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CNET Japan ブログ

サーバにイノベーションのジレンマは起きているか(4)

2003/11/02 15:46
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いよいよこの連載もクライマックスである。

今回は、IT業界のサーバビジネスにおけるプレイヤーたちに焦点をあて、核心に迫ろう。真の破壊的イノベーションが訪れるとき、この業界にとてつもない激震が走るであろうことに、まだ多くの人々は気付いていない。いや、気付こうとさえしていない。IBMからリリースされたSYSTEM/360がスマッシュヒットを飛ばした1964年以来、40年にも渡ってその地位を失ったことのないIT業界老舗の重鎮たちが、かつてないほどの岐路に立たされることになるというのに。

ERPのポジション

ちょっと脇道に逸れるが、オープンシステムを基幹業務に用いるということを考える上で、SAPやオラクルが提供しているERPパッケージに触れないわけにはいかないような気がしてきたので、一応ここでその位置付けを考えてみることにする。しかし、これまでに述べたような点について冷静に分析すると、実は現在のERPはかなり危うい市場基盤の上に成り立っていることがわかる。

オープンシステムでは、標準化が一巡している技術スタックからユーザの期待するアプリケーションまでのギャップがまだまだ大きいと述べた。このことが意味するのは、今すでにある技術だけでフル・スタックをガチガチに積み上げてしまったERPは、これまでの市場展開はスピーディに行ってくることができた一方で、いずれメインフレームと同じようなアーキテクチャ・ハザードを起こす可能性が高いということである。そう、今のERPは実はメインフレームと全く同じ価値観の延長線上にあるのだ(逆に言えば、だからこそ「今」商売になっているのだが)。いつしか、今あるERPのコードは丸々ドブに捨ててゼロから作り直しを迫られる日がやってくる。すでに競争状態が終わったとさえ言われるERPだが、これは嵐の前の静けさである。いずれ、今はまだ存在さえしていないような野心的な企業が、ふと強力な競合となって現れてくる。下層での技術革新がそれをもたらすことになるのだ。

さらに、前回のエントリでは大規模システムを構築する人件費はそれほど変わらないと述べた。そういった従来型のコスト感覚における価格優位性がハイエンドERPの訴求ポイントである限り、例えば従来なら20億かかっていた構築コストが10億になります、という金銭感覚である。これではオープンシステムのもつ破壊性のポテンシャルを存分に活かしているとは言いがたいし、さらに悪いことに、その程度の最低限の効果でさえ得られなかった失敗プロジェクトも多い。

もうひとつ。ハイエンドERPの市場はすでに飽和状態にあり、新規のライセンス販売を期待できる余地はほとんど残っていない。もはや、既存顧客への継続的な保守とカスタマイズのサービスで食っていく性質のマーケットへと変容している。囲い込んだつもりの顧客がリプレースをきっかけに離反していくことだけを恐れている点など、メインフレームそっくりのビジネスモデルだ。

このように見ていくと、現在のERPベンダーはメインフレームと似た性質の収益構造で膨大な粗利を得ることが既得権益化しつつあり、やはりその自らのバリューネットワークの足枷により、これから本格的にやってくるオープンシステムのデフレ革命にメインフレームと同質の苦戦を強いられるだろう。大企業向けの高額なライセンスに依存した体質から抜け出せないベンダーたち。彼らの多くは時代のあだ花となって散ってしまい、残るのはごくわずか。今後も成長を志向するならば、そう遠くない将来にメガトン級の決断を迫られる。アプリケーションパッケージの真の競争はこれからなのだ。少なくとも筆者は、そういう見方をしている。

ジレンマはどこ?

