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CNET Japan ブログ

WebサービスとSOAに関する議論

2004/01/29 17:42
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前回のエントリに対してのMasayoshi YasudaさんとPsychsさんのコメント、それから「そんなことより聞いてくれよ>>1よ」からのトラックバックが非常にいい問題提起をしてくれているので、別エントリーを起こしてフォローすることにしました。

まず、最初に前提としてご理解いただきたいのは、私が単なる評論家的なWebサービス否定論者ではないということです。これまでにも「Reliable Messaging(高信頼性メッセージング)は第8のレイヤーになるか」や「アジアが面白い!」といったエントリでも話題にしたように、私自身がWebサービスに類似した技術仕様であるebXMLなどにおいて、相互接続テストなどの活動にコミットしてきています。ここでの私の意図は「Webサービス(的なもの)に対する世間の理解のうち、間違っている部分を明らかにすることで、逆にここはいけるぞという部分をさっさと炙り出し、本質的な意味での進化を加速させたい」というものです。これが結論です。ですから、立場やアプローチは違えど恐らく皆さんと目指しているところは近いはずです。是非いいディスカッションをしましょう。

それから、オブジェクト指向とサービス指向という観点では、以下の記事がよくまとまっています。是非、この分野に興味のある方はまずご一読ください。

@IT : オブジェクト指向の終えんとサービス指向の台頭(吉松 史彰)

さて、Masayoshi Yasudaさんのコメントから。

私も現在SOAに関しては色々な記事(殆ど欧米ですが。日本は相変わらず情報フォローアップが遅い)を目に通していますが、SOA, SOAを実現する手段として親和性の高いWeb Servicesに注目が集まるのは、別にMSやIBMといった大手ベンダーが宣伝しているからだけではなくて、時代の流れとして従来のエンタープライズ・コンピューティング(ERP, CRMなど大型インプリ・プロジェクトをベースとしたアプローチ)に対してユーティリティー・コンピューティングのビジネス・モデルが、現在のビジネスのアジリティ、コア・コンピタンス、ノンコア・プロセスのアウトソーシングなどといったビジネス・トランスフォメーションの方向性に非常にマッチした技術だからです。技術面というより、経営戦略、ビジネス・モデルの観点から、SOAは従来SAPなどが勧めてきたビッグバン・アプローチを凌駕していくことになるでしょう。CRM分野でのSalesforce.comとSiebel(+IBM)の競争原理を見てみて下さい。SOAの方向性は明らかですよ。

ここではインストール&カスタマイズモデルとユーティリティモデルの対比について述べられていますが、骨組みを明確にしたいのでとりあえずSOAという曖昧な言葉を使わずに議論してみます。

まず、かつてASPと呼ばれたユーティリティモデルは現状では非常に小さい市場ですが、いずれ徐々にインストール&カスタマイズモデルを押しのけて一定のシェアを獲得するでしょう。このことは私の認識も合っています。問題は、そこに至るまでの期間と経路、そして定常状態に入った場合のパーセンテージが、5%〜20%〜50%〜80%〜95%のどのあたりに落ち着くかです。

salesforce.comは、ビジネスアプリケーション市場におけるユーティリティモデルの稀有な成功事例です。通常、ユーティリティモデルがうまく機能するのはビジネス的なコンテキストを負わないインフラサービス、例えばいわゆるレンタルサーバのビジネスにおけるWebサーバやメール配信サービスのような、サービスプロバイダがビジネス要件に関与しなくてもよいものです。しかし、salesforce.comの分野はCRM/SFAです。CRM/SFAは顧客サービスの向上を担う競争力のキーファクターであり、戦略や戦術の影響を大きく受けるところです。ですから、私にはCRM/SFAがアウトソース可能であるとは考えられませんでした。そういう意味では、salesforce.comは非常に示唆に富むケースであると思います。

ここでのポイントは、従来SiebelやBroadVisionなどのCRMパッケージは、コールセンターなど膨大な顧客コンタクトを持ち、金太郎飴のような質疑応答を大量にこなすニーズの周辺にあったわけですが、そんな企業は多くないということです。従って、世間ではCRMという言葉がかなり広義に解釈され、あらゆるマーケットに展開できるかのように言われていますが、実は現時点で言うところのCRM市場というものは非常に狭い市場です。ほとんどの企業にとって、顧客管理や営業支援といった業務は十分に定型化・システム化されていない(できない)空白地帯なのです。例えば、メインフレーム時代というものを経験していません。そこで私は、salesforce.comは「無消費」に抵抗しつつ「ローエンド」を攻める、ハイブリッド型の破壊であると定義できると考えます。(「無消費」や「ローエンド」という言葉のここでの定義についてはここで述べると長くなるので、是非この機会に「イノベーションへの解」をご参照ください)

