最終更新時刻:2008年9月5日(金) 23時13分

100

VOCALOIDは電通の夢を見たのか----初音ミクと電通の噂に感じたこと

公開日時:
2007/11/11 03:01
著者:
BigBang

もうかなり昔の話ではあるが、代理店のコンペに参加していると、電通から「然るべきルート」以外のルートで、圧力というか、「ご連絡」が来ることはよくある話だった。記憶に一番残っているのは、別の会社のチームとして、翌日のコンペに間に合わせようと前日の深夜まで、スタッフと企画作業の追い込みをかけていたときの出来事だ。

深夜に鳴った電話は、我々のチームのトップからで、作業をすぐ停止してかまわないと。訝しがると、翌日のコンペの勝者は電通に決まったので(!)それ以上作業を進めても、勝てる見込みがないからというものだった。電話を持ったまま絶句した僕は、それでも何も知らずに必死に作業を続けている自分のスタッフに、その理不尽をどう伝えたらいいのかわからなかった。結局作業の中止を言うことができず、そのまま翌日のコンペを迎え、そして当然のように我々は「落とされた」。

理不尽と言えばそれまでであり、圧力といえばそれまでである。しかしながら、冷静に考えればこれも駆け引きであり「勝負」である。公的な事業ではないから、談合ではない。一回の1時間程度のプレゼンですべてを決しなければならない義務はクライアントにはない。コンペ前夜のぎりぎりの側面で、電通の営業の「工作」が成功したのである。

なによりも、問題は電通の持っている、当時のメディアにおける圧倒的な支配率であって、仮にコンペで他社が電通に勝ったとしても、その後で媒体プロモーションを展開するときに、必ず交渉というか電通に頭を下げなければならなくなる。既存の従来メディアにおける電通の占有率は、当時も、そして今も圧倒的であって、およそ半端な枠ならともかく、いいとこの媒体のいいとこの枠でプロモーションを展開するなら、電通に話を通さないことには難しい。

他社にしてみても、それならコンペ勝者の筆頭は電通に持たせておいて、その下請けに入って媒体以外の分野を担当したほうが効率的である。電通も媒体枠売買という一番手間のかからない仕事のみやって、面倒なSPは他社に任せ、売上を拡大することができる。深夜の交渉にはそんな双方の思惑があったのだと思う。

で、それは日常的に見られることだった。少なくとも当時は。

しかし、今回の初音ミクVS電通の都市伝説のような話には、どうも合理性はないように思える。電通が同時期に売り出そうとするネットアイドルを擁護するために、サーチエンジンの初音ミク画像検索結果や、TBSでの取り上げ方に「圧力」をかけたというような話だが、どうも噂の出所は都市伝説みたいなところがあって、電通の営業が友達だとか、居酒屋で酔っ払って真相を話したとか、まるで信頼できる筋の話ではない。

なによりも、それはないだろうと思えるのは、ニコニコ動画をはじめとするネット空間の中でいかに初音ミクが「ブレイク」したように見えたところで、そして2−3万本程度のソフトが売れたところで、売上は数億円程度。世界の「大電通」がリスクを犯して圧力をかけるような経済的合理性は、ないだろうということ。この程度の「ブレイク商品」はいくらでもあるのであり、その一つ一つに関して「工作」などやっていても、電通の仕事の前には、スケールダイナミズムが違いすぎるとしか思えない。つまり割に合わないはずだ。いずれかの商品のCMなどに組み込みたいなら、変な工作をせずに発売元のクリプトンフューチャー・メディアに「金の力で」堂々と交渉すればよい。同社と電通の確執もささやかれているが、ビジネスベースで問題になるほどのことはないように思える。

冷静に考えれば、「電通悪人説」をとる人たちにも、このことはわかりそうなものであるが、それでも黒幕・電通が初音ミクを脅かしたという話は、巨人電通を悪役として引っ張り出そうとすることで、初音ミクの将来性がいかに恐るべきものであるかというプロモーションにもなるし、一方でここのところ続いている大新聞、テレビ局などの既存メディアへのバッシングが、広告の巨人も対象とするに至ったという、規定の路線の上にあるようにも思う。

あるいは電通の一担当が、個人ベースでよからぬことをTBSの番組プロデューサーにささやいたというようなことは、絶対なかったとは言えないかもしれないが、僕の知る限り、番組制作側と代理店の担当営業は、この程度の「微細な」演出に関して打ち合わせをするような経済的合理性は持ち合わせていないだろう。つまりここでも、そうした工作自体が「割にあわない」のだ。

だが考えてみると、今回の騒動は既存メディアを影から牛耳る電通と、急成長する秋葉原萌え系マーケットとの、接触・軋轢が既に始まっているのではないかと皆に思わせるのに十分な出来事だったし、実際にその予兆はあると思う。

電通が2007年の2月に発表した、2006年の日本の広告費調査によると、総額は5兆9954億円となり、前年比0.6%増と横ばい。いわゆるマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)が2年連続で前年割れとなった一方、約30%増えたネットがラジオの2倍以上に達し、雑誌に迫る勢い。広告市場全体の拡大はネットやCS放送などの新メディアに頼っている状況だ。
 ネットは3630億円・29.3%増。伸び率は前年(55%)から鈍化したものの、順調な拡大が続いた。そのうちモバイルは390億円・35.4%増。検索連動広告は930億円で、ネット全体の4分の1を占めた。

