最終更新時刻:2008年7月24日(木) 23時08分

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MacWorld Expo 2008でスティーブ・ジョブズが提示したメッセージ

公開日時:
2008/01/23 14:18
著者:
earlybird

■ はじめに

大変遅ればせながら、本ブログはこれが今年はじめての更新なので、現在進行中の世界同時株安などという暗い話題には触れず、今回は新しい年にふさわしい明るい話題ということで、先週開催された MacWorld Expo 2008 を取り上げたい。

■ MacWorld Expo 2008の第一印象

まずはじめに感じたことだが、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションの巧みさをもってしても、今回の内容は昨年に比べると著しくインパクトに欠けるジョブズにしては凡庸な内容で、プレゼンテーション中にウォール街でApple の株価が下落したのも宜(むべ)なるかなというのが最初の率直な印象だった。そうした雰囲気の中ではネガティブなコメントが相次ぐのは致し方ない。真っ先にやり玉に挙げられたのは MacBook Air だった。

代表的なのは

新Macbook:買った後財布に残るのはAirだけ

MacBook AirHead: アップルの新型ノートが基本的には役立たずな理由

などというところか。(いずれもTechCrunch 日本語サイトより)

筆者も当初はそうした意見に同調的で、先週時点ではMacWorld 2008 の話題はこのブログでは「新しいものは何もない」ということで無視し、別な話題(現在進行中の世界的な「景気後退」など)にしようかとすら考えていたほどだ。

しかし、MacWorld Expo 2008 関連の何編かのブログや紹介記事に目を通しつつ、筆者が日常感じていたことなどを思い浮かべたりしていくうちに、この一週間で考え方を改めるに至った。

■ スティーブ・ジョブズの十八番(おはこ)のメッセージは「No (そんなもの要らない)」という意思表示

30年以上の Apple の歴史を振り返ると、一世を風靡した Apple の製品で搭載されなかった機能やパーツにこそスティーブ・ジョブズの本当のメッセージが込められていることが多いことに気づかされる。

代表的な例としては、

(1)iMac に搭載されなかったフロッピーディスクドライブ

<メッセージ>

フロッピーなんか要らない。インターネットの時代にはフロッピーでやり取りする程度のデータはネット経由で処理する、即ちネットワークがコンピューティングの中心となる。

(2) iPod に搭載されなかったMD (ミニディスク) ドライブ

<メッセージ>

MD の時代は終わった。MD に代表されるパッケージメディアが担っていた音楽の流通は超小型ハードディスクとネット経由でのコンテンツ配信が取って変わる。

(3) G4 Cube に搭載されなかった騒音発生機のような冷却ファン

<メッセージ>

デジタル・ハブとしての次世代のパソコンはデザイン+AV機器を凌ぐ完成度と性能が必須条件であり、静粛性はその象徴。

(4) Mac mini に搭載(あるいは同梱)されなかった機能とパーツすべて

<メッセージ>

パソコンが目立つデザインでその存在を主張する時代は終わった。ハードとしてのパソコンは小さければ小さいほどいい。(筆者注:「お櫃(ひつ)」のような円筒形のパソコンを作って悦に入っている日本の某メーカーのオメデタさ加減とは好対照だ)

以上のように、Apple の革新的な新製品には、それが搭載されないことに端的に象徴される新しい時代に向けたジョブズのメッセージが込められていることが多い。

今回発表した Apple TV のソフトウェアアップデートによる iTunes® Movie Rentals(アイチューンズ・ムービーレンタル)サービスで「No」といったもの、それは DVD というパッケージメディアの存在だ。

さらに MacBook Air で削除したもの、それはイーサネット端子と Firewire (IEEE1394, DV, iLink とも呼称) 端子に他ならない。

 ■ Apple TV と MacBook Air に込められたスティーブ・ジョブズのメッセージ

今回ジョブズは重要なふたつのメッセージを発信していたが、あまりにもプレゼンテーションが旨すぎて、筆者のような凡人にはピンと来なかったのではないか、今にして思うとその感が強い。あまり旨すぎるのも考えものだということか。

因みに、昨今ではパソコンの「パワーポイント」でいかに旨くプレゼンテーションをしたらいいのかということばかり気をとられて、凝ったプレゼンの準備に膨大な時間を割くという嘆かわしい風潮が蔓延している。

