お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

今度こそ真面目にアニメの将来を考えようと思う

2007/09/20 02:36
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

寺本由美子

本名とタイトルのペンネームが異なっているのはご愛敬(話せば長~い物語あり)。IT系の話題からゲームのレビューまで、自由気ままに発信します。iPadやiPhoneなど、大好きな電脳小物についても熱く語りたいですね。Twitterにも出没中。ブログへのコメントも、@kirifue へどうぞ。
ブログ管理

最近のエントリー

アニメの将来について「ローゼン麻生」総理大臣にオタク文化の未来を託すで、あまりにも悲観的な意見を書いてしまって読み返すたびに後悔した。夜に文章を書くと、どうも行き過ぎてしまうことがあるようだ(反省..)。このままでは誤解を生むかもしれないので、今一度真剣にアニメ業界について考えてみようと思う。

バンダイビジュアルにせよ手塚プロダクションにせよ、力のある企業はいい。自力で海外に進出できるから。しかし、日本のアニメを支えているのは中小のアニメ制作会社であり、底辺にいる多くのアニメーター達である。これらを擁護し育成し発展させ海外進出の足場作りを担うことこそ、政治の役目なのだと思う。

Anime_businessこの文章は言い過ぎだったかもしれない。まるで海外進出しているのがごく限られたアニメ制作会社だけであるかのようだ。と言っても、裏打ちするようなデータをネット上で調べるのには限界がある。そんな折、本屋を散策していたら『アニメビジネスがわかる』(元マッドハウス代表取締役 増田弘道著)を見つけたので即購入した。

前半部分は、2005年度におけるアニメビジネスの詳細なデータを網羅している。TVアニメや劇場映画、OVAの「製作規模」「市場規模」「製作者の付加価値」「流通付加価値」など、データが公表されていないような不透明な部分(例えばTV広告の枠代)についても推定し算出している。いかんせん検証が不可能なデータが多いのだが、それは業界の旧態然とした体質によるところが大きい。著者自身も調査に限界を感じているようで「明らかな誤りがある場合はご指摘願えたら幸いである」と書いている。

後半部分は「アニメ産業発展の秘密」として「なぜ日本のアニメは伸び続けるのか」に焦点を当て「日本アニメの成長の秘密」に迫っている。また「アニメ産業の問題点」を抽出し、どうすればその問題点を克服できるのかを考察する。最後に、アニメ産業発展への戦略的な「アニメソフトパワー論」を展開している。

さて、この本を頼りに、日本のアニメ産業の問題点に迫ってみたいと思う。

アニメ産業の現状をデータから読み解く

2005年の日本市場と海外市場のデータを比較する(1千万の桁で四捨五入)。
グロス市場とは「アニメ産業全体の売上」のことで、アニメの興行、放送、商品化の小売価格市場を言う。
ネット市場とは「アニメ製作者としての売上」のことで、流通に卸す価格であり、海外興行権(劇場アニメ)、放送権、ビデオグラム化権、商品化ライセンス権の売上の総体を言う。

グロス市場 ネット市場
国内一次利用市場 569億円 179億円
国内二次利用市場 7910億円 680億円
海外市場 7934億円 220億円

ご覧のように、グロスでは小売市場の半分近くを海外市場が占めているが、ネット収益率は実に4分の1にまで落ち込んでいる。コンテンツとしては世界に広く認知され、流通付加価値も高い。しかし、それらがうまくビジネスに結びついていないという実態が浮かび上がる。その原因は一体どこにあるのか。

日本のアニメの問題点

問題点として本書では以下の7つが挙げられている。

1.デジタルがもたらす急激な変化
 2Dアニメから3Dアニメへの移行、アニメ制作における職制・システムの変化。
2.アニメとウィンドウを巡る問題
 地上波テレビメディアの一極支配の問題、放送と通信の統合。
3.作品供給過多の恐怖
 需要に比べて作品数が多すぎるという懸念。
4.企業体質の弱さ?資本の集中と産業地図の変化
 脆弱な企業体質と、業界の再編・統合の動き。
5.海外制作による産業の空洞化
 海外へのアウトソーシンクによる弱体化。
6.忍び寄る少子化
 キッズ・ファミリーアニメや青年層向けアニメの減少。
7.人材不足
 プロデューサー、原作者、現場の人材不足。

4.の「企業体質の弱さ」については、以下のような記述がある。

それにしてもアニメ関連企業で上場している企業は少なく、10社に満たない。他のエンタティンメント産業主要社の売上と比較するとその規模がわかりやすいが、日本のアニメ業界が文字通り「中小企業の社長と現場の職人気質」で支えられているからということがわかる。

また、将来的には脆弱な企業は淘汰され資本が集中していくであろうと予想しているが、現時点においては国内でなんとか踏ん張っている中小企業は多いと思う。

格差を生む要因は元々の資本力のせいだけではない。2.の「ウィンドウを巡る問題」で取り上げられているように、TV局などの放送業界の慣習によるところが大きい。孫引きになるが、以下は日本動画協会の事務局長山口康男氏の『日本アニメ全史』からの引用である。

