邦題の「私はこうして受付からCEOになった」だけ見ると、立身出世物語なのかと想像してしまうのですが、原題は「Tough Choices」です。こちらの方が、より、本書の内容を表現しています*1。
ですが、私が、本書を手に取ったのは、題にひかれたわけではなく、著者が、カーリー・フィオリーナ氏だったからです。本書は、Compaq合併を成功させた元HPのCEO(1999.7〜2005.2)であるフィオリーナ氏の自叙伝です。
前半は、キャリアアップの話ですが、後半は、メインであるHPのCEO時代の話になっています。
新しい環境にすぐに溶け込むために、フィオリーナ氏は、人に多くの質問を投げかけ、相手を理解し、コミュニケーションを確立しています。この行動は、参考になります。私は、人見知りするタイプなので、新しい環境や、初対面の方と会うときは、どうしても臆病な行動を取ってしまいます。この面に関しては、フィオリーナ氏は、達人とも思えるほどです。
ルーセント時代のアセンド買収時の両社のミーティングの逸話は、初めて知りました。私は、この箇所を読んだ時、目が点になり、そして声を出して笑ってしまったほどです*2。フィオリーナ氏が、こんな姉御肌だったとは。
ですが、ここは単に笑うところではありません。コミュニケーションを行う場合、民族や文化の違いが考慮に入れる必要があるはずです。フィオリーナ氏は、完全に文化が違うイタリアの会社や韓国の会社とのコミュニケーションをとるときに、相手に合わせています。決して、自分のスタイル(アメリカのスタイル)を押し付けていません。そうです、アセンドとのミーティングの武勇伝も、相手に合わしただけです。
このため、どのような集団(ただし、HPの取締役会を除いて)でもコミュニケーションがうまくいっていたのでしょう。Compaq買収の様な大規模で文化が違う会社をひとつにできたのは、このあたりに要因があるのかも知れません。
HPのCEOに就任後は、受難続きでした。問題は、山積みだったと思いますが、解決するために、垂直型集団を、部門の垣根を越えて水平的協力を行えるようにし、顧客、提携先、社員に話を聞き、問題点を抽出したところでしょうか。
この二つ行動は、日産を立て直したカルロス・ゴーン氏の行動とダブって仕方ありません。官僚的になりすぎて、顧客志向を失った会社を立て直すには、この方法が正攻法なのかも知れません。
また、HPのCEO時代で、もっとも大きなイベントだったCompaq買収(とそれに伴うレイオフ)に関しては、妥当な判断でしたが、創業者一族とのプロキシーファイト(委任状争奪戦)となったのは、不幸なことでした。ですが、HPが飛躍的に成長を遂げた要因は、Compaq買収です。
どれだけCompaq買収が正しかったかは、「PC出荷台数シェア (Q3'07)」と「サーバ市場の状況(Q3'07)」を参照してもらえばわかりますが、どちらも市場1、2の位置にいます。
また、売り上げの推移も以下のようになっています。HPのライバルと言われていたDellとIBMのデータと比べました。金額は、億ドルです。
| Year | HP | Compaq | Dell | IBM |
|---|---|---|---|---|
| 2000 | 488 | 424 | 318 | 883 |
| 2001 | 452 | 338 | 311 | 858 |
| 2002 | 723 | - | 354 | 811 |
| 2003 | 730 | - | 414 | 891 |
| 2004 | 799 | - | 492 | 962 |
| 2005 | 866 | - | 559 | 911 |
| 2006 | 916 | - | 571 | 914 |
とうとう、HPは、2006年にIBM超えを達成しています*3。
Compaq買収を反対した創業者一族の判断は、まちがっていたのですが、プロキシーファイトの様な無駄な事にパワーを割かなくてはいけなかったフィオリーナ氏の足枷は、他の雇われCEOよりも大きかったと言わざるを得ません。
私は、HPの中の人ではありませんし、一般的なIT系ニュース程度しか読んでいません。それで、元CEOの言い分のみを聞いて、HP内紛を判断するのは、正しくないかも知れません。ですが、非公開な会の内情をリークするような取締役会は、機能していないと糾弾されても仕方がありません。
また、フィオリーナ氏の更迭後、HPの売り上げ高は、一気に伸びましたが、それは、好景気の影響もあるでしょう。特に、フィオリーナ氏は、インターネットバブル崩壊後のもっとも、きつい時代の舵取りをしています。このため、現CEOのマーク・ハード氏との手腕比較は、数字だけで行うのは、フェアではありません。
そう考えると、フィオリーナ氏には、もう少しCEO続投させるべきではなかったのではないかと思えてなりません。
後、本書の様な更迭された大物のCEOの自叙伝は、これが最後かもしれません。
なぜなら、CEO更迭事件といえば、最近では、元DellのCEOであるケビン・ロリンズ氏の更迭が有名ですが、退職時に、少なくない退職金を払い、「非軽蔑」条項の下、お互いの悪口を言わないことで合意しています。
会社のイメージを悪化させないためにも、今後は同様な契約を交わすケースが増えてくるでしょう。そうなると、残念ながら、大物CEOの更迭話(内輪モメ話)は、この後、出ないかも知れません。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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