最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

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TravelXMLにみる旅行業界の迷い

公開日時:
2003/12/01 18:48
著者:
kenn

日本旅行業協会(JATA)XMLコンソーシアムが共同で策定した仕様が11月28日にリリースされた。

CNET Japan : JATAとXMLコンソーシアム、旅行商品取引向け標準「TravelXML 1.0」を勧告化

TravelXML仕様書ダウンロードページ

旅行業界の事情とTravelXML

旅行業界といえば、バリューネットワーク内に占める小規模な事業者の比率が高く、最も原始的な取引慣行が行われている業界の一つである。

これまで旅行業界のビジネスモデルと言えば、例えば大手旅行会社が国際ブランドのホテルから寒村の秘湯旅館まで数多くの宿泊業者を束ね、レストランや興行業者などの手配業務をパッケージ化して販売するという形式が支配的であった。経済の高度成長期に見られるような修学旅行や社員旅行といったホールセール・プロダクトアウトの時代性に支えられ、年間売り上げがピーク時には1兆5千億円を超えたガリバー企業のJTBを筆頭に、業界は大いに潤った。

このような業態の中での競争といえば、企画力や営業力といった基礎体力での勝負に加えて、例えば宿泊業者からの預かり在庫(空き室のことだ)確保、専用端末の配布などによる「囲い込み」が戦略であった。その囲い込んだサプライヤに対して営業代行というファンクション(与信管理という意味合いも含まれるが)を提供することで、ビジネスとして成立してきたわけである。

しかし、インターネットの登場が徐々に破壊をもたらしつつある。ある程度の規模の宿泊業者になると自社のWebサイトで直販を開始してすでに一定の成功を収めており、中小の宿泊業者でも「旅の窓口」に代表されるインターネット専業で低コストが売りのニュータイプの旅行会社が急成長してくることで、販売チャネルに重心移動が起きてきた。長らく言われていた「個人客の嗜好の多様化」「インターネットで業界再編が起きる」という言葉がリアリティを帯びてきたのである。

このような危機感の中で、大手旅行会社の面々が立ち上がった。本日発行の日経ビジネスの特集でJTBが取り上げられているが、10年ぶりの赤字転落を受けて挙げられたメッセージとして、取引制度やコスト体質の見直し、自前主義や過去の成功体験との決別といった事業転換期のキーワードがずらりと並べられている。こういう単語は耳にタコができるほど聞いていると思うが、裏を返せば「言うだけなら誰にでも言える」ということでもあり、大事なのはコミットメントの強さだけである。ここに引用はしないが本誌における佐々木社長のコメントの数々は本気度という点で迫力があり、実際の打ち手にもバランス感覚の良さが感じ取れ、頼もしい。

このような危機感に支えられた一連の改革ムーブメントが起きつつある中で、TravelXMLは生まれた。在庫は返品可能という甘えの構造に楔を打ち、予約通知や在庫照会などの業務データをイベントドリブンで電子的にやりとりするための標準的な手段を定義し、サプライヤに新たなインセンティブを与える。そうすることで、例えば直間比率については少しでも間接チャネルに有利な均衡点を模索したい。そのような意図をもって企画されたのがTravelXMLなのである。

先ほどのJATAのサイトにチャーターが載っているので、業界という単位での戦略に興味のある人には、その裏に込められた意図を行間に読み取りつつ見てみて欲しい。

TravelXML 開発の目的と範囲

簡単に想像がつくとは思うが、この業界では取引業務の多くがFAXベースで行われている。これをまずは何とか電子化しようというのがファーストステップであるから、道のりは長い。また、この手の業界標準のXML関連仕様は、購買側(旅行会社)が業務コスト削減という目標でスタートすることが多いのだが、むしろサプライヤへのインセンティブを前提にしているのは珍しい。それだけに、旅行会社がジレンマに悩む姿が眼に浮かぶ。だが、前途多難だからといって後戻りはできないのだ。

改革のツールでなくては意味がない

TravelXMLは標準という期待を背負って仕様化されたわけだが、過去にEDIなどで辞書などの実績のあるセマンティクス標準が形成されていない業界なので、一応XMLというシンタックスの標準にはなったが、内容的にはかなり曖昧な部分を残している。こういう場合には、何はともあれフィージビリティ・テストをやってレビューしてみないと話にならないので、早期に旅行会社とサプライヤの間で実証実験がプランされるべきだろう。(これはJATAへの期待を込めたラブコールでもある)

また、今のTravelXMLは結局のところ大手旅行会社に甘く中小サプライヤに厳しい仕様になってしまっている。それは「既存のビジネスモデルを前提に(業務を変えず)、これまで旅行会社が多額の投資をしてきたシステムから最小限の追加コストで対応できること」を優先してきたからに他ならない。このアプローチは「何はともあれTravelXMLについての理解促進と地ならし」のためにとっかかりやすさを優先するという意味なら値打ちがあるが、そこには本質的な意味でのバリューはない。大手旅行会社への遠慮というか、過去のモデルに対する未練や迷いがアリアリなのだ。「As Is」への適合性を重視してどうする、「To Be」の青写真を描かなければ意味がないだろう、という声はITベンダー側からずっと上がっている。次の段階では、このようなゴールをあらゆるステークホルダーに対して明確に示してくことが必要となるだろう。

旅行業界が右肩下がりで縮小均衡することを認識し受け入れた上で、TravelXMLを利益を出すための業務改革のツールとして使ってやろうという覇気のあるプレイヤー、またはTravelXMLを先んじて採用することで今後の標準化の主導権を握ってやろうという野心的なプレイヤーが真剣に取り組み始めることを願ってやまない。そういう本気のプレイヤーがいなければ、我々のようなITベンダーも真剣勝負ができないのだから。

それにしても、達筆の女将が筆書きで宿泊者名簿に記帳してくれるようなアットホームな温泉旅館の受付に、ケーブルまみれの不細工なアイボリーの箱が置かれるということはいかにも無粋な気もする。しかし、そういう「スローだからいい」的な価値観で本当に勝負できる旅館というのは意外と少ないものだし、新しい時代に合った新しい工夫は自然と生まれてくるのであろう。今はそうやって楽観的に考えることにしよう。

♪ Incognito / Positivity

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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