわゆるWeb2.0的期待感)という認識が背景にあるように思える。

確かにWebサービスは、デリバリの方法も簡単だし、利用環境を完全にはデスクトップには依存せずブラウザ内に留めておけるため、従来のデスクトップ・アプリケーションに比べ、提供側がより気軽にサービスを提供できる。それゆえに、アプリケーション開発や提供のフットワークは軽くなったし、ユーザの声もより迅速に取り入れやすい。

しかしこれらの利点は全部裏返して、制約条件にもなる。たとえば、フットワークを軽くする環境が整ったということは、当然競合もフットワークが軽いわけで、自らの機動性をより高めなければならない。ということは、アプリケーション開発主体が組織である以上、機動性を高める前提となる人員の確保も質量ともに必要だし、またそれを組織としての機動性に結びつけるためのオペレーションも求められる。さらに人員を確保するということは、それなりの安定さと規模を有した事業基盤が不可欠だ。

そのことは、それこそWebサービスの巨人であるGoogleの動きを見ても分かる。彼らは常に世界中で様々な人材を集めているが、それは単にGoogleにその余裕と魅力がある、というだけでなく、GoogleがWebサービスの巨人であるために、それだけの人員が必要だということに他ならない。さらに一度リリースしたサービスを安定的に運用させるには、また新たな人員が必要だ。こうしたサイクルはしばらく継続しており、だからこそ彼らは常に人材問題に頭を悩ませているのである。

それぞれのアプローチがあっていい
そう考えると、マイクロソフトが些か行き詰まりつつある自身のWebサービスのさらなる展開を求め、Googleに対抗するもう一方の巨人として実績と能力を(量的にも)備えるYahooに白羽の矢を立てたくなるのも、少しは理解できる。

ただ、YahooにはYahooの事情があろう(その戦略が正しいかはさておき、彼らはメディア事業者としての価値を評価されたがっているように見える)し、さらに言ってしまえばマイクロソフトがWebサービスにリソースを多く割くことの妥当性検証や、あるいは進むにしてもマイクロソフトなりのアプローチを模索する方が先決のような気もする。

特にマイクロソフトには、デスクトップという圧倒的なアセットがある。たまに「Webが(あるいはインターネットが)OSになる」という言説を見かけるけれど、今のところそのWebやネットのアプリケーションはすべでデスクトップ環境の上で成立しており、このアーキテクチャを変えるにはハードウェアに至るまで抜本的な変革が必要となる。そう考える限り、今のアーキテクチャの中でデスクトップを支配していることは、今のところ(その善し悪しは別にして)圧倒的な競争優位であり、それを活かさない手はない。

その意味で、今回ディールが成立しなかったというのは、両者にとって正しい選択だったように思える。また逆に、こうしたディールが(両者以外にも)今後登場するとして、その後の調和は相当難しいとも思われる。おそらくWebサービスの事業化や統合を進める際には、こうした点にも配慮が必要となっていくだろう。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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