最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

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思考実験:禁止法の禁止法

公開日時:
2006/07/06 19:49
著者:
kenn

社内ブログのほうでフォローしようと思ってたんですけど、最近(自分的に)流行の私信晒しモードで書いてみようかなと。

なお、たまたま前回のエントリが「平野啓一郎」への私信で、今回のお相手は「平野洋一郎」で、名前はクリソツですがこの二者間には何も関係がありませんので、お間違えなきよう念のため。平野洋一郎というのは、インフォテリアUSAの親会社にあたるインフォテリアのCEO、つまりぼくのボスです。

さてさて。くだんのブログエントリです。

Alternative 笑門来福「思考実験:2010年「殺傷ゲーム禁止法」制定」

最初読んだとき、これ絶対に釣りだ、いや釣りに違いない、たのむ釣りであってくれ、と思って最後まで読んだんですよ。でも、ガーン、そうではなかったと。かつては平野さんもゲーム作家だったはずなのに、ここまでの老後の没落を見るとは。。。もうちょっと勉強して出直してきてくれ。

とまぁ、そんな感じで社内ブログに速攻で書きましたよね。

で、まぁ炎上するに違いないからお手並み拝見って感じで見てたわけですよ。

最終的に「うちの身内がバカなことを言ってすみませんでした」って割り込んで謝らないと収集つかんのちゃうか?と心配してたわけですよ。

そしたら、なかなかどうして、予想よりも結構うまくコメント欄をさばいてるじゃないですか。

丁寧だし、そこそこ誠実だし、結構しんどい精神状態であったにもかかわらず(ところどころ余裕こいてる風を装っていても、何度もこまめに表現を改めてる本文・コメント欄の修正履歴がそのことを物語っている)、カッとなって「やってはいけない」こともせず、あの出発点のひどさからすればここまで収束させたのは優秀だと思います。ぼくの採点では80点ぐらいのハイスコアですよ。

ただ、いざコメントの応酬になったときに、いきなり議論をメタ化・相対化して、ようするに後付けで「なんちゃって、これは実は釣りでした」「自分ではない誰かの意見です」的な苦しい逃げを混入させてしまった。つまり自分自身の責任において真正面から受け止めなかったところが、決定的なマイナス点。そういうのをみんな敏感に感じ取って、座が白けてしまった。

だから、見かけ上の事態を収束させる技量という意味ではよかったんだけど、平野さんという一個人の思想とか理念とかに対して生じてしまった読者の疑念を払拭するところまではたどり着いてないと思うんです。

だからこうして公開私信書いてるわけですけどね。

だいたい、まぁ、どう割り引いて見ても、元のエントリはクソだったわけですよ。

自分もゲーム作家だったという経歴で逃げは打ってるけど明らかにゲーマーなら持っているはずの感覚を微塵も持ってないくせに特定のゲームの是非を論じてるし、子供と同じ目線でものごとを見ていない(上から下を見ている)し、法っていうものは記号論理よりも背景にある動機だとか精神だとか納得性が肝心なのだという基本的な教養が感じられなかったり、とにかく隅から隅まで「わかってねーなー」って感じで。

まず何よりも、たぶん、平野さんは「死」というものを相当甘く見てる。子供の頃に、誰かを真剣に殺そうと思ったり、真剣に死のうと思ったり、目の前で人が車に跳ねられて絶命するのを見たり、そういう経験がほとんどなかったんじゃないですか?

本気で人を殺そうと思うときの極限状態と自分を殺そうとするときの極限状態っていうのは結構似てるんだけど、これとゲーム内で人間をメッタ刺しにして切り刻んでる時の心理状態とでは、天と地ほども違う。相似形ですらない。

「死」っていうのは、チャンバラなら痛い思いをするから問題ないとか、そういうぬるいレベルじゃないんですよ。転んで怪我して痛い痛いって泣くのと、「おれは死にたいぐらい苦しいんだ」ってことを誰かにアピールしたくてたぶん死なないんだろうなと思いつつリスカするのと、思わず本当に死にかけて周囲の時間が凍り付いて、視界や音がすべて消えて、あっもしかして俺はこのまま死んでいくのかも知れない、っていうときの、あの底冷えのする恐怖とでは、格段の差とかいう言葉では言い尽くせないぐらいのギャップがあるんですよ。

生きてるすべての人間にとって、本物の「死」とはつまるところ擬似的にすら体験することができない一回性のものであり、何らか他の体験から大脳新皮質で類推しうるできごとではなくて、生物としての根源的な本能だけが扱える問題なんです。たかがゲームのリアリティの度合いなんてママゴトですよ。