この連載の主題となっている「イノベーションのジレンマ」は、一世を風靡して成功した超一流企業がなぜ足元からひっくり返されるような危機に直面するのか、ということの背景について「わかってはいるが行動を起こせない」という意味で「ジレンマ」と形容し、ベンチャーと一流企業(かつてのベンチャーでもある)の双方に対して平等にヒントを与える痛快な指南書だ。

これまでの論旨を通じて、オープンシステムにとってヒューマンフレンドリーな高生産性のソフトウェア技術がキーであり、それが信頼性の向上にも貢献し、ある水準に達すると一気にメインフレームを駆逐する性質を帯びてくることがわかった。

しかし、それにしても不思議なのは、IBMをはじめNEC、富士通、日立といった旧石器時代から存在するメインフレーマーが、いまだオープンシステムのソフトウェア・イノベーションをリードするプレイヤーでもあるという点である。今のところ、「イノベーションのジレンマ」で取り沙汰されているようなドラマチックな脱落劇は起きておらず、各社のオープン路線への戦略シフトはうまくいっているように見える。果たして破壊的ジレンマは起きていないのだろうか?

「まだ」という意味では、実はイエスだ。これらの大手ベンダーたちの巨額の収益を支えているものは「エンジニアの人件費が柱」というビジネスモデルである。メインフレームの頃から何ら変わりないエンジニア張り付けの人材派遣モデルを、オープンシステムでも適用することに成功している。多数のエンジニアを抱えることでスケールメリットを出せるこのモデルがまだ破綻していないという事実が、オープンシステムのイノベーションはまだまだ不十分であるということを示唆している。

裏返せば、これらのメインフレーマーや大手インテグレーターがジレンマに陥るポイントは「受託エンジニアがいらなくなる社会」の到来であり、そしてそれはソフトウェア・イノベーションの一貫した方向性と一致している。まさしく「IT業界は自分たちの職をなくすために仕事をしている」のである。

ソリューション志向のワナ

IT業界では猫も杓子も「サービス」だの「ソリューション」だのと言い続けて久しいが、筆者にはこれが市場の断末魔の叫びに聞こえる。ハードウェアやソフトウェアがどんどん値崩れしている現在、デフレに対する最後の抵抗勢力はエンジニアの人件費である。高価な人件費をサービスと呼びつつ顧客にコスト転嫁するような詭弁は、これから起きる生産性革命とそれに伴う案件の小口化・分散化モードの中では許されない。2割の大規模プロジェクトで8割の収益を上げるような収益構造の大手ITベンダーにとっては不幸で、ユーザや小回りの利くプレイヤーにとっては実に望ましいデフレが、すぐそこまで迫ってきている。

ソリューション志向と言えば、ちょっと気の利いたメインフレーマーは、いまアウトソーシング契約の獲得に躍起になっている。これは数ヵ年スパンの大型契約により、何だかんだと理由をつけて自社製品だけを売りつけるロックイン構造で高い利益を継続的に確保しようという、ある意味では顧客企業に対する本格的な「間接部門骨抜き化プラン」である。やはりメインフレーム時代に吸った甘い汁が忘れられないようだ。このような長期的に見て顧客のためにならないアプローチは、一時的には潤いをもたらし雇用を救うだろうが、やはり悪あがきに過ぎない。プロジェクトリーダーなどのキーマンだけが顧客に引き抜かれ、契約の多くは更新されないだろう。危機を数年先送りするだけで、企業存続のための戦略としては機能しない。

こんなジレンマが訪れる転換点は、今見えているものより上層のソフトウェア・イノベーション、即ちもっともっとヒューマンフレンドリーで生産性の高い「何か」の登場によってもたらされる。それが未来だ。

きたるべき未来とは

ソフトウェアによる生産性が向上すれば、システムを作るのに単純労働力はいらない。ビジネスコンサルタントやユーザ自身がセルフサービスでアプリケーションを構築するパワーを手にする。そのような時代には、IT業界は凄まじいデフレ圧力とエンジニアの雇用危機に見舞われる。特にプログラマの多くはオフショア(海外)水準の賃金に収斂し、そもそも絶対需要が低下していく。ある日突然こういう日がやってくるわけではないが、至る過程のどこかにある折り返し地点から、大規模な労働集約的ビジネスモデルが破綻し始める。深刻なのは、程度の差こそあれ受託ビジネスというマーケットそのものが縮小均衡することに気付いていない業界人があまりに多いという恐怖だ。自らの提供するオープン技術のイノベーションが、本格的に自分の尻尾を食い始める。基幹業務システムという聖域で守られていたドル箱がついに価格破壊に見舞われるその時こそ、巨大な規模を誇るメインフレーマーたちが退路を断たれるジレンマの瞬間だ。

