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LingrとRejawサービス終了のお知らせ

2009/05/01 15:50
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今回は残念なお知らせがあります。

5月末をもって、LingrRejawの両サービスをシャットダウンすることになりました。いずれのサービスも、すでに新規サインアップは受付停止済み、5月15日までユーザデータのダウンロード依頼を受け付け、5月16日からは新規発言ができなくなり、5月末の完全停止までの間にデータをダウンロードしていただく段取りになります。

今まで支えてくださったユーザの皆さんには、このような結末になってしまい本当に申し訳なく思っています。シャットダウンという最終決定を下すまでには多少の猶予をいただき、営業譲渡などでサービスを存続させる方法も模索していたのですが、受け入れ先を見つけることができませんでした。

2005年の夏にインフォテリアの100%子会社として操業を開始した米国法人のインフォテリアUSAですが、こちらもサービスの終了を見届けた後、6月中に解散・撤収することとなりました。

すでにチームメンバーはそれぞれの道を歩み始めておりますが、面白い仕事であればパートタイムででも受ける用意があるという独立心ある優秀なエンジニアばかりですので、もしLingrやRejawでの成果を面白いと思い、アーキテクト、デザイン、クライアントアプリなどの専門分野で案件があればご紹介できますのでご連絡ください。

親会社であるインフォテリアの皆さんには、これまでも様々な紆余曲折の中、頑張って支えていただいたのにもかかわらず、よい結果を出してお返しすることができず、とても申し訳なく思っています。今回の敗戦の責任は全て江島にあります。これまでずっと私のやりたいようにやらせていただいてきており、今振り返ってみても、やはりこの結末は運や境遇のせいではなくズバリ実力の不足であったと認識しています。

私自身はというと、会社を清算した後、こちらで職を探すことになります。不幸中の幸いで、今回のシャットダウンが決まった後になって待ちに待ったグリーンカード(米国永住権)が届いたので、とりあえず仕事がなくなっても(ビザの心配をすることなく)合法的に滞在できることになりました。なお目下の興味はiPhoneアプリ開発ですので、もし拾ってやるぞという方がおられましたら是非お声がけください。

さて、以下は個人的なpostmortemです。事業が失敗したときの当事者からの本音というのはなかなかタイムリーには出てこないので、少しでも誰かの役に立てばいいなと思って書くことにしました。キーワードは「コスト」「スピード」の二つです。

今回終了することになったサービスはいずれも短期的な採算をゴールとした事業ではなく、いわゆる完全な投資案件で、状況が悪くなれば継続できなくなるだろうということは元々了解していました。なので、自分自身を引き締める意味でも、毎年コミットメントを明確にしてそれが達成できなければ失敗とみなす、という方針でやってきており、3年失敗が続いたらそれは客観的にみて根本的に方針が間違っているか能力的に不適格なのだろうということで、その場合の処遇はお任せするという約束でした。そして今、Lingrの開発に着手してからちょうど3年になったということです。

では、何がまずかったのでしょうか。

インフォテリアUSAは、ピーク時でフルタイム4名の体制で操業していました。シリコンバレーの人材に払う年俸は日本の相場と比べて格段に高い(一概に言えませんが、ざっくり言って2倍近く)のと、医療保険は会社が指定するワンプランのみ提供のかわり100%会社負担というシンプルなスキームにしていたこともあり、最大で年間5000万円近くが人件費として必要となっていました。

私自身の採用ポリシーは「少数精鋭」「プロパー指向」「全員エンジニア」で、製品を熟知し、能力も意識も高いメンバーが縦横無尽に協力しながら、非技術要員に対するコミュニケーションのオーバーヘッドをゼロにしつつガンガン進めていく、というものでした。