筆者もろくな仕事もしないくせにプレゼンの旨さだけで生き延びてきたというようなご仁を何人も知っている。そんな中で、つい昨秋だが名前を聞いたら日本の経営者でその名を知らないひとはいないといわれる経営コンサルタントだったそのひと(自ら創設した経営コンサルタント会社を東証1部に上場、今は第一線を退かれている)は、ホワイトボードに手書きのキーワードをほんの少し書く程度の、およそプリミティブなプレゼン手段で、実に分りやすく素晴らしい内容の講演をしていたのを目の当たりにして、プレゼンの原点に触れ、目から鱗が落ちた思いがした経験がある。

本当の巧みさは、素人や凡人にとって一見下手に見えるものなのかもしれない。

さて、本題にもどるが、ふたつのメッセージのうちのひとつは、Apple TV についてである。

 これはこの CNet の以下のブログで十分述べ尽くされているので、詳しくはそちらを参照いただきたい。

江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance

MacWorld Expo 2008の真打ちはApple TVだった

この中で江島氏は筆者が昨年来折に触れて感じていた今後のインターネットによる映像コンテンツ配信についての未来像をアメリカでの実体験を踏まえて、実に的確に文章化してくださっている。次世代 DVD のフォーマット戦争での目先の勝負にうつつを抜かしている日本のメーカー各社の関係者にもぜひとも目を通してほしい内容だ。

ほんのサワリだけ紹介すると、江島氏は Apple TVを

デジタルコンテンツ視聴の未来を感じさせるデバイス(ブログ文より)

として捉えており、

「そうか、ネットの向こう側に、HDDを購入する何%かの値段でいつでも欲しいときに引き出せるライブラリがあると思えばいいのか」という風に考え方がガラリと変わったのでした。(ブログ文より)

と自らの「目から鱗」体験をもとにコメントしている。さらに問題提起として、

さて、今回のような考えを推し進めていくと、ひとつ大きな疑問が浮かびます。(ブログ文より)<中略>世間ではBlu-RayだのHD DVDだのが騒がれていますが、もはやコンテンツの配布手段としての物理メディアそのものが終焉を迎えつつあって、実はリビングルームでもネットとHDDが勝者になるんじゃないの?ということです。(ブログ文より)

と続け、最後に以下のコメントで締めくくっている。

いよいよ良い時代になってきました。(ブログ文より)

日本のメーカー関係者にとっては「良い時代」になってきたどころか、実に深刻な展開になりそうな雲行きだが、Apple TV のコンセプトからはものの見事に DVD メディアという存在が無視され、削ぎ落とされている。そしてそれこそが今回のジョブズの最大のメッセージだったのではないだろうか。

即ち、「今後のインターネットでの動画コンテンツ配信は DVD のようなパッケージメディアではなく、ネットを介したダウンロードあるいはストリーミング配信が主流になる」というメッセージだ。そのことは後述する MacBook Air でも DVD メディア用のドライブはとって付けただけの「外付け」で済ましていることにも顕われている。

さて、話は変わって MacBook Air だが、最初これを写真で見たとき、その薄さ以外はさほどのインパクトを受けなかった。(実物を間近でみれば違った印象を受けた可能性はあるが)

しかし、モバイルパソコンに当たり前に搭載され、不可欠なものと思い込んでいた「イーサネット端子」と「Firewire (IEEE1394)端子」すらも削除されていたことを知り、少なからずショックを受けた。

「Air」は空気のように軽いというだけでなく、空気のようにその存在を意識せずに、遍(あまね)くその恩恵を享受できるコンピューテング環境を提供したい、そのためにはもはや人間の移動の自由を制限する物理的なデータメディアやヒモ付きのネットワーク経由でのデータ伝送は必要ない・・・というジョブズらしい潔(いさぎよ)くて強烈なメッセージを感じ取ったからである。

確かにこの数年筆者が実際にモバイルコンピューティングでの不便さや不満を思い返してみると、MacBook Airこそユビキタスコンピューティング(今風な言い方ではクラウドコンピューティング)の未来を見据えた

「信じられないほど洗練された次世代コンピュータ (an incredibly sophisticated next-generation computer)」(ComputerWorld First look: On cloud nine with Apple's MacBook Airの結びのコメントより)