とはいえ、かくいうぼくも、自分の身内がゲームキ○ガイに殺されたりしたら、「殺傷ゲームをこの世から殲滅しろ」とか言い出すと思いますよ。でも、それは、まさにそうなったときの文脈としてはそうだということであって、お茶の間で勝手にその被害者にシンクロした気になって一席ぶつってのとはワケが違う。もし身内が殺されるような目にあってたら、勝手にシンクロした気になってわかった風なことをベラベラぬかしてる奴らこそぶっ殺してやりたいと思うでしょうね。そういう勝手シンクロ的な思い込みは、ホワイトバンドや動物愛護団体並に滑稽なことだと思う。飲み屋で思いついたノリで法制化までネタにしてみるなんて、ブラックジョークにもほどがある。

ゲーマーとゲーム会社という、蜜月関係にある需要家と供給者があうんの呼吸でがんばって市場を作っているところに、事情も何も知らない部外者が土足で乗り込んできてここはこーしろあーしろ規制だの何だのっていわれるのを不快に思わないはずがないでしょう。

平野さんだって、いつだったか、官僚が日本のソフトウェア業界っていうのはみんな受託サービス業だからこーしろあーしろみたいな話になったとき、何も知らんお前らが勝手に決めつけんなって怒り心頭だったじゃないですか。自分がやられてイヤなことは他人にもやっちゃダメなんですよ。

あとは、「あそこまでの殺傷シーンがなくても面白いゲームというものは成立するでしょう」っていうとこですけど、あれはたとえばデュシャンが「泉」を発表したときに、あんな便器を持ってきただけのワケワカランものを認定しなくても素晴らしい芸術っていうのは他にもたくさんあるでしょう、みたいな低劣な品評と似ていて、そこの線引きをするのは芸術を論ずるほど目の肥えてないテメーかい、っていう基本的なツッコミはさておき、そもそもどんな芸術だって、社会にタブーというものがあるからこそ、そこにギリギリまでアプローチすることで生まれる迫力というものがあるわけですよね(それを濫用するとつまんないんだけど)。それを、タブーだからタブーなので禁止します、なんて無粋なトートロジーを持ち込むなんて横暴だと言われても仕方ないですよね。

そういえば、ポール・グラハムが「ハッカーと画家」でこんなことを書いてました。

彼らは、少なくとも最初は、自分たちのグループの結束のためにドラッグを使った。一緒に何かやるということでもあったし、非合法なことをやることで、反逆者の勲章を共有するということでもあった。

間違った統治は反抗を育てる。昔から言われていることだ。だがエライ人たちは、ドラッグはそれ自体が問題の原因であるといった見方をいまだに取り続けている。

つまり、まぁ、平野さんのエントリに通底していた「臭いものに蓋をする」っていう発想(があったことそのものは素直に認めればよいのです。ちょっと油断すれば誰だって無意識のうちに簡単に陥ってしまう発想なのだから)は、まぁコメントとかでも言い尽くされてることですけど逆効果なんですよということです。

これについては「反社会学講座」にも書いてありますが、

このグラフからは、ヘアヌード写真集もアダルトビデオもなかった時代のほうが、少年は性犯罪に走りやすかったという事実が読みとれます。むしろポルノは安全弁であるとの見方が有力でしょう。水門は常に開放しておくのがよさそうです。

というようなことです。これもこれで、殺傷ゲーム有害論と同程度には、ぱっと見の説得力のある考え方だと思いませんか。

というわけで、このへんでぼくなりのオチとしては、「禁止法なるものを考え出す輩はたいていロクでもないから、禁止法を検討することそのものを先に禁止しておこう」ということで、「「禁止法」の禁止法」を提案してみようかなと。高木浩光さんのいうところの「「無断リンク禁止」の禁止」みたいですけど。(ただ、残念ながら、論理的にはあらゆる禁止法はロクでもないから禁止しようというのだから禁止法の禁止法という禁止法もロクでもないから無効という結論がただちに導き出されてしまうのですが:笑)

まぁ、ここまでけちょんけちょんに書いてますけど、ぼくは平野さんがああいうツッコマビリティの高いエントリを書いたこと自体はすごく評価してるんです。

大人って、大人になると、誰も真剣に叱ってくれなくなって、自分を修正するのがどんどん難しくなりますよね。特に社長なんかになると、なまじ権威もあれば実践で鍛えられて論破力もついてくるので、ますます周囲の人たちが「王様は裸だ」といって反省を促すことが困難になってくる。でも、しょせん人間は人間なのだから、間違ってるところなんて山ほどあるのだから、周囲の無言=無謬であるわけがない。