しかし、くどいですが、CRM/SFAは企業にとっての競争の源泉であり、ユーティリティモデルでのビジネスには自ずと上限があります。従って、salesforce.comは、適切にビジネスを続ければ規模は小さくとも圧倒的な市場支配力を獲得できる可能性がありますが、長期的な成長を続けるには多角化が避けられないと思います。

ところで、「コア・コンピタンス」という言葉はよく「本業に集中せよ」という文脈で語られますが、皮肉なことに、この造語を最初に生み出したPrahaladとHamelにとっての元々の意図は、多角化企業を肯定的に理解するためのものでした。しかし、それよりも何よりも最大の問題は、何がコアで何がコンピタンスかを見極めるのが最高に難しい意思決定であるということです。

判りやすい例で言えば、かつてIBMはパソコン事業でCPUの開発をインテルに、OSをマイクロソフトにアウトソースする決定を下しました。IBMが1980年初頭にこのような決定をしたのには、IBMが当時最も競争力のある分野、即ちハードウェアの設計・製造と販売に集中するためでした。当時パソコンの部品ベンダーはほとんど利益が出なかったため、当時の決定としては最高のものと思われました。事実、製品のライフサイクルと利益率は劇的に改善されました。しかし、IBMはコアでもコンピタンスでもないものをアウトソースすることで、業界の利益のほとんどを牛耳ることになる2つの企業を成長させる軌道に乗せてしまったのです。インテルとマイクロソフトの存在感をGivenなものとして受け入れている現在の我々には理解しがたいことですが、くどいですが1980年代にはこの決定は全く合理的と思われていたのです。このように、コア・コンピタンスにまつわる「合理的な判断」と思われるものは、常に意思決定者の想像力の限界という壁があるということを忘れてはいけません。

というわけで、やはりユーティリティモデルの本命は企業の業務の中でも相対的に戦略性・業界依存性の低いモジュール、例えば財務や人事のような業務でしょう。この市場はCRMに比べて多数のベンダーが並立できるだけのキャパシティがあります。しかし、今のところこの分野でのユーティリティモデルの成功例はないのが実情です。

さてさて、以上の思考実験で伝えたかったことは、「サービスを考える」とは、こういう戦略とどう向き合うかということであって、実装やアーキテクチャの話ではない、ということです。

なお、ビッグバン・アプローチ(全体最適のために幅広い基幹業務を一斉に切り替える)がダメだというのは全く賛成です。企業は個人から構成されているというシンプルな真実を軽視する欧米的で浅はかな考えです(ビッグバン・アプローチをインストール&カスタマイズモデルと同義で言われているような気もしますが)。システムは最終的に人間が使うものである以上、人間の社会学が作用します。人間のfamiliarity(馴染み)は、文化にしても恋愛にしても組織にしてもシステムにしても全ては小さな信頼感の積み上げであり、小さなきっかけを大きく育てるようにしかできていないのですから。知的労働者のモチベーションがますます重要になってきている現在、政略結婚のような手段で何とかなる時代ではなくなっていると思います。

あと、SOAとオプジェクト指向プログラミング(CORBA, RMIを含む)は全然アプローチが違うという基本を抑えておいて下さい。相違点を少し挙げれば、

[coupling] SOA=loosely coupling, OOA=tight coupling
[object] SOA=business process, OOA=object

です。SOAの特色はビジネス・プロセスを粗結合していく
点にあります。オブジェクトといった粒度の高い対象はエンキャプスレートされており、サービス利用者がその詳細を直接知る必要はありません。

この点は全く賛同しかねます。前回のエントリでは、上記のような考え方、即ちサービスというものを十分に抽象化して扱うことはそもそも「できない」ということとその理由の一部を述べています。「salesforce.comにおけるWebサービスI/Fの存在」が反証にあたるというお考えのようですが、それは矛盾しています。なぜなら、結局のところ「salesforce.comというサービスの詳細を具体的に熟知しているユーザ」が暗黙に前提とされているからです。従ってこれは反証として認められません。カプセル化に成功したいい事例が他にあればぜひ教えて下さい。

