最終更新時刻:2008年10月7日(火) 20時16分

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Appleの選択

公開日時:
2006/05/03 16:16
著者:
櫻吉 清(さくらきち きよし)

アップルを待ち受ける「成長の限界」

Appleは、なぜCPUの供給先をIBMからIntelに変えたのでしょうか?なぜ、PPCアーキテクチャであるCellを採用しなかったのでしょうか?また、Intelのライバルである同じx86アーキテクチャを作っているAMDにしようと、考えなかったのでしょうか?これらに関して、これを機会に考察してみようと思います。

【IBMと袂を分かった理由】

IBMと袂を分かった理由は、IBMから、Intelに変更したメリット・デメリットをあげてみることによって、見えてくるような気がします。メリットを上げてみます。

  • モバイル向けの性能がいいCPU(Pentium M)の既にラインナップがあった
  • 単位あたりの消費電力が非常にいいロードマップを提示できた(これは、Jobs氏が言っていた)

PowerBookシリーズ(ハイエンドノート)にG5を乗せられないジレンマを解決してくれたのは、他ならないIntelのCore Duoでした。また、IBMは、3.0GHzのPower G5を出すと明言しておきながら、未だに出荷できてないことをAppleは、IBMの開発能力を懐疑的に見ているのかも知れません(IBMの半導体製造能力は、決して低くないようです。AMDは、IBMと共同で設計を行うことによって、成果をあげています。)。このため、Appleとしては、IBMよりもIntelの方がよりいいCPUを作成メーカになります。次にPPC→x86へ移行したときのデメリットを挙げてみましょう。

  • アーキテクチャ変更に伴うユーザ(ソフト開発者)の負担(Adobeは、Photoshopを2007年に出荷予定)
  • 在庫の抱えるリスク(実際Intel Macは、売れ行きが良くはないようです)

Appleは、一度CPUアーキテクチャの変更の経験があるため、デメリットで挙げた項目は、困難でないと判断したのでしょう。これは、多くの評論家も同じ判断を下していますし、私もそう思います。Appleとしては、Appleの作成したクールな筐体とMac OS Xさえ動けば中身は、なんでもいいのでしょう。このため、IBMよりも消費電力が良いCPUを、将来にわたって提供されるならば、Appleは、躊躇なくIBMを切り捨てる選択ができたのでしょう。

【Cellを採用しなかった理由】

Cellは、Power Mac G5のCPUと同じPowerPC 970互換です。このためx86よりも移行は、容易でしょう。Cellは、浮動小数点演算では、250GFLOPSも出すほど優秀です。Cellを用いれば、Appleが得意とするメディア系でWintel陣営を寄せ付けないこともできたでしょう。そこで、採用に至らなかった理由は、何があるのでしょうか?

  • Cellの全機能を使うためには、難しいアーキテクチャ(ヘテロジニアスマルチコアに実績なし)
  • 汎用CPUコアが、決して速いタイプでなかい
  • 動作や出荷に実績が無いこと(採用した場合に、2006年以内に移行は不可能だったでしょう)
  • 消費電力に優れたコアではないこと(モバイル向けCPUを準備できない)

リスクが高く且つAppleが必要としているモバイル向けCPUがないため、Cellを採用するメリットが無かったと考えるのが妥当です。

【AMDを採用しなかった理由】

AppleがIntel採用を発表した2005年6月において、デスクトップの分野で消費電力に優れたx86のCPUを出荷できたのは、Intel(Pentium 4)ではなく、AMD(Ahtlon 64)でした。また、Appleが欲していた強力なモバイルCPUも、AMDにはTurionシリーズがありました。さらに、AMDは、Intelと違いすべてのカテゴリにおいて、既に64bit化に移行済みでした。これは、2006年5月の時点では、Intelは、モバイルCPUにおいても、未だに到達できていません(2006年8月には、64bitに対応したMeromを発表予定)。また、AMDも十分に優秀なロードマップを提示できるはずです。Appleとしては、IBMから移行は仕方が無い選択肢とは言え、Intelに限る必要性は、ありませんでした。では、Intelが、AMDより優れている点を上げて、考えてみます。

  • より確かなロードマップの提示
  • 生産能力
  • 値引率
  • 開発費の低減

ロードマップには関しては、どちらがよりいいかは、判別はできないものです。実際の製品を見るまでは。Pentium 4が5GHzまで到達できると言われていましたが、実際は、3.8GHzで終わりました。これは、ロードマップが、必ずしも信用できないことを示しています。このため、ロードマップを鵜呑みする人は、この業界居ないため、Intel採用に傾いた理由にはならないでしょう。

生産能力は、少しだけうなずける要素があります。Appleは、PC市場の2.5%です。AMDの市場支配率は、20%前後です。このため、AMDに、今までの10%も増産するのは、大変なことでしょう。ですが、Intelに依頼すれば、それはたいした量ではありません。このため、Intelの方がより安定してCPUを供給できると判断したのではないでしょうか。但し、AMDは、2006Q2にFab 36が稼動するため、十分にAppleの要求に対応できた可能性はありました。このため、生産能力が足かせになったわけではないでしょう(ただ、新Fabの立ち上げ予定は、ロードマップを信用するよりも、より懐疑的に見えますよね)。