だからこそ、上に立てば立つほど自己の裁定については注意深くならないといけないと思うんですよ。多くの人は、格好をつけるために、こんな基本的なこと今更聞けない、みたいな感じになったり、現実の社会で失敗するのは怖いから、勉強するっていっても本を読んだりする座学だけになっちゃったりするんです。これって相当不幸なことですよ。こういう悪循環に囚われることで、実際にダメな大人が大量生産されているわけですから。

おおむね子供より大人のほうにものごとの本質が見えてない人が多い理由は、そういう自己点検の機会をどんどん失って思考様式がパターン化して経年劣化しているのを見逃してるからなんですよね。

そういう意味で、公的な場でブログを書いて叩かれるというのはリアルな成長になる。一度や二度の炎上を根気強く乗り越えたあたりからが、本当の意味での成長期なんだろうな、と自分のことを振り返ってみても思うわけです。

だから、自身の内に秘めた思いを自らの動機に基づいてアウトプットするというブロガーの営為は、ただコメントをするだけの人よりは、はるかに自己の成長に貢献するはずです。

ウェブという場所は、現実世界の上下関係も肩書きもへったくれもない、子供の頃に戻ることができる場所なわけです。一見、こわもてのウヨ・サヨが跋扈していて怖そうな世界ですが、そこでは誰もがフェアに評定され、叱られ、成長の機会を与えられる場なのですから。

というわけで、もっと社内のみんなに外で堂々と自由にブログを書いてもらいましょうよ。ってアレ?そういう話だったっけ?

♪ 菅野よう子 / Get9 - Rise - Inner Universe - ヤキトリ (菅野よう子は天才としか言いようがない(((;゚Д゚))ガクガクブルブル)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

3

いつも感心することが多くて、楽しみに読ませて頂いています。で、バックナンバーを読んでいてこの記事に行き当たりました。
もう3ヶ月も前のエントリにコメントを書くのは、もしかしたらルール違反でうざったいことかもしれませんが、お許しください。

ここがどうも引っかかるんですね…。

>本気で人を殺そうと思うときの極限状態と自分を殺そうとするときの極限状態っていうのは結構似てるんだけど、これとゲーム内で人間をメッタ刺しにして切り刻んでる時の心理状態とでは、天と地ほども違う。相似形ですらない。

そりゃ確かにそうです…というか自明のことです。ただし、江島さんのようなまともな感覚を持った人にとっての「まともな殺人」については、これは当てはまるでしょう。

しかし、問題は、「ゲームの中の殺傷の心理状態」を、リアル世界にそのまま持ち込める場合があるということじゃないですか?

「まともな人間のまともな殺人」には、底知れない憎悪が必要であり、自己破壊欲求と表裏一体の…江島さんの言う極限状態が必要です。さらに、その心理状態が実際の行為に結びつくためには、ある「飛躍」が必要だ。一線を越えるということです。
だけど、それはあくまで「まともな場合」だと思う。

「翔ぶ」必要すらない殺人がある…ということを見落としていませんか?

何もぼくは、よくテレビでやっているような、精神異常者の快楽殺人のような限定的なケースなどの特異的な場合について言ってるんじゃありません。

ときどき起こるいじめによる殺人なんかは、「跳ぶ」ために必要な狂気や殺意を必要としないケースだと思います。…マットで簀巻きにして一晩ぶらさげといた、とか、肛門を校門で串刺しにした、とか…いった実際にあった痛ましい事件のことです。

プロレスごっこみたいな「ノリ」でやってしまう娯楽性を伴った暴力の延長線上にある、不幸な結果としての事故的殺人。

これをゲームが助長しない、と言い切れますか?

娯楽性が現実の痛みそのものを鈍らせる。
あるいは、娯楽性が現実の痛みに対するセンサーを鈍らせる。

それゆえにはびこる不健全な暴力。
それが殺人に結びつくつかない、は、確率的なものでしかないのではない
ですかね。

バーチャルの世界の娯楽性が現実世界に投影されて、
無感覚の暴力を生み出す、という可能性について問いかけたい。

ゲームの危険性を指摘する人というのは、そういう観点に立っているのであって、
「死」をまともに捉えられて、現実と幻想の境目をきっちりと見定められるまともな状態のまともな人のケースを問題にしているのではないと思う。

静まった湖に石を放り投げるような真似をしてしまって、すみません。
不適当なら削除してください。

  まっつん on 2006/10/23

2

久々に音楽でのけぞりました。あらゆるジャンルを個々にみても最上級といえるクオリティでさらりと料理してしまうのがあまりに凄すぎて、きっと菅野よう子というのは人物じゃなくてそういう名前の作曲家ユニット(catfrog方式)なんだと信じたい。

  kenn on 2006/07/08

1

菅野よう子は天才です。

  ishisaka on 2006/07/06

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