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セカンドライフ推進派に回った「檄文」とアメリカンアパレル撤退の意味

2007/09/12 18:40
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プロフィール

殿岡良美

幻の博覧会「世界都市博覧会」で、インターネットを応用した公共イベント企画をプロデュースしたことが、ネットでの活動の出発点でした。しかし結果はご存知の通り。あるいはその未完の記憶が満ち足りない思いを私に残してしまったのか、ネットという愛すべきも、摩訶不思議で捉えようのないものに惹かれ続けてきました。リアルとネットが激しい火花を上げている今日。CNETでは、あらゆる前提や先入観にとらわれない視点から、BigBang的なIT論を展開したいと考えています。
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今回はこのブログでの話題から

セカンドライフ、実は絶好調の理由(セカンドライフでビジネスを成功させる)

名前は出せないが、”セカンドライフ事情に詳しいある人”とだけ言っておこう。この人が先日、ある文章をメーリングリストで送っている。何やら狼狽しているご様子。アメリカンアパレルという会社がセカンドライフでの活動を一旦休止したことも原因のようだ。そのことで、日本企業が影響されてしまうのではと心配されているように読める。そして「この状況を皆で乗り切って」いきましょう的な声かけをされている。業界を盛り上げるために一緒にがんばるのは大賛成。ただ、これは、非常事態でもなんでもないのである。結論から言うと、まったく心配ないどころか、最初の実験的フェーズが終わったという意味で、これはひとつのいいニュースである。

(中略)

しかし、一年あまりのセカンドライフ活動の中で彼らが得たものは大きかったに違いない。経験しなければ得られないもの。それは自分でやらない限り、いくらお金を積んでも買えないのである。
セカンドライフ内でやれることは全部試し、きっちり実験して何かをつかんで次への飛躍に向けて撤退したアメリカンアパレルに大きな拍手を送りたい。

うーん。絶好調とまで言いますか。笑 それはともかく。

当該ブログの作者の方は、紛れもなく「セカンドライフ推進派」の1人であり、おそらく私もその部類に入るのだろうが、「ある人」の”檄文”を受け取った方は、かなりの数に上っただろう。9月の最初に、「推進者の教祖とも呼ぶべきその方」から発信された、いささか悲痛なトーンで、セカンドライフ市民の「結束」=セカンドライフ市民ネットワークの必要性を訴えるメールには、私もいささか面食らった1人である。で、その「悲壮感」の1つの根拠になっているのは、上記ブログにもあるように、アメリカンアパレルのセカンドライフ撤退というニュースである。米国の若者向け衣料品メーカーのアメリカンアパレル社は、2006年の5月に世界で初めてセカンドライフ内に本物の店舗そっくりの店舗をオープンさせたということでセカンドライフ史を語る上で必ず伝説のように引用される企業である。ちなみに同社は、日本では東京(麻布十番、代官山、渋谷)、大阪、福岡などで実店舗を展開している。

当時の出店の様子はここなどに。

そのアメリカンアパレル社が、セカンドライフを撤退したという。実際アメリカンアパレルに何が起きたのだろう。「セカンドライフ推進派」にとって、それは本当に痛手なのだろうか。あるいは先のブログの言うように、未来に向けての、むしろ「喜ばしい」1シーンの終結でしかないのだろうか。もう少し詳細に見てみた。

アメリカンアパレル社のサイトでは、店舗入り口に鎖が張られた、いささか物悲しい写真と共に、以下のメッセージがアップされている。

Sorry, We're Closed.

Last summer we opened up our Second Life American Apparel store with a grand opening party with tacos, a few cases of beer, and a pinata. We didn't know what to expect or if anybody would even show up.

Needless to say, it's been quite a year. We've had thousands of visitors from all over the world and made a ton of new friends, seen some interesting things from furry folks to virtual terrorism, caused a bit of a clamor, and sold some virtual t-shirts and it's been great. But we feel like our time is up here. So we're closing our doors on Lerappa Island for now. This doesn't mean we're finished with the virtual world. Stay tuned to see what we do next.

昨年の夏、私たちは、タコスとビール何ケースかと、pinatを用意して、セカンドライフのアメリカンアパレル店の開店大売り出しパーティーを開きました。私たちはどんなことが期待できるのか、いったい誰かがそこに現れるのかもどうかも、全くわかりませんでした。

言うまでもなく、たった1年前のことです。それ以来、世界中の何千というお客様に来店いただき、沢山の友人を作ることができました。ずいぶんと面白いことにも直面しました。毛皮を着た人たちへの仮想世界でのテロリズム事件はちょっとした騒ぎになりました。また、バーチャルのTシャツが売れたなんてすばらしいことです。
ですが、私たちは、然るべき時期が来たと思っております。そこで、Lerappa Islandのドアを、今閉めました。これは私たちのバーチャル世界への取り組みが終わることを意味するわけではありません。次に私たちが何を行うか、どうか留まって見定めてください。
(訳:筆者)

