Blogを使った映画のプロモーション
映画情報のサイトを運営している知人から、「こんなキャンペーンをやっています」と連絡をもらった。
冒頭からやや横道にそれるが、いわゆる開発・援助に関しては世の中に賛否両論ある。なにしろ私自身も手放しで「国連は素晴らしい」などとは到底思えない一人である。ただ今回の「井戸を掘る」というゴール設定のセンスには共感した。緊急性の有無で方法は変わるにせよ、やはり当地に暮らす人々が少しでも自立できるための手助けであるべきだと思う。そんなわけで、別のBlogで一口参加した。
さておき、このキャンペーンの背景には「映画のプロモーション」というもう一つの目的がある。商業映画の場合、当然お客さんが入ってナンボなので、まずはその映画の存在を知ってもらわなければ話にならない。また映画の場合、上映場所や期間が決まっている。いわゆるAIDMAの「アテンション」の部分が重要になる、ということである。
その観点からすると、Blogを使ったキャンペーンは、大してコストもかからず、また比較的関心の強い人のリーチをつかめる。さらに、単なるバナーの貼り付けだけでなく、YouTubeを使ってトレイラーも貼り付けられるなど、手段は高度化・多様化した。特に全体的な予算規模が大きくない映画(たとえば単館上演作品)には、筋のいい手段だと思う。
と、ここまで書いてみてふと思った。単に筋がいいだけではなく、実はこれこそが映画が生き残る道なのではないか、と。
立派な成熟産業
まず足下の数字を調べてみた。入場人数、興行収入、ともに前年比2%強程度の成長である。このところの日本の潜在成長率が同じく2%前後と言われているので、日本経済と同程度の成熟ぶりである。
次にこの表の過去30年分をグラフにしてみると、人数と収入のいずれも、ほとんど変化していないことが分かる。収入が一応増えているのは単価が上がったからで、それとて単価上昇分がきちんと反映されているかは精査しないと分からない。過去30年の日本は(最近変わったものの)曲がりなりにも人口・GDP共に増加トレンドにあったので、それと照らして映画の成熟ぶりがうかがえる。

この統計は他にもいろいろな項目があり、あれこれ分析したくなる誘惑にかられるが、それはまた別の機会に譲る。とにかくここから分かったのは、この30年でほとんど成長していない(ということはマクロレベルで相対化するとマイルドに衰退している)産業だと言うことだ。
2次流通の台頭
市場がゆるやかに縮小しているように見える一方で、製作費自体は上昇しているように見える。もちろん作品によって状況は異なるが、いわゆるテレビ局主導のイベント・ピクチャーに近い大がかりな作品群は、それなりの数字を張っていると喧伝している(製作費の数字自体は少し本格的に調べないと明らかにならないので、ここでは感覚値で仮定する)。両者の関係だけを考えると、映画の収益性は悪化しているように見える。しかしここで注目すべきは、2次流通の台頭である。
商業映画の流通構造をおさらいすると、「1次流通」と「2次流通(あるいはn次流通)」に大別される。前者は劇場上映、後者はテレビ放映やDVDなどのパッケージ販売、またキャラクターグッズ販売などである。1次流通だけで回収できれば業界としては御の字なのだが、少なくとも日本では30-40年ほど前から、2次流通を念頭に置かなければ産業として成立しなくなってきた、と言われる。ちなみに、このあたりの先鞭をつけたのが初期の角川映画であろう。
さておき、現在2次流通はさらに重要な地位を占めつつある。これまでは1次流通のリスクヘッジ手段だったものが、ここ最近は2次流通の収益を予め製作段階から見込んでおかなければ映画化できない状況になってきている。よくクレジットロールに「製作:○○製作委員会」と表示されるが、あれは1次流通と2次流通の権利を確保した出資者たちがコンソーシアムを組んで出資して権利を確保しています、という意味の宣言である。
このスキームが洗練されることで、映画の製作規模は大きくなった。特に、エンジェル(個人投資家)の存在や企業・個人を対象としたファンドなど、多様なファイナンス・スキームが充実するハリウッドとは異なり、何らかの「出口」を有する事業者が出資するスタイルがまだまだ一般的である日本では、流通の最終段階まできっちりとスキーム化することが大きなリスクヘッジであり、また収益化のレバレッジともなる。すなわち、1次流通だけでなく2次流通も射程に含めた収穫構造の構築を予め見通した上で、そこに直接的に関係する事業者の出資規模拡大によって、製作費は大きく育ったと考えられる。