(ITmediaより)

つまりネット広告は黄金の山なのである。

加えて、2006年4月〜6月期における売上高を見ると、インターネット広告を扱う広告代理店のシェア争いは激しい状態にある。総合広告代理店のインターネット広告事業規模は、インターネット広告専業代理店とほぼ同じ規模となっているが、このジャンルではせいぜいが専業の代理店に従来の広告代理店が並んだ程度であり、新聞やテレビのような既存の旧メディアにおける圧倒的な支配体制は、電通にも、ましてや他の代理店にもない。ネット広告の分野は戦国状態だ。

その上、ネット広告だけではなくて、アニメ・ゲームといったいわゆるオタク系市場は、電通のような総合代理店にとっても、見逃すことのできない急成長の新市場になってきていることは疑いがない。こうして考えれば、ことはネット広告市場だけの問題ではない。

むしろ今回の騒ぎから考えるべきことがあるとすれば、既存媒体の枠を大量にあらかじめ年間を通して押さえていることから派生した、従来のような圧倒的なメディア支配力やそれにともなってささやかれる、「電通神話」が、初音ミクやニコニコ動画のような新メディアに特徴的に代表されるようなオタクマーケット(それはもはやニッチとは言えない規模に拡大している)に果たして今後、通用するのかどうかということが具体的に論じられるシーンになってきたということであろう。

歴史的に築かれた電通の圧倒的な力への評価は、深層心理でこれら若年の購買層にも、「恐怖」となって刻み込まれており、それはふとしたきっかけで今回のような行き過ぎともいえるような批判の波となって爆発する。一方で当の電通や総合広告代理店は、この過剰な騒ぎに苦笑いをしながらも、この若くてまだまだ小さいけれど成長率は並外れた新市場を、注意深く見守っていることだろう。

つまり初音ミクを愛する人たちは、今回を見る限り、十分に電通という巨大企業の実像を見ることができているとは思えないが、その近づきつつある足音は感じ取っているのである。そして、おそらくそれは錯覚ではないのだと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このお題について書かれたブログ

このエントリーへのコメント

7

BigBangさん。 こちらこそ読んでもらえてうれしいです。 続編ぜひお願いします。 私はアトランタ在住なので日本の実情に疎いですので、興味深かったです。

  おおぬか on 2007/11/16

6

BigBangです。引用して論じていただいてありがとうございました。実は続編を書こうかと思っていたんですが、どうも筆が止まったままです。IBM Reportは興味深いですね。

  BigBang on 2007/11/16

5

有難う御座います。 今後気をつけます。

  おおぬか on 2007/11/15

4

おおぬかさん
初めまして、将来のPC業界パワーバランスを書いております櫻吉です。
CNET Japanのブログの幅は、450px(今測るともう少し広いような感じですが)です。せっかくのすばらしい画像ですので、それに収まるように工夫されたほうが、もっと見栄えすると思います。

  櫻吉 清(さくらきち きよし) on 2007/11/15

3

ううむ。電通擁護だとか読み取っている人がいるみたいだけど、それこそ勘違いで、それなら内輪話の暴露はしませんね。なぜそう読めるかな。今回は勘違いにしても、今後は十分警戒したほうがいいよというほどのつもりなんですが、表現力が足りなかったようで。というのは筆者のつぶやきです。苦笑

  BigBang on 2007/11/13

2

どうも。おっしゃるとおりですね。「高々数億」というレベルのみで、電通も見てはいないでしょう。ただ、おそらくそのエネルギーは局地戦に「馬鹿げた形」で注がれるのではなく、市場全体へのアプローチの中で、それも「テストケース」として示されることになるのではないでしょうか。
つまりことは、初音ミク単体の商品の問題、クリプトンメディア単体の問題ではないのだろうと思います。

  BigBang on 2007/11/11

1

本数は確かに大したことはないのでしょう。
23000本以上売れて、3億5千万の売上。ま、たいしたことない。
いっしょに周辺ソフトや機器なども売れてるようです。
それでも市場そのものは大きいものではないからたいしたことないんでしょう。見た目は。

ただ、これは、消費財ではないですよね。
なんらかのモノを生み出すものです。
もちろんこのソフトがどれだけ実効を持って動くかというのはありますが。
このソフトが生み出すであろう成果物の影響はそんな売上だけでははかれないのではないかと思います。

1つの道具が生み出すモノがどれだけの価値を持ってどれだけ作られるか。
その結果何が起こるか。
までを見ないと、各所で起こっているこの問題の議論はうわべだけになるような気がします。

  samma on 2007/11/11

ブログにコメントするにはCNET_IDにログインしてください。

この記事に対するTrackBackのURL: 