実にシンプルなあっさりとしたメッセージであるが、悲壮感はあまりない。未来へ向けた一実験段階が終わったに過ぎないというメッセージは正しいように思える。

しかし

セカンドライフからのアメリカンアパレルの撤退が持つ意味(FPN)

はもう少し辛口の見方をとっていた。

アメリカンアパレルは島を抱えて、仮想店舗を建て、実店舗のブランド品をセカンドライフに仮想商品の形で持ち込み、殆ど無料の値段(1LD)程度で来店者に販売していました。
また新規アパレル商品の先行発表をセカンドライフで実施したり、セカンドライフで購入した商品の15%の割引券を配ったりしていました。

とした上で、

●多くの個人事業者が魅力的な商品を開発して並べている仮想世界で、アメリカンアパレルのブランドに仮想世界でも訴求力がなかった
●アバターのニーズ(仮想世界でTシャツを買う)と、現実世界でのニーズは異なる。アバターが買ったからと言って、その向こうにいる現実世界の人間が、現実の商品を買うわけではない

の2点をあげて、今回の撤退の意味は小さくないとしている。やはりこちらは、アメリカンアパレルの撤退は、ある種のビジネスモデルの「失敗」を物語るのではないかというトーンが強い記事であるが、どうであろうか。

実は、最近零細な当社も病高じて、ある目的のために、ついにSIMを持った。購入の初期費用は、20万弱である。月額の維持費は、35,000円ほど。初年度の投下金額が60万ほどというのは、当社ににとっては決して小さくない金額だが、絶望的な金額ではない。まして大手企業が実験を行ううえでは、それこそ問題にならない費用である。また、そこに店舗を建てたところで、全体の費用は200万内外で収まるだろう。つまり、仮に店舗を続けていてもほとんどコストはかからないのである。そうなると、この撤退劇すら演出ではないかと思えてくる。

アメリカンアパレルが、高々1L$(0.5円くらい)程度のアバター向けのTシャツを、収益目当てで売ろうとしていたとは、当然思えないし、まして、その波及が実際の売上に即座に波及することを期待していたなどとは、どう考えても有り得ないことである。アメリカンアパレルの年間売り上げがどのくらいあるか知らないが、セカンドライフの仮想世界の売上が波及する割合は、これまた限りなくゼロに近いだろう。

むしろアメリカンアパレルが得た膨大な財産とは、世界中で報道された、「世界最初の仮想世界への出店」にニュースがもたらした広告効果という見方に私は賛成であり、その上、撤退までがこれほど大きく報道されるのだから、クロージングのメッセージがどこか人を食ったようなトーンで「寂しげなはず」の閉店シーンまでを演出する彼らの感覚は、素ではなくてユーモアであり、そのニュアンスが日本では読み取れていないように思える。あははと笑いながらふざけた哀愁を残して去っていくアメリカンアパレルには、やはりどこか内心に笑みを含ませているように感じるわけだ。やはり「失敗」という言葉とはほど遠い。

先の「セカンドライフ事情に詳しいある人」のメールには、アメリカンアパレルの撤退に触れた上で、これらを契機に高まるセカンドライフへの「バッシング」も乗り越えようなどという表現も見られる。肩の力の入り方が違うのではないか。

仮想世界とは、ほんのこの1年「現実化」したばかりの世界である。インターネットの草創期にも、流行に乗り遅れまいとホームページを作ったはよいが、その後どうしたらいいかわからず、更新もされず、長く放置されたサイトは多くある。アメリカンアパレルの店舗は最近ではほとんど誰も訪れない状態になっていたようであるが、その状態を無駄に長く放置せず、この機にあっさりとクロージングすることで、同社は、一気に再び人の目を引き付けた。今回の撤退が同社のマイナスイメージになる危険も殆どないように思うし、やはりしたたかな広報戦略をそこに感じる。

とはいっても、セカンドライフへの単なる出店や退店がニュースになって報道される時代は、おそらく間もなく終わるだろう。セカンドライフ、というより仮想世界のマーケティングが激しさを増すのはこれからであり、アバターに着せたものが現実世界で売れるか否か、という単純マーケティングの時代も、おそらくアーリーステージの一瞬のテーマで終わるように感じている。仮想世界でないとできない、コアなマーケティングの手法はおそらくまだ出現していないか、ごく幼少時の顔を見せているだけであり、それがどこでどう顔を見せてくるかを想像すると、やはりメタバースはスリリングな期待を保ち続けているように思える。

バーチャルワールド=メタバースがネットで支配的になるのはおそらく決定的である。但しその時期と、その支配者が誰だかわからないだけであり、またその世界の姿を正確に予想しているものもいない。盲目的なリンデン信仰はあるいは行き過ぎる場面もあるかもしれないが、現在の流れの変わる予兆はまだない。というより、そうした広い意味では、今回は予測を裏切られることはないだろうと思っているし、ネット上の広報に経験を持ち、習熟している企業であれば、大多数は同じ考えだろう。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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