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P2Pとネットワーク技術の未来にあるもの

2004/08/02 01:16
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今回はP2Pのお話。例によってあまりタイムリーに話題を追いかけることができずに申し訳ない。色々と議論が出尽くした今頃になって?という声も聞こえてきそうだが、いやいや出尽くしたなんて気が早い、というのが自分の感触である。

先週の7月22日〜23日にJANOG (JApan Network Operators' Group)というネットワークインフラ屋を中心とした異色の集まりがあって、ここで私の研究室の先輩である亀井さんが「オーバーレイネットワークの可能性とそのインパクト」という題目で発表されたという情報を入手し、Webサイトを訪問してみると資料がアップロードされていた。

亀井さんは、某最大手通信会社の研究所に所属しながらP2P (Peer To Peer)の世界を追っかけるという邪道(?)を極められている人である。何でも、P2P関連で書籍を出版したり新聞に掲載されたりすると社内広報あたりからお咎めがかかるという、生粋の無頼漢ぶりなのである。

ん?いや、ちょっと待って。なぜP2Pがアウトローなのだろうか?

P2Pとは、技術的な観点から言えば、個々のノードが互いに対称的にサーバでもありクライアントでもある、分散システムの総称である。

この技術の本質的な利点は、従来のクライアント・サーバモデルであれば同一のサーバから同一のコンテンツを大量に配信するのにはサーバのボトルネック(ネットワーク的、ハードウェア的)が発生する不都合があったのに対し、同一ネットワーク上に存在する空きリソースを動的にアサインして効率的に配信できる点であったというのが一つの側面である。ブロードバンドの普及による、クライアント側の帯域余剰がトリガーになったことは疑うべくもない。

メタデータ(インデックス)とコンテンツ(データ本体)を分離してメタデータだけを広く流通させよう、というこの界隈で広く見られるアプローチは、言い換えれば「実物は大きいから、カタログだけを先に回覧しておこう」という動機であり、つまり巨大なコンテンツ流通が前提とされているのである。

と、いうことは。P2Pはネットワーク上のトラフィックの偏りを緩和し、かつ巨大なコンテンツの流通によって全体のトラフィックを稼いでくれるという、ネットワークインフラ屋にとってはある意味で理想的とさえ言えるアプリケーションのはずだ。(念のため解説するが、ピーク・トラフィックに合わせてキャパシティ・プランニングすると、ピーク以外の稼動率がスカスカになるため投資効果は非常に悪い。従って偏りを緩和してくれるというのは投資効率の改善に直結する)

それでもなお、なぜP2Pがアウトローの烙印を押されることになるのか?

。。。なんてちょっと退屈な前フリをしてしまったけれども、実際問題として、世間的にはP2PといえばWinny事件などをめぐって「違法ファイル共有」「著作権侵害」といったネガティブ・キーワードと生々しくリンクされて記憶に刻まれてしまった。反体制的なイメージが濃すぎて、もはやP2Pという技術に対する冷静な議論の機運を逸してしまい、とにかく印象として「クロ」なのだ。こんなこと今更言うまでもないし、この世論に抵抗して「P2Pは技術的には素晴らしいのだ」なんて混ぜっ返すのはコストばかりかさんでほとんど実利はない。

さらに、先ほど私はP2Pがトラフィックの偏りを是正するなどと述べたわけだが、実際には物事はそれほど単純ではなくて、1:NのWeb型モデルではN2のオーダーのトラフィックなのに対し、N:Nのコミュニティ型モデルでは2Nのオーダーのトラフィックになる。参加者Nが増えてくると、コミュニティ型モデルはWeb型モデル以上にトラフィックが爆発してしまう。一方、経済規模は(アプリケーション価値)×Nで決まるわけだから、新たなキラー・アプリケーションを見つけない限りトラフィックあたりの収益機会の低下をもたらしてしまう計算になる。ファイル共有というグレーなアプリケーションに依存している限り、天井が見えてしまっているのだ。加えてxDSL技術が暗黙に仮定してきた、Web型トラフィック主体の上り下りの非対称性が、P2Pだと崩れてくる。よって、今すぐコミュニティ型モデルに急激に移行されるのは投資回収の観点からも「ちょっと待った」と相成る次第。

つまり、政治的にもホンネでも「まだちょっと時期尚早だよ」というのがオトナの業界人たちの帰結なのである。だから、利権団体のあからさまな過剰防衛はともかく、ネットワークオペレータはP2Pに対して邪魔をすることもなければ助け船も出してくれない、というのが時代の空気である。P2P周辺技術でプレーされている御仁は、このあたりを計算に入れて取り組まれたし。

しかし、日本ではアリエル・ネットワークスのようにP2P技術をビジネス用途で本格的に活用することを模索しているところもあれば、SoftEtherのように徐々に世間に順応してきたものだってある。その生態系は様々だ。

動機は多少不純だっていいのである。VHSしかりインターネットしかり、かつて爆発的な普及を遂げた商材は、得てして風俗的な不純な動機から出発して何とか現実世界との折り合いをつけてきたものであることがほとんどだ。単なるファイル共有を超えるアプリケーションを掘り起こし、循環し持続するエコノミーを創出できれば、むしろ時代がすり寄ってくるのである。

法律なんて時代の後ろを追っかけてくるだけなのだから、違法だの合法だのの同語反復まみれのくだらない議論は、ただただ中立の立場を守って辛抱強く他人の意見を聞く姿勢を維持すればいい。いずれ勝ち負けは別の次元で決まるのだ、と腹の底で思っていればよいのである。

それにしても、言葉がP2Pから「オーバーレイネットワーク」となるだけで、随分と印象が変わるものだ。IPの上位で、さらにアプリケーション特化・コミュニティ特化のネットワーク空間が成立する。そんなポジティブなイメージを、今度こそは大切に育てていきたいものである。

P2Pがビジネスを変える―ダイレクトな情報交換とコミュニケーションの未来
P2Pがビジネスを変える―ダイレクトな情報交換とコミュニケーションの未来

♪ Duke Ellington / Take the "A" Train

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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