実際、集まったメンバーはぼく自身が裏方に回らざるをえない、すごい人たちでした。ロータスでクライアントアプリの開発からキャリアをスタートし、組み込みネットワーク機器開発、Javaツール開発を経て、今ではRailsでバックエンドを書いたりサーバの保守運用まで面倒を見ているダニーとか、日本で一番使われているIRCクライアントLimeChatの作者で、RubyCocoa/MacRubyなどのホットなオープンソースプロジェクトへのコミッタとしても知られ、サーバのみならずWindowsとMacの両方でクライアントアプリが書け、新しいところではiPhoneアプリのWikiamoがリリースから2ヶ月で100万ダウンロードを達成したサトシとか、数学と哲学の両方の学位を最優等で卒業後、シンクタンクやパフォーミングアートの業界で仕事をしたあとサウンドアーティストとして仕事をし、ここではウェブデザイナー兼プログラマーとしての才能を発揮し、そして今後は世界中を旅しながら写真家としてやっていく道を探るというクリス。住居はダニーがサンフランシスコ、サトシが東京、クリスがニューヨーク、ぼくがサンマテオということで全員バラバラのリモートでしたが、電話すらほとんど使うことなく仕事が進められました。

しかし一方で思うのは、4人というのはやはり大所帯だったということです。アーキテクト・デザイナ・クライアントという専門には重複がなく、これにアーキテクチャとデザインの両方を見られるマネージャであるぼくを加えて4名なら、適正な少数精鋭と言えると思っていました。しかし、これは決して「少数」ではなかったのです。

自分が技術的に成長した今だから言えることですが、今のLingrやRejawのようなプロダクトなら、1人か、多くても2人ぐらいで作れるべきであった、と思います。「少数精鋭」を突き詰めると、究極的には1人になるということでしょう。

そして、人数が多くなると「スピード」の遅さに直結します。専門分野の違う優秀な人たちが協力して作り上げることで確かにクオリティは高くなるのですが、開発時の意見のぶつかり合いによるストレスは格段に増え、あるいは専門による分業を明確にして衝突を避けようとするとその隙間でとんでもない見落としがあったりして、どうしてもスピードが落ちます。それぞれ個人としていかに優秀であっても、その能力が存分に活かせなくなってしまうのです。その結果、3年間で2製品。変化の早いウェブの世界のものさしで測ると、これは泥亀のようなスピードだったことに気づかされます。

また、1人で作るという視点でみると、「コスト」に対するものの見え方も変わってきます。

事業を経営する立場から見ると、人件費というのはたった一人でもいればかかるものです。そのたった一人分の人件費と比べて、チープ革命やクラウド化によってインフラのコストはどんどん安くなっていく。

たとえば仮に、サーバ運用のためデータセンターにかかるコストが年間100万円というと、事業コストとして経営者の目から見ると全然たいした金額ではありません。社員が数名いれば、相対的には無視できるぐらいの金額と言えるでしょう。

しかし、これが年間10万円、あるいは1万円ならどうか。もはや個人のポケットマネーでも躊躇せずに支払える水準になってくるでしょう。

数名以上の規模の事業として考える場合、事業の主軸であるインフラへの投資が年間100万円というのはすでに安いので、これをさらに切り詰めて50万円にしようとか、そういうことに努力を傾けるのは合理的に考えて無駄ですから、そういうインセンティブは働きませんし、実際に無意味でしょう。

しかし、もし同じことが実は年間10万円で可能なら、そしてそれを個人でやるとしたらどうでしょうか。かたや人を抱えて1千万円の桁の投資をし、かたや10万円で細々とサービスをやっている、というわけです。人を抱えているか、いないかの違いで、桁が二つ違ってくるわけです。

もちろん、人件費がかかっていないということは、本人はどこか別のところで生計を立てられるだけの収入を得るため別の仕事をしているということであり、フルタイムで打ち込めない分、不利な面があるのは確かでしょう。しかし、プログラマーはやる気と集中力次第で生産性が(誇張ではなく)100倍ぐらい上下しますから、本当に心から面白いと思っているプロジェクトであれば、それは必ずしも大きな壁にはならないでしょう。そして、実際にユーザが増えてあっぷあっぷの状況になってきたら、それはとても健全で自然な「事業化のサイン」といえるのではないでしょうか。

