ここCNET Japanでもたびたび話題になっている音楽業界の浮沈とDRM技術をめぐる混乱について、そろそろ何か書いてみようと思う。
インスピレーションが沸いたのは、この記事。
私がこの記事で注目したのは、Rob Glaserがアップルに対してきちんと敬意を払っているかという点である。このことは後に述べよう。
アップルの音楽ビジネスでの成功を受けて(つけ込んで?)、iPod / iTunesをジャックして音楽データの解放宣言を高らかに掲げた。しかし、このやり方があまりに不合理だということで物議を醸したわけである。さて、世論はどうだろう。
「アップル対リアル、どっちが正しいか」--News.com読者調査
この記事にぶら下がったトラックバックを追っても「Appleが正しい」あるいは「どっちもどっち」といった意見がほとんどで、「Realが正しい」という意見は皆無だった。
なお、私は長年の(使い道のなくなった黄ばんだSE/30にNetBSD/mac68kを入れ、これを自宅LANのDNSサーバとして最近まで稼動させていたほどの)アップル党であるが、ここでは敢えてリアルネットワークスを支持する立場を取ることにしたい。
無論、iPodの奇跡的な成功がなければリアルのこの戦略は存在すらしなかったわけで、そういう意味では「寄生虫的」とでも言うべきイヤらしさを感じるのも確かだ。しかし、ソニーにせよアップルにせよ、囲い込み型のDRM技術をユーザの所有物である音楽データに課すことには、ずっと違和感があった。
一体、問題は何だろう。感情論だけでは問題を定義することさえできない。
私は古くからの友人が音楽業界に結構いたりする関係で、例えばWinny事件のときにはどちらかというと音楽業界を擁護する意見を述べたりもした。だが、やはり長期トレンドとして一旦調整されるべき業界であることは論を待たない。その長期トレンドを前提とした上で、「市場全体が再び活気づくためにはどうすればいいのか」というのが問題だったはずだ。
建設的な議論というのは、いつの時代も「企業 vs 企業」や「人 vs 人」ではなく、「問題 vs 企業(人)たち」へとモードが変わって初めて生まれるものである。だから私は、「Rob Glaserがアップルに対してきちんと敬意を払っているか」という点に注目した。まずこの点について、Rob Glaserはギリギリ及第点にあると言ってよいと思う。
アップルのiPod / iTunes Music Storeの彗星のごとき成功によって、音楽を楽しむシチュエーションに自由度が広がった。iPodのおかげで手持ちのCDの大部分がポータブルになり、iPodの全曲ランダム再生によって「おっ?こんな曲あったんだ」という発見や、聞くシチュエーションとの組み合わせの意外性も楽しめるようになった。iTunes Music Storeは、忙しい人々からCDを買いに行く手間とリッピングする手間をなくしてくれた。
アップルは、音楽を聴くという行為の、まさに「世界を変えてくれた」のである。例えば、音楽CDを買いに行ったりリッピングしたりすることが面倒と思っていた人々が、音楽を買うようになる。即ち「イノベーションへの解」で定義されるところの「無消費に抵抗する新市場型のイノベーション」となる。
しばらくはアップルの成功を礼賛し、その勇気とリーダーシップに敬意を表してたっぷりと先行者利益を享受して欲しいという気持ちはある。しかし市場経済のパラダイムにいる以上、当たり前のことながら、これとて期限付きのものだ。
特許にせよDRM技術にせよ、ユーザに不便を強いるような方法で囲い込みを図ることは、むしろ市場全体にとっては律速要因にしかならないだろう。独自のDRM技術は既得権益としての競争優位の維持にのみ役立つ「守り」の技術であって、需要の創出には何ら貢献しない。アップルは今でこそ音楽業界の寵児として破壊者然とふるまってはいるが、このままではマイケル・ムーアの映画「華氏911」をめぐってのドタバタも話題になったザ・フーの曲、「Won't Get Fooled Again(無法の世界)」の最後のフレーズに出てくる「Meet the new boss. Same as the old boss.(新しいボスに会うがいい、結局 前のボスとおんなじさ )」をリフレインすることになるだろう。
だから私は、今回の件について、数々の批判を加えながらもリアルネットワークスの立場を支持したいと考えるのである。
