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ニッポンIT業界絶望論にたくさんの反響をもらったけど、実はあのポストを投げ込んだ後、自分でもちょっと引っかかりが残っていた。それが何なのか、モヤモヤしてて気持ち悪かったんだけど、ウェブ時代をゆくを読んでいたらそれが何だったのかをハッキリと思い出した。
文中で「ひと仕事終えてスターバックスでコーヒーを読みながらしっぽりウェブを泳いでいたら、なんだか得体の知れない不安感のようなものにおそわれたことを思い出す。このとき、とうとう心の底で長らく封じられていた声が聞こえてきてしまったのだった。」って書いてる箇所があったけど、このときに読んでいたのは、実はCNETの梅田望夫・英語で読むITトレンドだった。
あの頃、いつも忙しすぎてネット上の記事をちゃんと読めるまとまった時間がほとんどなかったのだけど、この日には腰を据えて未読分を全部まとめ読みしてみようという気分になったのだった。
そのときに「顧客志向の製品開発は、正しいけれど、つまらない」という記事を読んだのは覚えているけど、いろいろ寄り道もしたし、どれかの記事が決定的だったという印象はないのだけど、このとき、ぼくはハッキリとモードが変わっていくのを感じた。
今にして思えば、あれは本当に自分の人生の転機だったな。
ガキの頃からコンピュータが好きだったし、オタクという言葉が誕生して非モテで不名誉なイメージを女の子たちの視線から受けて傷ついた最初の世代だったし、いろいろフラフラしたり紆余曲折はあったけどなんだかんだで人生の要所要所でコンピュータが好きだという原点に戻って人生を選択し続けてきたぼくは、でもやっぱり社会に出てからもフラフラしていたんだった。
何度もいうけど、当時の仕事は充実していたし、自分が成長していく手応えもあった。ずっと大好きだったコンピュータに何らかの形でかかわる仕事をしているというアイデンティティがかろうじて保たれていることで、自尊心も何となく満足できていた。
でも、当時の日本の空気からは、やっぱりプログラマのままじゃ世の中を動かすほどの力を手に入れることはできないと感じていた。かつて木村剛も二宮尊徳の言葉をひいて「経済なき道徳は寝言である」と断言してたように、ぼくも実現力のない正論は寝言だと思っている。正論をズケズケ言うんだけどそれが世の中の現実と噛み合ってなくて永遠に平行線をたどりそうな周囲のギークたちをみてて、お前らこのままじゃ何も変わらんぞ、とずっと思っていた。おれは現実を動かせる力を手に入れたい、と思っていた。
それで、とってもありがちなことだけど、ぼくはまずプログラマを離れて風上に行ってみようと考えた。本来ならプログラマがいちばん風上のはずなんだけど、時代はそんな情勢ではなかったので、コンサルやってみたり、プロジェクトマネージャやってみたり、そういうやつだよ。結局、「プログラマだと報われないから上流SEになりたい」なんていう極めて利己的な判断からそうした奴らと出した結論は一緒だったんだよね。いや、もしかしたら本当にそういう利己的で単純な理由だったのかも知れない。2007年現在のぼくだったら、そんなことを言うやつは手打ちにして吊してやるところだけど、ともかく当時ぼくは自分の歩む道を選択するにあたって、そういう判断をした。
結果は上々だったように思う。コンサル的な仕事をするようになる過程で色々と人脈にも恵まれて、大企業のトップに直接会う機会もたくさんあったし、そういう大物クライアントと会食に行ってもキョドることなくそこそこ対等にビジネスの話ができるぐらいには成長していった。だんだんスーツの着こなしも板についてきてたし、オレってひょっとしてイケてるんじゃね?と勘違いできるぐらいには自信もついてきた。
