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上場にあたっての社内に向けてのメッセージ

2007/07/27 10:40
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そうそう、ご報告がすっかり遅くなってしまいましたが、親会社のほうのインフォテリアがこの6月にマザーズに上場しました。

それで、多くの人にとって、企業が上場する瞬間に中でどのようなことが起きてるかを知る機会なんてほとんどないでしょうから、5月末の上場が決まったときにぼくから社員と経営陣に宛てて書いたレターをこちらで公開することにしました。

内容を一部伏せるかどうかでちょっと逡巡したのですが、どうせなら生々しいほうが世の中のためになるだろう、と思ったので、結局原文ママで載せることにしました。

なお、ディスクロージャのために述べておきますが、私は現在インフォテリアUSAに勤務していますが、100%親会社であるインフォテリアの株主であると同時にまだ社員としても籍は残しており、給与の一部とストックオプションをそちらで報酬として受け取っています。そういう立場の人間の発言とご理解ください。

こういうものを公開することで、誰かの役に立てれば嬉しいです。

上場おめでとうございます(2007年5月24日)

創業から約9年、よく頑張ってきたね。
ぼくも腰掛けのつもりが足掛け7年以上。今指折り数えてみて驚いたっつーの。

上場なんてまだ早いよとか言い続けてきた立場ではありますが、冠婚葬祭のような意味でセレモニアルな節目のイベントなので、今日ばかりは心からおめでとう、と申し上げたいと思います。

特に平野さんと北原さんは、誰が何と言おうが(その「誰」が自分だったりするわけだがw)長年よう耐えなすった。おつかれさま。

さて、ここしばらくずっと「部外者」な立場のわたくしですが、だからこそ客観的かつ冷静にこの会社のポジションを見ることができているように感じています。というわけで、祝辞ついでにメッセージを2つほど。

■社員の皆さんへ

会社が公開するからといって、別に何てことはないよね。日々の仕事の内容が変わるわけでもなく。懐が突然温かくなる、なんてこともなくw。

その直感は普通に正しくて、情報の流通が限られていた時代とは異なって、株式を公開するということには、今ではそれほど決定的に重大な意味合いはないでしょう。上場しているかどうかにかかわらず、あらゆる情報が相対化され、証券化され、貨幣化されていく時代なんだし。ITというのは、その変化を後押しする根幹技術でもあります。

もちろんプラクティカルには資本政策や運用面でテクニカルな意味合いというのは若干あるんだけど、決して本質的なことではないです。上場というのは既存の投資家(含む起業家本人)にキャピタルゲインで報いるためのご褒美イベントなんだね、と割り切って理解してよいでしょう。世間での上場のイメージというのは案外正しい。

ぼくの前の会社がIPOしたときは、なんか会社中が浮かれて社員みんな株価ばかり見て全然仕事しなくなって、なんというか異様な風景でした。入社年度が1年や2年違うだけで、一夜で数千万から億単位で個人資産に差がつくという、衝撃的な体験でした(ちなみに当時のオラクルは社員1500人のうち約半数がミリオネアになった。もちろんぼくの世代は負け組)。おかげで、毎日証券会社のサイトを見ながら一喜一憂する先輩社員の横で真面目にコツコツと働いてる自分がどうしようもなく滑稽に見えたりとか、複雑な気持ちに苦しみながら、色々なことを考えました。でも、今回のインフォテリアの公開は、そんな歪んだ事態になることもなく、静かな船出になりそう。

さて。今回伝えたかったのは、上場がどうしたとかよりも、もっと大切なこと。

社会のなかで、会社という入れ物は共同体としての役割を果たします。個人にとっては、そこに属すも自由、去るも自由。そういう意味では、家族や親族のように切りたくてもなかなか縁を切れないコミュニティに比べたら、会社というのはとてもゆるい共同体です。