このブログについて

ブロガープロフィール

アーカイブ

2008年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    

カテゴリ

ブログネットワーク

アルファブロガー

ケータイ時代のスタンダードiPhonista Nightの事後報告
ケータイ時代のスタンダード
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点ストリートビューは新デジタルデバイドを生む
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点
クロサカタツヤの情報通信インサイト北京オリンピック
クロサカタツヤの情報通信インサイト
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
村上敬亮 情報産業の未来図コンテンツ市場14兆円の中身と行方
村上敬亮 情報産業の未来図
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」場所・空間を増幅!?「ロケーション・アンプ」
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

高校生サーバー管理者の考察日誌イーモバに冷たい各社
高校生サーバー管理者の考察日誌
なにわのITベンチャー社長Blogまず10年間は泥のように働け3
なにわのITベンチャー社長Blog
素人サーバ管理者のボランティア業務日誌我が家のD4もようやく機能強化に旅立ちます
素人サーバ管理者のボランティア業務日誌

企画特集

サーバ仮想化・グリーン化の利点を最大化!サーバ仮想化・グリーン化の利点を最大化!
多機能・高価値なNetAppストレージの秘密とは

新着コメント

いつも佐々木さんの記事を楽しみしています。 ストリートビューで汚い自宅が......
ストリートビューは新デジタルデバイドを生む
投稿者:gg
→niroさん コメントありがとうございます。確かにniroさんのおっしゃる通り......
イーモバに冷たい各社
投稿者:isidai
→shiestさん コメントありがとうございます。Googleの公式なアナウンスで「......
夢=Opera+Chrome+Ubiquity
投稿者:isidai
>ishidaiさん これは単純な話だと思います。 EM純増(84,300)-EMnet純増(......
イーモバに冷たい各社
投稿者:niro
IE8を意識しているのは確かでしょうが、何故グーグルはブラウザ競争へと参戦......
夢=Opera+Chrome+Ubiquity
投稿者:shiest

ブログネットワークとは?

CNET Japan ブログネットワークは、元はCNET Japanの一読者であった読者ブロガーと、編集部の依頼により執筆されているアルファブロガーたちが、ブログを通じてオンタイムに批評や意見を発信する場である「オピニオンプレイス」、また、オピニオンを交換するブロガーたちが集うソサエティです。

広い視野と鋭い目を持ったブロガーたちが、今日のIT業界や製品に対するビジョンや見解について日々熱く語っています。

あなたもブログを書いてみませんか?

CNET Japanやその他サイトが提供するITニュースやコンテンツへの意見や分析、 ビジネスやテクノロジーに対するビジョンや見解について語っていただける方を 募集しています。ご応募はこちらから

ブログの投稿・管理

ブログの投稿はこちらから(※ブロガー専用)

ブログアワード2007開催決定!

今年最も活躍したブロガーを表彰します。詳細はこちらから

αマークって?

これは、CNET Japan 編集部の依頼に基づいて執筆されているCNET Japan アルファブロガーによるブログの印です。

Good!って?

CNET Japan ブログネットワーク内で拍手の代わりに使用する機能です。ブログを読んで、感激した・役に立ったなど、うれしいと思ったときにクリックしてください。多くGood!を獲得した記事は、より多くの人に読まれるように表示されます。

プレスリリース

pixiv、ユーザー数が30万人を突破
クルーク
あなたが変われない「8つの理由」。常識だと思い込んでいる考え方を取り除いて、今感じている「壁」を突破しよう。話題の書籍『「心の翼」の見つけ方』(フォレスト出版刊、浜口隆則著)が、インターネットラジオ番組サイト『BizPro.FM−ベストセラーズチャンネル−』(起業
特定非営利活動法人起業家大学
自分の中にある素晴らしい可能性に気づき、すべてが豊かに手に入る魔法のルール。これを知っている人こそ、「感動の億万長者」。話題の書籍『感動の億万長者30のルール』(サンマーク出版刊、平野秀典著)が、インターネットラジオ番組サイト『BizPro.FM−ベストセラーズチャ
特定非営利活動法人起業家大学
その頭のままでは仕事がなくなる!「感性とビジネスの第一人者」が送る、「さびないビジネス人になる道」。話題の書籍『ビジネス脳を磨く (日経プレミアシリーズ 6) 』(日本経済新聞出版社刊、小阪裕司著)が、インターネットラジオ番組サイト『BizPro.FM−ベストセラーズチ
特定非営利活動法人起業家大学
『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字〈下〉』(光文社刊、山田真哉著)が、2008年9月7日(日)放送のFMラジオ番組『ベストセラーズチャンネル』(起業家大学制作、パーソナリティ主藤孝司)に取り上げられます。
特定非営利活動法人起業家大学

レビュー

今週の新製品総チェック:ノート、デスクトップ、UMPCまでPC秋モデルが続々
富士通、NEC、東芝などのPCメーカーから続々と新製品が登場した。ノートPC、デスクトップPCに加え、注目の
今週の新製品総チェック:薄さ13.9mmのサイバーショット登場!NEC「LaVie」はデザインモデルが
最薄部13.9mmのソニー「サイバーショット」、ニコンのGPS内蔵デジカメ「COOLPIX」など、機能性、デザイン性