サービス指向とオブジェクト指向は全然違うと言いたい気持ちはわからないでもないですが、例えばLoosely Couplingという言葉を非常に好意的に解釈しても、それはSOAPの価値(電源コンセントが必ず刺さること)であってSOAの価値ではありません。「サービス利用者がその詳細を直接知る必要がない」という状況を現実に成立させているサービスの共通点は、そのサービスが時間をかけて実績を蓄積し、枯れた信頼感を醸し出すのに成功したという点をおいてはありません。つまり、アーキテクチャを変えれば何とかなるという類の問題ではなく、いかにそのサービスが人間にアピールできるかなのです。

UBLにみる明快なビジョンと情熱」にも述べましたが、ビジネスプロセスとビジネスデータの関係というのは厄介な代物で、仕様開発に従事しているようなスペシャリストたちでも誤った解釈をしがちです。そのような状況の中で「ビジネスプロセスを疎結合していく」という言葉は非常に空疎に思えてしまいます。なお、このUBLについてのエントリには今回トラックバックいただいた「そんなことより聞いてくれよ>>1よ」からもこういう風にフォローいただいているのでご参考まで。

このあたりは何と言うか、土台となる経験が違うと文章だけでは通じない話なのかなというような領域なので、是非ここは有言実行ということで、色々と実践してみてください。多分、いま見えているのとは違った発見があることと思います。Masayoshi Yasudaさんにとっても、そして私にとっても。そのときには是非教えてください。

次に、Psychsさんからのコメント。これには、まいった。。。

私は,SOAPを温めてきた MSにとってのみ,Webサービスが持続的イノベーションであるという可能性も否定できないと思います.Office,InfoPathや,次の VS.NETなどの動きを見ていると,MSがうまいウェブサービスの使い方をするなと感じるからです.
もちろん,Amazon,Google,その他の ASPという可能性もあるでしょう.
あるいは本質的に破壊的イノベーションの性格を帯びる,別の用途があるのかも知れません.

マイクロソフトにとってのみWebサービスが持続的イノベーションであるかも知れないという指摘は、ものすごくドキッとさせられました。確かに言われてみると、その要素は十分にありますね。無意識のうちにOfficeやInfoPathのSOAP実装をオモチャのようだと考えて思考停止していた自分に気付きました。今、とるに足らないと思われているものに将来の破壊因子が潜んでいる。そのことに自戒の念を一層強くしました。

そういう視点を持ち直して色々と思考実験を始めたところですが、そうするとWebサービス周辺の仕様策定に関与しているプレイヤーのうち、Webサービスを持続的イノベーションとして捉えることができるのはマイクロソフトだけかも知れませんね。あとはAmazonやsalesforce.comのような、仕様を策定する側ではなく使う側が恩恵を得ることになるのでしょう。IBMは、コッド博士のアイデアがオラクルの成功に貢献したように、またしても貴重なアイデアを誰かの成功に献上してしまうことになるのかも知れません。そうすると、やはりIBMが取りうる戦略は買収・出資といった資本戦略になりそうです。少なくとも、Webサービス戦略をWebSphereなどの主流プロダクトと関連付けて考えているうちは、足元をすくわれる危機に気付いていないという仮説が立てられると思いますが、いかがでしょうか。

もちろん業務ソフトウェアは,役に立てばいいのであって,理想をそのまま受け入れる必要はありません.
ですから,大手企業は,SOAという用語に踊らされているように見えて,案外本当の理想は信じてないのではないかと思います.その意味では,「SOA」は buzzwordと言えるでしょう.
つまり,江島さんが指摘される,「サービスが隠蔽可能」であることの本当の難しさについてまでは,彼らは興味がないのではないかと思います.

ここで言う「大手企業」がベンダーなのかユーザなのかにもよりますが、ユーザサイドは興味がないというのは事実でしょう。しかしベンダーサイドはというと、現にこのように反論があるわけで、まだ賛否両論という状態ではないでしょうか。私は、このような混乱に一石を投じるべくオピニオンを発信しています。その理由は冒頭に述べたとおり、さっさと核心に迫りたいからです。このIT不況の中、無駄なことに時間を割いている余裕はないのですから。

長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

最後に、前回のエントリに対してフォローされていた記事の一部をご紹介して今回は終了。

ウェブマジシャンの秘密部屋
角谷XHTML化計画
Hysteric Programmer 日記
Jomorizm
wildcatsのボケ・ツッコミは基本でしょっ!
観測気球
Place Under Glacier

♪ Dizzy Mizz Lizzy / Waterline

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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