その共同体の一員であることの意義・目的は、たったひとつしかありません。

それは「社会に求められるものを提供する」ということです。

そのゴールのために、ひとりひとりの社員が、勉強したり、実行したり、失敗したり、そうやって成長していく場所が、会社なのです。社員に失敗する機会を提供できる大きな器となってはじめて、会社は社会の公器ということができます。

つまり、社員のみんなが日々何を感じ、何を考え、何を話し、何をしているか、というのが、これまでも、そしてこれからも、会社というものの存在価値にとっては一番大切ということです。会社は、個人の成長のためのジャンプ台として使っていいんだよ、ということです。簡単な話ですね。

人間一人が生きていくためには、最低限必要なリソースというものがあります。衣、食、住。それを維持するには、現代という時代ならお金が必要。つまり、人が一人生きていくためには、必ずお金が必要なんです。死ぬまで。

そのお金を、社会全体で年間500兆円ぐらいグルグルまわっているお金のプールの中から、自分の分け前を少しもらうところをイメージしてみてください。そのお金は、必ず誰かがあなたにあげる必要があるのです。会社Aからもらえなかったら、会社Bから。会社Bからももらえなかったら、社会福祉から。そこでももらえなかったら、家族や救済団体などから。そこでももらえなかったら、、、いよいよのたれ死にするしかありません。でも、そうやってのたれ死んだ人を実際に周囲で見たことある?

近代社会において、生存とは基本的人権です。どんなに無能でも、どんなにやる気がなくても、どんなに迷惑千万な人であっても、「生きてよい」という最後の一点においてこの世は平等です。しかも、日本はとても豊かな国です。機会と希望の不一致、あるいは収入の多寡といったミクロな欲張りファクターを考慮しなければ、かならず誰かがあなたに生存のためのリソースをくれるはずなのです。それが社会の役割なのだから。

だから、こういう風に考えてみてはどうでしょう。今自分が属している会社が自分に給料をくれるのは当たり前だ。自分には生きていく最低限の権利がある。自分は社会からお金をもらっている。今自分が属している会社は、たまたま自分にお金を手渡す現時点での担当窓口に過ぎない。だから、自分はこの会社に対してではなく、社会に対して貢献していく。会社のいいなりにはならない。自分が社会に対して意義があると考える、なすべきだと信じることをやるんだ。

一見、とても傲慢で自分勝手な考えに見えますが、実はそういう風に考えることが、組織の論理に巻き込まれない、公開企業の社員のあるべき姿に通じているのです。

社会の規範に照らして、これは本当に求められていることか。こうすることは公明正大か。これは誰を幸せにするか。誰を不幸にするか。そういうことを常に考えて、「会社員」としてではなく「社会人」として、胸を張れることを選択する。自らの責任でもって選択する。それでも人間は時には間違えるんだから、間違えたら素直に謝ればいい。それが責任をとるということ。

世の中の仕組みがどんどん変わり、社会の価値観が変容していっても、以上の考え方は100年単位で変わることのない社会と個人のあり方の本質だと、ぼくは考えます。

そして、「社会に求められるものを提供する」ことができたら、結果として会社にお金が落ちるようになる。だから、そのことだけを考えればいい。

世の中は多くの人が思いこんでいるよりもかなりシンプルだ。

そういうノリで、もっと自由に発想して、いいものを作りたいね。

■経営者の皆さんへ

長年の念願であった株式公開、お疲れ様です。伝え聞くだに恐ろしい大変な作業であったかと思います。

しかし、プロセスが大変だったということと、成果物のバリューには、残念ながらほとんど相関がありません。プロセスの大変さは単にシステムが要求したハードルが高かったというだけのことなのですが、得られる達成感が大きいあまり、ついその達成には支払った努力に見合うだけの価値があると思いこんでしまうのが人の常です。システムが要求するルールに則って受験勉強をがんばって東大に入れたら嬉しいかも知れませんが、東大に入っただけでその人そのものが素晴らしいということにはならない、というのと同じことです。獲得したのは世間体であって、中身ではありません。