値引率に関しては、実際は、よく分かりません。ですが興味深いことが2つあります。Intel Macは、Intelのシールがありません。Core Duo/SoloとCentrinoのシールがつけれるはずですが、Macには、ありません。これは、クールなPCしか出荷しないAppleとしては、無様なシールを貼ることは、プライドが許されないところです。となると、値引きに応じていないのでしょうか?ですが、PowerMac Proが2006年1月に発表されたときには、搭載CPUは、1.67GHz(Core Duo T2300)と1.83GHz(Core Duo T2400)でした。ですが、実際に出荷を行ったのは、1.83GHzと2.00GHzでした。これは、出荷時に、CPUをワンランク上げたことになります。それも値段を上げずにです。製品の発表から出荷まで2ヶ月近くありましたが、その間に値段が下がったとは聞いたことがありません。と、なると、値引き交渉に応じた(させれられた?)と考えるが妥当でしょう。どのていど、他のメーカに対するのと違うのか分かりませんが、たった市場の2%前後しかないメーカへの対応とは思えないほどです。

開発費の低減は、あると思っています。Intelは、チップセット込みで販売可能な唯一のCPUサプライヤーです。AMDは、チップセットに関して、他のメーカに任しています。このメリットは、PCメーカに絶大です。Appleは、Intel化を2006年半ばから2007年の半ばで移行すると当初は、明言していました。ですが、蓋をあけてみると2006年Q1から出荷が可能で、且つIntel化への移行は、2006年中に完了するそうです。Intel化を半年前倒しできました。これは、当初考えたよりも開発が容易(=安価)だったことの証です。この様に、IntelのCPUを使い、Intelのチップセットを採用したケースに限れば、開発コストが軽減できるのではないでしょうか。

この様に考えるとIntelを採用したもっとも大きな要因は、コストがキーだったのでしょうか?そんな単純な理由でしょうか?私は、もうひとつ大きな要因があったのではないかと考えています。それは、仮想化です。

Intel(VT)とAMD(Pacifica)は、仮想化のアーキテクチャにおいて、互換性はありません。現時点で、どちらがデファクトスタンダードになるか分かりません。また、Mac OS Xの次バージョンであるLeopardに仮想化が盛り込まれると噂されています。私は、Appleにとって、仮想化は、Windowsユーザを取り組むためにも必須機能の一つになると考えています。このときに、主流にならない方式を採用した場合に、手戻りが非常に大きくなります。実際、どちらが優勢か分からない状況です。では、どちらを採用したほうがリスクが少ないでしょうか?私はIntelのVTの方がより採用される可能性があると思っています。理由は、投入時期に差異が無いため、シェアの違いが出るのではないかと考えています(但しサーバ市場においては、AMDの方が勢いはあります)。このため、Appleは、仮想化の機能を含めてIntelを選択したような気がしてなりません。

【まとめ】

さて、本当の所は、どうしてAppleは、Intelを採用したのか知りませんが、Cellの採用は、あまりにも冒険過ぎると思います。

また、好調時にCPUアーキテクチャを変更したのは、非常に正しい戦略だと思います。もし、余力が無い時期に、この行為を行った場合には、それがどれほど正しい選択でも、完遂できない可能性があります。例えば、2006年1?3月のMacは買い控えがおきました。もし、好調時でなければ、赤字に転落し、無責任な批評家や無能な株主などからの雑音が多くなり、改革も志半ばで挫ける可能性もありましたが、好調時のため、誰も批判しません。

Appleが、Intelを採用した事が正しいかどうかは、分かりませんが、好調時にCPUアーキテクチャ変更を断行したことは、非の打ち所の無い戦略だと思います。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

2

コメントありがとうございます。
そうですね、ご指摘のとおりで、FreescaleとIBMは、Apple向けの仕事のメリットが薄れてきていますしね。Cellは、私もゲーム以外でどのような用途に使用されるのか興味が尽きません。
Microprocessor Reportは、今まで読んだことがありませんでした。いい雑誌を教えていただきありがとうございます。これから読んでみます。
今後も、エントリに何かあれば遠慮なくコメントをいただければ幸いです。

  櫻吉 清 on 2006/05/04

1

’Appleの選択’、このテーマにおけるプロセッサー論議に関しては、昨年半ばに既に日米の有力技術誌である「日経エレクトロニクス」、「Microprocessor Report」がスタディ・レポートを出しています。結論(?)は、この議題はプロセッサー技術の優劣論には無く、企業のビジネス・モデルの喰い違いだろうということでした。Apple notebookのG4製作者である(モトローラの後継の)Freescaleと、desktop G5製作者のIBMの両者ともPCプロセッサーにはもう未練も関心も無いということです。両者ともInternetとubiquitousの革新を両輪にしたSocial Computing(仮題)の奔流を視座に据えているようです。Cellもその文脈の中で成長するのでしょう。CellアーキテクチャにはレガシーなPC設計課題など全く入っていないと思われます。Intelもそれは理解しているのでしょうが、Itaniumへの過度の深入りが傷口を拡げ、このままではAMDとの死闘に明け暮れるまま新時代でのリダーシップ失墜は避けられないようです。
それはそれとして、オライリー・サイトの原文の技術的ないい加減さにはうんざりします。主題のCellとSUNのNAIAGARA(T1)の特色を区別せずに論じることの軽さは許せるとしても、Power5とG5の区別もつかな

  風見鶏 on 2006/05/04

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