テレビ局はプロダクション(筆者注:アニメ製作会社の意味)との制作取引契約において、地上波や二次利用権等保有、または拡大を求めるなど、競争政策の視点から、かねてその(筆者注:独占禁止法の)優位的地位の濫用が問題として取り上げられてきたが、さしたる前進が見られないばかりか、ますます肥大化の一途をたどっている。映画、パッケージなどの分野でもテレビ局の一極支配が際立ってきている。まさにテレビ局はプロダクションの生殺与奪権を握っているのである。

放送局から支払われる金額は製作費に満たないかあるいは全くタダのこともあり、低予算での制作を余儀なくされた現場は低賃金や過重労働に甘んじなければならないという。そもそもアニメ作品の著作権が製作企業には無いという事実に驚愕する。テレビ局はあくまで放送する権利を有するのであって、ビデオを売ったり主題歌のCDを出版したりするような権利を持つものではないと思う。しかも足りもしない金額でその権利を買い取ったと主張できるのだろうか。

これについては明るいニュースもある。経済産業省とアニメ業界による「アニメーション産業研究会」が『アニメーション製作に関する標準契約書案』を作成し、作品の著作権はアニメ製作企業にあるという主旨を明確にした。これにならい、2004年4月にはNHKが『番組制作委託取引における自主規律』を定め、委託企業にも著作権の一部を認めた。まあ、これは当然だろう、NHKがやらずしてどうする。

一番の問題はやはり人材不足

人材不足は、特にプロデューサーに当たる職種が弱い。著者もネット収益率が低いのは契約等の交渉力の問題であると考えている。企画から制作・販売に至るまで、広範囲かつ強力なマーケッティング力を持った人材の登場が望まれる。と言うと受身に聞こえるが、経営学の知識をアニメ業界に活かせるような専門教育を行う体制作りが今後目指すべき方向であろう。

原作者の不足については、私はさほど心配はしていない。著者が言うように現在、マンガ・アニメ界を目指す人材は減ってきているかもしれないが、また別の、例えばYouTubeニコニコ動画コミックマーケットといったメディア・場所において、他人の目を意識した制作活動が盛んに行われている。すぐには成果が見えないかもしれないが、確実に人材は育ちつつある。専門の教育施設が必要なのはもちろんのこと、さらにこのような参加型メディアを手厚く保護することこそ、コンテンツ大国・ストーリーテラー大国日本を躍進させる鍵であると思う。

最後に「現場」の人材不足について。アニメーターと言うと3Kの代表格のように思われがちである。しかし著者はアニメーターの給料が安いのは「職制でいえばほとんどが訓練課程としての『動画』職の人間で、相撲でいえば序の口から幕下に相当する職位である」とし、「アニメーターも相撲取りも職業特性としては同じ実力の世界に住んでいるのである」と言い放つ。これはちょっと言いすぎの感がある。相撲は徒弟制度のような社会と階級性を持ち、しかも住み込みで修行する。衣食住まで面倒を見てくれる相撲界とは比較にならないだろう。

デジタル化が進んで動画や彩色といった工程が自動化したならば、アニメーターという職種そのものがなくなる可能性はなきにしもあらずだが、現状では重要な職種である。その工程をアウトソーシンクと称して、海外に丸投げするのはいかがなものか。製作工程のスタンダードを世界に広めるのとは次元が異なる話だ。ただでさえ希望職種としての順位がゲームクリエーターやプログラマに負けているのに、アニメ業界の裾野を狭めるような行為であろう。アメリカは完全に3Dアニメにシフトしてしまったので日本の2Dアニメと競合することはないが(3Dアニメと2Dアニメはジャンルが異なると思う)、むしろ脅威なのは韓国などのアジア諸国である。つまり日本の人材を育てずに、海外の人材を育成しているというのが実状に近い。著者はこの問題に関してはしごく楽観的なのが気になる。

前述の問題とも絡んでくるが、もっとアニメ業界全体の地位を向上し、確固たる経済力を身につけることこそ真っ先に成すべきことであろう。国内では著作権を主張して製作企業による二次利用を進め、インターネットや携帯等の新規メディアへ積極的に配信を行うこと。海外市場へは周到な戦略をもって臨み、国際競争に打ち勝ってネット収益を上げること。この二点を目標とすべきだ。

YouTubeやニコ動を眺めていると「神」と揶揄されるような実力あるシロウトの作品に気づく。その迫力ある動画にしばし圧倒される。しかし、これらの作者がアニメーターを目指しているのかどうかと考えてみると、ほとんどいないんじゃないかと思えてくる。アニメーターが見た目の華やかさにおいても経済的な面においても魅力ある職種でなければ、優秀な人材は集まろうはずもない。いや、華やかさはトップクリエーター(宮崎駿氏を筆頭とした)に求めることもできる。が、せめてアニメーターの初任給でごくフツーの生活が保てるくらいに、アニメ産業全体が底上げされればなあと思うのだ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー

個人情報保護方針
利用規約
訂正
広告について
運営会社