このブログに書くのを少し先延ばしにしていたテーマなのだが、一念発起して書き上げることにした。これはここ数年、個人的に疑問に感じていたことだ。
ベンチャー企業のメッカといえばシリコンバレーだ。ここでは常に新しい企業が生まれ、また消えていく。かなりエキサイティングな雰囲気があることは間違いがない。勿論、人生は「選択」の連続であり、「挑戦」することでもある。挑戦者に基本的に年齢制限はないし、特別な資格も必要ない。必要なのは「夢」や「野心」の様なバイタリティーと何よりも「アイデア」だろう。投資家を見つけて自分のアイデアを具現化していく。これがベンチャーの王道というものだ。
勿論、ベンチャー企業というか、新たな挑戦、というものは何もシリコンバレーでなければ出来ないというものではない。日本でも当然にそれは可能なわけで、実際に数多くのベンチャー企業が存在している。半導体関連のベンチャーにしても然りである。ここでは「日の丸ベンチャー」とでも表現しておこう。
さて、この日の丸ベンチャーであるが、大半の企業は株式上場を目指すわけだが、半導体関連の技術に関しては現在のところはかばかしい成果が(シリコンバレーに比べて)上がっていないような印象がある。小生は半導体プロセス一筋10年超であるが、もし仮に潤沢な資金があったとしても半導体業界には進出するつもり(少なくとも日本では)はゼロである。アイデアも勿論あるのだが、ベンチャーを立ち上げるのであれば海外でやるだろう。どうしても日本で何かベンチャーを立ち上げなければ「お前は死ぬ」とデスノートばりに言われれば、ビビリまくって「コンテンツ事業」をやるだろう。しかし、絶対に自分のバックグラウンドでもあり得意分野でもあるはずの「半導体関連」はやる気が起こらない。なぜだろう?理由はいくつかある。
まず、「日本の投資環境の悪さ」である。これは日本に限ったことではないが「半導体」はユビキタス社会だ、ITだ、と言われている現在においてなくてはならないコアコンポーネントであるが、恐ろしく一般的に認知度は低い。というよりも認知される土壌があるかどうかすら疑いたくなるほどだ。あまりの世間の関心の薄さには驚くほかない。個人的なエピソードで恐縮だが、小生の家内を嫁に貰い受けるに当たって自分の職業を先方の両親に説明するときは相当な苦労をした記憶がある。半導体の通りの悪さに辟易して思わず「IT関係」ですと口走って当時は事なきを得たわけだが、ホリエモンや村上ファンドの逮捕劇が世間を賑わせていた時節に家内の父親から心配の電話を頂いて、当時の自分の発言を思い出して不必要に焦る始末である。半導体はそれくらい世間とは隔絶した特殊な空間に位置する。自動車などの目で見えるものとは異なり、半導体は本当にイメージすることが部外者では不可能な稀有な汎用工業製品と言ってもいい。そんな半導体だが素人は兎も角としてもこの認識は実は驚くべきことに銀行や銀行系ファンドなどの投資家筋にも結構当てはまるのである。銀行ですらこうなのだから個人投資家の意識も推して知るべしである。つまり投資環境の悪さというのは「認知度の低さ」に根ざした現象と小生は考えている。
それに付随して「資金調達額」の問題がある。銀行は兎も角として公的機関などのベンチャー支援制度での融資額は1000万円台が多く、1億円クラスというのは力を入れてリサーチしたわけではないが見聞きする範囲内ではお目にかかったことがない。今更ながらだが半導体産業は日進月歩で技術や市場環境が変化しているので、世の中にはない画期的なアイデアを具現化しようとすればそれなりに纏まった投資が必要になるのである。少なくとも1000万円の融資など全く話にもならない端下金である。1億円あってまあようやく並というところだろうか。例えば「アルツハイマーの特効薬」とか「人工関節」とかいうと未曾有の少子高齢化社会は実感として認知されているので資金も集めやすい。これは認知度が高いからに他ならない。ところが半導体関連の技術というのは中身を精査する以前に、「What is HANDOUTAI」に相当な時間(不毛と言っておく)を割かなければならないという悲しさがある。しかも、話をしたところで専門家以外はまず理解できない。理解できないということは融資を得られるだけでも儲けもの、という、実に中途半端な結果に終わる。金を借りる側にとって借りておいてなんだが「投資家(銀行、銀行系ファンド)」ほどうざったい存在はない。しかもそいつはど素人で業界慣行も何も分かっていないし、覚える気持ちすらない。効果的な額ではない端下金を借りて四苦八苦しているところにど素人質問宜しくクチバシだけは突っ込んできて、しかも全然Productiveではないという最低な生活が待っているのである。つまり、Angelでもいない限り(日本ではかなり厳しい)半導体関連のベンチャーというのは一般的なほかのベンチャービジネスに比べて圧倒的に不利であると思う。小生はベンチャーというのはタダでさえ不利なのにこの状況を考えるとアドバンテージが限りなくゼロになり、リスクの方が高いという状況から「やる価値なし」という結論に達するのである。