リアルにとって今回の戦略をうまく収束させる鍵は、最終的に「Rhapsodyの存在によって、アップルによって新しく生み出された音楽業界のイノベーションが、アップル単独で行われていた時よりも結果的に活況となった。つまり、アップル自身もRhapsodyの存在によって得をした。」と締めくくれるほどの成功を収められるかどうかである。Rob Glaserも述べているように、これが実現したと言えるまでには(仮にそうなるとしても)非常に長い時間がかかるが、それまでの間、一貫してこの哲学を主張し続けなくてはならない。このことは、今回のような手段を採ったことへの代償であり、義務でもあるだろう。
まずいのは、リアルのRhapsody Music StoreはMac版のサポートが弱いという点である。ここまで常識を超えた手段に訴えて出たのだから、市場原理を言い訳にしている場合ではない。Mac版サポートを充実させるなど、アップルファンの心の琴線に触れるような投資的・政治的な戦略を採るべきだ。リアルは、アップルに対する敬意をアピールすることを決して怠ってはならないのである。
さて、ここから少し余談である。「豆腐産業」とよく比較される音楽業界の市場規模(いずれも年間5000億前後)だが、
隣接する他のエンターテインメント業界と比べてどうか。例えばゲーム業界。
ソフトウェアとハードウェアの総出荷額は1兆1,344億円で、ソフトウェアの国内外を合わせた総出荷額は4,299億円、ハードウェアの国内外を合わせた総出荷額は7,045億円。このデータを信じるならば、ソフトだけを見ても音楽業界と十分比肩しうるサイズと言えるだろう。
つい先日、野村総研からも面白いリリースが出た。
マニア消費者層はアニメ・コミックなど主要5分野で2,900億円市場
何でも、日本のオタク市場は2600億円の規模らしい。「アイドル」のカテゴリーに結構な重複がありそうだが、それでも十分大きなマーケットに育ってきていると言ってよい。こちらではゲーム・コンテンツの市場規模が780億円と上記のCESAのデータとかなり乖離があるが、肌感覚的に実態に近いのは後者だろう。
なお、余談の余談となるが、ゲーム業界では知る人ぞ知る(?)コミュニティエンジン社のMMOG、「gumonji」がいよいよ今日、正式リリースの運びとなる。社長の中嶋さんはとっても魅力的なハッカーだし(彼のringo's weblogはホントに面白い!)、中国オフィスのCEOの小林さん(なんて呼び方をしたことはないけど)は大学時代からの音楽つながりの後輩である。ワクワクするような「遊び」をどんどん創り出してくれる彼等に、私はとても期待している。

かなり話題が散逸してしまったけれども、レイ・ブラッドベリの「Fahrenheit 451」を読み流しつつ、今日はこんなところで。
♪ Ella Fitzgerald / Mack The Knife
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iPodやDRMについてさまざまな事が議論されていますが、みなさん、著作権について意見を戦わせる前に、あるポイントを先に考えて見てください。それは、音楽家のことです。今の多くの議論には音楽家(ミュージシャン・作詞家・作曲家・編曲家他)のことが余りにも語られなさ過ぎていませんか?
私は長年、音楽業界でプロとして主にスタッフサイドで主導的に働いてきました。音楽がデジタル化されてオンライン化されることはすでに10年以上前から演奏者サイドでは夢物語として語られてきました。何故、夢物語かというと、一端CD化された楽曲は、著作権管理主導が原盤出資者に渡るため、極端に分け前が少なくなって発言権が弱体化するので、いくらシステムや環境を作家本位・ユーザー本位に考えても、カタログを保有する人にしてして見れば烏合の衆として数の内にカウントされないのが実状だからです。
さらに、音楽をつくった人たちに渡るお金のなんと少ないこと!(CDショップの取り分である販売マージンの3分の1以下なのです。)
さて、今回のiPodを巡る動きやP2Pの違法ダウンロードの話では、音楽制作者は何を考え、どう行動を起こすのでしょうか?
1つの革命的な動きとして考えられるのは、一端CD化して楽曲はレコード会社や出資者のものと切り捨て、また、人のお金をあてにせず再度録音して、価格設定や配信方法を作家とユーザー本位に作り上げ。新しいオンライン音楽業界を立ち上げるということです。(今度は自分の好きなように販売したり、無料で配ったり・・・など)なにしろ、今や音楽制作はスタジオ要らずで、1畳間とPC機材があれば超高級スタジオ録音が実現させられます。