パラドクスの発生
ところが、この洗練化に大きなパラドクスがありそうな気配がする。
2次流通の例は前述した。手段は多様化しているが、大きいのはテレビ放映やDVD化など、映像としての再利用である。つまり、家庭のテレビモニタで視聴するというスタイルだ。だとすると、二つの課題が見えてくる。
一つは、テレビモニタでの視聴という2次利用を製作当初から意識することで、結果として1次流通をさらに細らせてしまう可能性がある、ということである。平たく言えば、「テレビで観やすいように作ってあるなら、映画館に行かなくてもいいじゃないか」というユーザの声である。
実際「映画を観に出かける」というのは大きなイベントである。シネマ・コンプレックスの拡大など、劇場側もユーザニーズに応えようとあれこれ考えているが、それでも「作品を調べる→場所を調べる→上映時間を調べる→家を出る→切符を買う→待つ→観る→帰宅する」と、単に並べただけでもプロセスは結構重い。そうやって苦労して観に出かけた作品がテレビ向きに作られているのであれば、今後は素直にテレビで観ればいい、とユーザが考えても不思議ではない。ましてユーザは自室に大型のパネルとそれなりの音響システムを手に入れつつある。
もう一つは、上記の延長として、テレビ視聴というスタイルとの競合が発生することで、2次流通をも細らせてしまう可能性がある、ということである。すなわち、そもそもテレビで観ることを念頭に置いているなら、作品の作り方自体も映画の枠にとらわれずテレビに合わせればいい、という考え方である。昨今、「24」や「プリズン・ブレイク」といった長編ドラマが流行しているのもその現象の一つのように思える。むしろユーザが積極的に「映画ではなくドラマが観たい」と思い始めている気配すら感じる。
さらにこれに派生して言及すると、そもそもモニタの奪い合いが始まっている。放送だけでもパイの奪い合いを行っている上に、HDRの蓄積映像視聴やビデオゲームも強力な競合である。さらに今後はここにネットサービスが入ってくる可能性がある。現状では「映画視聴」はそれなりの地位を得ているが、今後は相当の覚悟が必要である。
メディア産業のテストベッドとしての映画
こうすると、もはや映画は産業として成立しなくなってくるのではないだろうか。少なくとも映画単体で考えると、映像サービス、利用環境、ユーザの利用スタイルの変化等によって、すでに「ダウン・サイジング」という構造変化を起こしつつあるように思える。実際、ハリウッドがなぜCGに傾倒しているのかを考える上で、このストーリーが補助線としてそれなりに辻褄を整えそうなのがさらに気になる。
ぐるっと回って、だからこそ、ダウン・サイジングに見合った事業手段を確立することが求められているように思える。たとえば冒頭のBlogによるプロモーションもその一つで、より小さな予算で効率的にリーチするための知恵を絞ることが、映画がメディアの一つとして生き残る上で必要な手段なのではないか。そう思えるのである。
ところで、「なぜ情報通信インサイトなのに映画?」と思われる方もいらっしゃるだろう。もちろん映画好きの筆者の趣味で書いているところも大きいのだが、この「メディアの適正規模の感覚」というのは、情報通信の面でも今後の大きなテーマになる気がしているのだ。
たとえば最近IPTVに関する議論が盛んだ。だが聞こえてくる話は、IPマルチキャストを使うか電波を使うか、その時のスペックはどうするか、権利処理をどう考えるか、といった、いわばサプライサイドの話に終始しているように思える。
しかし極論すれば、ユーザにとって伝送路が何であるかは、どうでもいい問題である。むしろ今日の(かつこれからの)生活において「テレビを観る」とはユーザにとってどんな意味があるのか、それがユーザの何を幸せにするのか、その時にどんな伝送路をどう使うことがユーザの便益を最大化するのか、といった「生活におけるテレビというサービスの位置づけ」に関する議論を深めなければ、本当は意味がないはずだ。
その時、映画の姿は一つの好例になるのではないか。そう思っているのである。
とはいえ私自身も、どこをどう整理すればいいのかは、まだつかみかねている。だが、私自身の大きなテーマでもあり、引き続き追いかけたいと思っている。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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