もっと具体的な例では、うちの場合ではLingrとRejawを合わせて計30台ぐらいサーバがあり、フルラック2つで年間計350万円ぐらいかかっています。しかし、上述の人件費に照らしてみれば、大した金額ではないのがおわかりいただけるでしょう。Lingrの場合、データベースのレコード数にしてだいたい7,000万件ぐらいの発言データが蓄積されていますが、以前サービスの負荷が妙に高かったときに急いでマシンを増やして対処したところ、その後にアーキテクチャの見直しで劇的に負荷が下がり、今ではデータベース以外の負荷はスカスカです。つまり、この程度の規模のサービスなら、データベースや各種サーバをちゃんとチューニングするノウハウがある今なら、Amazon EC2などをうまく使って年間10万とはいわないまでも、100万をだいぶ切る構成で運用が可能かも知れないという感触があります。ただ、それをとことん追求するインセンティブがなかったということです。

同じコストでも人件費というのはまったくの別物で、削れるところは削るというロジックが通用しません。一度仲間として受け入れたメンバーを、高いからとか、スピードが遅くなるからといって解雇したり減俸したりするのは非常に難しく、気の滅入ることで、とくに小規模チームでは致命的に尾を引くため、何か大きなきっかけがないとできないことです。それでも、「もっと少なくても良かったかも」と思いながらズルズル続けるのは極めて精神衛生上よろしくありません。このことから私が得た教訓は「究極の少数精鋭はひとり」「プロパー指向という贅沢は軌道に乗ってから」といったあたりです。こんな考えようによっては当たり前のことですら、自分で転んでみるまで気がつかなかった。つくづく未熟だったと思います。

それで、上記のようなもろもろで何を言いたかったかというと、この分野では「企業の競争相手が個人になる時代は目の前まで来ている」ということです。スタートアップ企業を作って数名で作るのと、一人の個人が副業で立ち上げるのとでは、最終的に出てくるモノの差がだんだんなくなってきており、単に「かかるコストだけが100倍違う」ということになりかねない、と思うのです。

さらには、個人で開発するということは、意志決定の速さが格段に違ってきます。たとえば作っている最中で何かが根本的に間違ってるのでプロジェクトを中止したほうがいいと思っても、チームでやっていると中々言い出せず、ずるずる引きずって時間を浪費してしまうというようなことがあると思います。しかし、10発撃って1発当たるかどうかという世界で勝負していくには、そういう「見切り」の速さこそが命ではないでしょうか。

愛情の込められてないプロダクトは絶対にいいものになりませんが、「愛着」が「執着」になるのは変化への拒絶反応であり危険な兆候です。そのバランスが難しいからこそ、ものづくりは面白いのだともいえます。そういう意味では、今回のシャットダウンの決定は、とても残念ではありますが、「見切り」のチャンスを与えてもらったのだ、と前向きに解釈しています。

なんだかこのまま無限に書いてしまいそうなのでそろそろ切り上げますが、上に述べたような価値観の変化もありつつ、インフォテリアUSA立ち上げの4年間では本当に色々なことを学ばせてもらいました。ここでいったん今までやってきたことに区切りをつけ、これからまた心機一転、北米マーケットを中心として世界中で使われるサービスをつくるという変わらぬゴールに向け、何らかの形でチャレンジを続けていきたいと思っています。

宝くじも買わなきゃ当たらない、ということで、冷静に計算すれば成功の期待値はほぼゼロかも知れないけれど、せっかく一度きりの短い人生、後悔のないよう全力でフルスイングしていく方向で。

そんな感じで、まぁ落ち込んだりすることもありますが、前向きにやってますんで、今後ともよろしくです!

Tchaikovsky / Serenade for Strings in C major, Op. 48

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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