こんなことを言うと、修羅場の外にいたやつが、また好き勝手なことを言いやがって、と思われるかも知れませんが、だからこそ外部の人間として言っておかねばならないと思ったのです。

株式公開には、もちろん正の面と負の面があるわけですが、インフォテリアの現ステージをかんがみるに、負の面に対しては非常に慎重に心して欲しいことが一点あります。それはこういうことです:

1)資金調達ができてしまうこと(=調達した資金の運用方法を問われること)、2)高成長へのプレッシャーが強まること、この2点から経営陣は間違いなく今後M&Aの衝動に駆られるでしょう。しかし、それだけは絶対に慎まなくてはなりません。内部からコアなイノベーションが継続的に起こせるようなサイクルができるまでは絶対に。

すでに自分たちで強力な製品を作れる会社が、さらなる成長性をレバレッジするためにM&Aを行うのです。IBMしかり、マイクロソフトしかり、グーグルしかり、最も収益性の高いコア製品は自社開発です。自社でイノベーションを起こせるカルチャーをつくれなかった会社が、自社よりイノベーティブな会社(自社より生産性の高い会社)を吸収したら、必ず互いに不幸な結果になります。そして、そんな会社はテクノロジー企業ではなくて金融会社です。

どれだけ時間がかかろうとも、社内の人材とカルチャーを育てることを第一としてください。それすらできない人に、外から買ってきた会社の人材やカルチャーをコントロールできようはずがないのですから。

チームの士気を高めるのがリーダーの役割であることは、有史以来一度も変わることのない真実です。他のベンチャー企業から「インフォテリアに買収して欲しいなぁ」「あの勢いのあるチームの一員になりたいなぁ」と憧れられ逆オファーを受けるような、そんな魅力的な会社になることを第一としてください。ほんとうは、そういうステージになってから株式公開するのがベストだったのですけど、こればかりはタイミングの問題なので仕方がありません。なので今こうして伝えているのです。

お金は、誰に何と言われようと、決して数千万円単位の大きな買い物にズドンと使うことなく、内部の人材一人一人を大切に育てるための原資として使ってください。そうやって使える金額はたかが知れていますが、もっとも投資対効果が高いのです。なんでもっと金を使わないんだ、託した金が寝てるじゃないか、と株主に突っ込まれても、耐えてください。いつかインフォテリアに本当の成長ステージがきたら、そのときに湯水のごとく必要になるお金です。今は、まだそのお金をそういう風にして使うべきタイミングではありません。そういうビジョンをちゃんと説明し、株主に納得してもらうのが経営者の仕事です。お金は、本当に必要になったときに必要なだけ市場から調達するのが一番いいのです。そのために上場するのですから。

ちなみに、今のインフォテリアがどのぐらいの企業価値かというと、ぼくの評価では相当低いと言わざるを得ません。実際、いま株式市場が軟調なのであまり高い値がつかないでしょうけど、これはむしろ幸いであると思っています。実態以上のプレミアムがつくと、それだけ会社を狂った方向に向かわせる圧力が高まるからです。しかも、底値でデビューすれば、あとは伸びていくだけなのですから。安くてもTOBのリスクなんてないし。いいことづくめなのです。

まとめましょう。ぼくから現経営陣への要望は2点です。「会社買うとか大きな無駄遣いをしないでください」「人を育てること(若手社員に大きな失敗経験を積ませること、を含む)に投資してください」。この2点は、アドバイスではなくて、忠告です。当事者には見えにくいかも知れませんが、外からみたら当たり前過ぎるぐらい当たり前のことを言っているつもりです。万が一この忠告が破られるようなことがあれば、以後そんな会社にコミットすることは約束できません。そのぐらい、真剣に伝えているつもりです。

ぼくも毎日真剣勝負で生きてます。これからもお互い頑張りましょう。

♪ Will Downing / King Of Fools

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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