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サーバにイノベーションのジレンマは起きているか(3)

2003/10/28 19:41
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ここまでの展開で、オープンシステムがハイエンド市場へ食い込んでいくのを阻む最後の壁は「信頼性」であるということが判った。さらに、どうやらオープンシステムの世界で起きているソフトウェアのイノベーションが信頼性向上のキーとなっているらしい、ということも見えてきた。では、ソフトウェアのイノベーションはどこに向かっているのだろうか。

水平分業型イノベーションは常に下から順番に

ここでひとつハッキリさせておかなければならないことがある。イノベーションスタイルの違いだ。

メインフレームを構成しているテクノロジーは、全て同一のベンダーにより当初からフル・スタックで設計されてきたため、レイヤー間のせめぎあいや標準化といった調整の課題とは無縁であった。それゆえ、メインフレームは情報システムという概念さえない時代からスピーディに市場を形成することに成功したのだ。モノリシック(一枚岩)なアーキテクチャというものは、暗中模索の中でユーザのアプリケーションニーズに「とにかく対応する」ためには唯一の選択肢である。一般に市場の黎明期に垂直統合型ビジネスモデルが有効に機能するのは、その初期目標の達成スピードを優先する姿勢によるところが大きい。そこでは柔軟性の欠如や経年劣化などの将来的な問題は先送りされる。まずはやりたいことができればよい。これぞ開拓者マインドである。しかし反面、まさに「後悔は先に立たず」でもある。

一方でオープンシステムは水平分業型の複雑な市場であり、標準ベースに基づく多層アーキテクチャを基盤としている。OSだけを緩やかに標準化したUNIXに比べて、PCアーキテクチャはハードウェアも含めてもっと徹底した標準化が行われている。上層コンポーネントは下層コンポーネントに依存するため、下層コンポーネントの標準化と上下をつなぐインターフェースが安定しなければ上には進んでいけない。つまり、オープンシステムのイノベーションは常に下層から起きてくるのだ。標準化によりセグメントが確立され競争状態に入った下層では、イノベーションはまさにムーアの法則で加速度的に発展を継続する。しかし逆に、上層への展開スピードは一般に思われているよりも慎重で、むしろ遅い。

今のところ、オープンシステムの世界に散らばっている技術素材とアプリケーションを構築するというゴールの間の隔たりはまだ非常に大きい。このため、アプリケーションを構築するにあたってはどの下層アーキテクチャを選択するかよりも、そのギャップを人間系でどう埋めるか?という実装非依存の普遍的なノウハウ、即ち優秀なプロジェクトマネージャをどう育てるか?というような課題の方が注目を集めているというのが実態である。(人間の脳は、うまく経験を積めば潜在的に最も柔軟性の高いソフトウェアとなりうるのだ)

ソフトウェアのイノベーションは常に「生産性向上」だった

いまオープンシステムのソフトウェアの基礎分野では、JavaやXMLなど「抽象度が高い」「オーバーヘッドが大きい」という特徴を持つ技術に注目が集まっている。いずれも、今までできなかった全く新しい何かができるようになる、というようなゼロ・イチ的な必然性では説明がつかない。今までにも技術的に等価なことは実現可能であったが、それがより簡単にできる、楽チンになる。つまり広義な意味での「生産性の高さ」というのが訴求ポイントとなる技術である。

実は、このような「上へ、上へ」の生産性改善志向は今に始まったことではない。チューリング・マシンとノイマン型アーキテクチャの延長線上にある今日のコンピュータでは、理論上の「問題を解く能力」という観点では、ソフトウェアは何らブレイクスルーをもたらさない。例えば0と1の組み合わせだけで表現される機械語と、かつて高級言語と呼ばれた(今では信じられないが)C言語やPerlなどのプログラミング言語には本質的な違いはない(正確に言うと、高級言語は必ず最終的に機械語に還元される)。そこには論理的な必然性などない。「あれば便利」という程度のもの。それが自然科学的見地から見たソフトウェアの本質だ。しかし、ソフトウェアの歴史とは、このような「ヒューマンフレンドリー化」と「生産性の向上」を価値軸として一貫したイノベーションを実現してきた歴史なのである。ソフトウェアは、文字通り「もっと柔らかいもの」を追求してきた人間科学的見地の産物なのである。いかんせんオープンシステムは非常に複雑なマーケットを形成しているため本質を見失いがちであるが、WindowsなどのGUIベースOSへのシフトやオブジェクト指向への流れなど、あらゆるソフトウェア世界での出来事はこれらの価値軸で説明がつく。