だと確信するに至った。そしてそれこそが、スティーブ・ジョブズがMacBook Airを通じて提示した最大のメッセージだったのだ。

あくまでも個人的な体験に基づいたものだが、その根拠として思いつくいくつかの例を紹介すると、

 (1)モバイルPCでは USB スロット以外はほとんど使わなくなった

筆者はモバイルPCに関しては Thinkpad 信奉者で、機種はX31を使用しているが、移動中に使うスロットは USB 以外はほとんど使っていない。以前はPCカードスロットからSD カードやメモリースティックのデータ(テキストや静止画など)をアダプタ経由で読み書きしていたが、ここ1~2年は Gmail や Yahoo! などを利用すれば、ネット上にそこそこ大きなファイルストレージが確保できるので、メモリーカード経由でデータをハンドリングすることはほとんどなくなった。CD-ROM を使ってのソフトウェアのインストールも出先でなどやったためしはない。

(2)移動中でも大きな画面とフルサイズのキーボードはほしい

昨年からウィルコムのアドエスユーザーになったが、移動中にあの小さな画面とキーボードで長文のテキスト(このブログのような)を入力することは不可能だと思い知った。それにまとまった内容の記事を読むのにもアドエスのせせこましい画面ではその内容すら把握しずらい。一方、テキスト入力用には12インチ以上の画面と Thinkpad のような使いやすいキーボードがほしいものの、やはりThinkpad は厚くて重く、いつも携帯する気にはならないので、薄くて軽いフルキーボードと大きな画面の入力用デバイスはぜひともほしいところだ。そうなると、値段が高いのが玉にキズだが MacBook Air はとても魅力的だ。

(3) iPhone と MacBook Air はユビキタスコンピューティングが本格化した時代には最強のコンビとなるという予感

iPhone の通信速度が今よりも高速化(BT2.0 に見合った数メガbps 程度)することという条件付きだが、iPhone をBluetooth 経由で MacBook Air と接続し、モデムとして MacBook Air と組み合わせて使えるようになれば、これ以上は望べくもないほど本当に使い勝手のいい「ユビキタスコンピューティング環境」が出来上がると思う。あと2~3年後に携帯電話とモバイルパソコンを買い替えることになる筆者にとって、次なる購入候補としてはこの2つの組み合わせは外せないだろうと感じている。

■ 終わりに

昨年の MacWorld Expo で今後の携帯電話のベンチマークとしての iPhone を提示したジョブズは今年はインターネットでのコンテンツ配信アプライアンスのベンチマークとしてApple TV (正確には Apple TV + iTunes® Movie Rentals [アイチューンズ・ムービーレンタル]サービス)を、ユビキタスコンピューティング用PCのベンチマークとして MacBook Air を提示したといえるだろう。

思い起こせば、ジョブズが Apple II によって、初期のパーソナルコンピュータのベンチマークを提示してから30年以上の年月が過ぎた。その間、かくも長きにわたって彼がテクノロジーと世界経済に果たした功績は計り知れないものがあり、その神話は今も続いていることに改めて畏怖の念を禁じ得ない。

やはり今年も MacWorld Expo のスティーブ・ジョブズのプレゼンを無視することはできなかった。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

1

その昔、PCカード型PHSがNTT Personalから出たとき、PowerBook2400Cというサブノート型に刺して、
「これでいつでもどこでも地球につながっている。地球を持ち歩いている。」と実感したものでした。

それからは、機種はThinkPadX20, PowerBookG4 12", MacBookKuroと変わり、通信もPHSからE-Mobileに変わりましたが、基本的に常にノートを持ち歩く、持ち歩かないと不安な(苦笑)生活が続いています。

恐らくJobsさんは現状のWiFiでは満足していないでしょう。WiMaxやHSPAなどで「ラップトップを開くと地球につながっている、地球端末。」が最終型なのだと思います。

ここでちょっと視点を変えると....、iPhoneはほぼ最終型じゃないですか。今年は、インターフェースを減らし、ネットメインの使い方を提示したMacBookAirを出して、来年のMacWorldへの伏線として、来年は、いよいよ、iPhoneとMacBookが融合したものが出そうですね。

  totoy on 2008/01/25

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