反対に、学生の頃にネットスケープやサンやアップルの存在でキラキラ輝くイメージをもっていたシリコンバレーへの憧憬みたいなものはどんどん薄れていってて、日本だって十分にデカい市場だし、内需でニッチを見つけてそこでドミナントなポジションを狙っていくというのもかなりハッピーな人生じゃね?というような考え方になってきていた。
特にバブル崩壊後はアメリカもズタズタだったということもあるし、オラクルとかSAPみたいな外資系の大企業向けパッケージも当時からアクビが出るほど退屈なものだったのに、業界地図を塗り替えるようなものが登場する気配はこれっぽっちもなかったので、世の中を動かすには技術によるイノベーションじゃなくてビジネスプロセスの変革のほうが効果あるもんなのかもね、と半ば本気で思うようになっていた。
それに、世の中は広かった。非IT系の世界に賢くて魅力的な人たちが沢山いるってことを知った。鉄鋼から製薬、不動産から家具製造、飲食店から花屋にいたるまで、あちこちに夢を語る素敵な人たちがいた。当時集まった名刺を数えてみると数千枚、科学書からビジネス書までむさぼるように読んだし、日経ビジネスなんかは当時のぼくにとって一流のエンターテインメントだった。
そんな中、いくつもの重大案件を成功させ、ウェブや雑誌で駄文を書き散らかすようになり、対外的な役職も上がってきて(この言い回し虫酸が走るけど、肩書きで見る目をコロリと変える人が多いのも目を背けてはいけない哀しい現実)、かつて望んだ力が少しだけ手に入るようになり、その結果、本来救いたい対象だったはずのギーク的な何かを自分の中から見失いつつあった。
まるでマンガか何かの話みたいだけど、何のためにその力を手に入れたかったのか?という本来の目的がどこかで見えなくなってきてたんだな。あぁこれがダークサイドに落ちるということか、と今なら言えるけど、真剣にのめりこんでいる時期にそういう客体視は絶対できない。
で、あの転機は、そんなときに訪れた。
そんな情勢、といってもあくまで個人史的な意味における情勢だけど、梅田さんのブログはそんなぼくの中に起きていた変化と真逆のことを声高に主張し続けていた。「バブルははじけたけどシリコンバレーのネットへの信頼感は厚い」とか、「次の10年もシリコンバレーの時代だ」とか、なんか世の潮流に逆らって一人で世界と戦っているような妙に浮いたブログに見えた。実際、そんなことを言ってる人は当時誰もいなかった。でもだからこそ目が離せない、なにかそういう強力な磁場があったと思う。そして、ぼくの中でスリープモードに入っていた「子供の頃からの夢」的なものが甦ってきたのはそのときだった。
今、このウェブ時代をゆくを読んでいたら、あの頃に梅田さんがしつこく言い続けてきたことがじわじわ現実になってきているんだとよくわかる。最近では当時の逆風が順風になりすぎてて、しかもハリケーン級の突風になっちゃったから、渾身のパンチを繰り出しても空を切ってしまうようなことも多くなってるかも知れない。でも、当時のインパクトは間違いなくメガトン級だった。
そんなこんなで、自分の中にふたたび「技術が世界を変える」的な思いがよみがえってきたのが2003年頃。その後「よし、シリコンバレーに行こう」と決意したのが2004年。当然、梅田ブログの影響が決定的だったわけ。
だから、個人的には勝手に梅田さんのことを人生の転機をもたらしてくれた恩師だと思っているんだけど、今じゃ面識もあるしそんなことを面と向かっていうのも恥ずかしい。それに、その恩を本人に直接ペイバックすることを梅田さん自身は望んでいないと思っている。授かった恩をちゃんと返すという考え方は一見まともなんだけど、それはエネルギーを閉じた輪の中で消費してしまうということで、社会に開かれていない。これは受託開発がダメだという理由にも通じている部分がある。
ぼくは、同じ恩返しをするなら、ペイフォワードの形で、誰か別の第三者に恩返しをしたいと思った。当時、梅田さんがぼくに与えてくれたのと同じような思想的な恩恵を、同じような形で誰か別の人たち、それはたった数人かもしれないけど、たとえば数年前の自分のような立場に今いる人たちに届けることができないか、そんなことをこのブログで模索しているんじゃないかと思うにいたった。