だからかどうかは知らないが、半導体関連の国内のベンチャーは「セカンドライフ」にカテゴライズされる、定年退職者が多いような気がする。次の問題は「怪しい」ベンチャーの乱立による相対的な地位低下である。学生ベンチャーなど若い世代が闊歩するベンチャーとは基本的に「コンテンツ開発」や「ソフトウェア」関連が多い。コンテンツ開発はアイデアだけが資本であり、外れる可能性も無きにしも非ずだがハードウェアを開発するわけではないので自己資産はミニマイズ出来るし、Outputとしても極論、開発後は自分が事業を起こさなくても大手に売却してもいい。実に手離れがいい。ところが半導体関連ベンチャーとは「実製品」を作ることが原則だからハードウェア開発にそれなりに資金が必要になるし、人材確保も重要なテーマになる。つまり、投入リソースは必然的に肥大化するモデルなのである。そこに持ってきてOutputが極めて難しいのである。その難しさには色々あるが、その一つに半導体関連ベンチャーは「アヤシイ」という一定のオーディエンスがあることは何にもまして大きな障害だ。まず経営者であるが半導体ベンチャーで若年者というのは聞いたことがない。調査をするまでも無く「いないに決まっている」のである。若者の興味は「実社会におけるニーズ」に直結しているわけではない。基本的に「認知度」に大きな依存性があるのである。従って、実社会に敏感な世代でハードウェア開発にそれなりに情熱を燃やせる世代でそれなりに自己資金もあるという条件はものすごく限られる(というかピンポイント検索に等しい)。半導体に何らかの形で携わったことがあり一線を退いて退職後の時間を持て余す御仁、というのが典型的なパターンである。
それゆえに残された時間も決して多くはない(?)のでわざわざベンチャーする価値があるのかと疑問に思うような「手堅い業界テーマ」に着手しがちであり、しかも古巣、或いは例えば銀行系ファンドから融資を受けていればそのファンドの伝で同業経営者を紹介してもらってM&Aやアライアンスというのがパターン化する。しかも「手堅い」テーマというのは、今まさに「旬」というような業界的に公知の開発テーマであったり、昔から言われ続けていて「誰も出来なかった」過去の遺物的テーマであったりする。前者の場合、マーケティングの脇が甘いと画期的どころか、開発競争の渦中で時間を金で買うような状況に追い込まれる可能性があるし、半導体業界は何にもまして進歩の速度が速いため時代遅れになる公算も低くはない。後者にいたってはそれが出来れば「技術者としては尊敬」されても、先人が実現できなかったというのにはなんらかの理由(事情)がある、と考えるのが普通である。確かにコロンブスの卵(固定観念)というラッキーもあるだろうが、例えば生産性が低いなどの理由で見送られるケースも多々あるわけである。それがハレー彗星のようにある周期で持ち上っただけかもしれない。いずれにしても開発するだけでも厄介な状況に追い込まれることになる。たいていの場合はベンチャー単独での独自開発は困難で提携相手との軋轢や元々マーケティングの脇が甘いので身近なテーマで終わったりする。いずれにしても中長期的な展望に立脚したモデルではないので業界に与えるインパクトもそれほど大きくないまま平凡に終わるか、失敗するという道をたどるケースが多い。
また、日の丸半導体においては「God & Slave ship」という鉄の掟がいまだに存在する。デバイスメーカーと「その他」という業界構図だ。それから基本的に製造技術に関しては[Super Conservative]である点も無視できない。ベンチャーにおける生命線は「技術」である。そしてそれは「実績や一般常識を排してこそのアンチテーゼ」によって唯一、存在価値の主張が可能になるわけである。想像していただこう。日の丸半導体メーカーが「実績は?」と聞かない商談を。この辺りも小生が日本で半導体関連のベンチャーをやる価値が「全く無い」と考える理由である。
ベンチャーにもいろいろな種類や形態があるが、安易なMBOやアライアンス、M&Aはやはり厳に慎むべきで、何にもましてまず「戦略」が重要であることを教えてくれる。一番最初に日本で認められる必要はない。アジアかアメリカで採用されれば[実績]だけで購入してくれる可能性があるのが日本だ。小生は日の丸半導体の復権を応援する立場を取っている。その観点からこの「ベンチャー」というテーマを捉えると、まず声を大にして言いたいのは「デバイスメーカーの意識改革」だ。それから「装置メーカーの三河屋根性からの解放」だ。デバイスメーカーも何かの犠牲の下に自分たちの目的を達成するという時代ではないことに気が付くべきだ。抜本的な利益体質を目指さないと長続きしないことに気が付いているならそれを実行してほしい。また、装置メーカー(特に日系)は一部では既にグローバル戦略を重要視していることに着目してほしい。国内市場に依存する製品開発姿勢は如何なものだろうか?前述したとおり、本当にデバイスメーカーの要求する仕様はリーズナブルなのだろうか?アジアで同じ機種を販売する際に国内標準装備をかなり削らないといけない事実を思い起こすと、果たしてあるべき製造装置とは、ということに対して定見をもつべきではなかろうか。古臭い慣習を排して日の丸半導体の明日を真剣に考えていく、その姿勢は若い世代に訴えかけるに違いない。今日びの若者は必ずしもぼんくらではない。過去の遺物状態の昭和的価値観を堅持し続ける日の丸半導体に疑問を感じているのではないだろうか?人材確保が難しいという向きは改めて考えてみる必要があるのではないだろうか?
それが現実のものとなったとき、怪しいベンチャーは鳴りを潜め、活力の溢れる本当のベンチャーが半導体でも生まれるのではないか?と思うのだが如何だろうか。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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