ブログの醍醐味のひとつは、敢えて独断と偏見の謗りを覚悟しつつ、「異端の邪説」をエントリーできることであり、さらに望むらくはそれが正しかったことが証明されることではないだろうか。
昨年の夏以来、サブプライム問題が顕在化したあと、このブログでエントリーした一連の「経済危機」ネタは読者の方々の人気はサッパリだったが、内容はその後の展開を予見するものが結構あり、「それ見たことか・・・」と、独りで溜飲を下げているところだ。(だれも誉めてくれないから、控え目に自画自賛するくらいは許されるだろう)
とりわけ今現在世界経済を崩壊の瀬戸際に晒し続けている金融危機の「影の主役」として、AIGをほぼ一年前から特定し、警告を発していること(「ブラックマンデーから20年、今そこにある巨大な危機」 公開日時:2007/10/27 11:49)に我ながら感心しているところだ。
以上のような程度の的中度でも筆者的には鼻高々で、独り悦に入っているが、それをあざ笑うかのようにここ数年的中しまくっている人物がいる。
アメリカのエコノミストで米ニューヨーク大学教授のヌリエル・ルービニ氏そのひとである。
今回の危機を表す枕詞(まくらことば)として定着しつつあるのは「百年に一度の金融危機」(a "once-in-a century" financial crisis which is now more than likely to spark a recession:グリーンスパン元FRB議長がこのように語っているAFPの記事の原文はこちら)だが、筆者は「大恐慌以来最悪の金融危機」The Worst Financial Crisis Since the Great Depressionという言葉の方が気に入っている。これはルービニ氏が言い出した言葉のようだ。
今の危機的状況を2年以上前から予言し、警告していた異端のエコノミストがいたのを初めて知ったのは今年になってから日経ビジネスオンライン(NBonline)の以下の記事を見てからだ。
弱気の虫がダボスで鳴く
米国の浪費を責める恨み節と悲観論が蔓延
2008年1月25日 金曜日
Stanley Reed (BusinessWeek誌ロンドン支局チーフ)
米国時間2008年1月23日更新「At Davos, the Growling of Bears」
スイスのダボスで始まった世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)は、開幕早々、金融市場の混乱が話題をさらった。
極端な悲観論を聞こうと思えば、簡単に見つけられる。「もはや、米国経済がソフトランディングするかどうかという問題ではない」と言うのは、米調査会社ルービニ・グローバル・エコノミクスのノリエル・ルービニ会長。「今問題となっているのは、ハードランディングがどれだけ激しいものになるのかという話だ」。
上記内容を含むNBonlineの記事はこちら
アメリカでも一般に知れ渡るようになったのはNew York Timesが「Dr.Doom」としてその人となりをかなり詳しく特集してからではないだろうか。(記事の原文はこちら)
その記事によると、ルービニ氏はトルコ生まれのイラン系ユダヤ人、2才で一家に伴なわれてテヘランに移り、その後テルアビブ、イタリア、アメリカと移り、現在に至っているそうだ。
最近のルービニ氏のサイト(RGE monitor)には出演したニュース解説番組の映像クリップがペタペタと貼付けられているものが散見され、いまや金融危機を伝えるニュース解説番組の常連となっているようだ。
語る内容は「永遠の悲観論者」と称されるくらい「暗ーい予測」を次々と繰り出し、しかもそのほとんどは的中、話の中身も暗いが本人の風貌もそれに劣らず暗そうで、滅多に笑わず(ごく稀に笑っても、「しかめっ面にしか見えなかった」とまでインタビューした印象が記事に載っている)、顔も無表情で語り口も抑揚に乏しく「鉄仮面」を被っているかのようだ。
暗いエピソードには事欠かないようで、あるときヨーロッパの中央銀行の会合で、今現在考えられる最悪の状況は何か・・・という話になったとき、それなら彼が何と言っているか見ればいいということになったそうだ。
ルービニ氏の暗い予測はまだまだ先があり、今回の危機はサブプライムローンに止まらず、金融システムの全般的な危機であり、景気後退の度合いも70年代のオイルショックと90年代及び2000年代初頭の不況が合わさったような過酷なものになるだろうこと、そしてアメリカ的なライフスタイル(広大な家に住みながら、ガソリンをガブ呑みする燃費の悪いSUVを乗り回すなど・・・)の終焉、さらにはアメリカ帝国の没落にまで言及している。
かつて日本が不動産バブルの真っただ中にいたころ、「財テクをしない経営者は化石人間」と言い放った経済評論家がいたのを思い出したが、それぞれの時代を象徴するエコノミストがいるとしたら、ルービニ氏こそ今の時代を代表する「語り部」としてもっとも相応しい人物かもしれない。
しかし、不思議なことに、語る内容は暗いことこの上ないのに、何となく心地よい安心感のようなものを感じさせるのである。
最初はその理由が分からなかったが、ルービニ氏は当たるかどうか分からないながらも、これから我々が直面している最悪の未来を解き明かすことにより、今という時代を生きる恐怖感や不安心理を和らげる「精神安定剤」のような役割を果たしているのではないだろうか、と考えるようになった。
アメリカが大恐慌の痛手に苦しんでいた真ただ中で、大統領に就任したフランクリン・ルーズベルトが大統領就任演説で「我々が怖れなければならないただひとつのことは、恐怖そのものである」と語っているが、「恐怖」はその実体が分からない不安心理に起因しているところが大きいのではないだろうか。
恐怖はその実体を知ることで、「物陰に潜む得体の知れない魔物や人智の及ばぬ超常現象」から、その存在を認知し「辛抱強く受容すべき自然現象」と化す。
ルービニ氏は、大方の識者が果たせなかった経済的な悪夢に関する「恐怖の謎解き役」を、嘲笑を浴びつつ、孤独に耐えながら果たしてきたといえる。ブログは彼の「異端の邪説」を伝える強力な武器になってきたに違いない。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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