小義を尽くす安寧より、大義に賭ける不義理に殉じたい。
それがたぶん、ぼくがブログを続けている動機なんだと、4年間続けてきてようやく見えてきた気がする。そしてこれは、会社のために仕事をするのではなく社会のために仕事をするのだ、という矜持にも通じている。
そこまで思い至ると、前回のニッポンIT業界絶望論はちょっと後味が悪すぎた。「イージーな解はない」というのは誠実な答えではあったけれど、梅田式を継承するポジティブさがそこにはなかった。それに、多くの人が突っ込んでいたように、みんながみんなイノベーターになりたいわけではないのは事実だ。
ぼくは「八方美人だけど実効性のない言説」にはまるで興味がない。だからハッキリ言うけど、実のところぼくがこの話題でターゲットにしている対象は極めて狭くて、イノベーターとしての素養もあるしそうありたいと希望を持ってもいるんだけど、業界の構造的な要因により不遇な状況に置かれてる人たちだ。そうでない種類の人たちについては、残念ながら現時点では極めて冷淡な答えしか持ち合わせていない。「みんなが幸せになれる方法がある」なんて嘘っぱちを言うつもりはない。
イノベーションは誰かを幸せにすると同時に誰かを不幸にもする。石炭から石油への移行にともなって50年前には日本だけで30万人いた炭鉱労働者が現在ではゼロになった。現代はぬるい時代だからこれほどの大規模な変化は起きないだろうが、逆にいえば社会とは根源的にはそのぐらい強烈な変化にも対応できるだけのキャパシティがあるともいえる。ITの世界でもイノベーションが起きれば起きるほど、身を削るような痛みがこれからも続々と降りかかるだろう。
そして、イノベーションの語義通り、世の中を変えていくのはイノベーターたちであり、いまのSI中心のIT業界を変えていける可能性があるとすればそれはSIたち自身ではなく新世代のイノベーターたちでしかありえない。その結果、3K7Kな事業の存立を許していた市場が縮小し、人的資本がより労働生産性の高い(=非3K7Kな)世代へと移動し、最終的にみんなそこそこハッピーになれる可能性もなくはない。だが、未来を切り開くイノベーターの存在なくして変革はない。この順番だけは絶対に狂うことがないから、ぼくはその一点突破に賭けている。だからぼく自分も1プレイヤーとしてやってるんだ。
そういう大変化に向けてSI企業に勤めるイノベーター・ワナビーはどのような心構えでいればよいのかというと、実はもうやるべきことは見えているはずだ。それが見えていない人はまず素養がない。オープンソースのプロジェクトに参加するとか、自宅のサーバで個人でサービスを立ち上げてみるとか、自分の学んだことをブログに書くとか、とにかく会社とは関係のないパブリックな場所で何かアウトプットを出してみる。あるいはパブリックにやる度胸がなくても、既存のソフトやサービスにちょっとしたパッチを書いて送るとか、バグレポートをするだけでも十分よい訓練になる。給与ドロボー大いに結構。会社につぶれてもらってもかまわないが、あなたにつぶれてもらっては困る。
あまり焦らなくてもいい。ロールモデルになれる分際ではないけど、ぼくだって今みたいにやりたいことをやれるようになるまで10年近くかかった。それでもヘソを曲げずに根気強くやってきただけだ。技術と思考を磨くことだけ怠らずにいれば、いつか世の中の変化と自分のモードがマッチする瞬間がやってくる。そのときまで、諦めず、ただ静かに歩めばいい。これは言うほど簡単ではない、チャレンジと呼ぶに値する生き方だ。
♪ Journey / Lovin', Touchin', Squeezin'
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