そもそも、人月単価が見積りの基準になるという業界慣習そのものがベンダーとユーザの間で利益相反を起こしていないか?このモデルでは、ベンダーは売上をかせぐためには期間を長くとるか、人数を多く投入するしかない。ユーザは短い期間で効率よく仕事をしてくれることに対して高い満足度を示すのだが、それと真っ向から対立する価格構造になっている。つまり、ベンダーの立場からすれば生産性の高いツールを使ったり能力の高い人材を投入すると工期が短くなってしまう(かといって能力の高い人材に対して高い単価をつけるのは容易ではない)ため、収益が減ってしまうというおかしなジレンマを抱えているのだ。こんなバカなことがあっていいのだろうか?誰が見ても明らかに矛盾した業界構造が、このまま改革もなされず永遠に続くと信じられるだろうか?

歴史を振り返ってみれば何の不思議もない。ツールが生産性を高めることで産業革命が起きた。そして歴史は繰り返す。IT業界にも必ずルールの崩壊は起きるのである。

デフレによる収益の減少は、いま基幹業務システムに依存している超一流企業ほどインパクトが大きい。今、エンジニアの稼動費で年間に何千億もの売上をあげている企業が、デフレ市況の中で成長をするなどありえない。いま一流のプレイヤーは、明日には地に堕ちているかも知れないのだ。テレコム業界で最近見られているような破壊的な縮小均衡(10年前に一体誰が「世界のNTT」が今のような苦境に追い込まれると思っただろうか?)、すなわち他人に食われる前に自分の尻尾を食うというような血で血を洗う熾烈な競争の始まりの時が、刻一刻と迫っている。

伸るか、反るか

これらの指摘は、読む人の立場によってはゾッとする話であることは間違いない。破壊的イノベーションとは文字通り破壊を伴う阿鼻叫喚の世界であり、下から攻撃を受ける立場の「現在の一流企業」にとっては決してユートピアなどではない。見て見ぬフリをするのは自由だが、それでも乱世はやってくる。伸るか、反るか。現実を受け入れた上で、会社と自分自身の長期戦略を練ってみるといい。先に述べたように、オープンシステムによる破壊はこれからが本番であり、そしてそれは「ゆっくりと」着実に進行している。ヒントは沢山転がっているし、様々な判断をする時間的な猶予もまだ残されている(そう、今回の連載で解決していない問題は「それはいつ?」なのだ)。しかし一方、連載の冒頭に触れた「慣性の法則」は逆の意味でも真である。一度加速がついたら、あっという間に既存の業界ルールを破壊していくだろう。事態が動き出しスピードが乗ってしまってから行動を起こすのでは、とれるオプションに大きな制約が生じるということだけは覚えておいた方がいい。

ユーザとチャレンジャーにとってはハッピーで、いま成功している一流企業にとっては恐ろしい破壊的イノベーション。乱世の到来は、若い人たちにとってチャンスの宝庫だ。自分自身のセンスを信じ、タイミングを狙い定め、アクションを起こそう。

さて、次回は最終回。ケーススタディといこう。その対象として、筆者の勤める会社であるインフォテリアの戦略を素材としてみようと思う。これまでに述べてきたような見解を踏まえた上で、自社の戦略としてどのようなポジションを狙い、攻めていくか。実際に筆者が日々100%コミットしていることだけに、有言実行の実践的リアリティが提供できるはずだ。乞うご期待。

(続く)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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