こうした「抽象度の高い」「生産性の高い」ソフトウェア技術の目指すところは、人間が感じる複雑さを軽減すること、人間にとっての見え方をよりシンプルにすることに力点がある。これは、コンピュータの性能を殺してでも人間を支援することに処理能力を使った方が全体としてバランスがいい、という判断を市場が下し続けた結果である。さらに言えば、この「生産性の高さ」に対するニーズは今のところ底なしだ。システムの大規模化・短納期化といったニーズは昔からあったし、まだまだユーザの満足水準に到達しそうにない。つまり、当分の間はこの上昇志向が続いていくのである。くどいようだが、これを担保しているものは下層における性能の供給過剰だ。

この延長線上にある究極的なゴールはどこか?それは、業務システムを作るための受託プログラマを必要としない世界である。どこかで聞いたような話かも知れないが、筆者はモデリング原理主義者でもなければ、人工知能論者でもない。あくまでソフトウェア技術の地に足の着いたイノベーションの積み重ねがそれを実現するのであり、頭でっかちな方法論(空想といってもいい)がそれを実現するとはまったく信じていない。ユーザ自身がセルフサービスで、自分自身に理解できる表象的なビルディング・ブロックを組み上げるだけでシステムがそこそこ作れてしまうような時代に向けて、技術革新は続いていく。

生産性アップのための技術が信頼性の向上に役立つという価値シフト

このソフトウェア技術における飽くなき「上へ、上へ」の志向は思わぬ副産物をもたらした。それが「信頼性の向上」である。

例えば、プログラミング言語の高級化とは、端的に言えばコードの行数が減るということだ。それにより開発が楽になるという生産性の高さが注目を浴びるが、実はそれと同時にプログラムの「没個性化」も促進する。プログラムの下層にあるシステムコールや標準ライブラリが充実し、こなれてくることで、ほとんどのプログラマはそれを使うようになる。簡単なことをするのに、わざわざ独自のライブラリを作ろうというインセンティブはどんどんなくなる。その結果、誰が書いても似たようなコードになるという現象が起き、それが結果として「没個性化=ソース品質の安定化=信頼性の向上」という思いがけない価値をもたらすのである。そう、実はプログラミング言語の高級化などによってもたらされる「没個性化」こそがオープンシステムの「信頼性向上」のカラクリだ。

この「生産性向上」から「信頼性向上」への価値シフトこそ、オープンシステムがメインフレームにとっての破壊者となる最後のカギである。下位市場である中小企業などで鍛えられた高生産性のための技術が、なぜか上位市場であるメインフレーム顧客の必要とする信頼性を満足するのにも役立ち始めている、という図式なのである。

一方、性能の供給過剰などとは無縁のメインフレームの世界では、相変わらずプログラマが貴重な資源の節約を意識しながらややアクロバティックなCOBOLコードを書いている。このような世界では、COBOLより高級な言語は「小回りが効かずオーバーヘッドの大きい不自由な言語」でしかないし、その数千万ステップという規模で蓄積されたCOBOLコードを新しい言語に置き換えようなどとは恐ろしくて誰も口にも出せない。80 x 24文字で表現されたダム端末のCUIは、もはやアートだ。そう、メインフレームは歴史と伝統の継承を重んじる「職人芸」の世界観である。こんな世界では生産性の向上など議論にさえならない。こうした世界観の違いにより、ソフトウェアのイノベーションによる「生産性の向上」はそもそもオープンシステムの特権なのである。

そして生産性向上が副次的に牽引する信頼性向上の軌跡がメインフレームのそれと交差するとき、利便性と価格の面で圧倒的に上回るオープンシステムは基幹業務システムという聖域についに真の価格破壊をもたらすことになる。もはやメインフレームの役割は終わった。開拓者として果たしてきた偉業に敬意を表しつつも、ご退場願うときがきたのだ。

「イノベーションのジレンマ」で述べられている性能、信頼性、利便性、価格の4段階ステップの競争基盤変化に着目してみると、前半の2つは供給が需要に追いついていない状況であり、供給者側の論理がまかり通ることになる。一方、後半2つのステップに至ると、供給があふれ始め、ユーザにとってハッピーなモードに切り替わるはずだ。このユーザ視点でのネガティブからポジティブへのメンタルな変化は、ものすごく大きなパワーシフトを引き起こす。これまでIT業界が頭を悩ませてきた、ROIがどうのといった財布の紐を緩めるための説得や論証といった手間を不要にしてしまい、「ゴタゴタ言わず売ってこい!」的な体育会系ノリや「これ面白いでしょ」的なオタク系ノリが復権し、バラエティ溢れる豊かな市場を再来させることになるはずだ。地味なバックオフィス系システムだからといって無味乾燥なものであるべきというのは一種の先入観だし、クリティカルマスというものは実はこういった小さな心理的モードチェンジの積み重ねによって到達するものなのである。

次回は、これからIT業界に存在するプレイヤーはどのようなふるまいをし、どういうポジションを取りに行くのか。そういった視点で考察をしてみることにしよう。

(続く)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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